日本フィル・第280回横浜定期

昨日は、漸く暑さも収まった午後、横浜みなとみらいホールの日フィル横浜定期を聴いてきました。同オケの新シーズン開幕です。
この回は≪輝け! アジアの星≫と題されたシリーズの第5弾でもありました。今話題の女流指揮者の登場に期待が高まります。私が彼女をナマで聴くのは確か東フィルとのエロイカに次いで2度目。その時も皇帝がありましたが(ソリストは別の人)、今回もベートーヴェンがテーマのこんなプログラム。

ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第5番
 指揮/三ツ橋敬子
 ピアノ/中村紘子
 コンサートマスター/江口有香
 ソロ・チェロ/菊地知也

横浜ならではの選曲ですが、これが中々どうして聴き応えがありましたね。私の中で三ツ橋の存在は次第に大きくなってきているようです。

実は今月の日フィル、私は日記には書かなかったのですが、9月最初に山田和樹の指揮で新たに始まったコンチェルト・シリーズという会を聴きました。そして今回の横浜が続き、来週は東京定期で小林研一郎のブラームスに出掛けます。
山田・三ツ橋は、二人ともコバケンの弟子に当たりますから、9月の日フィルはコバケン・ファミリー総出演の感がありましょう。そこでどうしても比較、ということになってしまいます。

現時点での正直な感想を吐露させて貰えれば、私が今後も積極的にその音楽を聴きたいのは、三ツ橋敬子です。
師匠の音楽は今や彼独自の世界。それが世界的に見て貴重な体験であることは承知しつつも、一歩身を引いてしまう自分がいるのが事実なのですね。もちろん作品によっては何物にも代え難いマエストロであることは疑うまでもありませんが。

そして山田和樹。実は今朝もNHKが大々的にサイトウキネンとの仕事をレポートしていましたが、今や最も期待される若手であることは間違いないでしょう。何しろNHKが小澤の後継であるが如くに報道したんですからね。
それでも未だ私は、彼には一歩踏み込めないところがある。もちろん未だ若い指揮者ですから、聴く度に成長が感じられるのは事実でしょう。しかし先日のラヴェルやラフマニノフの協奏曲でも感じましたが、その才がややクールに過ぎるように感じられる瞬間があるのです。既に場数を多く踏んでいる余裕、それがやや緊張感を削いでいるようにも感じられるのですね。
山田には、もう一人の「ヤマカズ」のようなハチャメチャな姿勢も期待したくなるのでした。

で、昨日の指揮者、三ツ橋。彼女のプロフィールについては、東フィル定期の感想で書きましたから省略。今はヴェネツィア在住ということだけ追加しておきましょう。

今回のベートーヴェン、一言で言えば、真にスリムであり、自らの主張をも強力に推進していく説得力に富んでいる、とでもしておきましょうか。アンサンブルを合わせ、作品の形を整えれば完了と言う若手指揮者が多い中、彼女は更にプラス・アルファを要求して来る。
それがたとえ楽員が望まないものであったとしても、自分の意思は曲げない。その熱意と説得力が、最後にはオケを変えていく。この手続きが彼女には備わっていることが、聴いていて感じられるのです。

彼女はウィーンでベートーヴェンを徹底的に叩き込んでいます。スコアの読みは、単なる形式や強弱を超えたところで獲得したものでしょう。例えばアウフタクトとアタックの区別は、素人耳にも明確に区別できるまでに仕上げられているのです。

協奏曲では、かなり自由に、時には奔放に奏でる中村紘子を寧ろリードするほどの気合。凡百の指揮者なら破綻し兼ねない場面でも、彼女の決断とした棒が演奏を救いました。
それは中村姐御も実感したようで、何度も繰り返されたカーテンコールでも真っ先に三ツ橋を讃えます。この様子を見ただけでも、この演奏がどんなものだったか反芻することが出来ましょう。

最後にアンコールも用意されていました。同じベートーヴェンの12のコントルダンスから第8曲。全編にヴィオラを欠き、第8曲は他の弦にオーボエ2、ホルン2、珍しくタンバリンという編成で書かれ、前半8小節、後半8小節を繰り返す極めて短いピースです。
もちろん三ツ橋の選曲ですが、ここにも彼女の勉強が並みのものではなかったことが窺われました。7番ではなく、8番を紹介するとは・・・。

即ち、コントルダンスは全部で12曲から成りますが、一つ前の第7番には例のエロイカの終楽章で使われるテーマが出てくるのですね。このテーマはベートーヴェンが何度も使ったように、この日のオープニングで演奏されたプロメテウスのバレエでも登場します。
序曲には出てきませんが、隠れテーマとしてアンコール曲にも使われたメロディー。もちろん今回は第3交響曲では無いところもミソで、三ツ橋の実に捻った選曲に唸った定期でもありました。

アジアの星シリーズは1回だけの登場で終わるケースもありますが、三ツ橋に限っては今後も度々招かれるでしょう。積極的に聴きたい若手です。
オーケストラには次代の指揮者を育てるという使命がありますが、それは聴衆にも言えること。積極的に演奏会に出掛け、喝采を通じて次の世代に宝物をプレゼントするという姿勢が大切、ということも心に刻んだ一晩でした。

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