レース・オブ・ザ・イヤー
昨日の日曜日、世界のホースマンの目はドーヴィルに集まりました。サラブレッド界における世界の潮流は、これまでのように2400メートルの距離ではなく、2000メートルから1マイルの距離に中心が移ってきています。
ダービー、キングジョージ、凱旋門賞などの長距離戦より重要度が増しているのが、10ハロンのGⅠ戦や1マイルのビッグレース。その一つ、ジャック・ル・マロワ賞にヨーロッパを代表するスターたちが集まって競馬ファンを喜ばせました。今日はここからスタートしましょう。
good to soft のドーヴィル競馬場、ジャック・ル・マロワ賞 Prix Jacques le Marois (GⅠ、3歳上、1600メートル)は13頭もの頭数が揃いました。GⅠ馬が6頭、どれが本命になってもおかしくないメンバーですが、最終的に9対5の1番人気に支持されたのは、仏ダービー馬で凱旋門賞挑戦の可能性も残されているインテロ Intello です。
続いて11対5の2番人気には、先週のGⅠモーリス・ド・ギーストを制して、同レース3連覇を達成したムーンライト・クラウド Moonlight Cloud 。本命と同じ3歳クラシック馬ドーン・アプローチ Dawn Approach は4対1で3番人気、フォルマスとロッシルド賞に勝ちGⅠ2連勝中のエルーシヴ・ケイト Elusive Kate が4番人気(15対2)で続きます。
クィーン・アン勝馬デクラレーション・オブ・ウォー Declaration Of War は18対1、グラン・クリテリウムのオリンピック・グローリー Olympic Glory も19対1と伏兵扱い。ドイツ2000ギニー(GⅡ)勝馬ピース・アット・ラスト Peace At Last に至っては100対1と、如何にメンバーのレヴェルが高かったかが理解できるでしょう。
これだけのメンバーが揃ったマロワ賞、正にレース・オブ・ザ・イヤーと言って良い期待の一戦です。
レースはドーン・アプローチのペースメーカーを務めるレイティール・モール Leitir Mor (この馬もGⅢに2勝)が速いペースで逃げ、主力メンバーは中団で牽制。
インテロ、ドーン・アプローチの3歳勢も好位に上がって勝負に出ましたが、流石のGⅠ馬たちも残り2ハロンで仕掛けたムーンライト・クラウドの瞬発力には脚が止まったよう。やや1マイルが長い彼女の足が鈍ったところに末脚を爆発させたのが、後方に待機していたデットーリ騎乗のオリンピック・グローリー。2頭が並んでゴール板を通過し、写真判定に持ち込まれましたが、短頭差でムーンライト・クラウドに軍配。
1馬身4分の3差が付いた3着にはインテロが入り、デクラレーション・オブ・ウォー4着、ドーン・アプローチ5着、逃げたレイティール・モールが6着に粘り、社台のエルーシヴ・ケイトは7着に終わりました。1着から5着までは全てGⅠ馬という結果は、やはりレース・オブ・ザ・イヤーに相応しい内容だったと言えるでしょう。
弁解があったとすれば、オリンピック・グローリーはドーン・アプローチが後退する煽りで一完歩の不利、これが無ければ勝っていたかも、ということと、ドーン・アプローチは99日間で5戦目、本来のドーン・アプローチでは無かったという敗因が聞かれた位のものでしょう。
フレディー・ヘッド厩舎、ティエリー・ジャルネ騎乗のムーンライト・クラウドは、これで5つ目のGⅠ制覇。2週続けてGⅠ勝ちというのは、長いドーヴィルの歴史でも初めての快挙です。このあとムーランはパスし、凱旋門開催のフォレ賞で6つ目のGⅠを目指す予定。その後のことはオーナーが決めることになるでしょう。
この日ドーヴィルではG戦がもう一鞍、ミネルヴァ Prix Minerve (GⅢ、3歳牝、2500メートル)も行われています。8頭立て、アガ・カーンの所有馬で前走ロンシャンのリステッド戦に勝ったミラ Mila が5対2の1番人気。
そのミネルヴァが逃げましたが、3番手を進んだ2番人気(19対5)で英国から挑戦したポモロジー Pomology が差し切って優勝。半馬身差で3番人気(4対1)のアーティスト・ディヴィーヌ Artiste Divine が2着、更に3馬身差でゴッシュ Gosh が3着に入り、ミラは4着に終わりました。
ジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗のポモロジーは、2歳時は未出走でウインザーでデビュー勝ち、次走ケンプトンのハンデ戦にも勝って、今回がG戦初挑戦での初勝利。無傷の3連勝となり、新たに頭角を現してきた新星と言えるでしょう。
日曜日はアイルランドのカラー競馬場でも4鞍のG戦が行われています。馬場は good 、所により good to firm と固いコース。
最初はロイヤル・ホイップ・ステークス Royal Whip S (GⅢ、3歳上、1マイル2ハロン)。去年まではGⅡでしたが、今年からGⅢに降格されました。5頭立て、3日前の木曜日にバリーローン・ステークス(GⅢ)でアーネスト・ヘミングウェイ Ernest Hemingway の3着したばかりのシンティルラ Scintillula が参戦してきてファンを驚かせましたが、G戦初挑戦ながら7戦して敗戦は一度だけという上がり馬のマプト Maputo が5対4の1番人気。シンティルラは11対4の2番人気です。
そのシンティルラが逃げましたが、2番手でこれをマークしたマプトが残り2ハロンで抜け、3番人気(9対2)カポナータ Caponata に1馬身差で優勝。2馬身4分の1差の3着にフォーティファイ Fortify 、シンティルラは4着敗退で、やはり中2日ではキツかったと思われます。
マーク・ジョンストン厩舎、ジョー・ファニング騎乗のマプト、これで8戦7勝、唯一の敗戦はロイヤル・アスコットのブリタニア・ハンデのみという堅実さ。前走ハミルトン競馬場のリステッド戦に勝ったとは言いながら、ジョンストン師は初挑戦のG戦は自信というより希望を持って見ていたとのこと。より高いレヴェルでどこまで力を発揮できるでしょうか。
カラーの2つ目はデビュタント・ステークス Debutante S (GⅡ、2歳、7ハロン)。1頭が取り消して6頭立て。このレースにここ10年で5勝しているエイダン・オブライエン厩舎は3頭を出走させ、ジョセフが選んだタペストリー Tapestry が4対5の1番人気。
同じオブライエン厩舎の2番人気(11対4)パーハップス Perhaps が逃げ(ペースメーカーということではないでしょう)、3番手を進んだタペストリーが評判通りの末脚で抜け、パーハップスに1馬身4分の3差を付けて期待に応えました。半馬身差で3番人気(8対1)アヴェニュー・ガブリエル Avenue Gabriel が3着。
タペストリーはカラーの新馬戦(6ハロン)に勝ち、これが未だ2戦目。父はガリレオ Galileo 、母ランプルスティルスキン Rumplestilskin もこのデビュタントに勝った馬で、マルセル・ブーサックも制したGⅠ馬という良血馬。1000ギニーに10対1のオッズが出されました。
続いては2歳のGⅠ戦、フェニックス・ステークス Phoenix S (GⅠ、2歳、6ハロン)。1頭取り消して5頭立て、ここもオブライエン父子で臨むウォー・コマンド War Command が2対5の圧倒的1番人気に支持されていました。人気薄ながらロイヤル・アスコットでコヴェントリー・ステークス(GⅡ)を快勝した馬で、ここは負けるはずがないという断然の本命です。
ところが結果は意外なもの。アンバランス Ambalance の逃げを4番手で待機したウォー・コマンドでしたが、3番手に上がるのが精一杯。3番手に付けていた2番人気(4対1)スディルマン Sudirman が3番人気(7対1)ビッグ・タイム Big Time を半馬身抑えての逆転劇です。更に半馬身で失望のウォー・コマンドが3着。
スディルマンは、前走レイルウェイ・ステークス(GⅡ、2着はビッグ・タイム)に勝った馬で、デヴィッド・ワッチマン厩舎、ウェイン・ローダン騎乗。ワッチマン師によれば、固い馬場が好走の条件で、今後のローテーションも馬場状態を見ながら判断して行くとのこと。
ブックメーカーはこのGⅠ戦の結果に懐疑的で、スディルマンの2000ギニーのオッズは20対1。一方敗れたウォー・コマンドは、レース前の6対1から12対1に落としています。
最後はフェニックス・スプリント・ステークス Phoenix Sprint S (GⅢ、3歳上、6ハロン)。馬場が硬い所為か3頭が取り消して7頭立て。イーヴンの1番人気には、豪州でGⅠを複数勝ち、前走フェアリーハウスのリステッド戦勝ちからエイダン・オブライエン厩舎に転じたシー・サイレン Sea Siren が選ばれていました。
レースは3番人気(6対1)のハムザ Hamza が逃げ、シー・サイレンは3番手を追走しましたが意外にも伸びず、優勝は2番手でマークしていた2番人気(2対1)のスレード・パワー Slade Power 。粘るハムザとは1馬身半差、更に1馬身半差でシー・サイレンは3着。
エディー・ライナム厩舎、ウェイン・ローダン騎乗のスレード・パワーは、前々走サファイア・ステークス(GⅢ)に続きG戦は2勝目、前走ジュライ・カップ(GⅠ)でも3着しており、ここを勝っても不思議ではありません。ローダン騎手はフェニックス・ステークスに続きG戦ダブル達成です。
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