スーパー・サタデイ

10月1日はロンシャンだけでなく、アメリカ競馬にも注目が集まります。1か月後に迫ったブリーダーズ・カップのトライアルとしての指定レースのオン・パレード。トライアルと言ってもGⅠ戦がズラリと並び、東のベルモント競馬場はその名も「スーパー・サタデイ」、西のサンタ・アニタ競馬場では4鞍のBC指定レースが行われました。

ベルモント・パーク競馬場は雨、芝コースは力が要求される重馬場となり、メインコースは泥んこ馬場で行われました。先ず第5レースはフラワー・ボウル・インヴィテーショナル Flower Bowl Invitational (芝GⅠ、歳上牝、10ハロン)。ターフ・クラシックの翌年、1978年創設の姉妹レースで、古馬牝馬の芝コース・チャンピオン決定戦。現在ではもちろんブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・ターフの前哨戦になります。レース名のフラワー・ボウルは、競走馬として以上に繁殖牝馬として歴史に名を残す名牝に因んだもの。
今年の勝馬はスタチェリタ Stacelita 。6頭立て。スタートは4番手。ダイナスルー Dynaslew が超スローに落として逃げる中、向正面では最後方にまで順位を下げましたが、3コーナー手前から大外を通って徐々に進出。直線では桁違いの脚色で抜け出し、ディストーテッド・レガシー Distorted Legacy に2馬身差を付ける楽勝。仏オークスなどヨーロッパのGⅠに加え、アメリカでもGⅠ戦に連勝して合計GⅠ6勝目を記録しました。通算成績は17戦10勝となります。陣営によれば同馬はニューヨークの環境が気に入っている由、ギリギリまでここに留まって本番(チャーチル・ダウンズ競馬場のブリーダーズ・カップ)に向かいたい意向のようです。
調教師はチャド・ブラウン、騎手はラモン・ドミンゲス。

続く第6レースがジョー・ヒルシュ・ターフ・クラシック・インヴィテーショナル Joe Hirsch Turf Invitational (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)。これは比較的最近、1977年に創設された古馬による芝コースのGⅠ戦。レース名のジョー・ヒルシュ氏は名高い競馬ライターで、アメリカの「競馬記者協会」(National Turf Writers Association)を創立して初代会長に選出された人物。一昨年の1月に80才で亡くなりました。芝コースで行われるだけに、ヨーロッパからの転戦馬が勝つケースも多く、単にターフ・クラシックと呼ばれていた当時(1980年代初め)は、カナダのインターナショナルとローレル・インターナショナルを含めた三冠レースとしても知られていました(特別ボーナスも用意されていたはず)。
今年の勝馬はケープ・ブランコ Cape Blanco 。5頭立て。スタートから5頭が隊列を組むように進む展開。逃げるミッション・アプルーヴド Mission Approved の2番手に付けたケープ・ブランコが真っ先に動き、3コーナーで先頭。そのままリードを広げて逃げ込みを図りましたが、最後はディーンズ・キッテン Dean’s Kitten に差を縮められ、辛うじてハナ差残ったところがゴール。3着グラッシー Grassy とは8馬身4分の3もの大差が付いていました。ケープ・ブランコはこの夏以来マンノウォー・ステークス、アーリントン・ミリオンに続いてアメリカのGⅠ戦3連勝。いずれも大西洋を飛び越えての快挙達成です。今回辛勝だったのは、馬場が苦手とする重馬場だったためでしょう。これでスーパー・サタデイの芝コースGⅠ戦は、いずれもヨーロッパ血統の馬が制したことになります。
調教師はエイダン・オブライエン、騎手はジェイミー・スペンサー。

GⅠ3連発・第3弾が第7レースのヴォスバー・インヴィテーショナル Vosburgh Invitational (GⅠ、3歳上、6ハロン)。1940年創設の伝統ある短距離戦。ブリーダーズ・カップ創設以前から短距離の頂上決戦として知られたレースで、このレースに勝った馬が短距離の年度代表馬に選ばれるのが常識でしたね。レース名は、長年ジョッキー・クラブの公式ハンデキャッパーを務め、競馬史家としても知られていたウォルター・ヴォスバー氏を記念したもの。
今年の勝馬はジャイアント・ライアン Giant Ryan 。8頭立て。スタートこそ3番目でしたが、直ぐにハナを叩いて先頭、そのまま鮮やかに逃げ切って12対1の番狂わせを演じました。半馬身差2着のフォース・フリーズ Force Freeze も2番手を追走した馬。1・2着だけが綺麗な勝負服のままゴールしています。泥まみれになった後続馬たちに付け入る余地はありませんでした。人気はありませんでしたが、これで5連勝、ブリーダーズ・カップ・スプリントへの出走権を勝ち取っています。
調教師はビスナース・パーブー、騎手はコーネリオ・ヴェラスケス。

ここでGⅠは一服、次の第8レースはケルソ・ハンデキャップ Kalso H (GⅡ、3歳上、8ハロン)。元は1980年に芝の長距離戦として創設されましたが、その後距離の短縮や複雑なレース名の変更(ブライトン・ビーチ・ハンデ Brighton Beach H として施行されていたレースから引き継いだ流れもあり、1984年に現名に再変更)を経、去年から正式にメインコースの1マイル戦に変更されています。レース名のケルソは、5回も年度代表馬に選ばれたアメリカの名馬。GⅡ戦ながらブリーダーズ・カップの指定レースです。
今年の勝馬はアンクル・モー Uncle Mo 。4頭立て。すんなり先頭に立ち、そのまま逃げ切り勝ち。4コーナーで内からジャクソン・ベンド Jackson Bend に詰め寄られましたが、直線では内ラチ一杯に進路を取り、結局ジャクソン・ベンドに3馬身差を付ける圧勝。去年の2歳チャンピオン、直前までケンタッキー・ダービーで本命視されていた馬の復活劇です。レース実況アナが“ひ~ず、ばぁ~~~~っく!”と絶叫していたのが笑えます。古馬との初対決を制し、ブリーダーズ・カップ・ダート・マイルの出走権を手にしましたが、陣営の目標はあくまでもブリーダーズ・カップ・クラシックです。陣営にはステイ・サースティー Stay Thirsty もおり、両馬の兼ね合いが難しくなりそうですね。アンクル・モーはこれが今期未だ4戦目。3月のトライアルこそ順当に勝ちましたが、ウッド・メモリアル3着で初黒星。結局三冠はパスし、サラトガの前走(キングズ・ビショップ)でハナ差2着してここに臨んできました。
調教師はトッド・プレッチャー、騎手はジョン・ヴェラスケス。

第9レースで再びGⅠに戻り、ベルデイム・インヴィテーショナル Beldame Invitational (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。これも1939年創設の歴史あるチャンピオンシップ・イヴェント。レース名のベルデイムは20世紀初頭のアメリカの名牝で、牡馬を打ち破って年度代表馬に選ばれ、競馬殿堂入りも果たしています。
今年の勝馬はアーヴル・ド・グラース Havre de Grace 。5頭立て。小頭数の割には出入りの激しい競馬になりましたが、終始マイペースを守って3番手を進み、徐々に進出して直線入り口で先頭。そのまま2着ロイヤル・デルタ Royal Delta に8馬身4分の1差を付ける圧勝。最後はドミンゲス騎手がキャンターに落とすほどの楽勝で、“余力を残し、そうブリーダーズ・カップへの余力を残して圧勝!!” という実況が暗示的でした。この馬も自動的に獲得したのはブリーダーズ・カップ・レディーズ・クラシックですが、狙いはクラシックと決めています。今年のBCクラシックは大変なことになってきましたナ。今年は6戦5勝、三つ目のGⅠ制覇となります。既にサラトガ(ウッドワード・ステークス)では牡馬を蹴散らしているだけに、クラシック制覇は現実味を帯びたものになっています。
調教師はラリー・ジョーンズ、騎手はラモン・ドミンゲス。

そしてこの日のフィナーレ、第10レースがジョッキー・クラブ・ゴールド・カップ・インヴィテーショナル Jockey Club Gold Cup Invitational (GⅠ、3歳上、10ハロン)。1919年創設。「全米競馬会金杯」の名前通り、長年アメリカのチャンピオンシップに君臨してきた一戦。3歳を代表する三冠世代と、古馬チャンピオンが本格的に激突するレースとして知られてきました。メインのダート・コースはアメリカを象徴するもので、20世紀中頃には英国のゴールド・カップを意識して2マイルで行われていた時期もあります。日本で言えば天皇賞的存在。現在ではブリーダーズ・カップ・クラシックの前哨戦に「落ちぶれて」いますが、堂々たるGⅠであることに変わりはありません。
今年の勝馬はフラット・アウト Flat Out 。7頭立て。上記プレッチャー厩舎の本命ステイ・サースティー Stay Thirsty を意識するように3・4番手で並ぶように先行馬を追走。先に仕掛けたフラット・アウトが抜け出し、後方から追い込んだ去年のベルモント馬ドロッセルマイヤー Drosselmeyer に2馬身4分の1差を付けて快勝。古馬とは初対戦となる今年のベルモント馬ステイ・サースティーは2番手に上がったものの、最後はドロッセルマイヤーの末脚に半馬身交わされて3着に終わりました。これまで3番手の評価だったフラット・アウトですが、このGⅠ初勝利とBCクラシックの出走権を得たことにより、俄然有力候補にのし上がってきた感があります。このあと本拠地のモンマスに戻り、翌々日にはケンタッキーに向かうのだそうです。
調教師はチャールズ・ディッキー、1963年から開業している師にとってもGⅠは初勝利となります。騎手はアレックス・ソリス。

フーシー・パーク競馬場 Hoosie Park は、インディアナ州の競馬場。1994年9月1日に開場したばかりの新しいコースで、アメリカの競馬場の通例に漏れず、2008年にはカジノも併設されています。名物のダービーが新設されたのは開場の翌年、1995年10月のこと。
先ずインディアナ・オークス Indiana Oaks (GⅡ、3歳牝、8.5ハロン)。次のダービーと同じ1995年創設。
今年の勝馬はフアニータ Juanita 。5頭立て。スタートからゴールまで後続を引き離したまま逃げ切り勝ち。半ばから懸命にウィズグレートプレジャー Withgreatpleasure が追い上げましたが、直線では更に差を広げられて4馬身4分の3馬身離されて2着。勝ったフアニータはステークス初勝利。
調教師はマイケル・メーカー、騎手はジュリアン・ルパルー。

ということで、インディアナ・ダービー Indiana Derby (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。上述の通り創設は1995年で、2002年に初めてGⅢにランキング、2004年からGⅡに格上げされて現在に至っています。去年勝ったルッキン・アット・ラッキー Lookin at Lucky は、このレースに勝った最初の三冠レースの勝馬(ブリーネス・ステークス)となりました。今年は第16回目を数えます。
今年の勝馬はウィルバーン Wilburn 。7頭立て。前半はプリークネス・ステークス馬の本命シャックルフォード Shackleford をピタリとマークして4番手、4コーナー手前で本命馬の隙を衝くように一気に内ラチ沿いに先頭に立ち、そのままシャックルフォードとの差を4馬身4分の3差(オークスと同じ着差!)に広げて鮮やかな勝利。これもG戦は初勝利となります。
調教師はスティーヴン・アスムッセン、騎手ジュリアン・ルパルーは、オークス/ダービー・ダブル達成。

パークス・レーシング競馬場のコティリョン・ステークス Cotillion S (GⅡ、3歳牝、8.5ハロン)。1969年にリバティー・ベル・パーク競馬場で創設。その後フィラデルフィア・パーク競馬場に移管され、現在ではパークス・レーシング競馬場で施工されています。以前はブリーダーズ・カップと近い日程で行われていましたが、去年から開催時期が早められ、ブリーダーズ・カップへのトライアルとしても使われることになったようです。
今年の勝馬はプラム・プリティー Plum Pretty 。6頭立て。2着に7馬身半差を付ける文句ない逃げ切り勝ち。2着に入った本命イッツ・トリッキー It’s Tricky は直線入口で2番手を進んだラヴ・アンド・プライド Love and Pride と接触する不利がありましたが、それが無くとも勝馬との差は詰まらなかったでしょう。プラム・プリティーはケンタッキー・オークス以来の勝利となります。ここ3戦はトップクラスのレースで連敗していましたが、ここに来て春の調子を取り戻し、最強3歳牝馬の座を争う一頭に復活してきた印象です。
調教師はボブ・バファート、騎手ラファエル・ベジャラノは、同馬に初騎乗。

GⅠ戦4鞍で対抗するサンタ・アニタ競馬場、先頭を切るのは第5レースのノーフォーク・ステークス Norfolk S (GⅠ、2歳、8.5ハロン)。英国にも同名のレースがありますが、アメリカのレースも2歳戦です。1970年創設。グレード制導入時(1973年)はGⅠでしたが、後にGⅡに格下げ、2007年からは再びGⅠに復帰した一戦です。
今年の勝馬はクリエイティヴ・コース Creative Cause 。6頭立て。前半は2番手に待機。直線入り口で先頭に立つと、やや顔を横に向ける若さを見せながらも2着ドリル Drill に3馬身4分の1差を付ける完勝。前走デル・マー・フューチュリティー惜敗(勝馬はドリル)の憂さを晴らす勝利でした。これでブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイルの西海岸代表は決定的です。
調教師はマイク・ハリントン、騎手はジョエル・ロザリオ。

続く第6レースがレディーズ・シークレット・ステークス Lady’s Secret S (GⅠ、3歳上牝、8.5ハロン)。1993年創設。2007年からGⅠにランクされている一戦で、去年はレース名をゼニヤッタ・ステークスに改名するという動きがありましたが、結局元の鞘に戻ったようです。レース名は競馬殿堂入りの名牝レディーズ・シークレットを讃えたもの。
今年の勝馬はザズー Zazu 。7頭立て。前半は最後方、直線で大外から他馬を纏めて交わすいつものスタイルが決まりました。2着は半馬身でウルトラ・ブレンド Ultra Blend 。1番人気で最下位に敗退したブラインド・ラック Blind Luck は、ブリーダーズ・カップ不出走を決断しました。
調教師はジョン・サドラー、騎手ジョエル・ロザリオは、ノーフォークに続くダブル達成。

更に第7レースで続くグッドウッド・ステークス Goodwood S (GⅠ、3歳上、9ハロン)。1981年創設、西海岸のブリーダーズ・カップ・クラシックへの前哨戦に位置付けられる一戦ですが、GⅠに格上げされたのは2007年から。レース名のグッドウッドは、当開催を主催するオーク・トゥリー競馬協会が英国のグッドウッド競馬場と姉妹関係を結んでいるからの由。
今年の勝馬はゲーム・オン・デュード Game On Dude 。8頭立て。スタートから2番手に付け、向正面で先頭を奪う勢い。最後の直線でオウサム・ジェム Awesome Gem が追い込んできましたが時既に遅し、半馬身まで。3月にサンタ・アニタ・ハンデを制して以来の勝利となります。サンタ・アニタのメインコースでは3戦3勝のパーフェクト。
調教師はボブ・バファート、手綱を取るシャンタル・サザーランドは、モデルでもある美人女流騎手。

GⅠ戦3連発の後は一般戦で一休み。メインは第10レースのイエロー・リボン・ステークス Yellow Ribbin S (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)。1977年創設。ベルモント競馬場のフラワー・ボウル・インヴィテーショナルと対をなすレースで、両レースの勝馬がブリーダーズ・カップで激突することになります。レース名は戦場から戻る兵士に思いを込めた戦歌“Tie a Yellow Ribbon Round the Old Oak Tree”に因んだもので、開催名のオーク・トゥリーに引っかけたもの。特に戦争との繋がりがあるわけではないようです。
今年の勝馬はデュバウィ・ハイツ Dubawi Heights 。9頭立て。前半2番手で終始逃げ馬にプレッシャーをかけ、直線入り口で先頭に並び掛けると、コージー・ロージー Cozy Rosie の追い込みを4分の3馬身抑え込む完璧な展開。今シーズンはこれで5戦4勝となる英国産馬です。ブリーダーズ・カップでのスタチェリータとの再戦が楽しみになってきました。
調教師はサイモン・キャラガン、ジョエル・ロザリオは、この日GⅠ3勝のハットトリック、三つの異なる厩舎、タイプの異なる三つのレースを制する圧巻でした。

ということでアメリカの土曜日、嵐のようなスーパー・サタデイが終わりました。
直ぐに凱旋門賞レポートと行きたいところですが、ここまででメリーウイロウはバテバテ。残念ながら日曜日の結果(アメリカも含めて)は、また明日の日記で扱うことにします。

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