ドリーム・カム・トゥルー
長い一日が漸く終わりました。昨日のサンタ・アニタ競馬場、ブリーダーズ・カップ開催の二日目です。この日はアケダクトとチャーチル・ダウンズでもG戦が行われましたが、それは最後に。先ずはサンタ・アニタの熱戦をレース順に紹介して行きましょう。
土曜日はBC9鞍全てがGⅠ戦ですが、その前座として短距離のG戦が一鞍行われています。セナター・ケン・マッディー・ステークス Sen. Ken Maddy S (芝GⅢ、3歳上牝、6.5ハロン)。このコース特有の下り坂、firm の馬場に2頭が取り消し、11頭立て。前走同じコースで勝っているポンチャトレイン Pontchatrain が2対1の1番人気に支持されていました。
逃げるスカイ・ハイ・ギャル Sky High Gal の4番手に付けたポンチャトレイン、直線では外から追い込んで2着ワインディング・ウェイ Winding Way に1馬身差を付け、見事に期待に応えています。半馬身差でジュディー・イン・ディスガイズ Judy In Disguise が3着。
トーマス・プロクター厩舎、ゲーリー・スティーヴンス騎乗のポンチャトレインは、先に紹介したように同じコース、同じ距離で一般ステークスに優勝。前走からスティーヴンスがコンビを組んでおり、同馬の特徴を掴んでの完璧な騎乗でした。
そして圧巻のBCシリーズ、二日目の第1弾は、ブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ Breeders’ Cup Juvenile Fillies (GⅠ、2歳牝、8.5ハロン)から。メイン・コースは fast 、10頭が出走し、スピナウェイ・ステークス(GⅠ)勝馬のスイート・リーズン Sweet Reason が5対2の1番人気に推されています。
レースは大外スタートの4番人気(5対1)シーザ・タイガー She’s a Tiger が果敢に飛ばす先行策。第3コーナー手前では後続を4馬身も引き離して逃げ込みを図ります。これに外から襲い掛かったのが、前半6番手から徐々に進出したブービー人気(32対1)のリア・アントニア Ria Antonia 。ゴール前は2頭の叩き合いとなり、辛うじてシーザ・タイガーがハナ差で先着、半馬身差でロザリンド Rosalind が3着入線。
しかし最後の競り合いでシーザ・タイガーが外に寄れ、リア・アントニアと接触したことが問題となり、長い審議の末、1・2着が入れ替わる波乱となりました。また、レース中にバファート厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のシャンデリア・ステークス(GⅠ)勝馬シークレット・コンパス Secret Compass が落馬。馬は安楽死となり、ヴェラスケスも負傷して病院に運ばれるアクシデント。この日のBC全てに騎乗するヴェラスケスは、結局手術が必要との診断で、その後のレースは全て乗り替わりとなるアクシデントになってしまいました。
裁決室で勝利を手にしたリア・アントニアは、これがBC初勝利となるジェレミア・エングルハート厩舎所属、鞍上はBC3勝目のハヴィエル・カステラノでした。7月にカナダで1勝したのみの戦績で、前走フリゼッテ・ステークス(GⅠ)は5着に過ぎなかった馬、人気が無かったのも当然でしょう。いきなりの落馬と大穴、何やら不安を感じさせるスタートでした。
続いてブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・ターフ Breeders’ Cup Filly & Mare Turf (芝GⅠ、3歳上牝、10ハロン)。変わらず firm のコース、ここも10頭が出走し、英国から参戦のダンク Dank が3対2のやや被った1番人気。前走のアメリカ・デビューでもGⅠ戦を圧勝した実績に信頼が集まっていました。
レースを引っ張ったのは、マイク・スミス騎乗の地元馬エモリエント Emollient 。これを2番手でマークしたダンクが第4コーナー手前で並び掛けると、4番手から追走する2番人気(9対2)フランス馬ロマンティカ Romantica を半馬身抑えて優勝。更に半馬身差でアルテライト Alterite が3着。人気を集めたヨーロッパ勢がワン・ツー・フィニッシュを演じ、前のレースの暗雲を一掃した印象です。
サー・マイケル・スタウト厩舎、ライアン・ムーア騎乗のダンクは、ヨーロッパでGⅡとGⅢをいくつも勝ってきた4歳馬で、前走アメリカ・デビューのビヴァリー・D・ステークス(芝GⅠ)を圧勝してGⅠ初制覇。今回は前走ほどの圧勝劇にはなりませんでしたが、それでも堂々本命馬として期待に応えました。なお3着は負傷したヴェラスケスが騎乗予定でしたが、前のレースで勝ったハヴィエル・カステラノに乗り替わっています。
3つ目はブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・スプリント Breeders’ Cup Filly & Mare Sprint (GⅠ、3歳上牝、7ハロン)。12頭が揃い、去年のこのレースの覇者グルーピー・ドール Groupie Doll が3対1の1番人気。
熾烈な先頭争いから、最後にハナに立ったのは2番人気(5対1)のスイート・ルル Sweet Lulu 。前半5~6番手から進めたグルーピー・ドールが徐々に順位を上げてスパート、最後はジュディー・ザ・ビューティー Judy the Beauty に半馬身差競り勝って見事に2連覇を達成しました。更に半馬身差でダンス・カード Dance Card が3着。
去年感動的な勝利を体験したウイリアム・ブラッドリー師は、オーナーである父親に2年連続となる勝利をプレゼント、ラジーヴ・マラーが騎乗していました。グルーピー・ドールは、去年のBC勝ちのあと牡馬相手にシガー・マイル(GⅠ)で2着。今期はガーデニア・ステークス(GⅢ)3着がデビューで、そのあとプレスク・アイルのマスターズ・ステークス(GⅡ)に勝ち、前走サラブレッド・クラブ・オブ・アメリカ(GⅡ)が3着。前年ほどの出来に無いのではないかとの批判もありましたが、4つ目となるGⅠ制覇でそのスピードと実力を見せ付けた形です。
彼女はキーンランドのノヴェンバー・セールに登録しており、これを最後に陣営を離れることが決まっています。ブラッドリー父子にとっては、去年を上回る思い出になるでしょう。
次のブリーダーズ・カップ・ターフ・スプリント Breeders’ Cup Turf Sprint (芝GⅠ、3歳上、6.5ハロン)にも連覇が掛かります。1頭が取り消して13頭立て。前年の覇者ミズディレクション Mizdirection が、ここでも5対2の1番人気。果たしてグルーピー・ドールに続くことが出来るでしょうか。
逆転を目論む2番人気(9対2)ルネースゴットジップ Reneesgotzip の逃げを3番手で追走したミズディレクション、期待に応えて抜け出すと、激戦の2着争いに半馬身差を付けてグルーピー・ドールに続きました。写真判定の結果、2着はルネーズゴットジップとタントゥンド・タッチダウン Tightend Touchdown の同着。
マイク・パイプ厩舎、マイク・スミス騎乗のミズディレクションは、前走ジャスト・ア・ゲイム・ステークス(芝GⅠ、1マイル)5着のあと5か月の休み明け。去年もそれより長い休養明けで勝っていますから、久々の競馬も不安材料とはなりませんでした。サンタ・アニタのこのコースはこれで6戦6勝のスペシャリストでもあります。まさかグルーピー・ドールを模したわけではないでしょうが、この馬もノヴェンバー・セールで売却予定。日本人ホースマンが殺到する可能性もありそうですね。
残り5鞍は、シリーズが創設されてから行われてきた伝統のブリーダーズ・カップ。その最初はブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル Breeders’ Cup Juvenile (GⅠ、2歳牡せん、8.5ハロン)で、1頭が取り消して13頭立てで行われました。5対2の1番人気は、シャンペン・ステークス(GⅠ)を制したゴドルフィンのハヴァナ Havana 。本来はヴェラスケス騎乗でしたが、ゲーリー・スティーヴンスに乗り替わり、無敗のまま戴冠できるでしょうか。
コンケスト・タイタン Conquest Titan がハナを叩きましたが、これを3番人気(7対1)のストロング・マンデイト Strong Mandate が交わして先頭。ハヴァナも徐々に進出して2番手で直線。本命馬が期待に応えるかに見えましたが、前半7番手に待機していた4番人気(10対1)のニュー・イヤーズ・デイ New Year’s Day が直線で内ラチ沿いを追いこみ、遂にはハヴァナを1馬身4分の1差し切っての逆転劇です。更に4分の3馬身差で粘ったストロング・マンデイトが3着。
ボブ・バファート厩舎、マーチン・ガルシア騎乗のニュー・イヤーズ・デイは、8月のデル・マーでのデビュー戦が3着、2走目に同じデル・マーで初勝利を挙げ、これが3戦目。ただ勝った時の2着馬ボンド・ホルダー Bond Holder が、次走でフロントランナー・ステークス(GⅠ)に勝ったこともあり、G戦初挑戦の割には人気がありました。バファート師はこの日、ジュヴェナイル・フィリーズでシークレット・コンパスを失っており、その慰めともなるジュヴェナイル制覇です。
続いては、伝統的にヨーロッパ勢が強いブリーダーズ・カップ・ターフ Breeders’ Cup Turf (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)。去年勝った地元のリトル・マイク Little Mike を含む12頭が出走してきましたが、3対2の1番人気に支持されたのは、英国のザ・フューグ The Fugue。リトル・マイクは3番人気(5対1)に甘んじています。
レースは、ティークス・ノース Teaks North が飛ばす速い流れ。リトル・マイクは2番手を追走し、ザ・フューグは中団から。ペースが速いこともあって先行馬が潰れ、ザ・フューグが完璧な脚で抜け出しましたが、これを上回ったのが最後方で我慢していた6番人気(12対1)のマジシャン Magician 。驚異的な爆発力でザ・フューグを半馬身差し切っての快勝です。更に4分の3馬身差でアルゼンチンのインディー・ポイント Indy Point が3着に入り、リトル・マイクは8着敗退。
マジシャンはアイルランドのエイダン・オブライエン師が送り込んだ出走馬中唯一の3歳馬で、冷静なライアン・ムーア騎乗。オブライエン師にとっては2002年と2003年のハイ・シャパラル High Chaparral (2003年は同着)、一昨年のセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey に続く4度目のBCターフ、ムーア騎手も2008年と2009年を連覇したコンデュイット Conduit に次ぐ3度目のターフ制覇となります。マジシャンは今年の愛2000ギニー勝馬で、前走セント・ジェームス・パレス・ステークス(GⅠ)9着敗退以来の競馬。1マイル半への適性を見抜いていたオブライエン師としても、満を持しての挑戦だったと言えるでしょう。
そして、短距離王決定戦となるブリーダーズ・カップ・スプリント Breeders’ Cup Sprint (GⅠ、3歳上、6ハロン)。12頭が出走し、今期2戦目ながら前走で復活したシークレット・サークル Secret Circle が5対2の1番人気。去年の勝馬トリンニバーグ Trinniberg は今期は不振で、8番人気(17対1)でしかありません。
サム・オブ・ザ・パーツ Sumof the Parts が逃げ、これをジェントルメンズ・ベット Gentlemen’s Bet が捉えたところに、4番手から一旦6番手に控えたシークレット・サークルが期待通り大外から襲い掛かり、ラフ・トラック Laugh Track との競り合いを首差制して優勝。1馬身4分の1差でジェントルメンズ・ベットが3着。トリンニバーグは9着大敗に終わりました。
ボブ・バファート厩舎、マーチン・ガルシア騎乗は、ジュヴェナイルのニュー・イヤーズ・デイと同じチーム。バファート師は、1992年のサーティ―・スルーズ Thirty Slews 、2007年と2008年を連覇したミッドナイト・リュート Midnight Lute に続く4勝目のスプリントです。今年のシークレット・サークル、2歳時にはノングレードのBCジュヴェナイル・スプリントに勝った馬で、BCと名の付くレースは2勝目。その間、去年はオークローン・パークでサウスウエスト・ステークス(GⅢ)、レベル・ステークス(GⅡ)にも勝ち、アーカンソー・ダービー(GⅠ)2着のあと長期休養に入っていた実力馬です。通算成績は9戦7勝2着2回とほぼ完璧。18か月ぶりの前走に勝ち、本格的に復活したと見てよさそうですね。
最後から2番目となるブリーダーズ・カップ・マイル Breeders’ Cup Mile (芝GⅠ、3歳上、8ハロン)は、何と言っても去年の年度代表馬で、マイル2連覇を目指すワイズ・ダン Wise Dan が中心。12頭立ての断然1番人気(4対5)に支持されていました。
そしてやはりワイズ・ダンは強かった。逃げるオビアスリー Obviously を捉えて早目に先頭に立ったザー・アプルーヴァル Za Approval の外から迫り、同じく内を衝いたシレンティオ Silentio も抜かせず完勝。2着ザー・アプルーヴァルとは4分の3馬身差、3着シレンティオともやはり4分の3馬身差を付けていました。去年に続く2連覇達成で、2年連続年度代表馬に選ばれるかどうか。
チャールズ・ロプレスティ厩舎、本来ならジョン・ヴェラスケスが騎乗するはずでしたが、急遽ホセ・レズカノへの乗り替わり。これも問題にはなりませんでした。これで6つ目のGⅠに勝ったワイズ・ダン、前走はポリトラックに変更されたシャドウェル・ターフ・マイル(GⅠ)で2着と不覚を取りましたが、それまでは今期G戦に4連勝。夏場にGⅡを二つ使ったことで陣営を批判する意見もあったようですが、やはり王者は王者だったことを証明しています。
愈々最後は、BC最大の目玉となるブリーダーズ・カップ・クラシック Breeders’s Cup Classic (GⅠ、3歳上、10ハロン)。ロン・ザ・クリーク Ron the Creek が出走を回避して11頭立て。去年の1番人気で今期も5戦無敗のゲーム・オン・デュード Game On Dude が8対5の1番人気。去年2着の無念を晴らしたいムチョ・マチョ・マン Mucho Macho Man が4対1の2番人気、BC創設以来クラシック制覇に執念を燃やすオブライエン師のデクラレーション・オブ・ウォー Declaration of War が3番人気(6対1)で続きます。
先ずゲーム・オン・デュードが先手を取りましたが、直ぐにモレノ Moreno が交わして先頭。更には去年の勝馬フォート・ラーンド Fort Larned (9対1、6番人気)が替って先頭に立つ激しい展開。先行争いに加わったゲーム・オン・デュードが一杯となる中、抜け出したのは5番手で前の争いを見ていたムチョ・マチョ・マン。直線でリードを広げてゴールを目指しましたが、馬場の中央からデクラレーション・オブ・ウォー、外からは4番人気(8対1)のウイル・テーク・チャージ Will Take Charge が猛追。3頭のスリリングな叩き合いになります。結局は内のムチョ・マチョ・マンが外のウイル・テーク・チャージをハナ差抑えての戴冠。頭差でデクラレーション・オブ・ウォーが3着惜敗の結果に収まりました。4着は3馬身4分の1差が付いて去年の勝馬フォート・ラーンド。ゲイム・オン・デュードは9着に沈んでいます。
ムチョ・マチョ・マンを管理するのはキャスリーン・リトヴォ師。女性調教師がクラシックを制覇するのはもちろん史上初の快挙です。健康問題を抱えるリトヴォ師、心臓移植手術を受けたほどで、家族の支えが無ければこの場にはいなかった、と感涙。また騎乗した50歳のゲーリー・スティーヴンスも、一度は引退した身。その輝かしいキャリアにかけているものがあるとすれば、BCクラシックのタイトルでした。今年復活し、念願のクラシック制覇。正に「Dream Come True」という心境だったでしょう。彼もまた涙。スティーヴンスは前日のビホールダー Beholder (BCディスタッフ)と併せ、BCのメイン・イヴェントを総なめ。正に奇跡の50歳と言えましょうか。
またしてもクラシック制覇ならなかったエイダン・オブライエン師、それでも息子ジョセフの好騎乗を讃え、デクラレーション・オブ・ウォーの引退を祝福しました。師のクラシック・チャレンジは未だ未だ続きます。
以上が今年のブリーダーズ・カップ・レポート。当方も体力的に限界ですが、残る2鞍も簡単に触れておきましょう。
開幕した冬開催のアケダクト競馬場からは、ディスカヴァリー・ハンデキャップ Discovery H (GⅢ、3歳、9ハロン)。fast の馬場に8頭立て。トッド・プレッチャー厩舎の2頭、ミッドナイト・タブー Midnight Taboo とマイクロマネージ Micromanage がペアで1番人気(6対5)に支持されていました。
しかし優勝は、先行2頭の離れた3番手を進んだ2番人気(5対2)のロマンシュ Romansh 、2着ノーランベガ Norumbega に9馬身4分の1差を付ける圧勝です。1馬身差でマイクロマネージが3着。
トーマス・アルベルトラーニ厩舎、ホセ・オルティス騎乗のロマンシュは、3戦目で初勝利を挙げ、サラトガの一般ステークスを勝馬の降着により拾い勝ちした馬。その後トラヴァース・ステークス(GⅠ)5着、ペンシルヴァニア・ダービー(GⅡ)6着と来ての参戦。G戦の経験は充分でした。
最後にこれも冬開催を迎えたチャーチル・ダウンズ競馬場から、チルッキ・ステークス Chilukki S (GⅡ、3歳上牝、8ハロン)。fast の馬場、2頭取り消しての10頭立て。去年のモンマス・オークス(GⅢ)に勝っているワイン・プリンセス Wine Princess が5対2で1番人気。
マジック・アワー Magic Hour が逃げ、ワイン・プリンセスは4番手から進出しましたが、前半は後方2番手で待機した3番人気(9対2)のドント・テル・ソフィア Don’t Tell Sophia が大外を回って追い込み、ワイン・プリンセスを2馬身4分の1差突き放して優勝。更に4馬身の大差が付き、オウサム・フラワー Awesome Flower が3着。
フィリップ・シムズ厩舎、ジョセフ・ロッコ騎乗のドント・テル・ソフィアは、4月にアップル・ブロッサム・ハンデ(GⅠ)に2番人気で3着した実績の5歳馬。オークローンで一般ステークスに2勝しており、アゼリ・ステークス(GⅢ)でも2着。ステークスは3勝目にしてG戦は初勝利となります。
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