読売日響・第509回定期演奏会

カレンダーは既に師走に突入してしまいましたが、11月最後の演奏会レポートです。先月はクァルテットを聴く機会が多かったのですが、11月の最終日に漸く定期会員である読響の定期がサントリーホールで開催されました。
このところ集客面でも絶好調の読響、11月定期も早々と完売になっていたようです。サントリーホールは満席になるとやや響きが不足してくるように思いますが、昨日もオケが鳴っている割には響きに豊かさに物足りなさも感じました。気のせいでしょうか、それとも私の席の所為?

11月は首席指揮者カンブルランが登場するシーズン最後の定期でもあります。マエストロが毎シーズン「お題」に据えている文学作品から、ロメオとジュリエットの最終回。
カンブルランが受け持つ定期は年3回と決まっているようで、今シーズンはこれまでプロコフィエフ、ベルリオーズのロミジュリを披露、最後は当然ながらチャイコフスキー。ということで以下のプログラム。

ベルリオーズ/序曲「リア王」
チャイコフスキー/幻想序曲「ロミオとジュリエット」
     ~休憩~
チャイコフスキー/交響曲第6番
 指揮/シルヴァン・カンブルラン
 コンサートマスター/藤原浜雄
 フォアシュピーラー/小森谷巧

冒頭のベルリオーズは、シェークスピア繋がりで選ばれた作品でしょうし、後半はチャイコフスキーならこれ、という選曲でしょうか。それにしても凝ったプログラミングが光る読響定期で「悲愴」とは、チョッと意外な定期でもあります。
チケット完売でホールはほぼ満席、TVカメラも待機していました。

ベルリオーズの序曲はレアものに属すると思います。私も録音ではお馴染みの一品ですが、これまでナマで聴いた記憶がありません。中学生のころ、この曲がラジオで放送されるのを知って急いで学校から帰ったことを思い出しました。確かクリュイタンスのモノ録音だったと思います。
如何にもベルリオーズらしい華やかなオーケストレーションですが、特に印象に残る様な聴き所には乏しいという昔の感想は、この日のナマ体験でも余り変わりませんでした。残念ながら。

さてチャイコフスキーですが、前回あれほど緻密で繊細なベルリオーズを聴かせてくれたカンブルランにしては、意外に普通。可もなし不可もなし、という感想に終始したのは些かガッカリです。
読響のチャイコフスキー、特に「悲愴」と言えばこれまで数々の名演、凄演に接してきました。直ぐに思い浮かべられるものでも、ホーネック、ラザレフ、広上、スクロヴァチェフスキと。優劣がつけられるようなレヴェルではなく、夫々の個性がクッキリと刻印された忘れ難き名演たち。

ところがカンブルランのチャイコフスキーは、そつ無く纏めてはいるものの、表現の方向性が今一つハッキリしません。相変わらずオケは良く鳴るし、指揮者のコントロールも効いています。しかし、そこから先が見えないのですね。

ロミオとジュリエットから例を引けば、ジュリエットの優しさを表す弦の pp のフレーズ(193小節あたりから)。ここをラザレフが如何に情感を籠めて表現したかを思い出すとき、カンブルランは如何にも物足りない。
ヴィオラとイングリッシュ・ホルンがユニゾンで奏するジュリエットのテーマも、ヴィオラが強過ぎないでしょうか。あれではイングリッシュ・ホルンを重ねたチャイコフスキーの意図が見えてきません。(私の席のバランスが悪いのか)

悲愴では先ず第2楽章を挙げましょう。速めのテンポには意義がありませんが、主部と中間部との対比が暈けているので、音楽に劇性が産まれてこない。ここ、スクロヴァチェフスキは実に見事でした。

カンブルランは楽章途中の拍手を避けるためか、第3楽章と第4楽章をほとんど開けずに演奏しました。これも一つの手段でしょうが、私は賛成できませんね。行進の高揚を引き摺ったままラメントに突入するので、聴き手は興奮が収まらないまま慟哭に移行するのはキツイものがあります。
終楽章クライマックスのフェルマータから「ソー・ソファミレ」の下降モチーフも、広上の壮絶な表現には遠く及ばなかった。
戻って第1楽章も、ホーネックが敢えて大太鼓を加筆して引き出して見せたあの恐怖感を思い出すとき、カンブルランのは単なる強音の連続にしか聴こえません。

この様に感想を綴れば如何にも良くなかったかの様に思われるかもしれませんが、あくまでも高いレヴェルでの比較。これまで読響は余りにも見事な「悲愴」を送り出してきた、と言うことでもあります。

今回カンブルランは「悲愴」交響曲を定期で取り上げましたが、私が聴いた感じではマエストロはチャイコフスキー指揮者じゃないでしょう。少なくともこれは彼の勝負曲じゃない。選曲はマエストロの意向なのか、オケ側の要望なのか。
前半は何台も置かれていたテレビカメラが、後半は全て片付けられてしまっていたのも、何かを暗示しているよう。(マエストロが収録を拒否したかもね)
定期演奏会であれは、先週演奏した「海」繋がりのプログラムの方が良かったのじゃないでしょうか。やはりカンブルランは、定期ではフランス音楽を中心に聴かせて欲しいと思いました。

演奏が終了した後、定年を迎えた二人の楽員に花束贈呈がありました。コントラバス首席星秀樹氏と、打楽器首席の石内聡明氏。星氏はマーラー「巨人」での名人芸が、石内氏はバルトークの2台ピアノと打楽器のための協奏曲での妙技が忘れられません。
メンバーが引き揚げた後も、会場では二人を祝福する拍手が何度も湧き上がっていました。

プログラム誌の曲目解説を見ていて気が付いたこと。
「悲愴」の楽器編成は通常の曲目解説の域を出ませんでしたが、実際には例の第1楽章の展開部直前ではバス・クラリネットを使っていました。最近は拘って聴くファンも増えていることですし、括弧書きででもバス・クラリネットに一言触れても良いのでは。
興味を持った方が、“あの楽器、なに?” と訝しく思うかも知れません。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください