注目のクラシック・トライアル

今週もGⅠ戦はありませんが、土日の二日間で注目されるのは、やはり3歳クラシック戦線でしょう。サンタ・アニタのサン・フェリペは来るサンタ・アニタ・ダービーの前哨戦でもありますし、フロリダのスウェイル、タンパのタンパ・ベイ・ダービーも見逃せません。
今週のG戦、1年前は震災直後に行われたレースが多いので、歴史や経緯などは省略したものがほとんどでした。それらについては、今回改めて紹介していきましょう。

最初にアケダクト競馬場は、この時期ダートの内コースが使われます。この日グレード戦はシカーダ・ステークス Cicada S (GⅢ、3歳牝、6ハロン)一鞍が行われました。馬場状態は fast 。
今年は5頭立ての小頭数となり、順当な結果で終わっています。勝ったのは1対4の圧倒的1番人気に支持されたアガーヴェ・キス Agave Kiss 。スタートからスピードを見せ付けての逃げ切り勝ち、後続から2番人気(7対2)のコーデローサ Corderosa が抜け出して本命馬を負いましたが、3馬身届かず2着。3着は更に6馬身4分の1差離されてアリダーラ Alydarla の順。
アガーヴェ・キスは地元ニューヨーク産馬で、去年10月にベルモントでデビュー勝ち(2着に6馬身)し、12月にはアケダクトで連勝(2着に10馬身)、更に今年1月にもアケダクトのルースレス・ステークス(ノン・グレード)にも勝って3戦無敗だった馬。これで通算成績を4戦無敗に伸ばしましたが、距離は全て6ハロンです。牝馬クラシックよりは短距離路線のGⅠ戦を目指すタイプで、サラトガで行われるプライオレス・ステークス(6ハロンのGⅠ)やテスト・ステークス(7ハロンのGⅠ)を目標にしていくでしょう。未だ底を見せていない馬、距離も未知数であることから、取り敢えず次走はカムリー・ステークス(GⅢ)で1マイルを経験させてみる計画のようです。
調教師はラディー・チャップマン、騎手は同馬のオーナーであるフライング・ジー・ステーブルの主戦ジョッキーを務めるライアン・クラトーロ。

続いてガルフストリーム・パーク競馬場のG戦は2鞍。
最初がガルフストリーム・パーク・ハンデキャップ Gulfstream Park H (GⅡ、4歳上、8ハロン)。震災のため紹介の無かったレースです。創設は1946年、グレード制導入から2年間はGⅡでしたが、1975年からはGⅠ戦として長く行われてきました。しかし2003年に再びGⅡに降格されて現在に至っています。GⅠだった時期を含めて10ハロンの距離で行われてきましたが、2009年からは1マイル戦に変更されてしまいました。オールド・ファンには今一つピンと来ない理由でしょう。
今年は6頭が登録していましたが、プレッチャー厩舎がソアリング・ストックス Soaring Stocks を取り消したため5頭立てで行われ、上位人気3頭が1着から3着に入って順当な結果に収まりました。1番枠から出た前年の覇者で3番人気(5対1)のタックルベリー Tackleberry がハナに立って逃げましたが、3対5の1番人気に支持されたムチョ・マチョ・マン Mucho Macho Man が1番枠スタートから最初は控え、徐々に外に持ち出して2番手に上がり、3~4コーナーで外からタックルベリーに並び掛けると、そのまま2馬身差を付けて人気に応えました。タックルベリーがそのまま粘り込み、追い込む2番人気(7対5)ジャクソン・ベンド Jackson Bend は半馬身及ばず3着まで。
リズン・スター・ステークス(フェア・グラウンズのGⅡ)の勝馬で去年の三冠レースでも活躍(ケンタッキー・ダービー3着)したムチョ・マチョ・マンは、今年初戦(1月28日)のサンシャイン・ミリオンズ・クラシック(ノン・グレード、ガルフストリーム)に楽勝。このレースで2着だったロン・ザ・グリーク Ron the Greek が先のサンタ・アニタ・ハンデを制したため、ムチョ・マチョ・マンの評価は更に高まっていました。
キャサリン・リトヴォ厩舎、ラモン・ロドリゲス騎乗。

そして愈々クラシックのトライアル戦の一つであるスウェイル・ステークス Swale S (GⅢ、3歳、7ハロン)。去年は4月3日に行われており、詳しいことは紹介済みです。
ハッチェソン・ステークス(GⅡ)の勝馬サンダー・モッカシン Thunder Moccasin が欠場し、9頭立てで行われました。脚部に不安が出てハッチェソンを直前で取り消したエヴァー・ソー・ラッキー Ever So Lucky が厩舎期待のクラシック候補とあって6対5の1番人気に支持されています。しかし優勝は2番枠から出て、そのまま2着以下を寄せ付けずぶっちぎりで逃げ切った4番人気(7対1)のトリニーバーグ Trinniberg でした。何と6馬身離された2着にはブービー人気(45対1)のヘロー・プリンス Hello Prince が飛び込み、本命エヴァー・ソー・ラッキーは後方から順位を上げたものの2着から1馬身離された3着に終わっています。
ビスナート・パルボー厩舎、ウィリー・マルチネスが騎乗したトリニーバーグは、去年サラトガのホープフル・ステークス(GⅠ)2着、ベルモントのナシュア・ステークス(GⅡ)でも2着し、BCジュヴェナイル・スプリントでは7着に惨敗していた馬。今日はそれ以来の競馬で、G戦は初勝利となります。今回はそれまで使用していたブリンカーを外したことが良かったようで、馬が大変にリラックスしていたとのこと。残念ながらトリニーバーグは三冠レースへの登録がありません。

オークローン・パーク競馬場からも2鞍の結果が入ってきました。
先ずハネービー・ステークス Honeybee S (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。1988年に創設され、1990年以降GⅢに格付けされてきました。ニュージャージー州のメドウランズ競馬場で行われてきたレースに良く似た名前のハネー・ビー・ハンデ Honey Bee H というレースがあるので、アメリカ競馬史を研究されている方には注意が肝心です。こちらも同じく3歳牝馬のGⅢ戦で距離も同じ8.5ハロンですが、2010年以降は開催されていないようです。
今年は8頭が出走してきましたが、レース前の人気通りに2頭のマッチレースのような形になりました。2番枠から好ダッシュした2番人気(3対1)のエイミーズ・ディニー Amie’s Dini が内枠を利して逃げ切りを測ります。一方2対5の1番人気オン・ファイア・ベビー On Fire Baby は大外8枠スタートで外を回りますが、早目に逃げ馬をマークして3番手に上がり、3コーナーから仕掛けてエイミーズ・ディニーを捉えに掛かりますが両馬譲らず直線へ。最後は人気2頭の叩き合いとなり、結局は本命オン・ファイア・ベビーがエイミーズ・ディニーに2馬身差を付けて優勝。3着は9馬身半の大差が付いてコロニアル・エンプレス Colonial Empress が入りました。
ゲイリー・ハートレージ師が管理、ジョー・ジョンソン騎乗のオン・ファイア・ベビーは、去年の秋にチャーチル・ダウンズでポカハンタス・ステークス(GⅡ)とゴールデン・ロッド・ステークス(GⅡ)に勝った芦毛馬で、今年初戦はオークローンのスマーティー・ジョーンズ・ステークス(ノン・グレード、1月16日)で牡馬相手に3着していました。牝馬同士のここは負けられない一戦だったでしょう。ケンタッキー・オークスだけでなく、ケンタッキー・ダービーにも登録したのは陣営の自信の表れでしょうか。この後はオークローンのファンタジー・ステークスに向かうのが順当ですが、再び牡馬にチャレンジしてアーカンソー・ダービーに向かうプランも浮上しています。陣営の決定に注目が集まります。2007年のファンタジー勝馬ハイ・ヒールズ High Heels の半妹に当たる同馬は、血統的にも大注目。

もう一鞍がレーザーバック・ハンデキャップ Razorback H (GⅢ、4歳上、8.5ハロン)。オークローン・ハンデの前哨戦として位置づけられている一戦で、創設は1960年と思われます。1978年に初めてGⅢに格付けされ、1985年にはGⅡに昇格しました。しかし1997年以降は再度GⅢに降格されて現在に至っているレース。
6頭立てと小頭数。イーヴンの1番人気にはGⅡ馬のタピザー Tapizar が推されていましたが、エセックス・ハンデ(ノン・グレード、2月4日)に勝ってきたアルタネーション Alternation も6対5で差無く続いていました。去年のこのレースを制したイット・ハップンド・アゲン It Happened Again は20対1のブービー人気で、名前のように再演は無かろうという評判です。
レースは2枠から出たアルタレーションが先行し、本命タピザーがこれを追う展開。結局は最初の態勢のまま入れ替わることなく、所謂行った行ったの競馬になってしまいました。勝ったアルタネーションとタピザーの着差は1馬身半。5馬身4分の3差離された3着にはカラー・ミー・ブルー Color Me Blue が入り、連覇のかかったイット・ハップンド・アゲンは人気通り5着敗退です。去年のオークローン・ハンデ(GⅡ)に勝ったウイン・ウィリー Win Willy が久々のレースでしたが、精彩を欠いて後方追走のままシンガリで入線しました。
ドニー・フォン・ヘメル師が調教、ルイス・キノネズが騎乗したアルタレーションは、去年ベルモントのピーター・パン・ステークス(GⅡ)に続きG戦は2勝目、通算で11戦6勝。オークローン競馬場でのアーカンソー・ダービーは5着でした。

注目のタンパ・ベイ・ダウンズ競馬場でもG戦2鞍が行われました。
ヒルズボロ・ステークス Hillsborough S (芝GⅢ、4歳上牝、9ハロン)。歴史の浅いレースで、創設は1999年、2004年からGⅢに格付けされています。
1頭取り消して9頭立て。人気の全く無いメガスピール Megaspiel が逃げましたが、前半は後ろから4番手を進み、3コーナー手前で一気に仕掛けた本命(4対5)ザゴラ Zagora が大外を回りながらも桁違いの瞬発力で抜け出し、2着以下に1馬身4分の3差を付ける圧勝。2着争いは接戦で、写真判定の結果4番手を進んだフェデレーション Federation が、2番手から抜け出したアンブライドルド・ヒューモア Unbridled Humor を頭差抑えていました。去年のこのレースを制したデノミネーション Denomination は5着に終わり、連覇ならず。
ザゴラはフランス産の5歳牝馬で、既にサラトガでダイアナ・ステークスを制してGⅠホースの仲間入りを果たした馬。現在はチャド・ブラウン師が管理し、ハヴィエル・カステラノが騎乗していました。今年は2月4日に同じタンパ・ベイでエンデヴァー・ステークス(芝GⅢ)を本命で制しており、去年のヒルスボロー2着の雪辱を果たした形です。当然ながら今夏のダイアナ2連覇が目標でしょう。

ファン期待のタンパ・ベイ・ダービー Tampa Bay Derby (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。これも古い歴史のあるレースではなく、創設は1981年と最近のこと。グレード戦への格付けも2002年以降で、最初はGⅢでした。GⅡに格上げされたのは去年のこと。2007年にこのレースを勝ったストリート・センス Street Sense がケンタッキー・ダービーをも制し、2010年の3着馬スーパー・セイヴァー Super Saver もケンタッキー・ダービー馬となる活躍。それ以来注目度が増してきているようです。
今年は1頭取り消しがあり11頭立て。ガルフストリームで新馬戦から2連勝したトッド・プレッチャー厩舎のスプリング・ヒル・ファーム Spring Hill Farm が期待値も含めて2対1の1番人気に支持されていました。次いでは2月4日のサム・F.デーヴィス・ステークス(GⅢ、タンパ・ベイ)に勝ったバトル・ハードンド Battle Hardened が3対1の2番人気、同じく3対1で同レース2着のプロスペクティヴ Prospective が並んだ2番人気で続きます。
レースは大外枠からケイジュン・チャーリー Cajun Charlie が一気に先頭を奪って大逃げを打ちましたが、1番枠から出て一旦は控えたプロスペクティヴが道中で外に出しながら第3コーナーで逃げ馬を捉えると、そのまま押し切って優勝。4分の3馬身差2着には2番枠スタートから終始好位を進んだ伏兵ゴールデン・チケット Golden Ticket が入り、コゼッティ Cozzetti が3馬身離されて3着の順。1番人気のスプリング・ヒル・ファームも良く伸びたものの3着馬に4分の3差及ばず4着に終わりました。バトル・ハードンドは今回は利あらず6着敗退。
去年の秋にカナダのGⅢに勝って名前の通り将来性豊かなプロスペクティヴは、今回初めてブリンカーを装着したのが功を奏したようです。同馬を調教するのはマーク・カッセ、鞍上はルイス・コントレラス騎手。陣営ではもう一戦(ウッド・メモリアルになりそう)してからケンタッキーに向かう計画です。果たしてタンパ・ベイからケンタッキーのエリートコースを歩めるか・・・。

最後にカリフォルニアからサンタ・アニタ競馬場のメインレース。
サン・フェリペ・ステークス San Felipe S (GⅡ、3歳、8.5ハロン)は1935年に創設された当時は古馬のためのレースでしたが、1941年に3歳限定戦に条件が変更されています。グレード制導入時はGⅡに格付けされていましたが、1984年にGⅠに昇格。しかし5年後の1989年には再びGⅡに格下げされて今日に至っています。当然ながら開催のメインとなるサンタ・アニタ・ダービーの前哨戦であり、続くケンタッキー・ダービーのトライアルでもある重要なステップ・レースです。
今年は10頭立て。GⅠ馬2頭の対決、クリエイティヴ・コース Creative Cause (ノーフォーク・ステークス、BCジュヴェナイル3着)対 リエゾン Liaison (キャッシュコール・フューチュリティー)が見所の一つでしたが、1番人気(2対1)には未だ3戦目、これがステークス初挑戦ながらリエゾンと同厩(ボブ・バファート)の上がり馬ボーダーマイスター Bodermeister が挙げられていました。クリエイティヴ・コースも同じ2対1でしたが、僅かの差で2番人気。リエゾンが3番人気で続きます。
レースはアメリカン・アクト American Act が逃げ、ボーダーマイスターは2番手追走でいつでも仕掛けられるタイミング。直線入口で逃げ馬を交わしてボーダーマイスターが先頭に立ちましたが、外々5番手を追走したクリエイティヴ・コースが直線で5頭分の外を追い込み、最後はやや外に寄れながらも渋太く粘るボーダーマイスターに4分の3馬身差を付けて優勝。更に2馬身4分の1差で内からミッドナイト・トランスファー Midnight Transfer が3着に食い込みました。リエゾンは追い込んで4着、勝馬との差は5馬身半ほどでした。
クリエイティヴ・コースはシーズン初戦のサン・ヴィセンテ・ステークス(GⅡ)で3着に敗退して評価を落としていましたがここで復活、再びケンタッキー・ダービーの有力候補に再浮上してきましたね。これで通算成績は7戦4勝2着1回3着2回。調教師はマイク・ハリントン、騎手はジョエル・ロザリオ。当然ながら次走は4月7日に行われるサンタ・アニタ・ダービー(GⅠ)です。
なお、2か月前に馬道でのアクシデントで踵を負傷していた名手ギャレット・ゴメスが金曜日のサンタ・アニタで復帰する予定でしたが、1レース騎乗した後の傷みが酷く、結局は残りをキャンセルしてしまいました。サン・フェリペではティズ・ポイント Tiz Point に騎乗する予定でしたが、結局は乗り替わりとなっています。因みにティズ・ポイントは8着に終わりました。
ゴメス騎手は今年のクラシック戦線ではアウト・オブ・バウンズ Out of Bounds に騎乗することが決まっていますが、同馬はシャム・ステークス(GⅢ)に勝ったあと、3月6日の調教で故障発生、予定していたサン・フェリペを欠場していました。

以上これまで行われたトライアルで、去年のBCジュヴェナイル上位3頭ではグラッド・ラグスが順当に勝ち、初戦こそ落としたハンセンとクリエイティヴ・コースも夫々シーズン2戦目で復活してきました。
これに新星が加わってのクラシック戦線となりますが、土曜日に勝ったプロスペクティヴとトリニーバーグも期待の1頭に数えられるでしょう。愈々主役が揃ってきた感じですね。

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