2012クラシック馬のプロフィール(3)
今回と次回はフランスのギニーを制した2頭を取り上げます。最初は仏1000ギニーに勝ったビューティー・パーラー Beauty Parlour から。
日本でもすっかり有名になってしまいましたが、ビューティー・パーラーは父ディープインパクト(Deep Impact)、母バステット Bastet 、母の父ジャイアンツ・コーズウェイ Giant’s Causeway という血統。日本産種牡馬ディープインパクトに最初の海外GⅠ制覇をもたらした馬です。
ここでは牝系の考察がテーマですが、最初に父ディープのことにも触れておきましょう。と言っても、この名馬については既に詳細が語り尽くされています。ここはやや視点を変えて。
ビューティー・パーラーは、ディープインパクトにとって3頭目のステークス勝馬ですね。その最初はビューティー・パーラーの全兄にあたるバロッチ Barocci 。ディープの初年度産駒で、メゾン=ラフィットのオムニアム賞(リステッド、1600メートル)に勝ちました。
第2はやはり初年度産駒のアクアマリン Aquamarine 。既に当競馬ブログでも紹介したように、今年のアレ・フランス賞(GⅢ)に勝っています。そしてビューティー・パーラー。彼女はクラシックを制覇する前にグロット賞(GⅢ)にも勝っていますから、ディープのG勝馬は2頭、現在まで3勝ということになります。
2年間での実績ですが、ディープ産駒の主体が日本で走っていることを考えれば、これは驚異的な数字と言えましょう。ビューティー・パーラーのクラシック制覇によって、ディープの血が今後は更に海外でも求められていくことになるのは間違いありません。
日本を含めてディープの2年間を見渡すと、ビューティー・パーラーは5頭目のGⅠ勝馬となります。改めて記すまでもなく、マルセリーナ(桜花賞)、リアルインパクト(安田記念)、ジョワドヴィーヴル(阪神ジュヴェナイルフィリーズ)、そしてジェンティルドンナ(桜花賞)。
未だGⅠを複数制した馬はいませんが、GⅡ以下の勝馬を見れば枚挙に暇がないことは皆さんご承知の通り。
不思議なことは、これまでのGⅠが全てマイル戦であること。ディープ自身は1マイル戦を経験したことが無く、全て2000メートル以上のレースで圧倒的な優位を誇示してきました。それを考えると、意外な感じがしないでもありません。
もちろん現時点の結果が偶々そうなっているだけであって、ディープ産駒はスタミナに疑問あり、ということにはならないでしょう。とは言っても、モンジュー Montjeu とは逆のパターンで、そろそろ2000メートル以上のGⅠ勝ちが出ないと、あらぬ疑いを掛けられないでもありますまい。今年の優駿牝馬、東京優駿、仏オークスなどはその視点から見るのも一興と思われます。
さて本題の牝系に移りましょう。最初にお断りしておきますが、今年の仏ギニー馬2頭はレースホース2011に記載が無く、ファミリーの細部にまで調査が及びません。更にビューティー・パーラーの直近は豪州で活躍している牝系ですので、完全に網羅できていない恨みがあります。
ということで母バステット(2002年、鹿毛)は13戦2勝。エキュリー・ウイルデンシュタイン(詳しくは仏ギニー・レポート)が所有し、ウイルデンシュタイン家が所有している英国のデイトン・インヴェストメンツ Dayton Investments で繁殖生活を送っている牝馬です。
現役時代は2000メートルの未勝利戦と、4歳時にサン=クルーのリステッド戦(ペピニエール賞、2100メートル)に優勝。ビューティー・パーラーと同じエリック・ルルーシュ厩舎で、リステッド戦はパスキエが騎乗していました。今年アクアマリンが勝ったアレ・フランス賞は2着という実績もあります。
繁殖に上がったバステットの初産駒が、上記バロッチ。ディープインパクトを配合の相手に選んだのは、当時のエキュリー・ウイルデンシュタイン総裁のアレック・ウイルデンシュタインであることも先日紹介しましたっけ。
バロッチは仏2000ギニーにも出走しましたが、利あらず6着。去年最後の実戦となったプランス・ドランジュ賞(GⅢ、ロンシャン、2000メートル)では2着でした。通算7戦1勝と思われますが、現況は入っていません。
バステットの2年目の産駒がビューティー・パーラー。因みにこの後はザミンダー Zamindar の牡馬(ブークリエ Bouclier と名付けられた由)、パントル・セレブレ Peintre Celebre の娘(ブラ―ニー・ストーン Blarney Stone と命名)が続きます。
2代母はベネディクション Benediction (1985年、鹿毛、父デイ・イズ・ダン Day Is Done)は17戦1勝。アイルランド産馬で、唯一の勝利はアイルランドのスリゴ競馬場の7ハロン戦であげたもの。パターン・レースに走った経験はありません。競走馬として名前の残る存在ではありませんでした。
しかしベネディクションは繁殖牝馬として競馬史に記録される成績を残します。バステットの他は豪州(オーストラリア/ニュージーランド)での成績ですから、余り詳しいことは判りませんのでご容赦。
何と言っても1993年生まれのマイト・アンド・パワー Might and Power (黒鹿毛、せん馬、父ザビール Zabeel)に注目。この馬がメルボルン・カップとコーフィールド・カップという豪州最大のレースを連覇します。
更に1996年生まれのマター・オブ・オナー Matter of Honour (鹿毛、せん馬、父カジュアル・ライズ Casual Lies)も1400メートルのGⅢに優勝。その他彼女の産駒はほとんどが粒揃いで、1998年と1999年にはニュージーランドのブルードメア・オブ・ザ・イヤーに選ばれる快挙を成し遂げました。
ベネディクションのファミリーは現在でも活躍が続き、彼女の1991年生まれの娘ミス・プライオリティー Miss Priority (鹿毛、父カープスタッド Kaapstad)は、香港マイル(1600メートル)と香港ダービー(2000メートル)のGⅠに2勝したラッキー・オウナーズ Lucky Owners (1999年、鹿毛、父デインヒル Danehill、14戦8勝)の母となり、
更に娘スメーラ Sumehra (2002年、鹿毛、父ストラヴィンスキー Stravinsky)の牝馬・モシーン Mosheen (2008年、鹿毛、父ファスネット・ロック Fastnet Rock)が去年、オーストラリア・ギニー(1600メートル)、ランドック・ギニー(1600メートル)、VRCオークス(2500メートル)などGⅠに4勝してクラシック馬とタイトルを獲得しているのですね。
3代母キャシードラ Cathedra (1976年、鹿毛、父ソー・ブレスド So Blessed)は未勝利馬で、繁殖成績も決して一流のものとは言えませんが、それでもノルウェーで勝馬となったミス・トゥーコ Miss Tuko (1983年、牝馬、父グッド・タイムス Good Times)、2歳時にパーク・ステークス(GⅢ)を制したタントゥム・エルゴ Tantum Ergo (黒鹿毛、牝馬、父ターフィリオン Tarfilion)、イタリアで9勝したスミット Smit (2001年、鹿毛、牡馬、父ダンゼロ Danzero)などを出しました。
更に遡れば、4代母コリリア Collyria (1956年)はパーク・ヒル・ステークスの勝馬でオークス4着。5代母アイウォッシュ Eyewash もランカシャー・オークス馬。
6代母オール・ムーンシャイン All Moonshine の競走歴はパッとしないものの、名馬モスボロー Mossborough の母であり、その母セレーヌ Selene はチーヴリー・パーク、クィーン・マリー、ナッソー、フォルマス、パーク・ヒルなど現在のパターン・レースにいくつも勝っただけでなく、彼の名馬ハイペリオン Hyperion を産んだ天下の名牝。
以上、ビューティー・パーラーの牝系は英国の至宝から出で、ヨーロッパはもちろん豪州、アジアにも繁栄の枝葉を伸ばしつつある血脈と評することが出来るでしょう。
父系、母系、どちらから見てもビューティー・パーラーがスタミナ不足でオークスに負けるとは考えられません。問題は相手関係と思慮します。
ファミリー・ナンバーは、6-e 。
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