ディープ産駒、フランスで戴冠

既に日本のスポーツ各誌でも報道されているように、ディープインパクト産駒がフランスのクラシックを制覇しました。最早速報性はないので、当ブログではレース内容なども含めてジックリと紹介して行きましょう。
昨日はフランスとアイルランドでパターン・レースが行われましたが、やはりここはフランスのクラシックから始めます。

日曜日のロンシャン競馬場は good to soft 、やや重い状態は続いていますが、一時ほどの過酷な馬場からは解放されたようです。この日のG戦は4鞍でしたが、順序を変えてクラシックからスタート。

最初に仏1000ギニーと呼ばれるプール・デッセ・デ・プーリッシュ Poule d’Essais des Pouliches (GⅠ、3歳牝、1600メートル)。枠順が発表された時点でレポートしたように、当初は14頭が登録。当日2番枠のリリー・アメリカ Lily America が取り消して13頭立てで行われました。
既に結末が報道されているように、ディープインパクト Deep Impact 産駒のビューティー・パーラー Beauty Parlour が見事に1番人気(7対10)に応えて優勝、無敗記録を「4」に伸ばしました。次走に予定されている仏オークス(ディアーヌ賞)で無傷の二冠達成を目指します。

トライアルのグロット賞(GⅢ)を圧勝した時点でビューティー・パーラーの人気は揺るがず、レースは相手探しの様相を呈していました。既に対戦した馬には勝ち目が無く、2番人気は上がり馬でG戦初挑戦のプティット・ノーブレス Petite Noblesse が7対1。アイルランドからはオブライエン厩舎が2頭、ワッチマン厩舎が1頭挑戦。イギリスからミック・シャノン厩舎が送り込んだ去年のフィリーズ・マイル(GⅠ)2着馬のサミター Samitar が3番人気(10対1)という状況です。
レース前半はそのサミターが逃げ、3ハロンを経過した所でビューティー・パーラーのペースメーカーを務めるレガッタ Regatta が先頭を奪う展開。ロンシャンの1マイルは小回り、枠順による有利不利が歴然としているということもあり、前半を中団で待機していた7番枠スタートのビューティー・パーラーに騎乗するクリストフ・スミオンは、予定より早目に仕掛け、残り300メートルで先頭に立ちます。
結果的にはこれが奏功、最後は最後方から追い込むオブライエン厩舎のアップ Up (33対1の伏兵)を1馬身抑えて優勝。仕掛けが遅れればもっと際どい勝負になっていたでしょう。1馬身4分の3差3着も後方急襲のトピカ Topeka 。4着にオブライエン厩舎の副将格アフター After が半馬身差で続き、5着もアイルランド(ワッチマン厩舎)のファイア・リリー Fire Lily の順。2番人気のプティット・ノーブレスは8着、3番人気サミターが9着。

2着惜敗のクールモア陣営を代表してジョン・マニエー氏がビューティー・パーラー陣営に祝意を述べると、デヴィッド・ウイルデンシュタインは“ヒヤヒヤものでしたよ” と応酬する一幕も。不利な大外14番枠スタートを克服して優勝にあと一歩まで迫ったアップは、馬の能力もさることながら、騎乗したジョセフ・オブライエンにも改めて高い評価が寄せられています。
更にマニエー氏は、エキュリー・ウイルデンシュタイン(勝馬の馬主で法人組織、エキュリーは「厩舎」という意味)を牽引してきた故アレック・ウイルデンシュタインが、ディープを求めて母を極東に送った英断も讃えています。アレックが亡くなったのは2008年の初め、この時点でバステット Bastet (勝馬の母)にディープを配合させる決断を下していました。故アレックがビューティー・パーラーの勝利を自分の眼で確認することが出来なかったのは残念ですが、改めて氏の慧眼に驚かされますね。
クールモアがディープインパクトに高い評価を与えているのも、我々には嬉しいこと。この勝利を切っ掛けにディープに、そして日本産馬に世界が注目することは間違いないでしょう。

ビューティー・パーラーを管理するエリック・ルルーシュ師にとって、仏1000ギニーは1991年のダンスーズ・デュ・ソワ Danseuse Du Soir 以来2勝目。
アップに迫られ、勝馬にとってこれまでで最もキツいレースだったことを認めたクリストフ・スミオンは、2003年のミュージカル・チャイムス Musical Chimes 、2007年のダージナ Darjina 、そして2008年ザルカヴァ Zarkava に次ぐ4度目の仏1000ギニー。去年エキュリー・ウイルデンシュタインとの主戦騎手契約を交わしてから最初のクラシック制覇でもありました。

ところでエキュリー・ウイルデンシュタイン総裁だったアレック・ウイルデンシュタインは、高名な画商であり競走馬の馬主でもあった故ダニエル・ウイルデンシュタイン(2001年没)の息子。現オーナーの祖父ダニエルは名牝アレ・フランス Allez France を所有していましたが、仏1000ギニーはそのアレ・フランス(1973年)、1977年のマデリア Madelia 、1991年のダンスーズ・デュ・ソワ(前出)で3度制覇。今回がウイルデンシュタイン家としては4度目の勝利でもあります。
最近のフランス牝馬クラシックでは仏ギニー/仏オークス連覇が目立っており、ビューティー・パーラーにも2005年のディヴァイン・プロポーションズ Divine Propotions 、2008年のザルカヴァ、そして去年のゴールデン・ライラック Golden Lilac に続く快挙が期待されましょう。
陣営もロイヤル・アスコット(コロネーション・ステークス)への登録があるものの、地元に留まって仏オークスを目指す可能性が高いことを表明しています。

続いては仏2000ギニーに相当するプール・デッセ・デ・プーラーン Poule d’Essais des Poulaines (GⅠ、3歳牡、1600メートル)。英2000ギニーとは違って牝馬には出走権がありません。
そしてこちらも報道されているように、ハットトリック Hat Trick 産駒のダバーシム Dabirsim は1番人気(4対5)に支持されながら、不利があって6着に終わりました。
日本では伝えられていないようですが、結果は大波乱。しかもゴール入線直後に入着馬の1頭が骨折して騎手が落馬、馬は安楽死という悲劇も起きています。その辺りをレポートして行きましょう。

出走馬は当初登録の通り14頭。前走惜敗したものの2歳王者ダバーシムの切れ味はメンバー随一と評価、断然の1番人気でした。アイルランド(オブライエン厩舎)から2頭、イギリスからも3頭が挑戦して混戦の予感も。

レースはダバーシムのペースメーカーを務めるヴェネート Vaneto が予定通り先頭でペースを作りますが、ダバーシムはやや掛かり気味。仏1000ギニーを制したばかりスミオン騎手も馬を宥めるのに苦労している様子。
ゴール前では多くの馬が一斉に飛び込む大混戦。ダバーシムは残り2ハロンで前が塞がり行き場を失います。漸く開いた隙間を衝いて脚を伸ばしますが、再び前に馬が侵入して追えず、結局は6番手でゴール板を通過。
一応の着順は1着ルカイヤン Lucayan 、2着ヴェネート、3着ファーナーズ・グリーン Furner’s Green 、4着アマロン Amaron 、5着グレゴリアン Grogorian 。但し着差は順に、短首、短首、ハナ、短首、短首、4分の3馬身。7頭がほぼ1馬身以内に雪崩れ込む激戦でした。

しかもゴールを過ぎて直ぐ、3着入線のファーナーズ・グリーンが右前脚を骨折して転倒。騎乗していたジョセフ・オブライエンは激しくコースに叩き付けられましたが、名手には運も味方しているのでしょうか、奇跡的に無傷。馬は残念ながら安楽死という劇的な結末を迎えます。
当然ながら長い審議が行われました。落馬事故、進路妨害、馬同士の接触等々。しかし最終的には着順通りで確定、何とも言えぬどよめきがロンシャンを支配しました。
勝馬のオッズは27対1、2着はペースメーカーとして出走していた馬で何と92対1、不運な3着馬が漸く3番人気(15対2)で、4着は30対1、5着が61対1という大荒れ。2番人気(9対2)のドラゴン・パルス Dragon Pulse も9着と期待を裏切っています。
英国組も散々で、グレゴリアン(ジョン・ゴスデン)の5着が最高、英2000ギニー5着のクー・ド・ヴィル Coup de Ville (リチャード・ハノン)は7着、テルワー Telwaar (ピーター・チャップル=ハイアム)が11着。

勝ったルカンヤンは、フランソワ・ロホー厩舎、ステファン・パスキエ騎乗。師にとってもジョッキーにとっても仏2000ギニーは初制覇となります。陣営では仏ダービーには向かわず、ロイヤル・アスコット(セント・ジェームズ・パレス・ステークス)を目指す由。いずれ血統プロフィールで紹介する予定ですが、兄はスペインで長距離のGⅠ戦に勝っている馬。個人的には仏ダービーは充分射程内と思うのですが・・・。
一方人気を裏切ったダバーシム。明らかに二度の不利が敗因と思われますが、陣営では前半の掛かり具合から判断し、1マイルのスタミナが不足していると判断。今後は7ハロンを最長とする短距離路線にスイッチし、ジュライ・カップを目指す意向であることが発表されています。

クラシック・レースの報告に時間を割いてしまいました。ロンシャンの残り2レースは簡単に行きましょう。

先ずクラシックの前に行われたオカール賞 Prix Hocquart (GⅡ、3歳牡牝、2200メートル)は、1頭が取り消して6頭立て。前走同じコース、同じ距離に勝ったゴドルフィンの新星で、無敗(2戦2勝)のマスターストローク Masterstroke が4対5の1番人気に支持されていました。

ブービー人気(10対1)、チーム・オブライエンのアザンス Athens が逃げましたが、抜け出したのは最低人気(112対10)のトップ・トリップ Top Trip 、本命マスターストロークが半馬身差2着、首差3着はサー・ジェイド Sir Jade の順。
前半は最後方、直線も最後で通過したトップ・トリップは、前走サン=クルーのリステッド戦(同じ距離)でも後方追込みで2着した馬。今回がG戦初挑戦でした。フランソワ・ドゥーメン厩舎、トーマス・ユエット騎乗。

最後はクラシックの後で行われたサン=ジョルジュ賞 Prix Saint-Georges (GⅢ、3歳上、1000メートル)。11頭が出走し、1番人気(7対2)は3歳牝馬のザンテンダ Zantenda 。フレディー・ヘッド厩舎、オマール賞(GⅢ)勝馬でマルセル・ブーサック賞(GⅠ)3着の実績。クラシックを目指していましたが、前走グロット賞で惨敗し短距離に路線変更してきた馬。

そのザンテンダは中団から追い込みましたが6着と期待を裏切り、優勝は後ろから3番目の人気(187対10)だったビヨンド・ディザイア Beyond Desire の逃げ切り。一時2馬身あった差は短頭差まで詰められましたが、2番人気(9対2)ムシュー・ジョー Monsieur Joe の追い込みを凌ぎました。3着は1馬身で最低人気(29対1)のカラホラ Calahorra 。
ニューマーケットでロジャー・ヴァリアン師が調教するビヨンド・ディザイアは、前走バース競馬場の5ハロン戦を逃げ切ったばかり。去年の最終戦ではアベイ・ド・ロンシャン賞(ブービー)にも挑戦していました。騎手はジェイミー・スペンサー、英国スプリンターの優位を証明したレースでもあります。

ということで穴馬が活躍したロンシャンを離れ、次は同じく good to soft のアイルランドはレパーズタウン競馬場。こちらもG戦は3鞍と忙しいレポートです。

最初のアメジスト・ステークス Amethyst S (GⅢ、3歳上、1マイル)は至ってシンプル。5頭立ての断然1番人気(1対5)に支持されたフェイマス・ネイム Famous Name が、これまた確たる2番人気(11対2)のスイート・ライトニング Sweet Lightning を問題なく4馬身半破って圧勝。3着も同じく4馬身半差でバラック Barack 。
デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗のフェイマス・ネイムは、誰でも知っているレパーズタウン巧者の7歳馬。このコースは11勝目、GⅢは9勝目、アメジスト・ステークスは3連覇と付け入る隙はありません。コース11勝は新記録じゃないでしょうか。このあとは去年2着のトトソルズ・ゴールド・カップに向かうでしょう。

続いてデリンスタウン・スタッド・1000ギニー・トライアル Derringstown Stud 1000 Guineas Trial (GⅢ、3歳牝、1マイル)。10頭立て、ダンダルク競馬場の未勝利戦を18馬身の大差で圧勝したダントル Duntle が1番人気(4対1)に支持されましたが、実績上位の2番人気(13対2)イエロー・ローズバド Yellow Rosebud が貫録を見せ付けて快勝しています。
2着は1馬身でデヴォーション Devotion 、短頭差3着にコーラル・ウェイヴ Coral Wave 。本命ダントルは4着に終わりました。

中団から抜けて安定感を示したイエロー・ローズバドは、デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗。調教師、騎手ともパターン・レース・ダブル達成。
去年のデビュタント・ステークスでメイビー Maybe の2着、マルセル・ブーサック賞遠征でも4着と実績を残した同馬、2週間後のアイルランド1000ギニーに向かうのは当然でしょう。

最後はデリンスタウン・スタッド・ダービー・トライアル・ステークス Derringstown Stud Derby Trial S (GⅡ、3歳、1マイル2ハロン)。5頭立て。負けることはあり得ないと思われていたBCジュヴェナイルの覇者、オブライエン厩舎のロート Wrote が断然人気(8対13)に応えられず惨敗。番狂わせとなりました。

ロートはペースメーカーの助けを借りて万全に見えましたが、3番手追走も4コーナーで一杯。ズルズルと後退して2着から7馬身半も離された3着。クラシックに向けての立て直しは難しいかも知れません。
替って健闘したのはペースメーカーのタワー・ロック Tower Rock 、待てど暮らせど来ない本命馬を尻目に最後まで粘りましたが、結局は2番手を進んだ2番人気(15対8)のライト・へヴィー Light Heavy に首差捉えられました。

ライト・へヴィーはジム・ボルジャー厩舎、ケヴィン・マニング騎乗。ダービー・トライアルとは言ってもエプサムには向かわず、カラーの愛ダービーを目標するようです。
ボルジャー厩舎のエース、パリッシュ・ホール Parish Hall (去年のデューハースト勝馬)は愛2000ギニーに出走予定で、結果が良ければこの馬がエプサムに挑戦する由。強かなボルジャー師のこと、そのプランは脅威となりそう。

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