2012・BCシリーズ初日

今年もブリーダーズ・カップの季節がやって来ました。ニュースでも報じられているように、10月末に大型ハリケーン「サンディ」が東海岸を直撃、ニューヨークやニュージャージーに大きな被害を齎しました。
今年のBCの舞台であるサンタ・アニタ競馬場は西海岸、直接の被害はありませんが、ニューヨークを本拠地にする出走馬はハリケーンの動向を見ながらの移動を余儀なくされたようです。

それでも昨日、無事に初日を迎えました。
ブリーダーズ・カップの前に、この日チャーチル・ダウンズ競馬場で行われたアック・アック・ハンデキャップ Ack Ack H (GⅢ、3歳上、8ハロン)を先に取り上げておきましょう。fast の馬場に1頭が取り消して7頭立て、プレッチャー厩舎のドミナス Dominus が7対5の1番人気に支持されていました。去年のダイヤー・ステークス(GⅡ)の勝馬、今年もサラトガでGⅡのバーナード・バルーク・ハンデを逃げ切り勝ち。GⅢ戦では格上と言う評価でしょう。
レースは大外枠(と言っても8番)発走の3番人気(5対1)フォート・ラウドン Fort Loudon が先手を取り、ドミナスは2番手を追走。前4頭、後3頭の流れから、後方2番手を進んだ2番人気(8対5)ネックン・ネック Neck’n Neck が徐々に外に出し、直線では馬4頭分の大外から一気の末脚を決めて快勝。2馬身4分の1差の2着争いは4頭が一団で、写真判定の結果フォート・ラウドンが逃げ粘って2着、首差3着にスティールケース Stealcase の順。ドミナスは僅差で5着に終わりました。
イアン・ウイルケス厩舎、ブライアン・ジョセフ・ヘルナンデス騎乗のネックン・ネックは、インディアナ・ダービー(GⅡ)を制した3歳馬。今回が古馬との初対戦となります。ここを叩き台として、11月24日の伝統あるクラーク・ハンデ(GⅠ)に向かう予定。またウイルケス厩舎とヘルナンデス厩舎は明日、BCクラシックにフォート・ラーンド Fort Larned で挑戦、これを手土産にサンタ・アニタに乗り込みます。

愈々ここからはサンタ・アニタ競馬場を舞台とするブリーダーズ・カップ。今年は2日間で15レースの盛り沢山で、初日が6レース、2日目が9レースの日程です。当初7レースでスタートしたBCですが、現在は2倍を超えるレース数、個人的にはGⅠの大安売りと言う感じがしなくもありません。
15レース中、13レースがGⅠ戦。残るはGⅡが一鞍とグレードに格付けされないものが一つ。当日記はG戦レポートが目的ですが、ノン・グレードのBCも合わせてレポートしましょう。初日の馬場は、メイン・コースが fast 、芝コースが firm で行われました。

オープニングは、そのノン・グレードのブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・スプリント Btrrdess’ Cup Juvenile Sprint (2歳、6ハロン)。去年から新設されたジャンルで、5鞍ある2歳戦で牡牝が混合で走れるのはこれだけ。当初7頭の登録がありましたが、当日朝馬房で負傷した馬が1頭、レース直前に跛行が見られて取り消しが1頭と、最終的には5頭立てで行われました。BC史上最も少ない出走頭数です。3頭の牡馬に牝馬が2頭挑戦する構図で、サンタ・アニタの一般ステークスを含めて2戦2勝のメリット・マン Merit Man が1対2の断然1番人気。
メリット・マンが好スタートで予定通り先頭に立ちましたが、英国(トム・ダスコウム厩舎)から参戦したシーリング・キッティー Ceiling Kitty (クィーン・マリー・ステークス(GⅡ)の勝馬、前走チーヴリー・パークは7着)が競り掛け、楽な逃げにはなりません。欧州馬を振り切って先頭に立ったメリット・マンでしたが、4番手を進んだ最低人気(15対1)のハイテイル Hightail が内ラチ一杯に伸び、一旦は半馬身ほど差を付けられましたが、最後は再び差し返してスリリングなゴール。写真の結果、ハイテイルがハナ差でメリット・マンを抑えていました。3着は2馬身4分の1差で牝馬のスイート・シャーリー・メー Sweet Shirley Mae 。先行争いで消耗したシーリング・キッティーが5着最下位。直線の叩き合いで2頭が数回に亘って接触し審議になりましたが、着順通りで確定しています。
勝馬を管理するウェイン・ルーカス師は、2005年以来久し振りのBC制覇。77歳の師にとってはこれがBC通算19勝目となり、2位以下を10勝も引き離す最多勝利を更新しました。鞍上はラジーヴ・マラー。番狂わせを演じたハイテイルは、メンバー中最多となるこれが9戦目。ここまで未勝利ながら、G戦での経験は豊富でした。ルーカス師が出走を決定したのはレース直前だった由。

続いてはブリーダーズ・カップ・マラソン Breeders’ Cup Marathon (GⅡ、3歳上、14ハロン)。2008年創設で、GⅡに格付けされたのは2010年から。今年は1頭が取り消して13頭立て。ここもサプライズが待っていました。3対1の1番人気は、今年のベルモント・ステークスで3着した3歳馬アティガン Atigan 。オブライエン厩舎の古豪フェイム・アンド・グローリー Fame and Glory (ジェイミー・スペンサー騎乗)が2番人気(7対2)で続きます。他にヨーロッパ勢はウェルド厩舎のセンス・オブ・パーパス Sense of Purpose (パット・スマーレン騎乗)が21対1の伏兵。
レースはジェイシート Jaycito が逃げましたが、これをマークしたアティガンが先頭を奪って逃げ込みを図ります。しかし前半は離れた最後方に待機した9番人気(17対1)のアルゼンチン馬カリドスコピオ Calidoscopio が向正面から徐々に進出、直線では先行馬を纏めて差し切る圧勝劇。4馬身4分の1差2着にも7番人気(13対1)のグラッシー Grassy が追い込む大波乱です。漸く半馬身差3着に本命アティガン。フェイム・アンド・グローリーは前半は流れに乗っているように見えましたが、向正面で一気にやる気を失くして後退、13着どん尻に終わりました。センス・オブ・パーパスも一つ前のブービーに終わり、ヨーロッパ勢にとっては惨めなマラソンになりました。レース後、オブライエン師がフェイム・アンド・グローリーの引退を発表、最早この馬はレースに走る興味は完全に失せてしまったようですね。
観衆を唖然とさせたカリドスコピオは、アルゼンチンのグリエルモ・フランケル師が管理し、アーロン・グライダーが騎乗した何と9歳馬。BC史上、最も高齢な勝馬となりました。騎手にとっても調教師にとっても、もちろん馬にとってもBCは初制覇となります。同馬はこれで39戦10勝(40戦というデータもありますが)、自国ではアルゼンチン共和国賞(GⅠ)の勝鞍があり、他にGⅡが3勝、GⅢは2勝の実績もある牡馬です。

第3弾はブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ Breeders’ Cup Juvenile Fillies Turf (芝GⅠ、2歳牝、8ハロン)。これも2008年創設の新規参入ジャンルで、当初は制限枠を超える16頭が登録。結局は枠内から1頭が取り消し、はみ出した1頭が除外となる14頭立てで行われました。芝コースとあってヨーロッパ勢のスカイ・ランターン Sky Lantern が5対2の1番人気。リチャード・ハノン厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗、前走アイルランドでモイグレア・スタッド・ステークス(GⅠ)に勝った馬ですね。
先行したのはプレッチャー厩舎のタラ・フロム・ザ・ケイプ Tara From the Cape 、スカイ・ランターンは中団の内で抜け出す機会を待ちます。しかし直線、多数の馬が内で犇めく中、9番手待機から外を回って追い込んだ6番人気(11対1)のフロティーラ Flotilla が鋭く伸び、混戦のインコースを尻目に地元馬で3番人気(6対1)のワッツダチャンシズ Watsdachances に1馬身4分の1差を付けて優勝。半馬身差でブービー人気(43対1)のサマー・オブ・ファン Summer of Fun が食い込む波乱です。逃げたタラ・フロム・ザ・ケイプ4着。期待のスカイ・ランターンは結局内で包まれたまま、ヒューズは馬を追うことすら出来ず8番手でゴール板を通過しました。
優勝を攫ったフロティーラはフランスからのチャレンジ。ミケール・デルザングレ厩舎、騎乗したクリストフ・ルメールにとっては念願のBC初勝利となります。ヨーロッパ勢がこのレースを制したのも5年目にして最初のこと。前走マルセル・ブーサック賞では4着だったフロティーラ、来年のクラシック候補であることは間違いないでしょう。

次のブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ Breeders’ Cup Juvenile Fillies (GⅠ、2歳牝、8.5ハロン)は、BCシリーズがスタートした1984年からずっとGⅠとして開催されてきた伝統の一戦。8頭が出走し、東のドリーミング・オブ・ジュリア Dreaming of Julia (フリゼッテ・ステークスGⅠ勝馬、プレッチャー厩舎)と西のエクゼキュティヴプリヴィリッジ Executiveprivilege (シャンデリア・ステークスGⅠ勝馬、バファート厩舎)との無敗馬対決が話題の一つです。エクゼキュティヴが3対2の1番人気、対するドリーミングは9対2の3番人気。2頭の間に入って2番人気(7対2)に支持されたビホールダー Beholder は、ジュヴェナイル・スプリントを止めてこちらに回ってきた馬で、本命馬とのライヴァル関係にあったスピードの持ち主。
そのビホールダー、今回も先手を取って逃げ作戦。直線、期待通り3番手に付けていたエクゼキュティヴプリヴィリッジが差を詰めてきましたが、今回はやや外に寄れるような場面もあり、結局はビホールダーがエクゼキュティヴに1馬身差を付けて逃げ切りました。4馬身4分の1差3着にドリーミング・オブ・ジュリア、今回の東西対決は西に軍配が上がっています。4着にもここまで無敗、スプリントを回避してこちらに回ったカウアイ・ケイティー Kauai Katie (これもプレッチャー厩舎)の順。
リチャード・マンデラ厩舎、ギャレット・ゴメス騎乗のビホールダーは、前走同じサンタ・アニタのアローワンス戦を11馬身差で逃げ切った馬。デル・マー・デビュタント(GⅠ)ではエクゼキュティヴプリヴィリッジに負けたとは言え、逃げに逃げて最後はハナ差負け。今回はその雪辱を果たすとともに、1マイルでも抜かせない根性を証明した形です。

初日のBC、最後から2番目はブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・ターフ Breeders’ Cup Fily & Mare Turf (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)。これは1999年から行われている一戦です。牝馬の芝コース10ハロンということで、土曜日のターフに向かう牝馬を減らしてしまう結果になっているのじゃないでしょうか。1頭取り消して11頭立て。8対5の1番人気はザ・フューグ The Fugue 、ジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗の英国代表で、ナッソー・ステークス(GⅠ)に勝ち、ヨークシャー・オークスでは惜しくもシャレータ Shareta の2着だった馬。地元のマーケティング・ミックス Marketing Mix (ロデオ・ドライヴ・ハンデGⅠ勝馬)と、フランスのリダシーナ Ridasiyna (オペラ賞GⅠ勝馬)が並んだ2番人気(5対1)で続きます。
人気の無いスター・ビリング Star Biling の先行、マーケティング・ミックスが2番手に付け、本命ザ・フューグは6~7番手の内に待機します。直線、終始内の4番手に付けていた4番人気(9対1)のザゴラ Zagora が巧く外に持ち出し、追い縋るマーケティング・ミックスを4分の3馬身振り切って優勝。ザ・フューグは内に包まれたまま前が開かず、漸く伸びたものの半馬身差の3着、明らかにアンラッキーなレースでした。すんなり前が開けば勝っていた内容。リダシーナも最後方から最後に追い上げたものの4着まで。ヨーロッパ勢にはややストレスの溜まる一戦でした。
勝ったザゴラはフランスから移籍してきた馬。元はと言えばヨーロッパ血統の馬ではあります。チャド・ブラウン師の管理馬、ハヴィエル・カステラノ騎乗。ブラウン師にとってBCは、2008年ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフのマラム Maram に次ぐ2勝目ですが、マラムはノン・グレード時代の勝利。GⅠのBCとしては初制覇となります。またザゴラは去年のダイアナ・ステークスでブラウン師にGⅠ初制覇をプレゼントした馬。今年5つ目のG戦勝利となり、堅実な競走馬の典型と言えるでしょう。

初日のメインはブリーダーズ・カップ・レディーズ・クラシック Breedesrs’ Cup Ladies’ Classic (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。BCシリーズの最初から施行されてきましたが、当初のBCディスタッフという名称からは変更になっています。今年は比較的小頭数の8頭立て、前年の覇者ロイヤル・デルタ Royal Delta が連覇を掛け、8対5の1番人気に支持されていました。新たなスターにも事欠かず、10戦無敗の4歳馬オウサム・フェザー Awesome Feather が2対1の2番人気、また7戦無敗の3歳馬マイ・ミス・オーレリア My Miss Aurelia も6対1の3番人気。3強対決の趣もありました。
スタート直後、4番人気(8対1)でアラバマ・ステークス(GⅠ)の覇者クエスティング Questing が徐々に遅れ出し、向正面では競争を中止してしまうハプニング。馬運車で病院に直行しましたが、目に見える故障は無く、精密検査の結果待ちとか。ゴドルフィンの期待馬だけに、繁殖馬としても価値が高く、結果が気になります。
一方レースは熾烈な先行争いを制したロイヤル・デルタが終始リードを守り、直線でのマイ・ミス・オーレリア、次いでインクルード・ミー・アウト Include Me Out の追い上げを凌いで見事期待に応えました。1馬身半差でマイ・ミス・オーレリアが2着、更に1馬身4分の1差でインクルード・ミー・アウト3着。5番手を進んだオウサム・フェザーはペースに付いていくのがやっと、6着に終わって初黒星を喫しました。
レディーズ・クラシックを2連覇、今年の最強古馬牝馬のタイトルに王手を掛けたロイヤル・デルタ、去年は最強3歳牝馬に輝いており、2年連続のタイトルは間違いないでしょう。これでG戦は7勝目。ウイリアム・モット厩舎所属、騎乗したマイク・スミスはBC16勝目。最多勝のトップを走ります。

金曜日のBCはこれでスケジュールを終えましたが、サンタ・アニタ競馬場は最終レースにもG戦を組んでいます。オマケと言うか余分と言うか、以前はオーク・トゥリー・ダービー Oak Tree Derby として知られたトゥワイライト・ダービー Twilight Derby (芝GⅡ、3歳、9ハロン)。今年からレース名が変更されました。スタート時間からしても、正に黄昏のダービーと申せましょうか。1頭取り消しの9頭立て。人気は割れて、アイルランド(ウェルド厩舎、スマーレン騎乗)のスピーキング・オブ・ウイッチ Speaking of Which と地元のマイ・ベスト・ブラザー My Best Brother が5対2の1番人気を分け合っていました。
レースはホイスト Hoist と人気の一角マイ・ベスト・ブラザーが3番手以下を引き離して逃げる展開。直線、5番手から進出したスピーキング・オブ・ウイッチが抜け出して逃げ込みを図るところ、スタートで躓き後方を進んだ4番人気(5対1)のグランディア Grandeur が馬群を割って鬼脚での追い込み、スピーキング・オブ・ウイッチに半馬身差を付ける快勝です。1馬身差でスマート・エリス Smart Ellis が3着。マイ・ベスト・ブラザーは5着に終わりました。
勝ったグランディアはジェレミー・ノセダ厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗の英国参戦組で、ザ・フューグで抜け出せなかったビュイック騎手にとっては胸がすくような差し足だったでしょう。皮肉にもビュイックとスマーレンのワン・ツーは、この日のG戦では最もヨーロッパ競馬らしい一戦でした。

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