オブライエンのGⅠダブルも

8月12日の日曜日、アイルランドとフランスでGⅠレースが行われましたが、どうも世間の目の注目はロンドンばかりに集まっていました。従って大人しく、静かなレポートです。
先ずカラー競馬場の4鞍を順に。

再び雨となったカラー、馬場は yielding 。G戦のトップを切って行われたロイヤル・ホイップ・ステークス Royal Whip S (GⅡ、3歳上、1マイル2ハロン)は僅か4頭立て。恐らくヨーロッパで一番有名な馬、フェイマス・ネイム Famous Name が出走してイーヴンの人気を集めました。イーヴンと言えば日本流に言えば単勝2倍、普通なら1番人気になる所でしょう。
人気でこれを上回ったのは、オックス厩舎の3歳馬のボーン・トゥー・シー Born To Sea 。デビュー前から評判になっていた馬で、未だG戦の勝鞍は無いものの前走愛ダービーは2着、今回はブリンカーを外しての出走ですが、10対11と2倍を切る1番人気に支持されていました。

レースは逃げ切りを策してボブ・ル・ボウ Bob Le Beau が先頭。フェイマス・ネイムは2番手に付けましたが、ボーン・トゥー・シーは引っ掛かってジョニー・ムルタが苦戦して3番手に控える展開。スムースに抜け出したフェイマス・ネイムが先頭に立つと、後は後続に影も踏ませずボーン・トゥー・シーを6馬身半寄せ付けませんでした。3着は最後方を進んだオブライエン厩舎のウォーリック・アヴェニュー Warwick Avenue でしたが、2着からは13馬身もの大差。
デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗のフェイマス・ネイム、何とこれが36戦目にして19勝。この内17勝はリステッドとGⅢのステークスですが、GⅡは初勝利となります。今期はGⅢ3勝を含めて5勝目、自身としてもシーズン最多勝となり、7歳にしてなお進化し続ける「有名な」馬ですね。

次は2歳戦が続きます。先ずはデビュタント・ステークス Debutante S (GⅡ、2歳牝、7ハロン)、2頭取り消して6頭立て。前走シルヴァー・フラッシュ・ステークス(GⅢ)を含め2戦2勝のハラシーヤ Harasiya が2対5の断然1番人気、ロイヤル・ホイップのボーン・トゥー・シーと同じジョン・オックス/ジョニー・ムルタ・チームの本命馬です。

レースはチーム・オブライエンの2番人気(3対1)マジカル・ドリーム Magical Dream が逃げましたが、早々と後退(どん尻6着敗退)。順当にハラシーヤが抜け出して期待に応えるかに見えましたが、先に仕掛けた3番人気(12対1)のマイ・スペシャル・ジェイズ My Special J’s が意外にも粘り、最後は首差で本命馬を抑えて優勝。2馬身半差でダイアモンド・スカイ Diamond Sky が3着。又してもオックス/ムルタの本命馬は2着に甘んじてしまいました。
勝ったマイ・スペシャル・ジェイズは、前走シルヴァー・フラッシュではハラシーヤに2馬身負けて2着だった馬。今回も同じ負担重量でしたが、見事な逆転劇です。同馬を管理するパット・シャナハン調教師は、騎手時代には愛ダービー(1996年のザグレブ Zagreb)に勝ったこともある方で、今年初めに調教師のライセンスを取得して開業したばかり。もちろん調教師としてのステークス初勝利となります。鞍上はコーム・オダナヒュー騎手。
このあとは短い休養を取り、10月のマルセル・ブーサック賞に向かう予定。1000ギニーには25対1のオッズが出されました。一方初黒星を喫したハラシーヤは20対1、こちらはレース前より人気を落としてのオッズです。

続いてがフェニックス・ステークス Phoenix S (GⅠ、2歳、6ハロン)。英愛仏を通じて今期最初の2歳GⅠ戦です。馬場コンディションを考慮して3頭が取り消し、6頭立て。5対4の1番人気に支持されたウォッチマン厩舎のプロバブリー Probably は、前走レイルウェイ・ステークス(GⅡ)で本命クリストフォロ・コロンボ Cristoforo Colombo を破って番狂わせを演じた馬。そのクリストフォロ・コロンボが2番人気(6対4)で続きます。

しかしここでも更なる波乱が待ち受けていました。前2レースを本命で負けたジョニー・ムルタ騎手にとってこの日は厄日だったのでしょうか、騎乗していたロティ―・ダッド Lottie Dod がレース前のパレードで暴れ、ムルタ騎手を振り落してしまいます。そのまま病院に運ばれたムルタ、検査で頬骨の骨折と診断され、この日の予定は全てキャンセルとなってしまいました。このためにレースのスタート時間にも遅れが生じています。

レースは英国(ミック・シャノン厩舎)から挑戦したモールコム・ステークス(GⅢ)勝馬のバングル・インザジャングル Bungle Inthejungle が逃げ、プロバブリーは2番手追走。残り2ハロン、またもやアクシデント発生です。前が塞がって内ラチ沿いに進路を変えたジョセフ・オブライエン騎乗のクリストフォロ・コロンボが他馬と脚を絡ませるように落馬。人馬共にコースに投げ出されてしまいます。
事故を尻目に抜け出したのは、落馬した馬と同じオブライエン厩舎の4番人気(10対1)ペドロ・ザ・グレート Pedro The Great 。副将格シーマス・ヘファーナン騎乗で、2着レター・モア Leitir Mor に2馬身4分の3差を付けての優勝です。3着は更に1馬身4分の3差でムルタから乗り替わったパット・スマーレン騎乗のロティ―・ダッド。何かとアクシデントの多いフェニックス・ステークスでした。幸いなことに落馬したクリストフォロ・コロンボも、投げ出されたジョセフ・オブライエンも無事とのこと。

エースの落馬という不運がありましたが2番手の馬で制したエイダン・オブライエン厩舎にとって、これは12回目のフェニックス制覇。この後はナショナル・ステークスという王道のローテーションでしょう。2000ギニーのオッズは25対1から33対1が提示されました。

そのオブライエン厩舎、久々にスタースパングルドバナー Starspangledbanner を送り込んできたのがフェニックス・スプリント・ステークス phoenix Sprint S (GⅢ、3歳上、6ハロン)。2010年にオーストラリアから転厩しゴールデン・ジュビリーとジュライ・カップを制した快速馬、引退して種牡馬になったものの受胎率が悪く再び現役に復帰しての久々の実戦です。3頭取り消して6頭立てのレースとなったここは格下のGⅢ。前々走ここカラーでサファイア・ステークス(GⅢ)に勝っている英国のデフィナイトリー Definightly と1番人気(9対4)を分け合っていました。

前のレースで落馬も無傷だったジョセフが初めて騎乗するスタースパングルドバナーが果敢に先頭に立ちますが、勝負どころでは早くも一杯、結局は勝馬から13馬身離されたどん尻に敗退して期待を裏切ります。
優勝は最後方から追い込んだ同じ勝負服の3番人気(5対2)ファイア・リリー Fire Lily 。半馬身差でゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron との叩き合いを制しました。3着は3馬身半差でデフィナイトリー。このデフィナイトリーもムルタが騎乗予定でしたが、急遽ケヴィン・マニングに乗り替わっていました。

同じクールモアの勝負服でも、ファイア・リリーはデヴィッド・ワッチマン厩舎、ウェイン・ローダン騎乗。前々走レパーズタウン競馬場でバリオーガン・ステークス(GⅢ)に勝ちましたが、前走ジュライ・カップでは重馬場のため本来の力を発揮できず7着に終わっていた3歳牝馬です。

以上何かと波乱が目立ったカラーをあとにして、フランスのドーヴィル競馬場に向かいましょう。馬場は good 。

何と言ってもジャック・ル・マロワ賞 Prix Jacques le Marois (GⅠ、3歳上、1600メートル)が大注目です。ご存知のようにヨーロッパのマイル路線はフランケル Frankel という超強豪が立ちはだかっており、先日のサセックスも有力馬は全て回避して4頭立て。フランケルの出ないドーヴィルには大挙してマイル界の大物が顔を揃えました。
出走馬は11頭。しかも居るは居るは、この内9頭がGⅠホースで、残り2頭のうち1頭もドイツ2000ギニーに勝ったクラシック・ホースですから、言わば金メダリストが一堂に会したような激戦になってしまいました。それこそ何が勝ってもおかしくない。

そんな中で1番人気(11対5)に支持されたエクスセレブレーション Excelebration が見事期待に応えたのですから、今年のマロワ賞のレヴェルの高さに疑いを入れる余地はないでしょう。

レースは前走ロッシルド賞に勝ったエルーシヴ・ケイト Elusive Cate (吉田照哉の馬)が逃げ、ドバイ・デューティー・フリーの覇者シティースケイプ Cityscape が2番手。2頭を好位でマークしたムーラン・ド・ロンシャン賞勝馬エクスセレブ―レーションが捉え、大接戦の2着争いを尻目に1馬身4分の1差で快勝。目の前には幻のフランケルが見えていたのかも知れません。
写真判定の2着はシティースケイプ、3着は首差でエルーシヴ・ケイトが粘り、頭差4着にモーリス・ド・ギースト賞2連覇のムーンライト・クラウド Moonlight Cloud 、短首差で独2000ギニー馬カスパー・ネッチャー Casper Netcher の追い込み勢。
更に記せば、6着は仏2000ギニー馬ティン・ホース Tin Horse 、7着仏2冠+イスパハンのゴールデン・ライラック Golden Lilac 、8着コロネーション・ステークスと前年のマロワに勝ったインモータル・ヴァース Immortal Verse 、9着インドミト Indomito は唯一の無冠馬、10着今年のコロネーション・ステークス勝馬フォールン・フォー・ユー Fallen For You 、11着セント・ジェームス・パレスのモースト・インプルーヴド Most Improved 。

勝馬を管理するエイダン・オブライエン師は、これがマロワ賞初制覇。カラーのフェニックス賞と併せて週末のGⅠダブル達成です。本来はライアン・ムーアが騎乗する予定でしたが、運が悪いことに第3レースで鞍ズレのため落馬、直前にクリストフ・スミオンに乗り替わっていました。スミオンがムーアを気の毒がっていたことは尋常のレヴェルではありませんでしたね。当然でしょう。なお大事を取ったムーア騎手、火曜日には復帰するというニュースが伝わっています。
2着はロジャー・チャールトン(英国)厩舎、3着もジョン・ゴスデン厩舎(英国)と、上位3着までを海外勢が占めたのも話題でしょうか。
エクスセレブレーションはこれが7勝目になりますが、GⅠは2勝目。フランケルとの対戦で4回負けており、普通の年であればGⅠの5つや6つは勝っているクラスの存在。裏返せば、如何にフランケルが傑出しているかの証左でもありましょう。

さて、残り一鞍はミネルヴァ賞 Prix Minerve (GⅢ、3歳牝、2500メートル)。ヴェルメイユ賞のトライアルとなる一戦。こちらも11頭立てですが、1番人気(3対1)に支持されたアガ・カーンのマンディスターナ Mandistana が7着敗退。
マンディスターナのペースメーカーを務めるダライタ Darayta の逃げを中団で待機、外に出して差し切ったのが4番人気(66対10)のフォーシズ・オブ・ダークネス Forces of Darkness 。短首差2着に15対1のノービリス Nobilis 、半馬身差3着に3番人気(58対10)のラ・コンケラント La Conquerante 。いずれにしてもこれからの馬たちでしょう。

勝馬の調教師はファブリース・フェルミューレン、勝利騎手はグレゴリー・ブノア。サン=タラリ賞で3着、追加登録した仏オークスでも4着という実績がモノを言ったのでしょう。典型的な上がり馬。仏ダービー馬ロウマン Lawman の娘です。

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