二期会公演「蝶々夫人」

平日の午後、久し振りにオペラを観てきました。聴いてきました、という方が正確かな。
海外オペラの来日公演などはチケットが高くて(行きたくとも)行けない年金生活の身、二期会のオペラ公演は真に有難い存在です。

今回は二期会名作オペラ祭とのことで、定番のプッチーニ「蝶々夫人」でした。私が聴いたのは二日目、木下バタフライの初日です。平日木曜日の午後2時開演とあって、客席の平均年齢はかなり高いのではないかと想像されました。私などヒヨッコ状態。
主なキャストは以下の方々。

蝶々夫人/木下美穂子
スズキ/小林由佳
ケート/谷原めぐみ
ピンカートン/樋口達哉
シャープレス/泉良平
ゴロー/栗原剛
ヤマドリ/鹿野由之
ボンゾ/佐藤泰弘
神官/渥美史生
その他
 指揮/ダニエーレ・ルスティオーニ
 管弦楽/東京都交響楽団
 合唱/二期会合唱団
 演出/栗山昌良

今年の正月ネタにも書きましたが、今年は三浦環の生誕130年に当たります。最初はその記念という意味合いもあるのかなと思っていましたが、プログラムには一切指摘は無く、三浦繋がりではなかったようです。
繋がりという点で見れば、今回は全くの偶然でしょうが、アメリカの大統領が国賓として来日中。中日の昨日は訪日のクライマックスで、これには苦笑してしまいました。オペラ通ならご存知でしょうが、太平洋戦争中は「蝶々夫人」はアメリカでは上演禁止になっていましたからね。誰が見たって、このストーリーはアメリカにとって都合が悪いでしょ。もちろんプッチーニには何の責任もありません。

演出は今回も88歳になられる栗山昌良。二期会の、というより日本が誇る舞台で、私は確か3度目の体験です。プログラムには栗山氏の二期会オペラ演出史なる資料も掲載されていますが、それによれば2003年9月、2006年7月に次ぐもの。もちろん二期会としてはもっと多く舞台に掛けていて、以上は私のナマ体験だけ。その他にも新宿文化会館での特別公演(2004年だったか?、広上淳一指揮)も見ているはず。
2006年の舞台もタイトル・ロールは木下美穂子で、そのときの感想も何処かに書いた記憶がありますが、当ブログ開設以前のこと。記事は探しても見当たりませんでした。ただこの時の公演はNHKが全編収録していて、それが放映された時の感想が残っています。初期の日記をご覧ください。

オペラに出掛ける時はどうしても演出が気になります。オペラの音楽としての全容は承知していても、演出によって別の視点が見えてくることが多いもの。オペラの常連でない私は、どうしても最初は演出に目が行ってしまうのです。
ということもあり、今回は演出に目と耳を奪われる心配はありません(もちろん自分にとって新しくは無いという意味で、演出そのものの素晴らしさは変わりませんヨ)。音楽だけに集中して聴くことが出来ました。

昨日の好演も真に安定したもの。安心して観ることができ、木下以下の歌唱も堂々たる風格さえ感じさせてくれました。
加えて指揮者が素晴らしい。ルスティオーニという人は初めて聴きましたが、1983年生まれの若手。2010年にあのスカラ座でもデビュー、2011年にはコヴェント・ガーデンにも初登場した由。その11年にはトスカーナ管弦楽団の首席客演指揮者に就任したということですから、オペラだけという指揮者ではないようです。今度はシンフォニーも聴いてみたい人。

この一公演だけで評価するのは乱暴ですが、大きな振り方にしては出てくる音楽が繊細で、決して歌唱を邪魔するような所がありません。それでいてオケのみの聴かせどころでは極めて雄弁。スコアの読みも中々に深いと感心しました。
客席への応接やカーテンコールの姿を見ていると、かなり根明な性質なようで、実態は判りませんが、チームを引っ張っていくカリスマ性もありそう。今回が日本でのオペラ・デビューですが、繰り返し招聘して欲しい指揮者だと思いました。

改めてプッチーニのオーケストレーションに集中して聴き通しましたが、時折ワーグナーを連想させる響きがあったり、特に打楽器の効果的な使用法に関心。プッチーニというとどうしても歌にのみ関心が止まり勝ちですが、今回はこの指揮者故でしょうか、天才オペラ作曲家の管弦楽法をジックリ味わってみたいと気が付いた次第です。
歌劇全体に張り巡らされている伏線の多様さも相当なもの。刀、駒鳥、桜などの小道具にもそれぞれ意味が含まれていることにも注目しましょう。これは時期的には4月、正に今が舞台のオペラなんですね。

栗山演出の見事さ、日本的な表現の細やかさも相変わらずで、特に今回は3幕冒頭の夜明けの場面、その朝焼けの照明の美しさに感動しました。
木下バタフライは更に円熟味を増したようだし、樋口ピンカートンも最後はブーを叫びたいほど役に嵌っていました。歌唱・演技が良ければ良いほど、カーテンコールではピンカートンに「ブー」を飛ばしたくなるところがこのオペラの特徴です、よネ。オバマさんが見たらどんな感想を持つでしょうか。

もしこの演出を初めて体験される方が居たら、ハンカチ数枚を持参すること。昨日も彼方此方で啜り泣きが聞こえていました。ただ平均年齢が高かったせいか、客席の反応はもっと盛り上がっても良かったように感じます。
恐らく二日目、土曜日の客席は大変な騒ぎになるのじゃないでしょうか。

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