カルミナ四重奏団演奏会

前日のSQWガラ・コンサートに続いて、昨日も晴海で弦楽四重奏を聴いてきました。第一生命ホール10周年記念の10日間、第5日目に当たるのだそうです。
ガラ・コンのプログラムに掲載された10年の軌跡よると、この日はシリーズ通算で第99回に相当します。ただ方針が変わった所為か、今回のプログラムには回数の表記は見当たりません。

そのガラにもゲスト出演したカルミナ四重奏団、この日はピアノに田部京子をゲストに迎えてのコンサートでした。以下のもの。

ファビアン・ミュラー/弦楽四重奏曲第2番「ヘルヴェティア」(2010)(日本初演)
メンデルスゾーン/弦楽四重奏曲第2番イ短調作品13
     ~休憩~
ブラームス/ピアノ四重奏曲第3番ハ短調作品60
 カルミナ四重奏団
 ピアノ/田部京子

カルミナQは一昨年も第一生命ホールのSQW(このときのWはウィークエンドに代わっていました)・フェスタに出演し、4日間のプログラムを組みました。私は日程の都合で初日と3日目を聴いただけでしたが・・・。
今回はその時以来、私にとっては二度目の体験です。前回はアメリカ+死と乙女というプロと、ゲスト奏者を迎えた五重奏を聴いたのですが、改めて感想を読み返してみると、「歌う」クァルテットという印象が強かったようです。
今回も基本的には変わりませんが、冒頭が初めて聴く現代作品であること、後半は合わせモノであることで、カルミナの真髄を味わうには少し物足りない内容ではありました。多少は「お祭り」的な要素も考慮されているのでしょう。

最初に紹介されたミュラーはカルミナの同郷スイスの作曲家。私は名前も初めて聞く人で、もちろん作品に接するのは初体験です。
プログラムの解説(渡辺和氏)に全面的に頼ると、“ヴァイオリンは美しい旋律を奏でるために存在しているのです”と言うように、前衛崩壊後の新たなロマン主義を代表する一人と見做されている由。「現代モノ」、と覚悟して聴くようなタイプの音楽ではありません。

弦楽四重奏曲は現在まで3曲が創られており、今回日本初演された第2番は「ヘルヴェティア」Helvetia とタイトルが付いた、スイスの伝統音楽を素材とする4楽章形式の作品。ヘルヴェティアとは、現在のスイスのローマ時代以前の呼び方だそうです。
因みにミュラー自身のホームページで確認したところ、この曲のタイトルは「ヘルヴェティック」Helvetic と表記されていました。「スイス風」という意味でしょうが、どちらが正しいのでしょうかね。ま、野暮な突っ込みは止めましょう。

第1楽章アレグロでは、スイスのドイツ語地区(アペンツェル)で広まったボヘミア起源のショティッシェのリズムが用いられているとのこと。チョッとスイスの先輩マルタンを想起させる音楽だと思いました。
第2楽章アダージョにはテシーノ地区の子守歌が引用され、第3楽章モデラートではヨーデルやアルプホルンの音階も登場。
第4楽章ブレストはロンド形式で、スイスではお馴染みのギャロップが「楽しい音楽」を奏でます。

2曲目はメンデルスゾーン。解説によれば、昨今のメンデルスゾーン・ルネサンスの先鞭を付けたのがカルミナQだったのだそうで、今回の公演では団の真価を味わう一品でしょう。
前回も感じた良く歌う演奏で、一部に囁かれていた「崩し」もメンデルスゾーンでは気になりません。この曲で聴きたいものは全て盛り込まれ、ロマンティックな古典音楽を楽しむことが出来ました。

最後は第2ヴァイオリン(スザンヌ・フランク)が降り番で、ブラームスのピアノ四重奏曲の最後のもの。
カルミナ/田部は前回のブラームスでも共演したように、相性の良さを再確認しました。前回の五重奏曲同様、豊かなピアノの音色とカルミナのスタイルに違和感はありません。

カーテンコールの途中、慌ただしく譜面台が追加され、アンコールは前回のメインだったブラームス/ピアノ五重奏曲から第3楽章スケルツォ。

名曲の名演ということで大満足のコンサートでしたが、先日のパヴェル・ハースQのようなサプライズは皆無。
それは優劣を意味するのではなく、弦楽四重奏には(室内楽に限ったことではありませんが)様々な面があり、楽しみ方も多様だということ。演奏は時代と共に変わって行くという側面もあるでしょう。安心して楽しめる演奏会。

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