日本フィル・第270回横浜定期演奏会
紀伊半島に深い傷跡を残したノロノロ台風12号が去った東京、数日間は秋を思わせる涼しい気候が続いていましたが、昨日の土曜日はぶり返した蒸し暑さの極み。一旦冷気を満喫した身には湿度が堪えます。
そんな中、横浜のみなとみらいホールに日フィル横浜定期を聴きに出かけてきました。扇子を握りしめて京浜東北線に乗り込みます。
日本フィルの横浜、前シーズンの後半に初めて半期会員になりました。それでお仕舞の積りでしたが、9月に始まる新シーズンも中々面白い選曲が続きます。特に3月以降の後半は出演者も見逃せないものばかり。出たり入ったりも面倒なので、思い切ってもう1年は年間会員を決め込みました。
どうせならもう少し真ん中寄りの席と思いましたが、横浜は人気が高く、結局は前シーズンとほぼ同じ位置で一年間聴くことになります。
ということで9月。正直に告白すれば、会員でなければパスしたかも知れないもの。以下のプログラムです。
リスト/ピアノ協奏曲第2番
~休憩~
オルフ/カルミナ・ブラーナ
指揮/藤岡幸夫
ピアノ/ヴァディム・ホロデンコ
独唱/安井陽子(ソプラノ)、高橋淳(テノール)、萩原潤(バリトン)
合唱/日本フィルハーモニー協会合唱団、シンフォニーヒルズ少年少女合唱団
コンサートマスター/扇谷泰朋
ソロ・チェロ/菊地知也
見ての通り、東京定期では滅多に聴けない出演者ですね。最近は読響もN響も「横浜定期」を始めていますが、どちらも東京定期の演目を横浜でも演奏する内容。態々横浜に出掛ける理由は見当たりません。
それに対して日本フィルは真にユニーク。東京とは全く違ったコンセプトで、少なくとも両定期でバッティングするプログラムはありません。
そのプログラム、最近では“東京でもやって欲しい”と思うものが多くなり、横浜への足が良い私としては、十分にレパートリーに組み込める内容と考えます。
冒頭のリスト、今年はリスト生誕200周年に当たり、プログラム誌にも明記されていました。日フィルは特にリスト特集などは組んでいませんが、5月にはピアノ協奏曲第1番(小山/小林)もあり、交響詩「前奏曲」もありましたから、東京と横浜でリスト特集という企画なんでしょう。
今回のソリストは、去年の第4回仙台国際音楽コンクールで優勝した新人。と言っても1986年ウクライナ生まれですから、年齢的にはバリバリの新鋭というわけでもありません。
私は初めて聴きましたが、高音の輝き、パワー一辺倒ではない音楽性、もちろん確かなテクニックに、さすがコンクール優勝者という素質を感じました。リストというよりショパンを聴いているような繊細さ。
ところがホロデンコ、一般的な意味で人気が出ないようですね。その理由、私も登場した時に直感したのですが、どうもソリストとしての華やかさが無い。音楽じゃなく、容姿というか立ち居振る舞いです。
肩を落として、猫背気味にトボトボと登場する。終わってからもそう。“どうだぁ”というアクションは皆無で、“すいません。終わりです”みたいな感じ。これはソリストとしては不利でしょう。
何も音楽はスタイルやアクションを楽しむ世界じゃありません。一昔前は無愛想な、取り付く島も無いような名人もたくさんいました。私はそんな世代を聴いて育ちましたから、ホロデンコも好感を以て迎えています。
しかし世の中は変わった。現代の聴衆は、残念ながら音楽だけを聴きに来ているとは思えません。外観と音楽の見事なギャップを楽しむ、と言えなくもありませんが・・・。好漢、惜しむべし、か。
後半のオルフ。実は指揮者にも合唱団にも不安があった、というのが正直なところ。でも、これは良かった。
もちろんカルミナ・ブラーナが宿しているアイロニックな音楽は微塵も感じられませんが、純粋に肉体的快感としては充分に楽しめるカルミナでした。小澤/ベルリン路線の延長、と言ったら叱られそう。
合唱も良く訓練されていました。かつては「来るものは拒まず」的なところがあった協会合唱団ですが、現在は指導も厳しく、暗譜できない人、声が出ない人は降りて下さい、という姿勢なのだそうな。
特に男声陣の頑張りはかなりのもので、時に圧倒的多勢の女声陣を上回るほど(もちろん何名かのプロ?も加わっていたようです)。
児童合唱は葛飾区の優れた団体で、実に透き通った声で可憐さを醸し出してくれました。
そして何と言ってもソリスト。ソプラノの安井は、私は夜の女王で初めて接したコロラトゥーラで、抜群の安定感を誇ります。この役には最適任。
高橋は説明の必要は無いでしょう。カルミナ・ブラーナと言えば高橋、高橋淳と言えばカルミナ・ブラーナというくらいで、「たかはしワールド」は益々進化を続けているようです。聴く度に、いや見る度に円熟度を加えてるのは流石。
今回の収穫は萩原。このソロは比較的真面目な歌唱で聴くことが多いのですが、今回は第2部の歌唱などかなり思い切った抑揚で歌います。思わず笑いも、拍手も出るほど。こんなカルミナは初めて聴きました。
ただ個人的には、ロンドンで最高峰の合唱音楽を体験してきたばかり。今回のカルミナは充分に楽しめましたが、どうしても「メロディーを歌う」合唱になってしまう。
英都のように、和声がマッシヴに迫ってくる量感は出てきません。こればかりは視点を変えないと理解できない種類のものでしょうね。
尚、この公演は翌日の日曜日、昭和女子大学人見記念講堂でも特別演奏会として繰り返されます。会場が近い方は覗いてみることをお勧めします。
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