スーパー・スーパー・サタデイ

ブリーダーズ・カップも愈々5週間後。凱旋門賞には全く縁の無いアメリカでは、優先出走権をかけた各部門のトライアルが最高潮に達しています。
特にニューヨークのベルモント競馬場はスーパー・サタデイ、GⅠ5鞍を含めてG戦6鞍が組まれていました。一方今年のBCの舞台となるカリフォルニアのサンタ・アニタ競馬場も負けていません。この日のG戦5鞍は全てGⅠという豪華プログラムで対抗しています。
余りにも盛り沢山な一日、最終日のチャーチル・ダウンズを含め、ゆるゆるとレポートして行きましょう。

先に行われたベルモント・パーク競馬場からレース順に。なおこの日のG戦は、全て勝馬にBC優先出走権が与えられます。
最初は第5レースのベルデイム・インヴィテーショナル Beldame Invitational (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。fast の馬場に1頭が取り消して僅か5頭立て。去年の勝馬でチャンピオンのロイヤル・デルタ Royal Delta が1対5の断然1番人気。
ややスタートで安目を売った大本命、逃げるローマン・インヴェイダー Roman Invader の2番手に付け、直線先頭に立って圧勝かと思われましたが、4番手から進んだ2番人気(2対1)の3歳馬プリンセス・オブ・シルマー Princess of Sylmar が外から果敢に並び掛け、見事本命を2馬身差し切って軽い逆転劇。3着は6馬身4分の3の大差が付いてセントリング Centring が入りました。
トッド・プレッチャー厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のプリンセス・オブ・シルマーは、番狂わせとは言いながら押しも押されもせぬチャンピオン3歳牝馬。ケンタッキー・オークス、コーチング・クラブ・アメリカン・オークス、アラバマ・ステークスに続き、初の古馬対決を制して圧巻のGⅠ4連勝を達成しました。ご存知のように、BCには3歳馬限定戦はありません。古馬を破ってチャンピオンを獲得しなければならない運命にあります。彼女にはBCの登録そのものが無いので、出走には追加登録が必要。しかし優先出走権は得たので、もちろん参戦してくるでしょう。

続いては、この日のカード唯一のGⅡ戦となるケルソ・ハンデキャップ Kelso H (GⅡ、3歳上、8ハロン)。7頭が出走し、既にGⅠのタイトルを獲得しているグレイダ― Graydar が4対5の1番人気。
直ぐに先頭に立ったグレイダ―、3番手から追走するブラジル産馬でウルグァイのチャンピオン・ホースのブルホ・デ・オレロス Brujo de Olleros の追い上げを4分の3馬身抑えて期待に応えました。首差でヒム・ブック Hymn Book が3着。
ベルデイムに続きG戦ダブル達成のトッド・プレッチャー厩舎、こちらはエドガー・プラード騎乗のグレイダ―は、足首の負傷から6か月ぶりの復帰戦。2がつのドン・ハンデ(GⅠ)、3月のニュー・オーリーンズ・ハンデ(GⅡ)を含めて4連勝となります。今春亡くなった父アンブライドルズ・ソング Unbridled’s Song の記念すべき100頭目のステークス勝馬となったグレイダ―、これで通算成績を6戦5勝とし、BCダート・マイルでチャンピオンを目指します。

続いては短距離のヴォスバー・インヴィテーショナル Vosburgh Invitational (GⅠ、3歳上、6ハロン)。1頭取り消して7頭が出走し、アルフレッド・ヴァンダービルト・ステークス(GⅠ)勝馬で、前走フォアゴ・ステークス(GⅠ)3着のジャスティン・フィリップ Justin Philip が5対2の1番人気。去年の勝馬ザ・ランバー・ガイ The Lumber Guy は9対2の3番人気に留まっていました。
しかしレースは小波乱と言えるでしょうか。2番人気(7対2)に支持されたプライヴェイト・ゾーン Private Zone が、一旦は本命ジャスティン・フィリップに交わされながらも、内から首差差し返しての逆転勝ちです。4馬身半差でフォアゴ・ステークス勝馬ストラッピング・グルーム Strapping Groom が3着に入り、ザ・ランバー・ガイは一旦は2番手まで上がったものの、最下位と惨敗に終わりました。直線での2頭の叩き合いで何度が接触があり審議になりましたが、着順通りでの確定。
ダグ・オネイル厩舎、マーチン・ペドロザ騎乗のプライヴェイト・ゾーンは、マリブー・ステークス(GⅠ)とパロス・ヴェルデス・ステークス(GⅡ)でいずれも2着、ドバイのゴールデン・シャヒーンに遠征も9着に終わり、帰国してからは前走デル・マーの一般ステークスに勝っていた馬。漸くG戦初勝利となります。血統的にはオーケンブルースリや、BCターフのチーフ・ベアハート Chief Bearhart のファミリーで、何故かスプリントでの活躍に徹した存在です。
 
第8レースは牝馬の芝戦、フラワー・ボウル・インヴィテーショナル Flower Bowl Invitational (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)。この日最初の芝コースは firm 、8頭が出走し、既にGⅠに勝って今年4鞍目のG戦勝利を目指すラーフィング Laughing が3対5の1番人気。同じ厩舎のタンネリー Tannery とカップリングされての本命です。
スタートから先手を取ったラーフィング、堂々の逃げ切り勝ちで期待に応えましたが、後方2番手から半馬身差2着に追い込んだのもチームメートのタンネリーで、アラン・ゴールドベルク厩舎のワン・ツー・フィニッシュとなりました。アメリカではやや珍しいケース。3着は首差でミスティカル・スター Mystical Star の順。
ホセ・レズカノ騎乗のラーフィングは、6月のイートンタウン・ステークス(芝GⅢ)、7月はダイアナ・ステークス(芝GⅠ)、8月前走のボールストン・スパ・ハンデ(芝GⅡ)と続けてG戦4連勝。2歳時はアイルランドでエイダン・オブライエン師が管理し、クールモアの勝負服でステークスにも勝っていた馬です。
 
GⅠシリーズの最後から二つ目は、やはり芝コースのジョー・ヒルシュ・ターフ・クラシック・インヴィテーショナル Joe Hirsch Turf Classic Invitational (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)。1頭取り消しがあり9頭立て。これもカップリングされた3頭、ビッグ・ブルー・キッテン Big Blue Kitten 、リアル・ソリューション Real Solution とジョーズ・ブレージング・アーロン Joes Blazing Aaron が4対5の1番人気。もちろん人気の対象はGⅠ3連勝の掛かったビッグ・ブルー・キッテンです。
レースはペースメーカーの様にジョーズ・ブレージング・アーロンがハナを切りましたが、直ぐにキング・クリーサ King Kreesa が先頭を奪っての逃げ。最後方待機のビッグ・ブルー・キッテンも直線でインを衝いて鋭く追い上げましたが、前半5番手から先に先頭に立っていた実質3番人気(7対1)のリトル・マイク Little Mike に僅かハナ差届かず。1馬身差で外から迫った同厩リアル・ソリューションが3着でした。
デール・ロマンス厩舎、マイク・スミス騎乗のリトル・マイクは、去年ターフ・クラシック、アーリントン・ミリオン、BCターフと芝のGⅠに3勝していた6歳せん馬の強豪。今期はターフ・クラシック5着を含め4連敗で人気を落としていましたが、見事4つ目のGⅠ制覇で復活を果たしました。

そして最後は伝統のジョッキー・クラブ・ゴールド・カップ・インヴィテーショナル Jockey Club Gold Cup Invitational (GⅠ、3歳上、10ハロン)。以前より距離が大幅に短縮されたとはいえ、アメリカを代表するスタミナ戦であることに変りはありません。8頭が出走し、5対2の1番人気は、このレース3連覇を目指すフラット・アウト Flat Out 。これに3歳クラシック馬2頭、パレス・マリス Palace Malice (5対2、2番人気)とオーブ Orb (7対2、4番人気)が挑むのが最大の見所でしょう。
しかしレースは又しても波乱、古豪の復活を告げる結果となりました。逃げたのはアルファ Alpha 、本命フラット・アウトは3番手から2番手と徐々に順位を挙げましたが、内ラチ沿いに伸びた6番人気(21対1)にまで支持を落としていたロン・ザ・クリーク Ron the Creek が独走。何と馬場中央から先に先頭に立ったパレス・マリスを6馬身4分の3馬身突き放す圧勝劇を演じました。1馬身4分の3差で本命フラット・アウトが3着、オーブは良い所なく最下位惨敗です。
本命馬と同じウイリアム・モット厩舎、ホセ・レズカノ騎乗のロン・ザ・クリークは、去年のサンタ・アニタ・ハンデとスティーヴン・フォスター・ハンデとGⅠに2勝し、BCクラシックでも4着した実力6歳馬ですが、今シーズンは5連敗中。1月に一般ステークスは勝ったものの、前々走ホイットニー・インヴィテーショナル(GⅠ)も、前走ウッドワード・ステークス(GⅠ)も何れも4着と不発に終わっていました。モット師としては、今年のBCクラシックにはフラット・アウトとロン・ザ・クリークの2枚看板で臨む公算が大きいと言えそうです。

以上でベルモントのスーパー・サタデイを終え、サンタ・アニタ競馬場に向かいましょう。こちらもG戦全5レースはいずれもGⅠ、全て勝馬にはBCの優先出走権が与えられるミニ・BCとも呼べるプログラムです。こちらもレース順に回顧すると、
先ずは第5レースのシャンデリア・ステークス Chandelier S (GⅠ、2歳牝、8.5ハロン)。こちらも fast のメインコースに1頭取り消しの7頭が出走し、未勝利ながら前走デビュタント(GⅠ)で僅差2着したファシネイティング Fascinating が6対5の1番人気。
ハーリントンズ・ローズ Harlington’s Rose 、オウサム・ベビー Awesome Baby 等が入れ代わり立ち代わり先頭争いを繰り広げる中、大きくリードを取って逃げたのは2番人気(2対1)でデビュタント勝馬のシーザ・タイガー She’s a Tiger 。そのまま逃げ切るかに見えましたが、前半4番手から徐々に進出した6番人気(10対1)シークレット・コンパス Secret Compass が追い詰め、最後の一歩でシーザ・タイガーを頭差捉える波乱。4分の3馬身差でファシネイティングは3着に終わり、またしても初勝利はお預けです。
ボブ・バファート厩舎、ロージー・ナプラヴニク騎乗のシークレット・コンパスは、上記デビュタントでは4着だった馬。その前、2戦目にデル・マーで初勝利を挙げていました。バファート師は本命馬を含め3頭出しで臨んでいましたが、最も人気の無かった馬が勝ったのは何とも皮肉でしょうか。

第6レースはロデオ・ドライヴ・ステークス Rodeo Drive S (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)。こちらは芝コースで、馬場は firm 。7頭が出走し、去年の勝馬マーケティング・ミックス Marketing Mix が6対5の1番人気に支持されていました。
レースは伏兵(28対1)ヴィオネット Vionnet の大逃げ。マーケティング・ミックスはこれを2番手で追走し、直線でも予定通り逃げ馬を交わして先頭に立ちましたが、4番手で待機した2番人気(8対5)のティズ・フラーテイシャス Tiz Flirtatious が大外から前3頭を一気のごぼう抜き。マーケティング・ミックスを頭差差し切っていました。半馬身差で逃げたヴィオネットが3着。
マーチン・ジョーンズ厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のティズ・フラーテイシャスは、3月にサンタ・アナ・ステークス、前走となる先月はジョン・C・マッケーブ・ステークスと何れも芝のGⅡ戦に勝ってきましたが、今回がGⅠ初制覇。春のハリウッドでマーケティング・ミックスに敗れたゲイムリー・ステークス(芝GⅠ)での雪辱を果たしたことになります。やや遠い親戚ながら、同馬はオルフェーヴルと同じ牝系であるのも幸先良いことかも知れませんね。

続いてはフロントランナー・ステークス FrontRunner S (GⅠ、2歳、8.5ハロン)。1頭が取り消して10頭立ての中、デル・マー・フューチュリティー(GⅠ)2着のダンス・ウィズ・フェイト Dance With Fate が僅かの差で1番人気(2対1)、同じ2対1で不利がありながらフューチュリティー3着のキャン・ザ・マン Can the Man が続き、肝心のフューチュリティー勝馬タマランド Tamarando は3番人気(7対2)という不思議なオッズ。
しかし結果はフューチュリティー上位馬からは勝馬が出ない波乱。先ずはタマランドが出遅れて最後方からの競馬となる暗雲が立ち込めます。本命ダンス・ウィズ・フェイトは4番手から3番手と徐々に進出、キャン・ザ・マンは逃げるテスト・ライド Test Ride を2番手追走から捉え順当と見えましたが、後方3~4番手を進んだ6番人気(10対1)のボンド・ホルダー Bond Holder が一気に差し足を決め、ダンス・ウィズ・フェイトに2馬身4分の1差を付ける大逆転。2馬身差でタマランドが3着に追い上げ、キャン・ザ・マンは更に4分の3馬身差で4着に終わりました。
勝馬を管理するダグ・オネイル師は、この日ベルモントのヴォスバーに続く二つ目のGⅠ制覇。こちらはマリオ・グティエレスが騎乗していました。ボンド・ホルダーは、何とこれが5戦目にして初勝利の馬。前走はデル・マーの1マイル・メドン戦での2着で、距離が伸びて成績を上げてきた馬でした。そもそもデビューがハリウッド・ジュヴェナイル・チャンピオンシップといういきなりのG戦での5着で、そのあと3着を2回続け、今回はダートコース初体験。コースより距離が延びることが条件のタイプで、今回もその脚質を存分に発揮しての勝利でした。

サンタ・アニタGⅠシリーズの最後から二つ目は、ゼニヤッタ・ステークス Zenyatta S (GⅠ、3歳上牝、8.5ハロン)。ここも1頭が取り消して7頭立て。サンタ・アニタ・オークスの覇者、ビホールダー Beholder が8対5の1番人気に支持されていました。
そのビホールダー、スタートから先頭に立つと、2着3番人気(9対2)のオーセンティシティー Authenticity に1馬身4分の1差を付ける貫録勝ちです。鞍上ゲーリー・スティーヴンスは最後に馬を抑えましたから、着差以上の楽勝です。3着は2馬身4分の1差で2番人気(5対2)のジョイフル・ヴィクトリー Joyful Victory と全く順当。
リチャード・マンデラ師が管理するビホールダーは、去年BCジュヴェナイル・フィリーズ(GⅠ)を制した2歳牝馬チャンピオン。今年もサンタ・アニタ・オークスの他にラス・ヴァージェネス・ステークスにも勝っており、これが古馬をも撃破しての4つ目のGⅠ勝利。ケンタッキー・オークスは2着でしたが、休養明けの前走デル・マーの一般ステークス優勝で復帰、これで通算成績は11戦7勝となります。同じくこの日古馬を一蹴したプリンセス・オブ・シルマーとのBCでの再戦が楽しみ。

愈々サンタ・アニタ最後はオウサム・アゲン・ステークス Awesome Again S (GⅠ、3歳上、9ハロン)。10頭が顔を揃え、GⅠは未勝利ながら、前走ホイットニー・インヴィテーショナル(GⅠ)で3着したムチョ・マチョ・マン Mucho Macho Man が8対5の1番人気。
逃げたのはサマー・ヒット Summer Hit 、これをチーフ・ハヴォック Cheif Havoc が捉えて最後のコーナーに向かいましたが、向正面では外々の5番手を進んだ本命ムチョ・マチョ・マンが外から並び掛けて直線。後は後続を引き離す独走で、2着に追い込む2番人気(3対1)ペインター Paynter に4馬身4分の1差を付ける圧勝です。更に2馬身4分の1差でソイ・フェット Soi Phet が3着。
女性調教師キャスリーン・リトヴォ厩舎、今回初コンビとなるゲーリー・スティーヴンス騎乗のムチョ・マチョ・マンは、去年ガルフストリーム・ハンデとサバーバン・ハンデと二つの伝統あるGⅡハンデ戦に勝っており、G戦3勝目でのGⅠ初制覇。去年のBCクラシックではフォート・ラーンド Fort Larned の2着しており、待ちに待ったGⅠと言えましょう。サバーバン以来となる5連敗にも終止符を打ちました。

土曜日のG戦、最後は開催フィナーレを迎えたチャーチル・ダウンズ競馬場から、ジェファーソン・カップ・ステークス Jefferson Cup S (芝GⅢ、3歳、8ハロン)。去年は施行されなかったG戦で、2006年から一昨年まではGⅡ、2001年から2005年まではGⅢで、いずれも春開催で行われていたもの。今回は秋開催に移行され、GⅢに逆戻りしてしまいました。firm の芝コースに2頭が取り消しての7頭立て。デル・マー・ダービー(芝GⅡ)3着のレッドウッド・キッテン Redwood Kitten と、アーリントン・クラシック(GⅢ)に勝ったジェネラル・エレクション General Election がほぼ並んだ2対1で1番人気を分け合っています。
レースはテーツ・ランディング Tate’s Landing の逃げで始まりましたが、出遅れて最後方からの競馬となったジェネラル・エレクションが一気に追い上げ、直線では内が開かずと見るや外に持ち出す競馬で、3番手からスムーズに抜けたレッドウッド・キッテンを首差捉えての快勝。まるでヨーロッパの競馬を見るような展開になりました。
ケリン・ゴーダ―厩舎、ジョセフ・ロッコ騎乗のジェネラル・エレクションは、アーリントン・クラシックに続きG戦2勝目。勝ったG戦は何れも今年Gランクに復活したレースと言う因縁もありそうですね。

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