ハンセン復活とサンタ・アニタのGⅠ3連発
3月第1週の米国競馬、グレード戦は3日の土曜日だけに組まれていて、日曜日のG戦はありません。
その昨日のアメリカ、中西部では竜巻が大発生して多数の犠牲者も出たようですが、ニューヨーク、フロリダ、カリフォルニアでは無事に競馬が行われました。
雨のアケダクト競馬場で行われた3鞍のG戦はいずれも内のダート・コースが使われ、馬場は muddy 。日本風に言えば重馬場と言ったところでしょうか。第1レースは泥んこ馬場で行われていましたが、最初のG戦が行われる第5レースではいくらか回復した印象です。
その第一弾はトップ・フライト・ハンデキャップ Top Flight H (GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)。1966年にアメリカ競馬殿堂入りを果たした名競走馬にして優れた繁殖牝馬でもあったトップ・フライトに因んで1940年に創設された牝馬によるレース。何故か去年は開催されませんでした。アメリカにグレード制が導入された1973年からずっとGⅠにランクされてきましたが、1997年以降はGⅡに格下げされています。
2年振りとなる今年は6頭が登録してきましたが、1頭取り消して5頭立てで行われました。注目は去年のBCレディーズ・クラシック2着のイッツ・トリッキー It’s Tricky のシーズン・デビュー。エイコーン・ステークスとコーチング・クラブ・アメリカン・オークスとGⅠに2勝、その後3戦続けて2着が続いていましたが、ここはBC以来の実戦、最も重い122ポンドを背負いながらも3対10の断然1番人気に支持されています。
レースは2番人気(4対1)のラヴ・アンド・プライド Love and Pride が先手を取って逃げ、イッツ・トリッキーはピタリとマークして2番手を進む展開。徐々に差を詰め、直線に入ると直ぐに先頭に並び掛け、あとは後続を引き離して堂々1番人気に応えました。2着は2馬身4分の3差でラヴ・アンド・プライドが逃げ粘り、更に2馬身差が付いて3着にはバハマ・バウンド Bahama Bound の順。
イッツ・トリッキーは、ヨーロッパでも競馬界をリードしているゴドルフィン(お馴染み、ブルーの勝負服)の持ち馬。管理するのはキアラン・マクローリン、ラモン・ドミンゲスの騎乗でした。ドミンゲスは直線で先頭に立ってから右ムチを4発入れていましたが、休養明けもあってか馬が最後は少しバテ気味だった様子。馬に気合を入れるためのムチだったのでしょう。次走は更なる良化が見込めそうですね。
続いてトム・フール・ハンデキャップ Tom Fool H (GⅢ、3歳上、6ハロン)は第9レース。去年は創設年に触れませんでしたので改めて紹介すると、創設は1975年。1981年にGⅢに格付けされ、1983年にGⅡに昇格しました。2010年は開催されず、去年からGⅢに再び降格されたようです。
今年は6頭立て。BCダート・マイルの覇者ケーレブズ・ポッセー Caleb’s Posse 、前年のトム・フール覇者でアケダクトの6ハロンは無敵のカリブラチョーア Calibrachoa が出走してきたにも拘わらず、6対5の1番人気に支持されていたのは、2戦2勝でステークス初挑戦となる新星エムシー Emcee でした。マイルのチャンピオン、ケーブルズ・ポッセーは6ハロン戦ということもあってか2対1の2番人気、カリブラチョーアが差無く7対2の3番人気で続きます。
しかし優勝はアケダクトの王者カリブラチョーア、相手がだれであれアケダクトの6ハロンは譲れないという強さを見せつけ、このレース2連覇を達成しました。今年は3~4番手を追走する厳しい展開。直線、残り100メートルで外から2頭を捉えましたが、更に外からケーレブズ・ポッセーの激しい追い込みに会い、辛うじて首差の先着でした。本命エムシーはケーブルズ・ポッセーに4分の3馬身差されて3着でしたが、交わされてからも渋太く粘っての好走と言えるでしょう。
カリブラチョーアはアケダクトの内コースは5戦5勝と無敗。G戦も5勝目で、全てがアケダクトでの勝利です。管理するのは、同馬を一昨年の11月にクレーミング・レースで入手したトッド・プレッチャー師。鞍上はコーネリオ・ヴェラスケスでした。
土曜日のメイン、第10レースはGⅢながら賞金は前2レーの2倍もあるガッサム・ステークス Gotham S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)です。こちらも創設年を追加しておきましょう。創設は1953年、グレード制導入からGⅡを維持してきましたが、1998年以降はGⅢに格下げ。
今年は13頭立て。シーズン初戦のホーリー・ブル・ステークス(GⅢ、1月29日)こそ初黒星を喫したものの、前年のチャンピオン2歳馬ハンセン Hansen 登場とあって4対5の圧倒的1番人気に支持されていました。そして期待通りの楽勝で、ダービーの有力候補であることをファンに再確認させています。
今回初めてブリンカーを外して臨んだハンセン(出走馬中唯一の芦毛)は、大外から二つ目の12番枠スタート。クラブハウス・ターン(第1コーナー)では大外を回されましたが、向正面では2番手に上がり、3~4コーナーでは早くも先頭に立つ積極的なレース。これをマークするように進んだマイ・アドニス My Adonis が直線で差を詰めにかかりましたが、逆にリードを3馬身差(ホーリー・ブルでは両者の差は半馬身でした)に広げての圧勝です。2着マイ・アドニスと3着フィネガンズ・ウェイク Finnegans Wake との着差は6馬身!
マイク・メーカー厩舎、ラモン・ドミンゲス騎乗のハンセンは、父が先日フェブラリー・ステークスを鮮やかに差し切ったテスタマッタと同じタピット Tapit であることにも注目しなければいけませんね。このあとはウッド・メモリアルから本番に向かう予定だそうですが、ハンセンの動向が今年のケンタッキー・ダービーの見所の一つであることは間違いないでしょう。
ガルフストリーム・パーク競馬場ではカナディアン・ターフ・ステークス Canadian Turf S (芝GⅢ、4歳上、8ハロン)が行われました。このレースについては去年詳しく紹介済みです。
今年は firm の芝コースに8頭が出走し、去年のこのレースの勝馬で目下4連勝中のリトル・マイク Little Mike がイーヴンの1番人気に支持されていました。リトル・マイクは大外8番枠からのスタートで果敢に先頭に立ちましたが、2番手で追走するトレンド Trend に突かれて息の抜けない展開。直線では1番枠スタートを利して終始内の中団を進んだ3番人気のダブルス・パートナー Doubles Partner が鋭く伸び、食い下がるトレンドに4分の3馬身差を付けて優勝。更に4分の3馬身でデータ・リンク Data Link が3着に追い込みました。本命リトル・マイクは最後で頭差交わされて4着に終わり、ガルフストリームの芝コースでは2度目(7戦して)の敗退となります。
勝ったダブルス・パートナーはこの日アケダクトのトム・フールを制したカリブラチョーアと同じトッド・プレッチャー師の管理馬で、ジュリアン・ルパルーの騎乗。既にG戦2勝の5歳馬で、去年の5月7日にターフ・クラシック(GⅠ、チャーチル・ダウンズ)で3着して以来の10か月振りの実戦でした。
そしてサンタ・アニタ競馬場はGⅠ3連発の豪華版。レース順に取り上げていきましょう。
第一弾はラス・ヴァージェネス・ステークス Las Virgenes S (GⅠ、3歳牝、8ハロン)。去年は丁度一月前の2月第1週に行われました。改めてレースの経緯等を紹介すると、創設は1981年と比較的最近のこと。1985年に初めてGⅢに格付けされ、1987年にGⅡ、翌1988年には早くも最高格のGⅠに昇格しています。創設当初から牝馬三冠の重要なステップレースとして注目されてきました。
馬場は速い時計の出る fast 、今年は8頭立てで行われました。キャリアは浅いながら、前走トライアルのサンタ・イネズ・ステークス(GⅡ)を圧勝したルネースゴットジップ Reneesgotzip が6対5の1番人気に支持されています。
コーリー・ナカタニ鞍上のルネースゴットジップは外7番枠からのスタートでしたが、第1コーナーで大きく外に膨れる悪い癖(前走は4コーナーで見せましたっけ)が出てしまいます。それが若干は影響したのでしょうか、逃げるエデンズ・ムーン Eden’s Moon (5対2の2番人気)を直線入口で強引に捉えようとしましたが、直線では逆に離されて3馬身4分の1差2着で入線しました。直線に入って直ぐ先頭2頭が接触するシーンがあり、ナカタニ騎手がエデンズ・ムーンのマーチン・ガルシア騎手に進路妨害で訴え、審議に。結局は却下され、着順通りで確定しました。3着は更に2馬身4分の3差でオープン・ウォーター Open Water 。
ボブ・バファートが調教するエデンズ・ムーンは、去年12月に本命として出走した新馬戦でルネースゴットジップに2馬身4分の1負けていた馬。その後1月のレースを11馬身半差で圧勝し、ステークス初挑戦でルネースゴットジップとの再戦に臨んでいました。ここで見事に雪辱を果たし、ケンタッキー・オークスを目指すことになるでしょう。
フランク・E.キルロー・マイル Frank E. Kilroe Mile (芝GⅠ、4歳上、8ハロン)。1960年創設であることを追加しておきましょう。
こちらも8頭立てで、芝コースは。去年の年末からサンタ・アニタの芝のGⅡ戦を連勝中のミスター・コモンズ Mr. Commons が1番人気でしたが、前のレースに続いて本命馬は2着敗退です。
本命馬の脚を掬ったのは、アイルランド産の5歳馬ウィリーコンカー Willyconker (10対1)。これまで余り馴染の無い名前でしたが、決してフロックではありません。何故なら前走アルカディア・ステークス(芝GⅡ、2月4日)ではミスター・コモンズを1馬身差まで追い詰めた実績があるからです。今回は2番手から先頭に立ったコンパーリ Compari を経済コースを通って早目に捉え、ミスター・コモンズが抜け出すのに苦労する間に勝利を決定的なものにしてしまいました。2着ミスター・コモンズとの着差は首。3着は1馬身差でコンパーリが粘り込んでいます。
これがGⅠ初勝利となるウィリーコンカーの調教師はダグ・オネイル、騎手はジョエル・ロザリオでした。
そして愈々本日のメイン、サンタ・アニタ・ハンデキャップ Santa Anita H (GⅠ、4歳上、10ハロン)。
フル・ゲートの13頭が出走し、2月4日のストラブ・ステークスを快勝したアルティメイト・イーグル Ultimate Eagle (120)が2対1の本命に挙げられていましたが、この日のサンタ・アニタは魔物が棲みついたのか、1番人気はまたしても勝利から見放されてしまいました。向正面で先頭に立ち、順調に飛ばしているかに見えましたが、直線ではバッタリと脚が止まっての10着惨敗です。
勝ったのはビル・モット調教師が送り込んだ伏兵ロン・ザ・グリーク Ron the Greek (116)。直線で本命馬を交わして先頭に立った去年の2着馬セツコ Setsuko (116)を外から並ぶ間も無く交わすと、そのままセツコに3馬身半差を付ける楽勝。3着には更に半馬身でアー・オー・バンゴー Uh Of Bango (117)が追い込んでいます。
7対2の人気で勝ったロン・ザ・グリークは、去年はニューヨークで一般のステークスに2勝していましたが、G戦勝利は2年前のルコント・ステークス(GⅢ)以来となる快挙。3歳時はトム・エイモス厩舎に所属していた馬で、厩舎では三冠候補として期待していた存在でしたが、これで古馬のハンデキャップ部門を戦う1頭に復活してきたことになります。鞍上はホセ・レズカノでした。
以上、駆け足の土曜日でした。
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