古典四重奏団SQW公演

昨日はあれから一年、晴海の第一生命ホールでも東日本大震災の犠牲者・被災者への祈りが捧げられました。
恒例のSQW、古典四重奏団によるシーズン最終回の演奏に先立って、クァルテットのメンバーも含めての黙祷により、この一年を静かに回顧します。

思えば一年前、古典四重奏団が予定通りSQWでフランス音楽を取り上げたのは、震災の翌々日でした。多くの演奏会が取り止められた中、彼らのコンサートが行われたのは奇跡に近かったとも言えましょう。
そんな思いを胸に着席、今年の演目が始まります。

≪オール・ボッケリーニ・プログラム≫
ボッケリーニ/小弦楽四重奏曲ト長調G223 作品44-4(B) “ラ・ティランナ・スパニョーラ”
ボッケリーニ/弦楽四重奏曲変ホ長調G167 作品8-3(B) (作品6-3)
ボッケリーニ/弦楽四重奏曲イ長調G213 作品39(B) (作品39-8)
     ~休憩~
ボッケリーニ/弦楽四重奏曲ロ短調G245 作品58-4(B) (作品58-4)
ボッケリーニ/弦楽四重奏曲変ホ長調G243 作品58-2(B) (作品58-2)
 古典四重奏団

ボッケリーニの弦楽四重奏曲だけで一晩(マチネーですが)は、かなり珍しい試みかと思われます。もちろん私は初めての体験で、たとえ一曲ですらボッケリーニのクァルテットをナマで聴いたことはありません。
幸い、今回は第1ヴァイオリンの川原千真による優れたボッケリーニ論がプログラムに掲載されていましたので、何の知識も持ち合わせない私にも大いに楽しめるコンサートになりました。

「ボッケリーニって意外に面白いし、ハイドンでもモーツァルトでもない独自の個性が魅力」 と、一言で感想を纏めておきましょうか。

全てをプログラムから引用させて頂けば、ボッケリーニの作品番号は極めて混乱しています。ボッケリーニ自身が作品目録を作成していますが、全てが網羅されているわけではありません。
悪いことに、プレイエル等の出版社の狼藉!(川原氏の表現)によって、ボッケリーニ自身の番号を無視して出版されたものも数知れず。そこで現代では20世紀フランスの音楽学者ジェラールが体系化した作品番号も併記される次第。
G番号が振られているのはジェラールの体系化された番号、(B)で表記されているのはボッケリーニ自身の作品目録、括弧書きで表記したものは初版の際の番号と、作品によっては3種類もの番号が付されることになっているのですね。

ボッケリーニは1743年にイタリアのルッカで生まれ、1805年にスペインのマドリッドで没しました。即ちハイドンより年下ながらハイドンより先に亡くなり、モーツァルトよりも年上ながら、モーツァルトより長生きしたという計算です。
イタリア人ながら本拠をスペインに移し、ヴィーン古典派とは異なる独自のスタイルを築き上げた室内楽の大作曲家。川原説によれば、『ラテン古典派』とでもいうべき全く独自の世界を見事に形成した作曲家なのですね。
生物が離島や高山など周囲と隔絶した世界で独自の進化を成し遂げてきた事実と擬えられるかもしれません。とは言え、ボッケリーニとハイドンは直接連絡を取ることは敵わなかったけれども、互いの作品を認識し、敬意を持ち合っていたのだそうです。

こうした情報を得て聴くボッケリーニは、実に耳新しい世界でした。

冒頭で演奏されたのは「暴君」というタイトルの付いた2楽章の作品。スペインからベルリンのフリードリヒ王子に献呈された作品の由で、ボッケリーニ49歳の作。

2曲目は今回の選曲の中では最も若い時の作品。スペイン定住に際してルイス皇子に捧げられたもの。26歳の作で、6曲セットの3番目。3楽章構成。

前半の最後はルイス皇子の死後に書かれたもの。44歳の作で、ラルゴ、アレグロ、メヌエットの3楽章。

そして後半の2曲。いずれもボッケリーニが6曲セットとして纏めたものでは最後の曲集に含まれるもので、明らかに前半の3曲より充実した大傑作と聴きました。1799年、ボッケリーニ56歳の作。
特にロ短調で書かれた3楽章の作品は、単独で他の作曲家の大作と並べて演奏されても決してひけはとらない優れた作品だと思われます。
最後の変ホ長調も、曲集で唯一4楽章で書かれた作品で、「晩年のボッケリーニが到達した霊感の豊富さ」に満ちた傑作。

古典四重奏団の演奏も、例によって全て暗譜。楽章間のチューニングも作品によって良く考えられたものになっていました。単なる知られざる傑作の紹介に止まらない緻密さに満ちたもの。

最後は特別な日の演奏に鑑み、同じボッケリーニ作のスターバト・マーテルから終曲(もちろんクァルテット編曲版で)が演奏されました。
田崎氏によれば、ボッケリーニのスターバト・マーテルはソプラノ独唱と弦楽四重奏にコントラバスを加えた6人で演奏されるものの由。何時の日か、彼らを中心にした演奏で聴いてみたいと思います。

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