プロムスのベートーヴェン・ツィクルス1
今日はBBC3で放送中のプロムスを聴きます。7月20日にロイヤル・アルバート・ホールで行われたベートーヴェン交響曲全曲演奏会の1回目。内容は以下のもの。
≪Prom 9≫
ベートーヴェン/交響曲第1番
ブーレーズ/Derive 2
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第2番
管弦楽/イースト・ウエスト・ディヴァン管弦楽団
指揮/ダニエル・バレンボイム
この放送を聴くまでこのオケのことは知りませんでした。プログラムによると、イスラエルとアラブの若手音楽家が半々で構成されているとのこと。それだけでオケの目指す方向が判ります。
以前にNHKでも同オケ結成のドキュメントが放送されたそうですが、発起人というか提案者はヨー・ヨー・マだったそうで、実際に動いたのはクラシック音楽界のドンたるバレンボイム。コンサートマスターを務めるマイケル・バレンボイムはその息子ですね。
オケの名称は、文学に詳しい人はピンとくると思いますが、ゲーテの「西東詩編」から採ったもの。Divan には「詩編」の意味もあります。
今回の一つの団体によるベートーヴェン・ツィクルスは、プロムスでは1942年のヘンリー・ウッド以来のことだそうで、実に70年振りの由。組み合わせが全てブーレーズの作品というのも斬新なアイディアで、古今の革新的音楽を組み合わせるという意図かと思われます。
全部で6回の演奏会で完結しますが、その内の1回は交響曲以外のものが取り上げられます。それが何であるかは、その時のお楽しみに。確か最後の第9は五輪の開会式に当たっているはず、企画者の強かさが垣間見られましょう。
聴いてみれば判りますが、特別なオケだからと言って特殊なベートーヴェンじゃありません。音だけ聴くと弦楽器は対抗配置であることが確認できますが、もちろん古楽器やピリオド系スタイルではなく、至極普通のベートーヴェン。リピートも原則があるわけではなく、常識の範囲内。1番は第2楽章以外は全て実行していますが、2番の第1楽章の繰り返しは省略。
一言で言えば、レガート系のベートーヴェンでしょうか。
組み合わされたブーレーズ。最近の作品には定訳があるのでしょうか、この日演奏されたのは“デリーヴ・ドゥー”と発音されていました。デリーヴとは漂流とか逸脱の意味。「ドゥー」がある以上、「アン」もあるそうです。
ブーレーズの作品には小さな形式のものが次第に膨らんで大曲になる例が多く、これもその一つ。本来はエリオット・カーターの80歳の誕生日プレゼントのために書かれるはずでしたが、実際には間に合わず、完成は6年前(カーターは現在100歳を超えています)でした。基になっているのは、現代音楽の紹介者として大恩人のバウル・ザッヒャーの名前「SACHER」の音名から生まれた音列だそうな。
演奏に45分も掛かる長大なもので、実質的には11楽器による室内楽。弦楽器3(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)、管楽器4(コル・アングレ、クラリネット、バスーン、ホルン)、その他4(ヴィビラフォン、マリンバフォン、ハープ、ピアノ)の編成をバレンボイムが指揮します。もちろんヴァイオリンはバレンボイム・ジュニア。
こうした作品を聴き通すのは小生には難しい所がありますが、聴いているうちに感覚が麻痺して行くようにも感じられます。それでも終結感はシッカリしていて、演奏が終わると直ちに拍手が起きていました。
拍手と言えば、去年のプロムスにイスラエル・フィルが登場した時には、パレスチナの人々の抗議で場内騒然となりBBCもナマ中継を断念したほど。また、中継中止に対する批判も相次いでいました。後日録音が放送されたのを聴きましたが、最初のウェーベルンは騒音のために放送断念。2曲目のブルッフ(第1ヴァイオリン協奏曲)も第2楽章に入るまで抗議と制止とで騒然たる状況が伝わってきましたっけ。
これに比べるとイースト・ウエスト・ディヴァン管は、プレイヤーの登場の時から暖かい拍手。演奏後も盛大な歓声が飛び交っていました。ただし、ベートーヴェンは楽章が終わるたびに拍手があるのには閉口。尤もロンドンはノリントンの本拠地だけに、サー・ロジャーの教育が行き届いているのでしょうね。もちろん皮肉ですけど・・・。
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