読売日響・第501回名曲シリーズ
私にとっては、今やいかなるプログラムも聴き逃せないマエストロ、スクロヴァチェフスキのコンサートを聴いてきました。4月12日の土曜日、サントリーホール。
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」
~休憩~
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
フォアシュピーラー/小森谷巧
一年の中でも今は一番良い季節。花粉症の人を別にすれば、桜が終わった今頃の休日、コンサートに出掛けるにはもってこいの時間でしょう。気分もゆるゆると家を出ます。曲目はロシアの大曲が二つ。交響曲で始まってバレエで終わるというのは少し不思議な取り合わせでしょうか。逆ならよくあるんですが・・・。
この感じ、マエストロの演奏を聴いてみて納得しました。その辺から。
前半の「悲愴」、これは素晴らしい演奏でした。もちろんスクロヴァチェフスキならではの解釈なんですが、充分に説得力がありましたし、読響も相変わらず極めてレヴェルの高い演奏でほぼ満員の客席を唸らせます。(チケット完売ということで前売りはありませんでした)
冒頭のコントラバス。この曲はコントラバスのディヴィジ(分奏)で始まり、コントラバスのディヴィジに終わる、いわばアーチ型の構造なんですが、改めて舞台右奥のコントラバスに惹きつけられます。ただの和音の下支えに終わらず、実によく歌い、音色に艶があるのです。
これに乗って、同じくディヴィジのヴィオラが短2度の溜息をふぅ~と、吐く。
スクロヴァチェフスキの悲愴は、よく「歌う」。交響曲全体の核である「2度下降」を随所に意識させ、その楽曲構造を透かせて見せるのでした。
例えば第1楽章クライマックスでの、トロンボーンの圧倒的な2度の下降音型!
それでいて「悲愴」というタイトルに拘った、重くて、底なしの慟哭には決してしません。各パートを良く歌わせているためでもありましょうが、ここにスクロヴァチェフスキのチャイコフスキーに対する解釈を見たような気がしました。
第2楽章の5拍子ワルツなど、弦がピチカートを弾けば、そのまま「白鳥の湖」のワルツに繋がっていく様な浮き立つ気分。
第3楽章はオドロオドロした「死の行進」ではなく、あくまでもスケルツォ。ヴァイオリンに出る7連音に僅かなアクセントを付け、ユーモラスな雰囲気すら漂わせて見せる。
そう、チャイコフスキーは交響曲にバレエ的な要素を持ち込んだ作曲家なのです。今日のプログラム構成に隠されたメッセージを発見した瞬間でした。
後半はストラヴィンスキーの難曲。いや、かつては難曲であったと言うべきか。
珍しくスクロヴァチェフスキはスコアを置いて指揮していましたが、オーケストラの技術レヴェルは極めて高く、余裕すら感じられるほど。
まてよ、巧過ぎじゃないか・・・。
スクロヴァチェフスキの今回の「春の祭典」、大きな仕掛けがありましたね。以前N響で披露したという、最後の場面のピチカートは今回はやりませんでした。(聴きどころ参照)
そこではなく、第1部の最後の音。エッ、なんだ今のは!!!!
飛ぶようにして帰宅、スコアを引っ張り出して確認。なるほど、楽譜はそうなってるんだぁ~。
第1部第8曲「大地の踊り」は、4分の3拍子のプレスティッシモ。その最後の音は、弦楽器に限って言えば、ヴァイオリンとヴィオラは16分音符、コントラバスが8分音符で終えるのに対し、チェロは4分音符を丸々弾くように指定があるんですなぁ。
今回、スクロヴァチェフスキはここを強調していました。これまで聴いてきたどの演奏も、最後の音は「ドカン」という一発で全ての楽器が鳴り止みました。昨夜は全員が同時に終わるのではなく、チェロやトランペットなど、スコアに指定された楽器たちは、なお暫く音を引き伸ばす。ここ、ホント、度肝を抜かれました。でも楽譜通りなのだから驚きます。スクロヴァチェフスキの凄さの一端でしょう。
ただし、私としては今回のサークル、完全に満足したわけではありません。高いレヴェルでの話なのですが、例えばかつて体験したマルケヴィッチの強烈な印象に比べれば、断崖絶壁に立たされたような緊迫感、壮絶さには欠けていたように感じられます。
オーケストラのレヴェルは、マルケヴィッチ当時よりはるかに上がっています。しかしこの曲の場合、それが逆に恐ろしいほどの緊張や必死の演奏姿勢を殺いだのも事実ではないでしょうか。音楽は技術だけが全てではなく、ある特殊な状況によって「特異な体験」を生む世界。そこにこそクラシック音楽の醍醐味があるんですよ、ね。
スクロヴァチェフスキが50代にミネソタで録音した演奏が残されています。それと比べても、やはりスクロヴァチェフスキが年齢を重ねてきたことが実感として感じられました。決して衰えた、ということではないんですよ。年齢には相応の演奏が、ある。そのこと。
今回のスクロヴァチェフスキによる三つのプログラム。真ん中のロシアン・ナイトはやや一服感のある回でしょうか。前回のブルックナー第2での、神々しいまでの感動に至らなかったのは、やはり作品の性格から来るものでしょう。
ということで、今週はいよいよ定期演奏会です。
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