2012皐月賞馬のプロフィール

今回は先週末の皐月賞を制したゴールドシップの血統を検証して行きましょう。

レース後、中継していたテレビの司会者が“ステイゴールドにメジロマックィーンの牝馬という配合はオルフェーブルと同じです” と紹介していましたが、全くその通り、珍しい形での連覇となりました。
父馬と母父の配合は同じでも、ファミリーは全く別。その辺りを詳しく見ていきましょう。

ゴールドシップの牝系を探っていて先ず気が付くのは、これが日本の「古牝系」(こひんけい)であること。血統に興味を持たれる方は既にご存知でしょうが、日本ダービー(東京優駿)は日本の古い牝系が活躍する事例が多く見られます。
「古牝系」とは私が勝手に名付けている概念ですが、特段の定義はありません。敢えて言えば、基礎となる母馬が戦前に日本に輸入されていること、戦後の輸入であっても少なくとも5代は世代を経ている血統とでもしておきましょうか。

今年の皐月賞馬の牝系を遡ると、8代母にこのどちらにも当て嵌まるフェアリー・メドン Fairy Maiden が登場します。今回のプロフィールは、この基礎牝馬から降る形で進めていくことにしました。

さてフェアリー・メドン(父・ノーム Gnome)は1924年生まれのアメリカ産馬、83戦21勝の成績を残して1931年(7歳の時)に日本に輸入されます。日本での繁殖名を「星旗」と変更して。
星旗と言えばダービー馬クモハタの母として名を遺していますね。星旗→クモハタを直ぐに連想できる人は、相当な競馬通。
ここでチョッと脱線し、クモハタのダービー制覇を伝える英国の記事を紹介しましょう。手元にある The Bloodstock Breeders’ Review の1939年版。

「第8回日本ダービーが5月28日に東京競馬場の1マイル半のコースで行われた。20頭が出走し、1番人気は去年のダービー馬(*)を出したプライオリー・パーク Priory Park の仔エックスパーク。エックスパークは4着。勝馬はクモハタ、父はトゥルヌソル Tournesol 、母は星旗 Hoshihata という血統の栗毛馬。星旗はアメリカ産で、フェアリー・メドン Fairy Maiden の名で知られていた馬。父はノーム Gnome (父・フィスク・グルーム Whisk Groom Ⅱ)、母はタスカン・メドン Tuscan Maiden 、母の父はメドン・イーリー Maiden Erlegh という血統。クモハタは接戦の末、リッチモンド(父レイモンド Raymond)を1馬身差で破った。ゴールデンモア(父シアン・モア Shian Mor)が頭差で3着。勝馬の獲得賞金は 26,180円、2着は 9,200円、3着が 5,400円で、4・5着にも賞金が付与されている」
(*)スゲヌマ(訳者注)
因みに、この年のダービーは重馬場でした。

さてクモハタを出してクラシック馬の母になった星旗は、クモハタに先立って1932年に所謂持ち込み馬を産みます(父キャンプファイア Campfire)。クレオパトラトマスと命名され、帝室御賞典など28戦16勝で繁殖入り。繁殖名を「月城」に変えました。
このように競走名と繁殖名を変えるのは当時の我が国競馬サークルの習慣だったようで、一部海外の資料に混乱をもたらす原因ともなっているようです。
この月城こそが、ゴールドシップの7代母。

月城は種牡馬として成功したトシシロ(1940年、父ダイオライト Diolite。競走成績はありません)を出しましたが、後世に血を伝えた主な娘は6頭。面倒でも生年順に列記しておきましょう。
①嶋城 1939年 父ダイオライト
②峰城 1942年 父トゥルヌソル
③豊城 1943年 父ダイオライト
④昇城 1944年 父ダイオライト
⑤梅城 1945年 父ダイオライト
⑥城猛 1949年 父レイモンド

この中で特記すべきは④昇城で、彼女の産駒ハクチカラはダービー、天皇賞、有馬記念を制した強豪。渡米してワシントン・バースデー・ハンデに勝って日本馬として海外の重賞を制した最初の馬としてその名を留めています。

しかしここでの主役は、⑤梅城。彼女も現役競走馬時代は別の名前で走っており、成績書には「ハマカゼ」で登録されています。ハマカゼは桜花賞に勝ったレッキとしたクラシックホース。菊花賞にも挑戦して2着でしたし、3000メートルの京都記念も制したステイヤーでした。
この梅城から子孫を繋いだ牝馬は8頭。その4番目の娘に当たる風玲(1959年、青毛、父ライジング・フレーム Rising Flame)がゴールドシップの直接の牝系になります。

風玲は、私の世代の競馬ファンには懐かしい名前でしょう。自身に競走実績はありませんが、繁殖入りして最初に生まれたスイートフラッグ(1964年、父ダイ・ハード Die Hard)が京王盃オータム・ハンデ、オールカマー、牝馬東京タイムス杯、金盃と四つの重賞に勝ち、競馬ファンの記憶に残ることになったのです。
風玲はその後競走馬としての活躍馬には恵まれませんでしたが、スイートフラッグを含めてやはり8頭が繁殖牝馬として今日に血を伝えます。
彼女の産駒から重賞勝馬は出ませんでしたが、特別競走に勝った馬として陣馬特別(2300メートル)に勝ったカズマサオー(1967年、父セダン Sedan)、桜草特別(1600メートル)、五稜郭特別(2000メートル)、鹿島特別(2300メートル)と3勝したサリュウホマレ(1973年、父セダン)を挙げておきましょう。特にサリュウホマレが制した鹿島特別は、中山の不良馬場であったことを記憶しておいても良いでしょうね。

ゴールドシップの4代母となる風玲の5番目の娘アイアンルビー(1972年、青毛、父ラークスパー Larkspur)には現役競走馬としての記録は見当たらず、恐らく未出走だったのでしょう。父はネヴァー・セイ・ダイ Never Say Die 産駒のラークスパーですから、スイートフラッグとは4分の3姉妹となります。
競走成績の無いまま繁殖に上がったアイアンルビーが残した牝馬もまた8頭。その最初の娘トクノエイティー(1978年、黒鹿毛、父トライバル・チーフ Tribal Chief)は7戦2勝の成績を残し、2歳時に寒菊賞(中山1200メートル)に勝ってステークス・ウイナーとなります。

そのトクノエイティーの産駒から出た現在までの活躍馬を列記すると、
1984年の娘ダイヤモンドレイ(父ピットカーン Pitcairn)からはキオイスマート(せん、父サンキリコ Sanquirico)とマイダイヤモンド(1991年、牝、父シービークロス)が特別勝馬になっています。前者は勝浦特別(1600メートル)、大雪ハンデ(1800メートル)、中山ヤングジョッキー・ステークス(1600メートル)に勝った中距離タイプ、後者は鈴鹿特別(1200メートル)を制した短距離タイプ。
1988年生まれのアイネスガンマ(せん、父ターゴワイス Targowice)は新潟の金北山特別(2000メートル)に2度勝った他に同じ新潟で粟島特別(1400メートル)に勝ち、
1990年生まれのスーパータマモ(牝、父タマモクロス)は阪神で蓬莱峡特別(1600メートル)に勝った後、サファイア・ステークス(GⅢ、2000メートル)で3着に入り、重賞入着馬となります。
そして1987生まれのパストラリズムこそが、ゴールドシップの2代母に当たります。

パストラリズムは19戦2勝。4歳時に函館の1000メートル戦に連勝しただけで目立った成績は無く、繁殖に上がります。
その繁殖成績も現在までのところ目を惹くようなものはありませんが、一応調べが付いた記録を紹介しておきましょう。
1994年 パストラジェネシス 芦毛 牡 父シャルード Sharood 22戦未勝利
1995年 スイープザレース 栗毛 牡 父クリエイター Creator 53戦2勝
1996年 パストラルジョイ 黒鹿毛 牝 父タマモクロス 36戦2勝 2頭の勝馬の母(産駒はアールフリーク、モエレパストラル)
1997年 タフネスヤマト 鹿毛 牡 父キャロル・ハウス Caroll House 9戦未勝利
1998年 ポイントフラッグ 芦毛 牝 父メジロマックィーン 15戦1勝
2000年 パストラルウイナー 黒鹿毛 牡 父ニホンピロウイナー 9戦未勝利
2003年 ファイトカンガルー 黒鹿毛 牡 ビワタケヒデ 34戦4勝

お判りのように、メジロマックィーンとの配合で生まれたポイントフラッグがゴールドシップの母。同馬の芦毛はステイヤーであるメジロマックィーンから来たことは間違いないでしょう。
おっと、母は1勝馬ですが、テイエムオーシャンが勝ったチューリップ賞(GⅢ)で2着に来たことを忘れてはいけませんね。
最後に現在までのポイントフラッグの繁殖成績を掲げておきましょう。
2004年 ハニーフラッグ 芦毛 牝 父フジキセキ 15戦2勝
2005年 ポイントゴールド 芦毛 牡 父ゴールドアリュール 2戦未勝利
2006年 カントリーフラッグ 栗毛 牡 父ティンバー・カントリー Tomber Country 4戦未勝利
2007年 ミラクルフラッグ 栗毛 牝 父スパイキュール 19戦1勝
2009年 ゴールドシップ 芦毛 牡 父ステイゴールド 現在まで6戦4勝(コスモス賞、共同通信杯GⅢ、皐月賞GⅠ) 

なお、この後ポイントフラッグは2010年にフジキセキ、2011年には再びステイゴールドを配合し、今年もステイゴールドを予定しているとのことです。

以上、直近には目立った活躍馬はいないものの、かつてはクモハタ、ハマカゼ、ハクチカラ、スイートフラッグなどの活躍馬を出した「古牝系」であることを繰り返しておきましょう。
ファミリー・ナンバーは16-h 。桜花賞、ダービーはあるものの、皐月賞はゴールドシップが初制覇となる牝系です。

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1件の返信

  1. まとめteみた.【2012皐月賞馬のプロフィール】

    今回は先週末の皐月賞を制したゴールドシップの血統を検証して行きましょう。レース後、中継していたテう配合はオルフェーブルと同じです”と紹介していましたが、全くその通り、珍…

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