2012クラシック馬のプロフィール(9)
今回は仏オークス馬ヴァリラ Valyra の血統紹介です。人気通りビューティー・パーラー Beauty Parlour が勝っていればこの稿は無かったのですが、急遽調べて纏めたもの。
ヴァリラは父アザムール Azamour 、母ヴァリマ Valima 、母の父リナミックス Linamix という血統。牝系に入る前にアザムール(2001年、鹿毛、父ナイト・シフト Night Shift)についても簡単にプロフィールを。
ナイト・シフトはノーザン・ダンサー Northern Dancer の仔ですから、父系は現在最も繁栄しているサイヤーラインということになるでしょう。
アザムールは今年の仏オークス馬と同じくアガ・カーンの所有馬で、アイルランドでジョン・オックス師が管理していました。2歳時にベレスフォード・ステークスに勝って頭角を表しましたが、3歳クラシック戦線では英2000ギニー3着、愛2000ギニー2着と一歩及ばず。しかしロイヤル・アスコットではセント・ジェームス・パレス・ステークスを制して3歳マイラーの頂点に立ちます。
直ぐにより長い距離にも挑戦し、アイリッシュ・チャンピオン・ステークスで1マイル4分の1を克服してのGⅠ2勝目をマーク。この年のチャンピオン・ステークスは3着でした。
年が明けて4歳、この年のロイヤル・アスコットはヨーク競馬場での代替競馬でしたが、プリンス・オブ・ウェールズ・ステークスで3つ目のGⅠを獲得すると、遂にキング・ジョージに駒を進め、見事1マイル半のGⅠをも制します。但しこの年のキング・ジョージはアスコットではなくニューバリー競馬場での代替競馬でした。よほど代替レースに縁のある馬だったようです。
重い馬場は苦手で、より硬い馬場で能力を発揮するタイプ。凱旋門賞よりキング・ジョージに的を絞ってローテーションを組んだのはそのためでもあったことを付け加えておきましょうか。
GⅠ4勝の勲章を手土産に種牡馬入りしたアザムールは、今年のクラシック世代が3年目の産駒に当たります。ヴァリラはアザムールに最初のGⅠをプレゼントした馬。
現在までのところアザムール産駒でパターン・レースに勝ったのは10頭、内GⅡ馬が3頭、GⅢ馬が6頭、これにGⅠのヴァリラという内訳です。日本に輸入されたアザムール産駒は何頭かいるようですが、ユメユメユメというアイルランド産馬が2000メートルの未勝利戦に勝っただけ、名前を残すような馬は未だ出ていません。
ということで牝系に入りましょう。
母ヴァリマ(2002年、芦毛)は3戦2勝。彼女もアガ・カーンの勝負服で走り、フランスでアンドレ・ファーブルが調教、2歳時はメゾン=ラフィットの1600メートルでのデビュー勝ち1戦のみ。3歳初戦でいきなり1000ギニーのトライアルでもあるアンプルーダンス賞(7ハロン、当時はリステッド)を制してクラシックに名乗りを挙げます。しかし次走グロット賞(GⅢ)は5着に終わり、これが彼女の生涯最後のレースになってしまいました。
繁殖に上がったヴァリマの初産駒のヴァラシラ Valasyra (2007年 鹿毛、牝馬 父シンダー Sinndar)は9戦1勝、メゾン=ラフィットの2200メートル戦での勝鞍があります。仏オークスに挑戦するも7着、秋にはフロール賞(GⅢ、2200メートル)に優勝しましたが、その後禁止薬物が検出されて失格となってしまいました。
続くヴァリール Valiyr (2008年 鹿毛 せん馬 父アルハース Alhaarth)は5戦2勝。ロンシャンの2000メートル戦と、サン=クルーのマッチェム賞(リステッド、2000メートル)に勝ち、ダフニス賞(GⅢ)では2着の実績があります。
そして仏オークス馬が彼女の3番仔で、3頭目の勝馬。いずれもアガ・カーンの持ち馬であるのは当然でしょう。その配合、実績から見て、ヴァリマの産駒は2000メートルからそれ以上の距離で真価を発揮する血統と評して間違いないと思われます。このスタミナが、最後でビューティー・パーラーを交わす原動力になったのでしょう。
2代母は読み方が難しいのですが、ヴァドロイサ Vadlawysa (1995年 鹿毛 父オールウェイズ・フェア Alway’s Fair)としておきましょうか。彼女は今は亡きジャン・リュック・ラガルデール氏の所有馬で、3戦1勝。勝鞍はサン=クルーの1600メートルでのもの。彼女もアンドレ・ファーブルが調教していました。
残念ながら現時点ではヴァドロイサの産駒で目立った成績を残したものは無く、ヴァリマが最も成功した馬と言えるでしょう。
ところでジャン・リュック・ラガルデール氏はフランス競馬界に大きな功績を残し、グラン・クリテリウムが彼の名を冠したレース名に変更されたことは既にご存知でしょう。2003年に亡くなり、氏の有名なウイイー牧場が2005年にアガ・カーン氏に売却されます。
ヴァドロイサまで続くこの牝系は長年ラガルデール氏が培ってきたもので、その死後はアガ・カーンが引き継いでいるのですね。アガ・カーン氏は、自身が育ててきた血統とラガルデール氏の血統の配合にはいろいろ頭を悩ませたようで、今年の仏オークスはその成果の一つと言えるでしょう。
さて3代母はヴァルダヴァ Valdava (1984年 黒鹿毛 父ビカラ Bikala)。彼女も13戦1勝と現役時代は名を遺すほどの成績は挙げられませんでしたが、繁殖牝馬として成功しています。
ザッと触れるに留めますが、彼女の産駒ヴァル・ロイヤル Val Royal (1996年 鹿毛 父ロイヤル・アカデミー Royal Academy)はBCマイルを制したGⅠホース。
更に彼女の別の娘で仏オークス馬の母と極めて近い配合を持つヴァドラミクサ Vadlamixa (1992年 芦毛 父リナミックス Linamix)は、クイーン・アン・ステークス(これまたロイヤル・アスコットからヨークに代替となった一戦)とイスパハン賞とGⅠ2勝のヴァリジール Valixir (2001年 鹿毛 牡馬 父トレンポリーノ Trempolino)の母であり、
その娘ヴァダザ Vadaza (1997年 鹿毛 父ザフォニック Zafonic)も、サン=タラリ賞(GⅠ)を制したヴァダウィナ Vadawina (2002年 鹿毛 父アンフーウェイン Unfuwain)の母となっています。ヴァダウィナはクレオパトラ賞(GⅢ)にも勝ち、仏オークスはレース中に故障したものの4着と健闘しました。
以上、3代母から出た牝系だけで見ても、ヴァリラはヴァル・ロイヤル、ヴァリジール、ヴァダウィナに続く4頭目のGⅠ馬ということになります。
ラガルデールとアガ・カーンが合体したこの血脈、今後もGⅠ馬を数多く輩出して行くことが予想されましょう。
ファミリー・ナンバーは、20-d 。
まとめtyaiました【2012クラシック馬のプロフィール(9)】
今回は仏オークス馬ヴァリラ Valyra の血統紹介です。人気通りビューティー・パーラー Beauty Parlour が勝っていればこの稿は無かったのですが、急遽調べて纏めたもの。ヴァリラは父アザム…