2012ジュライ・ミーティング3日目+パリ大賞典
昨日はニューマーケット競馬場のジュライ・フェスティヴァル最終日、2鞍のG戦が行われました。馬場は遂に heavy まで悪化しています。
この所イギリスは雨ばかりですが、九州の惨状を考えれば競馬が出来るだけ幸せだと言えるでしょう。呑気に競馬レポートなど書いていて良いのか、と思いますが、気を取り直して雨のニューマーケットを見て行きます。
先ずはジュライ・フェスティヴァルの2歳G戦の第3弾、サパラティヴ・ステークス Superlative S (GⅡ、2歳、7ハロン)から。取り消しは2頭、9頭立てで行われました。
6対4の1番人気に支持されたのは、ロイヤル・アスコットのコヴェントリー・ステークスでドーン・アプローチ Dawn Approach の2着したオリンピック・グローリー Olympic Glory 、1ハロン伸びる距離にも対応できるだろうという期待感です。
この日はスタンドから遠い側のコースが解放されましたが、馬場の良し悪し、取るコースの有利不利はあまり関係なかったようです。ここまで雨が降ると、もう、コースは何処を通っても同じという状態でしょうか。
8番枠スタートのルヘイフ Luhaif がハナに立ちましたが、直ぐに1番枠スタートのグローリー・アウェイツ Glory Awaits がハナを奪います。前半は後方に待機していた本命オリンピック・グローリーは、馬群を割って早目に抜け出すと、後方一気のバードマン Birdman (7対1、4番人気)の追い込みを頭差凌いで優勝、期待に応えました。3着は1馬身4分の3馬身差で2番人気(3対1)のマクセンティウス Maxentius 。3番人気(4対1)のアルティジアーノ Artigiano が4着と、順当な結果で収まりました。
勝ったオリンピック・グローリーはリチャード・ハノン厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗。これで3戦2勝2着1回となり、来年の2000ギニーに20対1のオッズが出されています。
フェスティヴァルのトリは、開催のタイトルでもあるジュライ・カップ July Cup (GⅠ、3歳上、6ハロン)。英国短距離界の最高峰の一つでもあります。雨のために3頭が取り消し、12頭立て。出れば人気になるベイティッド・ブレス Bated Breath が取り消したのは、レースのレヴェルを考えれば残念なことでした。
7対2の1番人気は、ロイヤル・アスコットのダイアモンド・ジュビリー・ステークス(GⅠ)でブラック・キャヴィア Black Caviar の5着した5歳馬ソサエティー・ロック Society Rock 。ゴドルフィンが豪州からトレードしてきたセポイ Sepoy が9対2の2番人気で続きます。
レースはスタンドから遠い14番枠スタートの3番人気リプライ Reply (エイダン&ジョセフ・オブライエン)がスタート良く先頭に立ち、解放された外ラチ沿い一杯に逃げましたが、レース後まもなく失速してどん尻に沈んでしまいます。
替って11番枠スタートから2番手に付けた伏兵(201対1、ブービー人気)メイソン Mayson が先頭を奪うと、後は独走。同じく3番手から2番手に上がったザ・チェカ The Cheka (14対1、7番人気)に5馬身の大差を付ける圧勝です。更に1馬身差で本命ソサエティー・ロックが3着に押し上げました。デットーリ騎乗のセポイはブービー、11着惨敗。
大穴を開けたメイソンは、リチャード・ファヘイ厩舎、ポール・ハナガン騎乗。ファヘイ/ハナガン・コンビと言えば、去年までは主戦を務めた間柄。ハナガン騎手が今年初めにハムダン・アル・マクトゥーム氏の主戦に転向したため主戦騎手契約は解消されていましたが、時間がある時にはハナガンも積極的にファヘイ厩舎の馬に騎乗しています。ハナガンにとっては英国GⅠはこれが初制覇、願ってもない馬での達成となりました。
ところでメイソン、3走前のパレス・ハウス・ステークス(GⅢ)には勝っていましたが、そのあとデューク・オブ・ヨーク・ステークス(GⅡ)で13着どん尻に大敗、前走チップチェース・ステークス(GⅢ、ニューカッスル)でも5着と奮わなかったのが人気を落としていた原因です。デューク・オブ・ヨークでは、この日も対戦したザ・チェカ、ソサエティー・ロックの後塵を拝していたのですから、競馬は判りません。
この日はニューバリー競馬場でも短距離のパターン・レースが行われています。クリスピークレーシング・ドットコム・ステークスが正式な名称ですが、古来ハックウッド・ステークス Hackwood S (GⅢ、3歳上、6ハロン8ヤード)として知られている一戦ですから、当欄でも伝統を継承して行きましょう。条件的にはジュライ・カップと同じ、相手関係を見ながらレースを選ぶことになります。
1番人気(9対4)は、前走チップチェース・ステークスで10分後にジュライ・カップを勝つことになるメイソン(5着)を破ったマーレク Maarek 。ニューマーケットと同じ heavy 、所により soft の馬場なら勝っても不思議はないと考えて当然ですね。
こちらも逃げたデフィナイトリー Definightly がバテ、2番手を追走していた2番人気(3対1)のソウル Soul が替って先頭に立っての独走。2着ファイアビーム Firebeam (5対1、3番人気)に4馬身差を付ける、こちらも圧勝でした。1馬身4分の1差3着に本命馬マーレクが入り、こちらは人気的には順当。
勝ったソウルは、ジュライ・カップで期待を裏切ったセポイ同様、ゴドルフィンがオーストラリアから購入してきた馬。サイード・ビン・スロール厩舎、シルヴェストル・デ・スーザ騎乗で、こちらは成功例でしょう。3月にメイダンで勝って以来、英国では初勝利。前走ダイアモンド・ジュビリーでは4着に入り、ソサエティー・ロックには先着していました。
7月14日はフランスの革命記念日、俗に言うパリ祭で、ロンシャン競馬場では恒例のパリ大賞典を含むG戦2鞍が行われています。こちらも馬場状態は生憎の soft 、ニューマーケットほどではないにせよ、重馬場であることは同様だったようです。
最初はモーリス・ド・ニエイュ賞 Prix Maurice de Nieuil (GⅡ、4歳上、2800メートル)。こちらも1頭の取り消しがあり、7頭立て。去年秋のコンセイユ・ド・パリ賞(GⅡ)勝馬で、前走ミラノ大賞典でも3着したヴァダマール Vadamar が6対4の1番人気に支持されていました。ミラノ遠征の前、ダルクール賞(GⅡ)も2着でしたが、その時に勝ったジォフラ Giofra が前日にニューマーケットでファルマス・ステークス(GⅠ)に勝っているのですから、理屈から言っても1番人気は当然でしょう。
レースはウォー・イズ・ウォーが逃げて直線に入りましたが、残り400メートルでウォー・イズ・ウォーが故障発症して突然の落馬、2番手を追走していたヴァダマールが自ずと先頭に立ち、逃げ込みに入ります。しかし3~4番手の内で包まれていた2番人気(27対10)のタック・ド・ボアストロン Tac de Boistron が外に出すと、鋭い末脚を発揮してゴール寸前で本命馬を短頭差差し切っての優勝。1馬身4分の3差3着にはシャワーディ Shahwardi が入りました。
アラン・リヨン師が調教するタック・ド・ボアストロンはG戦初勝利となる5歳馬。バルべヴィユ賞(GⅢ)3着、ヴィコンテス・ヴィジエ賞(GⅡ)5着のステイヤーで、前走メゾン=ラフィットのリステッド戦(やはり3200メートル)でも2着と一つ勝ち切れずにいた馬です。最後の瞬発力に賭けたのが良かったのでしょうか。鞍上クリストフ・スミオンは、このレース2勝目。
そしてメインのパリ大賞典 Gran Prix de Paris (GⅠ、3歳牡牝、2400メートル)。距離の関係から事実上のフランス・ダービーに相当すると言って良いでしょう。
9頭立て、英仏愛のダービー馬は出走してきませんでしたが、英ダービー2着のメイン・シークエンス Main Sequence 、仏ダービー組からは2着のサン・ボードリーノ Saint Baudolino 、3着のヌテロ Nutello 、5着のトップ・トリップ Top Trip 、7着のハード・ドリーム Hard Dream 、8着のインペリアル・モナーク Imperial Monarch 、12着のアルビオン Albion が出走してきました。クラシックに縁が無かった馬は、ハーリッド・アブッダッラーのラスト・トレイン Last Train と、アガ・カーンのリダーリ Lidari のみというメンバーです。
9対5の1番人気に支持されたのは、仏ダービーでは明らかに不利があって能力を出し切れなかったと評価されたエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗のインペリアル・モナーク。キャメロット Camelot に食い下がったメイン・シークエンスが11対2の2番人気、仏ダービーでは本命馬に先着しているサン・ボードリーノは3番人気(19対5)で続き、他は単勝10倍以上のオッズでした。
レースはインペリアル・モナークが積極的に前に出て先頭、人気馬を他馬が追走するという展開。馬の若さを露呈しながらも、ジョセフは巧みにインペリアル・モナークを御し、結局は頭差ながら逃げ切ってしまいました。僅かの差で金星を上げ損なったのは12対1のラスト・トレイン、半馬身差3着にサン・ボードリーノの順。惜しかったのはメイン・シークエンスで、抜け出そうとする瞬間に何度も前をカットされながらも4分の3馬身差4着。前に立ち塞がったのがインペリアル・モナークとラスト・トレインだっただけに長い審議が行われましたが、結局は入線通りで確定しています。
仏ダービーの雪辱を果たしたインペリアル・モナークは、サンダウンのクラシック・トライアル(GⅢ)を制してフランス遠征、未だ4戦目で、敗戦は仏ダービーだけという戦績です。
エイダン・オブライエン師にとっては2005年のスコーピオン Scorpion に続く2度目のグラン・プリ。騎乗したジョセフ・オブライエンはもちろん初制覇ですが、この日はニューマーケットのジュライ・カップでリプレイ(どん尻負け)に騎乗してから渡仏しての勝利。
日本では想像すら不可能でしょうが、ジュライ・カップのスタートは午後3時20分、パリは午後6時50分スタート。3時間半の時間差がありますが(夏時間では時差はほぼ無いでしょう)、ヘリコプターでの移動なら可能。実際、ほとんどの海外の競馬場にはヘリポートがあり、ジョッキーはヘリで競馬場から競馬場に移動しながら一日に何か所も騎乗するのは日常茶飯事のことなのです。
若さゆえにフラ付きながらもクラシックを制覇したインペリアル・モナーク、大きな不利がありながら4着惜敗のメイン・シークエンス共々、凱旋門賞には16対1のオッズが出されました。現時点での凱旋門1番人気が5対2のキャメロットであることは、このレースでも証明された形です。
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