オブライエン師のクラシック・ダブル

日曜日、ニューマーケット競馬場で今シーズンのクラシック第2弾が行われました。第199回1000ギニー 1000 Guineas S (GⅠ、3歳牝、1マイル)。ニューマーケットは昨日も雨で、馬場状態は good to soft 、発表以上に力が要求される馬場のように見えます。

出走頭数は前日の2000ギニーと同じ18頭でしたが、14番枠のグレイ・パール Grey Pearl がゲート内で暴れて転倒、ゲートの下に倒れて閉じ込められてしまうアクシデント。救出活動が行われましたが同馬は発走除外、後に安楽死処置が採られるという悲しい結末になってしまいました。
13対8の1番人気は、2000ギニー馬キャメロット Camelot と同じエイダン/ジョセフのオブライエン父子が組むメイビー Maybe 。5戦無敗のガリレオ Galileo 産駒ですが、去年の8月以来の休養明けというローテーションに不安が残ります。13対2の2番人気は、アンプルーダンス賞を制してフランス(ルジェ厩舎)から遠征してきたマシューラ Mashoora と、フレッド・ダーリングに勝ち、追加登録料を払って参戦してきたムーンストーン・マジック Moonstone Magic が並んでいました。

出走馬の多くがゲートインを済ませた後でのアクシデント、一旦ゲートを出てからのスタートやり直しで影響が無かったとは言えないでしょう。結局は30分遅れの発馬となりました。
二度目のゲートインで最後にゲートに入った2番枠のホームカミング・クィーン Homecoming Queen が好スタート、直ぐに先手を奪って先頭。前日のクラシックとは異なり、馬群は17頭が一団のまま馬場の中央を通って進みます。

25対1と人気の無かった(8番人気辺りでしょうか)ホームカミング・クィーンは、ライアン・ムーア騎乗とは言え、誰もが同厩の本命メイビーのペースメーカーと思われていた存在。有力馬の多くもそう考えていたのか、逃げ馬を積極的に潰しに行く馬は見当たりません。
あれよあれよ、という間にレースは最後の上り坂。ホームカミング・クィーンのリードは縮まるどころか増々開く一方。流石に最後は疲れて外ラチ(スタンドから遠い側)に向かって寄れて行きましたが、漸く後続馬群から伸びてきたスタースコープ Starscope に何と9馬身の大差を付けていました。絶好の手応えで好位に付けていたメイビーも懸命に追い上げたものの、1馬身差の3着まで。
2着のスタースコープは33対1、以下4着のザ・フューグ The Fugue が22対1、5着ラ・コリーナ La Collina も25対1と、人気馬はメイビーを除いて総崩れの結果となってしまいました。

着差の9馬身というのは、1000ギニー史上2番目の大差だった由。因みに最大の着差は1859年のマヨネーズ Mayonaise が付けた20馬身だそうですが、実際に見た人は誰もいないという伝説の世界でしょう。
前日の2000ギニーをキャメロットで制したエイダン・オブライエン師は、1000ギニーも制してクラシック・ダブル達成。師にとってニューマーケットのクラシック・ダブルは2005年のフットステップスインザサンド Footstepsinthsand (2000ギニー)とヴァージニア・ウォーターズ Virginia Waters (1000ギニー)に続く二度目の偉業。オブライエン師以前にこのダブルを成し遂げたのは、1942年のフレッド・ダーリング調教師があるだけ。その時はビッグ・ゲーム Big Game (2G)とサン・チャリオット Sun Chariot (1G)ですから、これまた伝説の領域ですね。

ホームカミング・クィーンは、これが14戦目という出走馬中最もレース経験を積んだ馬。デビューは2歳の4月でしたが、初勝利を挙げたのは9月の8戦目(フェアリー・ハウス競馬場)でのこと。このあとパーク・ステークス(GⅢ)で2着、カラーのリステッド戦で2勝目を挙げて渡米、BCジュヴェナイル・フィリーズに挑みましたが14頭立てのどん尻に敗れました。これで2歳は終戦。
3歳初戦のパーク・エクスプレス・ステークス(GⅢ)は9着と奮わなかったものの、レパーズタウンの1000ギニー・トライアル(GⅢ、4月15日)でG戦初勝利。3歳時3戦目がクラシック挑戦でした。
オブライエン師によれば、ここ2週で急成長してきたとのこと。彼女に最も多く騎乗しているオダナヒュー(G戦初勝利も)騎手も彼女の能力を評価していますし、カラーのリステッド戦で一度騎乗したジョセフ・オブライエンも“メイビーの最大の脅威はホームカミング・クィーン”と考えていたそうな。単なるペースメーカー的存在ではなかったようです。

上記のように、エイダン・オブライエン調教師は1000ギニー2勝目、ライアン・ムーア騎手はこのレース初勝利となります。また勝時計は1分40秒45、キャメロットの勝タイム1分42秒46より2秒も速いもの。競馬は、特に英国競馬ではタイムは日本ほど大きな意味はありませんが、同じ馬場状態、同じコースでの比較は記憶しておいて良いかも知れません。
3着に終わったメイビー、調教師も騎手もシーズン初戦ということを考慮すれば結果には満足でしょう。この一叩きが馬を変えると思われます。

また、2着スタースコープと4着ザ・フューグは、共にジョン・ゴスデン師の管理馬。2頭共に未だレース経験に乏しい馬だけに、今後の成長が楽しみです。オブライエン師は1・3着、ゴスデン師が2・4着というのも興味深い結果ではありました。
その一方でゴドルフィンの2頭、共にスロール厩舎の期待馬でしたが、3番人気(8対1)のリリック・オブ・ライト Lyric Of Light はドン尻17着、4番人気(10対1)のディスコース Discourse がブービー16着と完敗だったのが対照的です。

ホームカミング・クィーンはオークスも射程内の血統。オークスのオッズも4対1から7対1の範囲に急上昇しています。

さてこの日はクラシックの前にダーリア・ステークス Dahlia S (GⅢ、4歳上牝、1マイル1ハロン)も行われました。7頭立て。GⅠ(フォルマス・ステークス)に勝っているセシル厩舎のタイムピース Timepeace が15対8の1番人気に支持されています。

レースはスタンド側のラチ沿いに7頭が一団の展開、プリムヴェア Primevere とロー・オブ・ザ・レンジ Law Of The Range がペースを作ります。
最後はこの2頭をマークして進んだイッツィ・トップ Izzi Top が抜け、先行するプリムヴェアと後方から追い込むキャプティヴェイタ― Captivator との叩き合いになりましたが、最も重い負担重量を背負った2番人気(3対1)イッツィ・トップがキャプティヴェイタ―に1馬身4分の1差を付けて優勝。更に半馬身差3着にプリムヴェアが粘りました。人気のタイムピースは4着と期待を裏切っています。

勝ったイッツィ・トップはジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗のコンビ。去年のオークス3着という実績もあり、昨シーズンの最後をフランスでのパターン・レース制覇(フロール賞、GⅢ)で終えています。これがシーズン・デビュー戦。
このGⅢ勝ちが3ポンドのペナルティーの原因ですが、ゴスデン師はこれが不満。ルール上、負担重量はレース期間のG勝ちが対象になりますが、1年前のGⅠ勝ちでもペナルティーにはならないのが疑問とのこと。それでも15年前はイッツィ・トップのような牝馬が出られるレースはほとんど無かったのが現実。近年の番組改革によって、能力のある古馬牝馬が現役に留まれるようになった現在を大いに評価することも忘れてはいません。

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1件の返信

  1. まとめtyaiました【オブライエン師のクラシック・ダブル】

    日曜日、ニューマーケット競馬場で今シーズンのクラシック第2弾が行われました。第199回1000ギニー 1000 Guineas S (GⅠ、3歳牝、1マイル)。ニューマーケットは昨日も雨で、馬…

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