愛仏ダービー馬の対決

昨日はフランスの革命記念日、俗に言うパリ祭で、ロンシャン競馬場ではパリ大賞典 Grand Prix de Paris (GⅠ、3歳牡牝、2400メートル)が行われました。先週末のフランスではパターン・レースが組まれていませんでしたが、実はこの日のためにとっておいたんですね。

現在ではパリ大賞典の距離は2400メートルで、事実上フランス・ダービーと見做されているようです。(これまで仏ダービーとして知られてきたジョッケ=クラブ賞の距離は2005年以降2400メートルから2100メートルに短縮されました)
そもそもグラン・プリ(パリ大賞典)の距離は3100メートルでした。後年3000メートルに短縮されましたが、長い間長距離の、そしてヨーロッパ最大のレースとして君臨してきた歴史があります。当時の施行時期は6月、フランスはもちろん、英国ダービーの勝馬も参戦するのが習わしで、英仏ダービー馬の激突に沸いたものです。
未だグラン・プリが世界最高レースだった時代の1921年6月13日、時のフランス大統領アレクサンドル・ミルラン夫妻に伴われて、日本の皇太子殿下(後の昭和天皇)がレースを観戦された記録が残されています。恐らくパリ大賞典を直に観戦した最初の日本人はヒロヒト皇子だったのではないでしょうか。当時、国賓クラスが観戦する競馬は、ロイヤル・アスコットかパリ大賞典だけだったと思われます。

ということで今年のパリ大賞典、出走馬は7頭でしたが、アイルランドとフランスのダービー馬の激突が話題でした。それだけではなく両ダービー馬の2着馬たちも参戦、最近では最もレヴェルの高いメンバーが揃ったと言えるでしょう。
イーヴンの1番人気は、仏ダービー馬リライアブル・マン Reliable Man の方。愛ダービー馬トレジャー・ビーチ Treasure Beach は3対1の2番人気。これに仏ダービー2着のバブル・シック Bubble Chic 、愛ダービー2着のセヴィル Seville も登場。トレジャー・ビーチは英ダービーの2着馬でもありましたから、これにプール・モア Pour Moi が加われば、正にヨーロッパ最強3歳牡馬決定戦とも言える一戦になったでしょう。

しかし意外にも勝馬は別方向から出現してきました。アンドレ・ファーブル師が期待を持って送り込んだ新星メアーンドル Meandre です。(英語読みならミアンダーでしょうか)
同じファーブル厩舎のクリーム Kreem のゲートインに手古摺りましたが、スタートは一斉。中からオブライエンの2騎、セヴィルとトレジャー・ビーチが飛び出します。ハナに立ったのはシーマス・ヘファーナン騎乗のセヴィル、これをマークするようにオダナヒュー騎乗のトレジャー・ビーチが続きます。
後続は遥かに遅れてメアーンドルが3番手、リライアブル・マンはその直後の4番手に待機します。

先行2頭が他馬を引き離したまま直線に入った時、後続は8馬身も置かれていたでしょうか。オブライエン軍団からトレジャー・ビーチが遅れ、セヴィルが勝利を手にしたかと思われた時、3番手に待機したマクシム・グィヨン騎乗のメアーンドルが末脚を伸ばし、最後は粘るセヴィルに1馬身半差を付けて快勝。
終始4番手を進んだリライアブル・マンは伸びず、3馬身差3着。バテたトレジャー・ビーチは4着敗退です。バブル・シックが5着。

勝ったメアーンドルは2歳時4戦して勝てず、3歳の3戦目(4月メゾン=ラフィット・2200メートルの条件戦)で初勝利、続いて5月のロンシャンでリステッド戦(2400メートル)に勝ち、3万6千ユーロの追加登録料を支払ってここにチャレンジしてきた馬。いきなりのGⅠ初挑戦でしたが、11対2の3番人気に期待されていた新星でもあります。
同馬を管理するアンドレ・ファーブル師にとって、実に11勝目のグラン・プリ。1989年にダンスホール Dancehall で初勝利を挙げると、1991年から1993年まで3連覇、1996年から1999年までは何と4連覇を達成し、2006年(レイル・リンク Rail Link)と2009年(カヴァリーマン Cavalryman)を加えて11勝となります。パリ大賞典の距離が一気に2000メートルに短縮されたのが1987年ですから、ファーブル師の11勝のうち8勝は2000メートル時代のもの。現在の距離になってからは3勝目となります。
メアーンドルの父はスリックリー Slickly 、1999年のグラン・プリ馬ですから、父子制覇でもあります。

ファーブル師は英ダービー馬プール・モアも管理、今年の凱旋門賞はメアーンドルとの二枚看板で臨むことになるでしょう。メアーンドルには凱旋門賞に7対1から12対1のオッズが出されました。

2着と4着馬を管理するオブライエン師は結果に満足、トレジャー・ビーチはロテーションがややきつかったことを敗因に挙げ、この後は休養に入る予定。秋への巻き返しを図ります。
一方のリライアブル・マン陣営、それなりに走ってはいるものの、今回は馬場(good to soft)が硬過ぎたのが敗因とのコメントを出しています。

この日のロンシャン、大レースの前にパターン・レースがもう一鞍行われています。モーリス・ド・ニエイュ賞 Prix de Maurice de Nieuil (GⅡ、4歳上、2800メートル)。
前年の覇者ブレク Blek が取り消して12頭立て。43対10の1番人気には2頭が並んでいました。前走シャンティーのリステッド戦を1番人気で制したアガ・カーンのシャマノヴァ Shamanova と、今シーズンはパターン路線を歩んでいるゴドルフィンのレイ・ハンター Ley Hunter です。

しかし優勝は61対10のワタール Watar 。スタートから先頭争いに加わり、直線で前が空くのを待ってから末脚を活かしました。短首差2着にタイムズ・アップ Times Up 、頭差3着に1番人気の一角シャマノヴァの順。もう1頭の本命レイ・ハンターは6着に終わりました。
フレディー・ヘッド厩舎、デイヴィー・ボニラ騎乗のワタールは故障に悩まされてきた馬。2008年(3歳時)にはショードネー賞(GⅡ)に勝っていましたが、4歳時は全休、5歳の去年も勝星には恵まれませんでした。今回はそれ以来の勝利、G戦2勝目となります。

木曜日はアイルランドでもパターン・レースが一鞍行われました。レパーズタウン競馬場のシルヴァー・フラッシュ・ステークス Silver Flash S (GⅢ、2歳牝、7ハロン)。馬場状態は good 。

6頭が出走、2対7の圧倒的1番人気に支持されたメイビー Maybe が期待に応え、無傷の3連勝をマークしています。首差2着にラ・コリーナ La Collina 、2馬身半差3着がグーズベリー・フール Gooseberry Fool 。
逃げた2番人気のソマサック Somasach を直線入り口で早目に捉え、追い込むラ・コリーナを抑えての優勝。騎乗したジョセフ・オブライエンは、ほとんど馬ナリで着差以上の楽勝とコメントしています。

エイダン・オブライエン(この日はパリに出張中)師が管理するメイビーは、ロイヤル・アスコットのチェシャム・ステークス(リステッド)に勝った馬。ガリレオ産駒で、来年のクラシックに向けて新たなスターの誕生でしょう。

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