2頭の偉大なチャンピオン

日・月とUSAに出掛けていたためレポートが遅れています。チャンピオン・デイの結果を大急ぎでチェックし、飛行機に飛び乗った次第。

さて去年からスタートしたアスコット競馬場のチャンピオンズ・デイ、それまでニューマーケット伝統のチャンピオン・ステークスとアスコットの秋の目玉だったQEⅡを一纏めにし、長距離と短距離、それに牝馬のクラシック距離戦を一日で施行してしまおうという企画です。
何と言ってもフランケルの現役最後となるチャンピオン・ステークスが超目玉ですが、ここはレース順にレポートして行きましょう。馬場は soft 、重馬場ではありますが、実力のある馬なら問題にはならない程度の重さでしょうか。

先ずはブリティッシュ・チャンピオンズ・ロング・ディスタンス・カップ British Champions Long Distance Cup (GⅢ、3歳上、2マイル)。前身は1873年に創設されたジョッキー・クラブ・カップで、去年からチャンピオン・デイのカードに組み込まれました。9頭立て。
前走アスコット・ゴールド・カップは2着だったゴドルフィンのオピニオン・ポール Opinion Poll が10対3の1番人気。その時の勝馬カラー・ヴィジョン Colour Vision (6対1、5番人気)、去年のゴールド・カップ馬で去年のこのレースを制したフェイム・アンド・グローリー Fame And Glory (11対2、3番人気)、更に一昨年のゴールド・カップを制したライト・オブ・パッセージ Rite Of Passage (8対1、6番人気)が510日振りの実戦を迎えるとあって、3頭のゴールド・カップ馬が揃う豪華版となりました。

レースはイル・ド・レ Il De Re の逃げ、2番手を追走したフェイム・アンド・グローリーが直線で先頭に立ち逃げ込み態勢に入りましたが、愛セントレジャーで接戦の4着した2番人気(4対1)エイケン Aiken が鋭く伸び、残り1ハロンで先頭。勝負あったかに見えた時、終始後方内々を進んだライト・オブ・パッセージがパット・スマーレンのゴーサインに応えてすり抜けるように末脚を爆発、ゴール手前でエイケンを首差捉えて見事に復活を果たしました。半馬身差3着には伏兵(33対1)アスカー・タウ Askar Tau が食い込み、急速にバテたフェイム・アンド・グローリー5着、本命オピニオン・ポールは8着、カラー・ヴィジョン9着どん尻と何れも凡走に終わっています。

前記のように、ライト・オブ・パッセージは2010年のゴールド・カップをトラック・レコードで制した馬。腱に問題を抱えた馬で、ゴールド・カップの後休養、去年はレパーズタウンのリステッド戦(3着)一戦のみ。故障と闘いながらここまで仕上げたデルモット・ウェルド師の手腕に改めて称賛の声が上がっています。
実は同馬はゴールド・カップ出走の前は障害戦にも走っており、このあとも障害レースに出る可能性は排除されていません。そして来年のゴールド・カップで二度目の勝利を目指す方向も検討中とのこと。今年8歳になるせん馬ですから、未だ未だ現役を続行すると思われます。ウェルド師の今後に注目あれ。

続いてはブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリント・ステークス British Champions Sprint S (GⅡ、3歳上、6ハロン)。1946年創設のダイアデム・ステークスを前身とする一戦で、15頭立て。前走ヘイドックのスプリント・カップ(GⅠ)を制したソサエティー・ロック Society Rock が7対2の1番人気。アベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ)に勝ったばかりのフランス馬ウィズ・キッド Wizz Kid が2番人気(4対1)で続きます。

レースはスタートして直ぐスタンドに近いグループ(外枠の4頭)と馬場中央の二つのグループに分かれます。中央の馬群を引っ張るのはデットーリ騎乗(コックス厩舎)のジミー・スタイルズ Jimmy Styles 、スタンド側の先頭はザ・チェカ The Cheka 。スタンド側の最後方を進んだ3番人気(5対1)のマーレク Maarek が積極的に残り1ハロンで先頭に躍り出ると、中央集団から抜けた伏兵(25対1)ホークアイザヌー Hawkeyethenoo を4分の3馬身差抑えて優勝。1馬身4分の3馬身差3着にシリウス・プロスペクト Sirius Prospect の順。本命ソサエティー・ロックは5着、ウィズ・キッドも7着と期待を裏切りました。

勝ったマーレクはアイルランドのデヴィッド・ネーグル厩舎、ジェイミー・スペンサー騎乗。アイルランド遠征組はロング・ディスタンスに続いて早々とダブル達成です。これがシーズン10戦目となるタフなスプリンター、パターン・レースはニューカッスルのチップ・チェーズ・ステークス(GⅢ)、カラーのルネサンス・ステークス(GⅢ)に続く3勝目で、GⅡ格は初制覇となります。

この日3つ目のチャンピオン・シリーズは、牝馬のクラシック距離で行われるブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ・アンド・メアズ・ステークス British Champions Fillies’ And Mares’ S (GⅡ、3歳上牝、1マイル4ハロン)。1946年に創設された前身のプリンセス・ロイヤル・ステークスが2008年にプライド・ステークスと改名され、去年からチャンピオン・シリーズに組み込まれたもの。今シーズンの英国では最後のGⅡ戦となる一戦でもあります。
去年の勝馬で、その年のオークス馬ダンシング・レイン Dancing Rain が久々に登場するのが話題。今年も得意とする逃げ切りでスタンドを沸かせるでしょうか、7対1の3番人気に支持されていました。1番人気(5対2)は2頭が並び、愛オークス馬で凱旋門賞は6着に終わったグレート・ヘヴンズ Great Heavens と、前走コークのギヴ・サンクス・ステークス(GⅢ)を制した堅実無比なサファイア Sapphire 。他に今年のオークス1・2着馬ヴォズ Was とシロッコ・スター Shirocco Star が3歳世代を代表します。

予想通りダンシング・レインが逃げ、ウォズが2番手追走。直線、それまで5番手を追走していたシロッコ・スターが抜け出して先頭に立ちましたが、これをマークするように6番手の外に付けていたサファイアの末脚が勝り、シロッコ・スターに2馬身4分の1差を付けて優勝。一旦は交わされたダンシング・レインも渋太く粘って2馬身4分の3差で3着。4歳馬が1・3着を占めて古馬優位を印象付けました。(というより、3歳勢のレヴェルが低いということか)
前々走ではプリティー・ポリー・ステークス(GⅠ)で2着のサファイア、第1レースのライト・オブ・パッセージと同じデルモット・ウェルド調教師、パット・スマーレン騎手のコンビ。コンビにとってダブル達成となり、チーム・アイルランドとしてもハットトリックとなりました。

そして愈々GⅠのダブル、先ずはクィーン・エリザベスⅡ世・ステークス Queen Elizabeth Ⅱ S (GⅠ、3歳上、1マイル)。去年はフランケルがエクスセレブレーション Excelebration を4馬身切って捨てた一戦。8頭立ての今年も出走してきたエクスセレブレーションが10対11の被った1番人気に支持されていました。

レースは吉田ファミリーの3歳馬エルーシヴ・ケイト Elusive Kate の逃げ、2番人気(5対1)のシティスケープ Cityscape が2番手で追走する展開。ジョセフ・オブライエン騎乗のエクスセレブレーションは馬群の中に入れ、スタンド側のラチ沿いに包まれる位置。
先行馬が続々と仕掛け、後続馬にもムチが入る中、前が壁になって出られないように見えた本命馬、それでも満々の自信を持って騎乗したジョセフは待って待って待って、持ったまま馬群をすり抜け、外に出すと勝負は一瞬。瞬発力を活かした騎乗であっという間に突き抜けると、最後は馬を抑えながらもシティスケープに3馬身差の圧勝。更に3馬身4分の1差でエルーシヴ・ケイトが3着でした。セント・ジェームス・パレスに勝った3歳代表のモースト・インプルーヴド Most Improved は8着どん尻負け。

去年まではボッティ師が管理していたエクスセレブレーション、今年からエイダン・オブライエン厩舎に転じ、フランケルにもロッキンジ、クィーン・アンと二度挑戦して敗退(共に2着)していました。しかしこの二度の敗戦、陣営はフランケルを競り負かす作戦が裏目に出たことを学び、以後は同馬の瞬発力で自身のレースを心掛けてきました。前走ジャック・ル・マロワ賞では今回と全く同じ着順。GⅠ戦が続けて同じ結果になるということは、出走馬のレヴェルが高いということの証明でもありましょう。現役最強馬に負けて一層瞬発力に磨きがかかったエクスセレブレーション、フランケルに続くベスト・セカンドであることは明らかですね。遂に第1レースからここまで、アイルランドの4連勝。
この後は、レース後の経過を見てBC遠征を判断する由。更に現役を続けるか種牡馬として引退するかについても、年内には結論が出るようです。タイムフォームは彼に何ポンドの評価を与えるでしょうか。

一方2着のシティスケープ、当初はこれが引退レースの予定だったようですが、日本遠征(マイル・チャンピオンシップ)の芽も出てきたそうな。馬場は全く違う条件になるでしょうが、出走して来れば日本のマイラーのレヴェルを判断する好材料になりそう。動向に注目したいと思います。

最後はお待ち兼ね、ここ何十年でも最強と評されるフランケル Frankel の最終戦となるチャンピオン・ステークス Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)です。出走馬は僅かに6頭。無敗のフランケルのオッズは2対11と圧倒的なもので、相手と目される去年の勝馬シリュス・デ・ゼーグル Cirrus Des Aigles が9対2の2番人気、注目されないながらも同じく引退レースとなるナサニエル Nathaniel は9対1の3番人気。残り3頭は、ペースメーカーのバレット・トレイン Bullet Train を含めて完全な脇役を務めます。

スタート、いきなりフランケルが3馬身の出遅れでスタンドには不安が過ります。ペースメーカーのイアン・モンガン騎手も不安げに後方を見てフランケルの位置を確認するシーンも。その間隙を衝いて何とペリエ騎乗のシリュス・デ・ゼーグルがハナに立つ場面もありましたが、慌てず馬群の後ろに取り付いたフランケルを見てバレット・トレインが本来のペースメーカーに。
直線、一旦2番手に控えたシリュス・デ・ゼーグルが勝負に出ましたが、トム・クィーリーが持ったまま馬体を寄せると、スタンドの大観衆が総立ちになる中、悠々とフランケルが1馬身4分の3差を付けてゴールイン。スタンド全体が安堵の溜息を吐いたように・・・。3着は2馬身半差が付き、予定通りナサニエル。終わって見ればこれ以上は無い引退劇でした。ガッチリと握手を交わすクィーリーとモンガンに盛大な拍手喝采。最後で英国がチャンピオンズ・デイの面目を保っています。

結局は14戦無敗で現役を終えたフランケル。偉大な競走馬の歴史が閉じられました。ガリレオ Galileo 産駒でありながらダービーにも凱旋門賞にも挑戦しなかったフランケル。この馬に対する評価は今後の専門家たちの作業ですが、一ファンとしては種牡馬としてどのような産駒を出してくるかにも興味を覚える所でしょう。
競馬は、次々とページが書き加えられていく、終わり無きドラマでもあります。

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