見応えあった3強対決
昨日のアスコット競馬場、ヨーロッパの大きな開催としてはシーズン最後となるチャンピオンズ・ミーティングが行われました。一日6レース、最終レースを除く5レースがG戦で、内3鞍がGⅠとなります。
この開催では2歳馬以外のジャンルに有力馬が集結、2013年最後のビッグ・イヴェントに世界の目が集まりました。馬場はシーズン末期らしく soft の重いコース。
第1レースはブリティッシュ・チャンピオンズ・ロング・ディスタンス・カップ British Champoins Long Distance Cup (GⅢ、3歳上、2マイル)。12頭のステイヤーが出走し、今期アスコットで2戦2勝、ゴールド・カップ覇者でエリザベス女王のエスティメイト Estimate が2対1の1番人気に推されていました。
しかし中団を進んだエスティメイト、直線に入っても伸びは見られず、残り4ハロンで脚を失くし7着と期待を裏切ります。来場した女王もガッカリでしょう。スタートして2ハロン地点から先頭に立った4番人気(8対1)ハリス・トゥイード Harris Tweed が直線でも渋太く粘りましたが、中団待機の人気薄(20対1、10番人気)ロイヤル・ダイアモンド Royal Diamond が先頭争いの外から鋭く伸び、ハリス・トゥイードをハナ差捉えての逆転劇。4分の3馬身差で2番人気(13対2)、3歳馬のアイ・オブ・ザ・ストーム Eye of The Storm が3着の順。一昨年ドンカスター・カップを、去年はグッドウッド・カップに勝ったサドラーズ・ロック Saddler’s Rock も5着に終わっています。
人気が無かったとはいえ去年の愛セントレジャー馬ロイヤル・ダイアモンドは、現在はジョニー・ムルタが調教師、ムルタ自身が騎乗する7歳馬。長年のジョッキーとしての経験と、トレーナーとしての知識を活かした勝利だったと言えるでしょう。今年は愛セントレジャー・トライアルに勝ったものの、前走の本番は5着で連覇ならず。来年のアスコット・ゴールド・カップに16対1のオッズも出されています。
続いてブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリント・ステークス British Champions Sprint Cup (GⅡ、3歳上、6ハロン)。14頭立て。先々週ロンシャンでアベイ・ド・ロンシャン賞で戴冠、去年のこのレースの勝馬でもあるマーレク Maarek が7対2の1番人気。
ところがマーレクはスタートを完全にミスしてしまい、スタートで大きく出遅れ。これが致命傷で、最終的には12着で入線しています。レースは3つのグループに分かれる展開、馬場の中央グループを引っ張るフーフ・イット Hoof It を2番手でマークした4番人気(7対1)のスレイド・パワー Slade Power が捉えて先頭に立つと、スタンド側の先頭を走っていた2番人気(5対1)ジャック・デクスター Jack Dexter に馬体を寄せるように左に進路を変え、叩き合いを首差制して優勝。3馬身4分の1差で、これもスタンド側を通る同じ2番人気のヴィズトリア Viztoria が3着に入りました。
アイルランドのエドワード・ライナム厩舎、ウェイン・ローダン騎乗のスレイド・パワーは、去年の6着馬。前走ヘイドックのスプリント・カップ(GⅠ)は2着で、今期はサファイア・ステークス(GⅢ)、フェニックス・スプリント・ステークス(GⅢ)に次ぐ3つ目のG戦勝ちとなります。
第3レースのブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ・アンド・メアーズ・ステークス British Champions Fillies & Mares S (GⅠ、3歳上、1マイル4ハロン)は、今年からGⅠに格上げされた一戦。戦後直ぐに創立された時はプリンセス・ロイヤル・ステークスとして施行されていたレースで、徐々にステータスが上がってきたもの。秋競馬再編に伴って、こんな長いレース名に改名された経緯があります。個人的には旧名プリンセス・ロイヤルの方に愛着を覚えますが・・・。
さて、初のGⅠとなった今年は1頭が取り消して8頭立て。人気は割れ、先々週の凱旋門フェスティヴァルでオペラ賞(GⅠ)を制した4歳馬ダルカラ Dalkala 、3歳馬ながらオークス馬で前走セントレジャーでも牡馬相手に2着と健闘したタレント Talent 、同じ3歳で故サー・ヘンリー・セシル師が期待していたホット・スナップ Hot Snap が7対2で並び、3頭が1番人気という混戦になりました。
そして結果も意外な結末。3頭の人気馬で最先着したのがタレントの3着で、以下ダルカラ4着、ホット・スナップ5着の波乱です。優勝は、5番手の内で包まれながらも外に出して前が開くと一気に抜けた最低人気(16対1)のシール・オブ・アプルーヴァル Seal Of Approval というから驚くじゃありませんか。何と2着ベル・ド・クレシ― Belle de Crecy (9対1、6番人気)に4馬身差の圧勝でした。首差でタレントが漸く3着。
ジェームス・フランショー厩舎、ジョージ・ベイカー騎乗のシール・オブ・アプルーヴァルは、前走初めて挑戦したG戦パーク・ヒル・ステークス(GⅡ)で落馬、今回は初めて完走したG戦でいきなりのGⅠ初制覇となりました。ベイカー騎手にとってもGⅠは初勝利でしたが、本来ならヘイリー・ターナー(女性騎手)が騎乗する筈だったもの。前回の落馬事故でターナーは目下療養中。ベイカーとしても申し訳ない気持ちの方が先に立っていた様子です。父オーソライズド Authorized は重巧者として知られた存在、その遺伝子を受け継ぎ、大好きな馬場で才能が開花したと思われます。
次はクイーン・エリザベスⅡ世ステークス Queen Elizabeth Ⅱ S (GⅠ、3歳上、1マイル)。本来アスコット競馬場で行われてきたレースで、今年は12頭と多頭数。強さと弱さが同居する感のある2000ギニー馬ドーン・アプローチ Dawn Approach が2対1の本命。ムーラン・ド・ロンシャン賞(GⅠ)勝馬マクシオス Maxios が4対1の2番人気で続きます。
バーワーズ Burwaaz の逃げ、ドーン・アプローチは中団を進みましたが、重馬場に苦しんで結局は4着まで。後方で機を窺っていた3番人気(11対2)のオリンピック・グローリー Olympic Glory が馬群をこじ開けるように末脚を爆発させると、敢えて追加登録料を支払って参加した伏兵(14対1、6番人気)トップ・ノッチ・トント Top Notch Tonto に3馬身4分の1差を付けて完勝。更に4分の3馬身差でキングスバーンズ Kingsbarns が復活の走りで3着。マクシオスは8着に沈みました。
勝馬を管理するリチャード・ハノン師は、これで今年のリーディングをほぼ確実にしました。騎乗したリチャード・ヒューズは、やや強引なレースで抜けたことが審判の目に留まり、不注意騎乗で2日間の騎乗停止処分に課せられています。
ハノン師は当日の朝エリザベス女王に電話したところ女王から、“私がトロフィーをプレゼントしますから楽しみに”と賜り、“必ず受け取ります。では競馬場で。”と答えたと言うエピソードを紹介してくれました。ジャック・ル・マロワ賞、ムーラン・ド・ロンシャン賞と2戦続けて2着だったオリンピック・グローリー、今回初めて装着したブリンカーが功を奏したようです。2歳時のジャン=リュック・ラガルデール賞に続く二つ目のGⅠ制覇。
同馬のオーナーであるシェイク・ジョハーンは、先の凱旋門賞を制したトレーヴ Treve も所有しており、連続のGⅠ制覇。来年の現役続行を明言しました。
一方敗れたドーン・アプローチ、勝っても負けてもこのレースを最後に引退が決まっており、ゴドルフィンのキルダンガン・スタッドで種牡馬入り。ゴドルフィン陣営は、今後はその産駒に期待するとコメントしています。
愈々最後はチャンピオン・ステークス Champion s (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。秋の再編でこれまでのニューマーケットからアスコットに移ってきました。今年は10頭立て。いろいろ批判を受けながらも、ここ2戦でGⅡに連勝して復活を印象付けたシリュス・デ・ゼーグル Cirrus Des Aigles が6対4の1番人気。2度目の優勝を目指し、去年の勝馬フランケル Frankel の後を襲うべく期待が掛かります。
レースはゴドルフィンのハンターズ・ライト Hunter’s Light がペースを作ります。陣営は決してペースメーカーではないと語りましたが、結果的には2番手に付けた同厩の2番人気(11対4)ファー Farhh が直線で先頭に立ち、6番手から伸びたシリュス・デ・ゼーグル、これをマークするように7番手追走の3番人気(13対2)ルーラー・オブ・ザ・ワールド Ruler Of The World が更に外から迫って3頭のスリリングな叩き合いに。
ゴールまで3頭の熾烈な争いが続きましたが、結局3頭の差は詰まらず、首差でファーが戴冠、2着にシリュス・デ・ゼーグルが入り、半馬身差でルーラー・オブ・ザ・ワールドの順。大きく離された4着ハンターズ・ライトで、如何に3頭が抜けた戦いを演じたかが証明されています。
ファーはもちろん4着馬と同じサイード・ビン・スロール厩舎、勝馬にはシルヴェストル・デ・スーザが騎乗していました。今年春にロッキンジ・ステークス(GⅠ)を制して以来久し振りの実戦。脚部不安から立て直しての快挙ですが、これを以て引退、こちらはダーラム・ホール・スタッドで種牡馬入りが決まっています。
デビューから3連勝、最後も2連勝で締め括ったファー。その間も2着4回、3着1回と着外に落ちたことはなく、2着の相手もフランケルに2回、他もムーンライト・クラウド Moonlight Cloud とナサニエル Nathaniel という強豪で、脚部不安が無ければと悔やまれます。
またシリュス・デ・ゼーグルは負けたとは言え、外枠の不利を克服しての善戦。決して名声に傷が付くものでもありません。せん馬でもあり、バルブ女史も来期の現役続行を示唆しました。
また凱旋門賞では見せ場なく7着敗退の英ダービー馬ルーラー・オブ・ザ・ワールド、今回はベストに戻ったことを印象付ける好走で、オブライエン師も来シーズンに期待を寄せています。トレーヴに雪辱を期すべく、クラシック距離の中心を目指すことになるでしょう。
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