2012クラシック馬のプロフィール(10)
今回はアイルランド・オークスを本命で制したグレート・ヘヴンズ Great Heavens を取り上げます。今年のこのシリーズもあとはセントレジャーだけ。現時点での1・2番人気であるキャメロットと今回のグレート・ヘヴンズのどちらかが勝ってくれれば、今回が最終回となります。そう巧く行くかどうか・・・。
さてグレート・ヘヴンズは父ガリレオ Galileo 、母マグニフィシャント・スタイル Magnificient Style 、母の父シルヴァー・ホーク Silver Hawk という血統。
父については改めて紹介する必要もありますまいが、若干附則の意味で繰り返しておきましょう。
グレート・ヘヴンズは、ガリレオの7年目の産駒。去年までの実績では、ガリレオは英愛合同でのチャンピオン・サイアーに3度も君臨している名種牡馬。クラシックだけに限っても、既に2000ギニー馬フランケル Frankel 、愛ダービー馬トレジャー・ビーチ Treasure Beach 、愛2000ギニー馬ロデリック・オコンナー Roderic O’Connor 、愛1000ギニー馬ミスティー・フォー・ミー Misty For Me 、仏1000ギニーと仏オークスの2冠馬ゴールデン・ライラック Golden Lilac 、そして今年のオークス馬ウォズ Was 。以上6頭が7つのクラシックを制覇していました。
そしてグレート・ヘヴンズ、彼女がガリレオにとって7頭目のクラシック・ホースであり、8勝目の勝鞍となります。その他のGⅠについては枚挙に暇がありません。
ところでガリレオの父は彼のサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells 、長年ヨーロッパのチャンピオン種牡馬に君臨してきましたが、去年の引退と同時に死去しました。もちろんガリレオはその後継馬の1頭なのですが、これまでは比較的繁殖牝馬に恵まれなかったという事情があります。つまり、最高クラスの牝馬はほぼサドラーズ・ウェルズが独占していたのですね。
サドラーズ亡き今、ガリレオに回ってくる牝馬の質はこれまで以上に高くなることが期待されます。現時点でさえこれだけの成功を勝ち取っているガリレオ、今後数年以降の活躍は空恐ろしいものになるのではないか。それを予兆するのが、グレート・ヘヴンズの血統と言えるかもしれません。
ということでファミリーを見ていきましょう。
先ず母マグニフィシャント・スタイル(1993年、鹿毛)は11戦2勝。3歳でデビューした馬で、ヘンリー・セシル厩舎に所属してオークスのトライアルとなるミュジドラ・ステークス(GⅢ)に勝ちました。オークスには参戦せず、ロイヤル・アスコットのリブルスデール・ステークスが6着。これを最後にアメリカのムバラク厩舎に転厩します。残念ながらアメリカでは勝鞍に恵まれなかったようで、そのまま繁殖入り。母馬としての成績を以下に書き出してみましょう。
1999年 スタイルリスティック Stylelistick 黒鹿毛 牝 父ストーム・キャット Storm Cat 11戦4勝
2000年 エコーズ・イン・エターニティー Echoes in Eternity 鹿毛 牝 父スピニング・ワールド Spinning World 11戦4勝
2001年 パーカッショニスト Percussionist 鹿毛 せん 父サドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells 40戦11勝
2002年 プレイフル・アクト Playful Act 鹿毛 牝 父サドラーズ・ウェルズ 8戦4勝
2003年 ディスティンクティヴ・ルック Distinctive Look 鹿毛 牝 父デインヒル Danehill 7戦1勝
2004年 ペタラ・ベイ Petara Bay 鹿毛 牡 父パントル・セレブル Peintre Celebre 11戦2勝
2005年 チェンジング・スカイズ Changing Skies 鹿毛 牝 父サドラーズ・ウェルズ 18戦5勝
2007年 モントレー Monterey 鹿毛 牡 父モンジュー Montjeu 7戦2勝
2008年 ナサニエル Nathaniel 鹿毛 牡 父ガリレオ
2009年 グレート・ヘヴンズ
2006年だけは空胎のようですが、ほぼ毎年産駒を出し、全てが勝馬というところに注目してもらいたいと思います。グレート・ヘヴンズは、10頭目の産駒で10頭目の勝馬。
しかも名前を見ただけでお分かりのように、一つ上の全兄ナサニエルは、当ブログでも何度も登場しているGⅠ馬。3歳でキングジョージを制し、4歳の今年もエクリプスに勝ったのはついこの間のこと。2連覇を目指したキングジョージはハナ差惜敗でしたが、馬の強さは立派に証明されていますね。グレート・ヘヴンズがクラシックを制覇したのはその翌日。驚くべき母馬と言えるでしょう。
それだけじゃありませんよ。2002年生まれのプレイフル・アクトもまたGⅠ馬。もう忘れてしまった方もいるかもしれませんが、彼女は2歳時にフィリーズ・マイル(GⅠ)を制し、3歳になってもランカシャー・オークス(GⅡ)に勝ってから愛オークスで2着に入っています。そう、グレート・ヘヴンズと同じローテーションでクラシック馬になり損ねた姉。彼女もまたジョン・ゴスデン師の管理馬でした。
その他マグニフィシャント・スタイルの子供たちでは、2番目の娘エコーズ・イン・エターニティーがサン・チャリオット・ステークス(GⅡ)とパーク・ヒル・ステークス(GⅡ)の勝馬。
3番目のパーカッショニストはせん馬になりましたが、その前はリングフィールド・ダービー・トライアル(GⅢ)に勝ってダービーは4着。せん馬になってからヨークシャー・カップ(GⅡ)にも勝っています。
更に2005年生まれのチェンジング・スカイズはフランスのG戦(ドーヴィルのプシケ賞)で2着したあとアメリカに渡り、ザ・ヴェリー・ワン・ステークス(GⅢ、11ハロン)とラ・プレヴォアイヤント・ハンデ(GⅢ、12ハロン)に勝ったステイヤー。
10頭の勝馬はみな長距離戦で活躍しているのが特徴で、6頭が牝馬。彼女たちから長距離系の活躍馬が多数輩出されてくることが期待できるでしょう。
実際、エコーズ・イン・エターニティーの仔ホイスパリング・ギャラリー Whispering Gallery (2006年 鹿毛 せん 父デイラミ Daylami)は、英国でカンパーランド・ロッジ・ステークスで2着した後にドバイに渡り、3200メートルのGⅢに勝ちましたし、
GⅠ馬プレイフル・アクトの初仔ジャイアンツ・プレイ Giant’s Play (2007年 鹿毛 牝 父ジャイアンツ・コーズウェイ Giant’s Causeway)も去年、ニューヨーク・ステークス(GⅡ、10ハロン)を制して長距離特性を証明した、という具合。
次に2代母ミア・カリーナ Mia Karina (1983年 黒鹿毛 父アイスカペイド Icecapade)は3戦1勝。あまり子出しには恵まれませんでしたが、それでもチャールズ・H・ストラブ・ステークス(GⅠ、10ハロン)に勝ったシベリアン・サマー Siberian Summer (1989年 芦毛 牡馬 父シベリアン・イクスプレス Siberian Express)を出しています。
グレート・ヘヴンズの3代母ベイシン Basin (1972年 鹿毛 父トム・ロルフ Tom Rolfe)は未勝利馬ながら、アメリカで一大王国を築いた名繁殖牝馬デルタ Delta (1952年 鹿毛 父ナスルーラー Nasrullah)の娘。
ベイシンの半姉ショア Shore (1964年 鹿毛 父ラウンド・テーブル Round Table)はビウィッチ・ステークス(現在はGⅢ)に勝った馬で、その娘アリガトリックス Alligatrix (1980年 鹿毛 父アレッジド Alleged)がフィリーズ・マイルで3着し、繁殖牝馬としても成功。リュパン賞とイスパハン賞に勝ち、仏ダービー2着、パリ大賞典3着、凱旋門賞は3着と4着というクロコ・ルージュ Croco Rouge を出しています。
更にアリガトリックスの娘アリディヴァ Alidiva (1987年 鹿毛 父チーフ・シンガー Chief Singer)は母を上回る繁殖成績を残し、1000ギニーのスリーピータイム Sleepytime 、サセックス・ステークスのアリ―ロワイアル Ali-Royal 、ヨーロッパ大賞典2回・ローマ賞2回のタイパン Taipan と3頭のGⅠ馬を輩出しました。
以上見てきたように、グレート・ヘヴンズのファミリーは長期に亘ってGⅠホースを出し続けてきた牝系。彼女自身が繁殖に上がった時の価値も相当なものになるでしょう。勝つべくして勝ったアイルランド・オークスと言えるでしょうか。
距離が伸び、年齢を加えて一層成長して行く家系。まだまだこの先も楽しみです。
ファミリー・ナンバーは、9-f 。
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