アーリントンのインターナショナル・フェスティヴァル

夏場のアメリカ競馬は東海岸のサラトガ、西海岸のデル・マーがメイン・ステージですが、昨日だけはシカゴのアーリントン・パーク競馬場で行われる国際競馬の祭典に脚光が集まります。
芝コースで行われるGⅠが3鞍、その名に恥じずヨーロッパからもGⅠ級の馬やジョッキーが揃って熱戦が繰り広げられました。競馬のオリンピックという雰囲気もあります。一日を通して馬場状態は、馬には走り易い good 。

その3戦をレポートする前に、G戦ではないものの興味深い一戦を紹介しましょう。それがアメリカン・セント・レジャー American St. Leger (芝、3歳上、13.5ハロン)。アメリカでは長い間長距離レースが忌避されてきましたが、今年創設されたのがこのレース。ほぼ2700メートルという距離は、障害戦を除けばアメリカで最長距離のレースでしょう。今回が成功し、今後も出走馬が揃えば、いずれはG戦に格上げされるものと思われます。総賞金は40万ドルで、その他のGⅠ戦よりは落ちるものの並みのグレード戦よりは遥かに高額。
記念すべき第1回は、3頭が取り消して9頭立てで行われました。頭数はまずまずでしょうか。海外からは4頭が参戦し、マルコ・ボッティ厩舎のジャッカルベリー Jakkalberry が8対5の1番人気に支持され、見事に期待に応えています。騎乗したのはコーム・オダナヒュー。2馬身4分の1差で地元のアイオヤ・ビッグタイム Ioya Bigtime が2着に入り、6馬身4分の1差で英国ゴスデン厩舎、ドイツ産馬のズイダー・ジー Zuider Zee が3着。
ジャッカルベリーは6歳せん馬ですが、3歳時にはイタリア・ダービーで3着、4歳でミラノ大賞典に勝ってGⅠホースとなった馬。今期はドバイのシーマ・クラシック(UAEのGⅠ)で3着、前走はロイヤル・アスコットでハードウィック・ステークス(GⅡ)では5着の国際派です。
成功とは馬券の売り上げやレースのレヴェルで判断されるでしょうが、フェスティヴァルの一環として行われていること、海外遠征組が活躍できたことで、最初の障害はクリヤーしたのではないでしょうか。国際レースは、ジャパン・カップのように賞金は高額でも海外からの挑戦レヴェルが低下して行くケースもあります。シカゴの今後の取り組み方に注目しましょう。

さてGⅠ3連発の第1弾は、3歳馬によるセクレタリアート・ステークス Secretariat S (芝GⅠ、3歳、10ハロン)。去年はアイルランドのトレジャー・ビーチ Treasure Beach が制しましたね。8頭立ての今年も2頭の海外組が挑みましたが、3頭出しで臨む地元デール・ロマンス厩舎に期待が集まっていました。即ちヴァージニア・ダービー(芝GⅡ)勝馬のシルヴァー・マックス Silver Max が2対1の1番人気、その3着馬フィネガンス・ウェイク Finnegans Wake とアメリカン・ダービー(芝GⅢ)勝馬のコゼッティ Cozzetti がロマンスのトリオを組みます。
本命シルヴァー・マックスが果敢に先頭を奪って流れを作りますが、優勝は前半後方2番手の内を進み、外に出してから抜群の伸び脚で突き抜けた3番人気(3対1)のフランス馬ベイリール Bayrir 。2着に食い下がったフィネガンス・ウェイクに1馬身4分の1差を付けていました。同じく1馬身4分の1差で3着には2番人気(5対2)のサマー・フロント Summer Front が入っています。もう1頭の海外馬ダディー・ロング・レッグス Daddy Long Legs は8着どん尻に敗退。シルヴァー・マックスは5着に終わりました。
ベイリール(フランス・レポートではバイリールと表記しましたが、同じ馬)はアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎、クリストフ・ルメール騎乗。前走7月22日にユジェーヌ・アダム賞(GⅡ)を制してパリから乗り込んできた馬。これでヨーロッパ勢は幸先良い連勝となりました。

次いでは古馬牝馬のビヴァリー・D・ステークス Beverly D. S (芝GⅠ、3歳上牝、9.5ハロン)。勝馬には自動的にBCフィリー・アンド・メア・ターフへの優先出走権が与えられます。出走馬は10頭、ここも海外組が4頭顔を揃えました。3対1の1番人気は、昨夏のシカゴでパッカー・アップ・ステークス(芝GⅢ)に勝った地元アメリカのトーマス・プロクター厩舎が送り出すマーケティング・ミックス Marketing Mix 。前走ベルモントのニュー・ヨーク・ステークス(芝GⅡ)で2着したグレアム・モーション厩舎のアルーナ Aruna も差の無い2番人気(7対2)で続きます。
レースはこれまた地元のロマカカ Romacaca が逃げましたが、アイルランドから遠征のアップ Up が直線で早目にこれを捉えます。しかしゴールでは追込み勢の末脚が勝り、優勝は後方4番手から進み外から抜けた4番人気(6対1)のアイム・ア・ドリーマー I’m A Dreamer 。本命マーケティング・ミックスも追い上げましたが、ゴール板では頭差届かず2着惜敗。4分の3馬身差3着には、3番手を追走したゴスデン/ビュイックの英国チームのジョヴィアリティー Joviality が粘りました。ドイツからの遠征馬カピターレ Kapitale 4着、オブライエン/オダナヒューのアップは6着。
勝ったアイム・ア・ドリーマーは、英国のデヴィッド・シムコック厩舎の遠征組。騎乗したヘイリー・ターナーは、ご存知のように今年28歳の英国を代表する女性騎手。女性騎手がこのレースを制したのは史上初の快挙です。これで海外組は3連勝。

フェスティヴァルを締め括るのは、今年30回目を迎えるアーリントン・ミリオン・ステークス Arlington Million S (芝GⅠ、3歳上、10ハロン、BC)。ビヴァリー・D同様にBCへの優先出走権が与えられますが、こちらはBCターフが対象。11頭立ての5頭までが海外組。ここまでヨーロッパ勢が独占してきたこともあってか、1番人気(3対1)はアメリカン・セントレジャーを制したボッティ/オダナヒュー・コンビのクラッカージャック・キング Crackerjack King 。去年のイタリア・ダービー馬で、今年5月にもイタリアのGⅠ戦(共和国大統領賞)に勝ち9戦7勝の強豪。ただ、前走エクリプス・ステークスではナサニエル Nathaniel の5着に終わっており、英国ではやや格下の存在ではあります。
ヨーロッパ組の1頭アスファーレ Asfare がゲートインを嫌ってスタートはやや遅れます。レースは2番人気(7対2)、地元リトル・マイク Little Mike がスローに落としての逃げ。直線に入っても逃げ馬の脚勢衰えず、一時は5馬身も差を広げた時点で勝負あった。後続馬群からキーレン・ファロン騎乗のアスファーレが抜け出してきましたが、結局は1馬身半差届かず。更に1馬身半差3着には、ゴスデン厩舎のコロンビアン Colombian と伏兵(15対1)ラヒーストラーダ Rahystrada が同着。本命クラッカージャックは5着、去年セクレタリアートに勝ったトレジャー・ビーチ Treasure Beach は6着に終わりました。いずれもスローペースに嵌ってしまった印象です。
海外組の独占を阻止したリトル・マイクは、デール・ロマンス厩舎、ラモン・ドミンゲス騎乗。今年のケンタッキー・タービー当日にターフ・クラシック(芝GⅠ)に勝ち、前走はハリウッドのシューメーカー・マイル(芝GⅠ)で3着していた馬。もちろんアメリカ代表としてBCターフ防衛を目指すでしょう。

以上でシカゴは終わり、恒例のサラトガとデル・マーに行きますが、その前にもう一つ、モンマス・パーク競馬場のフィリップ・H・イズリン・ステークス Philip H. Iselin S (GⅢ、3歳上、9ハロン)を覗きましょう。他の3場はGⅠが並ぶのに対し、こちらは静かにGⅢ。馬場は fast 、1頭取り消しの6頭立て。4対5の圧倒的1番人気に支持されたサン・パブロ San Pablo が期待に応えて圧勝しています。
4番手の中団に待機したサン・パブロ、クリストファー・デカルロの手綱に応えて抜け出し、2番人気(8対5)トビーズ・コーナー Toby’s Corner に3馬身半差を付ける余裕の勝利。頭差3着に、粘るスモール・タウン・トーク Small Town Talk が入りました。
勝馬を管理するトッド・プレッチャー師は、2005年のウエスト・ヴァージニア West Virginia に次いでこのレース2勝目、デカルロ騎手も2006年のパーク・アヴェニュー・ボール Park Avenue Ball に続き2勝目となります。サン・パブロはこれで12戦7勝となりますが、G戦は初勝利。前走はサラトガでの一般ステークス優勝でした。

ここでサラトガ競馬場に移りましょう。こちらもGⅠレース2連発です。最初はソード・ダンサー・インヴィテーショナル・ハンデキャップ Sword Dancer Invitational H (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)。アーリントンで芝祭りが行われているのにも拘わらず、firm の馬場に9頭が出走してきました。1番人気(7対5)は3連勝中の芝巧者ポイント・オブ・エントリー Point of Entry
レースは2番人気(2対1)でユナイテッド・ネイションズ・ステークス(芝GⅠ)勝馬のターボ・コンプレッサー Turbo Compressor が逃げましたが、2番手から徐々に順位を下げても余裕の本命ポイント・オブ・エントリーが抜け出し、2着に追い込んだ4番人気(7対1)アル・カーリ Al Khali に4馬身差を付ける楽勝。2馬身半差で3番人気(5対1)のブリリアント・スピード Brilliant Speed が入り、逃げたターボ・コンプレッサーはドン尻9着に敗退。
クロード・マゴーヒー厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のポイント・オブ・エントリーはこれで4連勝、GⅠレースも前走マン・ノウォー・ステークスに続く連勝で、アメリカの芝コースのチャンピオンに一歩近づいた形です。ライヴァルのターボ・コンプレッサーを破り、相手はミリオンに勝ったリトル・マイクだけでしょうか。
またオーナーのフィップス・ステーブルにとっても、先代オグデン・フィップス氏が第3回の同レースをエファーヴシング Effervescing で勝って以来のソード・ダンサーとなりました。

続いては fast のメイン・コースで行われたアラバマ・ステークス Alabama S (GⅠ、3歳牝、10ハロン)。7頭立ての1番人気(イーヴン)は、前走デラウェア・オークス(GⅡ)に勝ったグレース・ホール Grace Hall 。1番人気で臨んだケンタッキー・オークス(GⅠ)は3着でしたが、去年のスピナウェイ・ステークスで既にGⅠ馬となっている存在です。
レースは、6番枠スタートの2番人気(2対1)クウェスティング Questing が先手を取り、そのままぶっちぎりの逃げ切り勝ち。2着は何と9馬身の大差が付いてイン・ランジェリー In Lingerie が飛び込み、更に8馬身もの差が付いてヴィア・ヴィラッジォ Via Villaggio が3着。本命グレース・ホールは5着と惨敗に終わり、4着で入線したゾー・インプレッシヴ Zo Impressive は故障を発症。生命に別状はありませんでしたが、現役を続けるのは困難な重傷でした。
勝ったクウェスティングは、最後の直線ではフラフラし、尻尾を振る状態でしたが、騎乗したイラッド・オルティス騎手によれば馬が遊んでいたとのこと。他馬が近くにいなかったことでソラを使ったのでしょう。キアラン・マクローリン厩舎の同馬は、前走コーチング・クラブ・アメリカン・オークスに続くGⅠ2連勝。そのオークスでGⅠ初勝利を記録した二十歳になったばかりのオルティス騎手は、その間にヴァンダービルト・ステークスを制したのに続き早くも三つ目のGⅠ勝利となります。

最後は、デル・マー競馬場から、これもGⅠのデル・マー・オークス Del Mar Oaks (芝GⅠ、3歳牝、9ハロン)。firm の芝コース、1頭が取り消して9頭立てで行われました。1番人気(イーヴン)は前走アメリカン・オークス(芝GⅠ)に勝ったレディー・オブ・シャムロック Lady of Shamrock
レースは2番人気(2対1)のエデンズ・ムーン Eden’s Moon とベスト・プレゼント・エヴァー best present Ever が引っ張る縦長の展開になりましたが、度胸良く最後方に待機した本命レディー・オブ・シャムロックが第3コーナー辺りから差を詰め、直線は馬8頭分の大外から一気の急襲。並ぶように追い込んだ最低人気(43対1)のストーミー・ラッキー Stormy Lucky を半馬身抑えて期待に応えました。2着馬が目一杯追っているのに対し、勝馬のマイク・スミス奇襲は最後は馬を抑え、着順以上の楽勝です。2馬身半差で3着は又もや伏兵(25対1)オープン・ウォーター Open Water 。
これでGⅠ2連勝を達成したレディー・オブ・シャムロックは、ジョン・サドラー師の管理馬。サドラー師はこのレース初制覇となりました。アメリカン・オークスは10ハロンでしたが、ここは1ハロン短い9ハロン。先にこの距離(ハネムーン・ハンデ)で惜敗を喫したマイ・ジー・ジー My Gi Gi もデル・マー・オークスに出走していましたが、今回は4着。雪辱も果たしたことになります。

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