二期会公演・仮面舞踏会

私は熱心なオペラファンじゃないので、歌劇を観に行くのは年に数回です。ミクシィ始めてから数えても、ランスへの旅、利口な女狐くらいでしょう。
ヴェルディの「仮面舞踏会」はナマ初体験です。二期会としても今回が初演なのだそうです。
もちろんトスカニーニやカラヤンのCDを持ってますし、メトロポリタンのレーザーも見てますよ。楽譜も随分昔に買って一応は眺めてます。だから知らないわけじゃない。

でもね、やっぱりオペラは舞台上演に接しないと本当のところは解りません、今回は特にそう思いました。
頭と耳の知識だけで接すると、仮面はチョッと納得の行かない部分があります。なぜレナートは主君のリッカルドを自らの手で刺すほどに怒ったのか。家内に言わせると、それでもリッカルドは不倫、許せないッ、て言うんですがね・・・。

今日の公演に接して理解できたのは、ストーリーに多少無理があっても、このオペラが現代まで生き残っているのは、やはりヴェルディの音楽が凄いからなんです。
例えば第1幕第1場最後の大合唱“おおイギリスの子よ”。これ、ほとんど国歌というか愛国歌です。
ヴェルディがこれを作曲していた当時、イタリアは独立戦争を戦っていて、彼の音楽はいやが上にもイタリア人の愛国心を煽ったんでしょうね。
レナートの怒りも、別の意味で聴く人の感情を高ぶらせます。筋立ては理不尽でも、音楽は有無を言わせない説得力がある。

最後の幕切れも凄いです。この浄化されるが如き音楽は、ほとんど神を称える賛歌。まるでフォーレのレクイエムを聴いているような感動。
ヴェルディ、本当に強い。

会場でお会いした知人は初日も聴いたそうですが、初日は肝心のタイトルロール(リッカルド)が本調子でなく、全体として歯車が今一つ噛み合わなかったそうです。
同じキャストによる二日目の今日は、その話が“エッ、ホントですか?”と問い質したくなるほど、ほぼ全員の出来が良かったと思います。

福井敬(リッカルド)はタイトルロールに相応しく声に張りが漲り、存在感のある舞台。もし初日不調が本当なら、その回復力は驚異、流石プロと言うべきか。
木下美穂子(アメーリア)の安定感は抜群、その高いレヴェルのプリマドンナは聴衆の心をガッチリ掴んで離しません。瞬時の緩みもなし。これだけのアメーリアは世界を見渡してもそうはいないのじゃないでしょうか。今回が初役とは思えない位、自分の役として取り込んでいました。
福島明也(レナート)は、主役二人に比べてやや大人しい感じもありましたが、これはこれで納得のいく歌唱と聴きましたね。
レナートという役は、やや年齢的に峠を越しつつある、と考えれば、それが不倫の因でもあり、レナートの怒りにも根拠があると思えてくるのでした。

主役以外も軒並み好演、押見朋子(ウルリカ)と大西ゆか(オスカル)は声も体躯も好対照。水夫シルヴァーノがイイ、と思いましたが、カーテンコールでも喝采が挙がっていましたね。佐藤泰弘。

演出(粟国淳)はオーソドックスで好感が持てました。緞帳を巧みに使って舞台に広がりを持たせていたのが目を引きます。

指揮(オンドレイ・レナルト)はいわゆるレパートリー上演を振るタイプで、特別に印象に残るような指揮ではないものの、ツボを心得た棒で全体を纏めていました。
オーケストラ(読売日響)は流石です。イングリッシュホルンやチェロのソロも聴かせましたし、刺手をくじ引きで決める場面の厚く、且つ濁らない轟音の迫力は圧巻でしたね。

ということで、極めてバランスの良い、私にとってはほぼ理想的な「仮面舞踏会」でした。
公演終了後の茶話会に参加。我らが名花・木下美穂子さんの後援会が発足する由で、その場で入会。
で、超多忙の木下さん、ここは疾風のように現れて、疾風のように去っていきました。それでも仮面に感動した我々は、暫しオペラ談義に花を咲かせていたのであります。

 

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