古典四重奏団ベートーヴェン・ツィクルスVOLⅠ
昨日は晴海、第一生命ホールのSQWガレリア・シリーズを聴いてきました。古典四重奏団によるベートーヴェン連続演奏会の1回目。
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番ト長調作品18-2
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1番へ長調作品18-1
~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番ニ長調作品18-3
古典四重奏団
このクァルテットは私の日記に何度も登場しているので、メンバー等については省略。
実は、私にとってトリトンで弦楽四重奏曲を楽しむという習慣のスタートを切ったのが、古典四重奏団によるベートーヴェン・ツィクルスでした。プログラムに掲載されている記録によれば2002年のこと。
従って今回のツィクルスは、彼らにとっても第一生命ホールにおける二度目のチャレンジとなります。
前回は2002年の春に3回、秋に3回というシリーズでしたが、今回は秋に3回、後半は1年空け、2010年に予定されています。もしかすると没になる可能性もあるという・・・。
演奏される曲順は、前回と全く同じになると思います。少なくとも前半3回は、それぞれの回の曲順や休憩の場所も含めて同一。
この日も第2番の最初の音が私の耳に響いたとき、“あ、前と同じだ!”という強い郷愁に襲われたことでも判ります。
彼らは、そのベートーヴェン全曲のスタートとして「挨拶」を選んだ、ということ。
あれから6年、その演奏姿勢はほとんど変わっていない、と思います。
第1番で圧倒的な印象を残し、特にその第2楽章の息を呑むような緊迫感。後半の3番での開放感と、どうしても感じてしまうアンチ・クライマックス。その全てが、まるでビデオテープの再現の如く私の脳裏に戻ってきたのです。
記憶を辿れば、前回は執拗なフライング拍手に悩まされたことも思い出します。あまりのことに、第3回では田崎氏自身がチラシを書き、いかに最後のパウゼが大切かを訴えたものでした。
それ以降でしょう。晴海の室内楽ファンのレヴェルが飛躍的に向上したのは。その意味でも、前回は思い出に残るチクルスでした。
さて今回の印象。
「交響曲は室内楽のように、室内楽は交響曲のように」演奏されるのが理想、という表現があります。私が古典四重奏団でいつも感ずるのは、彼らは「室内楽は室内楽のように」演奏する、ということ。
古典四重奏団は、振幅の大きな表現で聴き手を圧倒するようなベートーヴェンはやりません。もっと緻密で密やかな、声を荒げない大人の会話、でしょうか。
楽譜を忠実に再現する、というのとも違います。そこには古典独特の譜面を離れた歌い回し、微妙な息遣いがあって、他の団体には聴かれない独自の室内楽世界、個性的なベートーヴェン表現があるのです。
例を挙げましょう。
例えば第1番の第1楽章第2主題。ここは一人残った第1ヴァイオリンのシンコペーションに先導され、そのままシンコペーションを伴いながら主題が各パートに歌い継がれて行きます。
このシンコペーションのチョッとしたテンポ・ルバート。ギチギチに3拍子を刻むのではなく、ベートーヴェンの感情が微妙に揺れる。
それは第1ヴァイオリンの河原千真の腹芸のようなものなのですが、決して嫌味に感じられたり、癖、として捉えられることはありません。実に自然なのです。
第3番の第1楽章第2主題も同じ。この2拍目に付いた sf のアクセントをややフェイント気味に強調し、続くフォルテの対位法的フレーズの前に(第76小節)、僅かな間を置くのです。それは「間」というほど大袈裟なものではなく、4人の阿吽の呼吸と言うべきもの。
これこそ古典四重奏団でなければ体験できない、室内楽の醍醐味と言えましょうか。そう、室内楽は室内楽のように。
この日の白眉は、前回もそうだったように、第1番でしょう。特にその第2楽章、Adagio affettuoso appassionato 。これは当時のベートーヴェンの最も気合の入った傑作です。
古典四重奏団は、かなり頻繁に楽章間にチューニングを行います。この日もアタッカで続けて演奏したのは第1番の第3~第4楽章と、同じく第3番の第3・4楽章の間だけ。
例えば、CDで第1番を通して聴けば、当然ながら第2楽章に続いて直ぐに第3楽章が鳴り出します。
しかし、それではこの作品を体験したことにはなりません。あの第2楽章が終わった時、長い沈黙と大きな溜息が続き、更にチューニングで暫く気持ちを静める。この楽章は、どうしたってそうしたパウゼを置かなければならないような書き方がなされているのです。
弦楽四重奏はナマ演奏で楽しむもの。いや、そうでなければ本当に聴いたことにはならない。
今日もホールはかなりの空席が目立ちました。どうか皆さん、ホンモノの室内楽を楽しむために、古典四重奏団のツィクルス続編に足を運んで下さいな。前回の経験から判断して、11月3日のラズモフスキー3連発は必聴ですゾ。
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