サルビアホール クァルテット・シリーズ第9回
昨日は鶴見、SQS・第3シリーズの最終回を聴いてきました。ホールの素晴らしさが徐々に伝わってきたようで、当日券を求めて並ぶファンも見られました。
今回はオール・ベートーヴェン・プログラム、当シリーズでオール・ベートーヴェンは初めてです。選ばれた作品は、
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番ニ長調 作品18-3
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番へ長調 作品135
~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第9番ハ長調 作品59-3「ラズモフスキー第3」
アミーチ・クァルテット
クァルテット好きはプログラムを見ただけで“ははぁ~ん”と思われるでしょう。単に楽聖の初期・中期・後期から1曲づつ選ばれたというに留まりません。
そう、第3番はベートーヴェンが書いた最初の弦楽四重奏でもあり、作品135はその最後の作品。また、大フーガを1曲と数えれば、ラズモフスキーの第3番は前後8曲づつを挟んで丁度真ん中に位置する傑作。この3曲でベートーヴェンの全生涯を概括しようという選曲ですね。
先ずこのプログラムに演奏者の意図を感じ取りましょう。
アミーチ・クァルテットは、私が初めてナマで聴く団体ですが、若手のクァルテットではありません。
日本では2005年から毎年ツアーを行っているそうですし、水戸の芸術館ではハイドンの全曲演奏会を企画している由。これまで聴くチャンスに遭遇しなかったのが不思議なくらいです。
メンバーはインターナショナルに活動してきた室内楽の海千山千の4人。ザッと紹介すると、
第1ヴァイオリンのフェデリコ・アゴスティーニ Federico Agostini は、イ・ムジチのリーダーを務めていた方。師は彼のサルヴァトーレ・アッカルドで、現在はアメリカのインディアナ州で教鞭をとられています。
第2ヴァイオリンは川崎洋介。日本人ながら生まれも育ちもニューヨーク。ジュリアードでディレイに師事し、室内楽の他にソリストとしても活躍中。日本では日本センチュリー響の客演コンサートマスターを務めていたこともあるようです。
ヴィオラのジェームス・クライツ James Creitz はイェール大学出身のアメリカ人。アカデミカ・クァルテットのメンバーとして活動し、現在はドイツのトロッシンゲンで若手の指導に当たっている方。古今の名手たちとの共演も多数。
チェロは我が原田禎夫。説明の必要もありませんが、東京クァルテットの初代チェリストです。1999年に同団を退団した後、フリーとして様々な場面で活躍。日本を含め、世界各地で後進の指導に当たっています。
以上の4人が2004年に結成したのが、アミーチQ The d’Amici String Quartet 。世代もキャリアも全く異なる4人が組んだ理由は、恐らくその団体名に象徴されていると思われます。
彼らのホームページは下記。但し、トップ・ページの写真はかなり以前のもので、初めて接した4人は尚一層の貫録を加えていたことを報告しておきましょう。
第一印象は、実に良く歌うクァルテット。ファーストがイタリア人だから、と言うわけでもないでしょうが、冒頭作品19の主旋律からして伸びやかな歌わせ方が耳を捉えます。そして、実に巧い。
もちろんそれだけではなく、音楽のツボを巧みに捉えていく。4人が一つの作品を、恰も一人が演奏しているかの如く呼吸を揃えて演奏していくのでした。若手の団体で目立つ個々の個性の主張は何処までも控え目に抑えられ、流石にヴェテランの味、と感じました。
特に見事だったのは作品135。ベートーヴェンが最後に到達した進境が、まるでジグソー・パズルの個々の断片が完璧に収まるように、あるべき場所にスッポリと嵌っていく。その心地良さ。
第3楽章の深い感動表現は、アミーチ全体が大きく息をしているよう。種明かしをすれば、チェロの原田が放つ鼻息がサルビアホールの自然な音響、眼前の演奏のお蔭で客席に直に伝わってくるからでした。
彼らの「若いクァルテットの持つような自主性、新鮮さ、喜びを持ち続けること」という信条は、メインのラズモフスキー第3番、特にフィナーレの眼が眩むようなスピードの中に的確に表れていると感じました。何とも新鮮なスリル。
改めてベートーヴェンの凄さを思い知らされましたね。
この日も中々拍手は鳴り止まず、(予定外の?)アンコールがありました。“こんばんは。ベートーヴェン、じゃなくモーツァルト”と川崎氏がコメントし、ハイドン・セットの第3番K428から第2楽章 Andante con moto がタップリと表情豊かに演奏されました。
演奏会が終わって間もなく、かなり大きな地震があったようですが、鶴見に向かって歩いていたためか全く気が付きませんでした。翌朝のニュースで知った次第。
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