芥川作曲賞選考演奏会

今日は知人のお誘いもあって、サントリー音楽財団のサマーフェスティヴァルの一環、第17回芥川作曲賞選考演奏会を聴いてきました。
実は毎年恒例のフェスティヴァル、今年はサントリーホール改修工事のためてっきりお休みだと勘違いしていました。毎年8月の名物だったからです。ところが9月にずれ込んで開催されているんですね。今年は9月1日から8日までの開催、今日が2日目です。

この選考演奏会では、会場で楽譜も販売されます。実はそれを知っていましたので、一昨年の受賞曲、斉木由美さんのアントモフォニーⅢの楽譜が出ていれば買うべし、という目的もありました。図星、ありましたね。3000円也で一部求めます。手書きの譜面を縮刷コピーした楽譜ですが、いろいろ疑問に思っていたことがこれで解決するでしょう。
単に新進作曲家に賞を与えるだけでなく、受賞曲を出版して比較的廉価で一般にも供する、これはいい企画ですね。

さてコンサートは幕開けに前々年の受賞者による委嘱作品が初演されます。これも恒例。ということは斉木さんの新作です。
これ、何と「アントモフォニーⅣ」、虫の音楽シリーズ第4弾ですな。
今回登場する虫たちは、蝉、ヒグラシ、ケラなどのノイジーなものが中心。前作の儚気な音楽とは趣も変わり、かなりダイナミックな昆虫ワールドが展開しました。

演奏は、これも毎年の習慣で、小松一彦指揮の新日本フィル。毎回極めて質の高い、集中力に富んだ演奏を聴かせてくれるのは真に立派。優れた演奏あってこその現代作品紹介であることを改めて認識しました。これは演奏終了後に行われた選考委員の評でも触れられていたことで、指揮者とオーケストラにはいくら感謝しても、感謝し切れるものではありません。

で、本体の候補作品の演奏。取り上げられた順に、①土井智恵子「波跡」 ②山根明季子「水玉コレクション」 ③小出稚子「ケセランパサラン」でありました。
どれも水準が高く、それぞれに個性的でした。一々は触れません。全体に感じたことは、世界で一番元気のいい作曲界は日本の女性たちだ、ということ。誰もそう感じたと思います。とにかく多士済々なんです。
よく“現代音楽はどれを聴いてもみな同じに聴こえる”と言う人がいますが、この日はとんでもないことです。どれをとっても二つと似た作品はありません。最初の委嘱作品にしても言えること。そしてどれも目指している方向がハッキリしている。

最後の選考は、委員の池辺晋一郎、一柳慧、原田敬子の3氏による評で進められます。原田さんは急逝された江村哲二氏のピンチヒッターです。
司会進行は白石美雪さん。
しかし皆上手いこと表現しますね。それぞれの的確な評価に一々頷いてしまいます。3人の評価がほとんどぶれなかったことも、3作品の個性が明確で、作品として説得力があったことの証明でしょう。

結局、第17回芥川作曲賞に選出されたのは、小出作品。これも3人の一致した選考です。
一柳氏の一言、“短さを感じさせない作品”が全てを表していました。
しかし、今回取り上げられた作品に質的な開きはほとんどない、という感想も私は持ちました。演奏された順序も結果に作用したようにも思うのです。別の順序で演奏されれば、あるいは結果も替わったのでは、と。

最後に挨拶された小出さん、まだ東京音楽大学に在学中(修士課程)の25歳ですよ。若い! それに可愛い!
“何よりも私を育ててくれ、高い月謝を払ってくれた父と母に感謝します”
そんなことを言われてはたまりません。1階中央の後方に席を占めていた一団は、恐らくご家族や親類のみなさんでしょう。セレモニー終了後も立ち上がることが出来ず、みな真っ赤に泣き腫らした目をハンカチで拭う姿に、こちらももらい泣きしてしまいましたわ。
原田さんの感想、“選考などではなく、素晴らしい演奏で良い音楽を聴いた満足感で、そのまま家に帰ってしまいたい”。ホントにその通りですね。

 

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