3強対決のBCディスタッフを制したのは?

今週末はアメリカ競馬の祭典、ブリーダーズ・カップが行われます。お祭りは2日間、11月1日の金曜日に5鞍、土曜日には9鞍のブリーダーズ・カップが組まれ、今年1年のアメリカ競馬を総決算しようという試み。
世界的には大変な話題ですが、今年は1頭も参加していない日本では全く無関心の様ですね。野球やサッカーについては海外の情報が即わが国でもニュースになりますが、BCは蚊帳の外、如何に競馬がマイナーなスポーツであるかの象徴の様でもあります。

愚痴はその位にして、早速金曜日の結果を紹介して行きましょう。この日はBC一色で、G戦はサンタ・アニタ競馬場のみ。今年のシリーズは去年と同じで、新しく加わったジャンルも無く、G戦の格付けも前年からの変更はありません。
今年もBCの前に一般のG戦が一鞍、トゥワイライト・ダービー Twilight Derby (芝GⅡ、3歳、9ハロン)が行われました。BCには3歳馬限定戦はありませんから、その穴埋め的な性格のレースでしょう。芝コースは firm 、13頭が出走してきました。デル・マー・ダービー(芝GⅡ)に勝ったガブリエル・チャールズ Gabriel Charles が5対2の1番人気に支持されています。
レースはドライ・サマー Dry Summer が逃げ、後方待機のガブリエル・チャールズが直線で確実に伸びましたが、前半9番手に付けていた5番人気(8対1)のルーキー・センセーション Rookie Sensation が内ラチ沿いに脚を伸ばし、前の馬を外から交わして本命馬に1馬身差を付ける鮮やかな勝利でした。半馬身差で終始3番手を進んでいた2番人気(5対1)のジェルヴィーニョ Gervinho が3着。
ジョン・シェリフス厩舎、ヴィクター・エスピノザ騎乗のルーキー・センセーションは、前走サンタ・アニタの芝コースのアローワンス戦に勝っての挑戦、ステークスそのものが初勝利となります。日本にも関係のある血統で、京王杯3歳ステークス(GⅡ)に勝ったダイワカーソンの半弟に当たると言えば、いくらか興味を持ってもらえるでしょうか。

そして愈々BCシリーズに入ります。去年同様1レースを除いて全てGⅠ戦。唯一のGⅡであるブリーダーズ・カップ・マラソン Breeders’ Cup Marathon (GⅡ、3歳上、14ハロン)が最初のカードです。 fast の馬場に今年は10頭立て。去年アルゼンチンから遠征して勝ったカリドスコピオ Calidoscopio と全く同じローテーションで挑戦してきたエヴァー・ライダー Ever Rider が9対2の1番人気。
エヴァー・ライダーがスタート良く飛び出しましたが、コマンダー Commander がハナを主張して本命馬は2番手追走。しかし向正面で突然失速してズルズル後退するエヴァー・ライダー、故障でも発症したのでしょうか(現時点では不明)。好位の馬が全てバテる中、唯1頭脚を伸ばしてきたのが、後方2番手まで下がっていた8番人気(9対1)の伏兵ロンドン・ブリッジ London Bridge 。馬場の中央から前を一気に交わすと、先に先頭に立っていたブルースカイズンレインボウズ Blueskiesnrainbows を1馬身捉えての逆転劇。首差で2番人気(5対1)のワールドリー Worldly が3着に入り、エヴァー・ライダーは最下位に終わりました。
番狂わせとなったロンドン・ブリッジは、英国から挑戦したジョー・ヒューズ師の管理馬で、今回はBC最多勝利ジョッキーのマイク・スミスの手綱。スミス騎手にとって18勝目となるBC制覇でした。出走馬中唯1頭の3歳馬で、ヨーロッパで8戦3勝。前走はドーヴィルの長距離一般ステークスが4着で、勝利は全て先行してのもの。今回は皮肉にも後方待機策での金星となります。これまで無名の存在ながら、母はデル・マー・オークスなどGⅠに3勝したマジカル・ファンタジー Magical Fantasy の姉と、裏付けのある血統です。

続いてGⅠ13連発の第一弾となるブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・ターフ Breeders’ Cup Juvenile Turf (芝GⅠ、2歳牡せん、8ハロン)。ヨーロッパからの4頭を含めて13頭が参戦しましたが、6対5の1番人気に支持されたのは、地元アメリカのボビーズ・キッテン Bobby’s Kitten 。ピルグリム・ステークス(芝GⅡ)に勝って優先出走権を獲得、2連勝で臨む1頭です。
そのボビーズ・キッテンがスタートから先手を取っての逃げ、直線では中団から追い込むエイダン・オブライエン厩舎の2番人気(4対1)ジョヴァンニ・ボルディーニ Giovanni Bordini との叩き合いに持ち込まれましたが、2頭を纏めて差し切ったのが、3番人気(6対1)のアウトストリップ Outstrip 。競り勝ったジョヴァンニ・ボルディーニに半馬身差を付けていました。1馬身4分の1差でボビーズ・キッテンが3着。ほぼ人気通りの決着でしょう。
勝ったアウトストリップはヨーロッパ編でお馴染みのゴドルフィンの馬。途中からチャーリー・アップルビー厩舎に転じ、今回はマイク・スミス騎乗。スミスはマラソンに続くいきなりのBCダブル達成で、最多勝騎手の面目躍如といった所。イギリスではシャンペン・ステークス(GⅡ)に勝ち、デューハースト3着の実力馬。アップルビー師はBC初出走で初勝利の快挙でもあります。同馬の母もGⅠ馬と言う筋金入りの良血馬。

この日3鞍目のブリーダーズ・カップ・ダート・マイル Breeders Cup Dirt Mile (GⅠ、3歳上、8ハロン)。2頭が取り消して11頭立て。古馬を押さえて5対2の1番人気に支持されたのは、ウッド・メモリアル、ハスケル・インヴィテーショナルとGⅠ2勝のヴェラザーノ Verrazano 。種馬としての価値が高いことから、これが引退レースと噂される本命馬です。
レースは大外12番枠からスタートした同じ3歳馬のゴールデンセンツ Goldencents が飛ばし、ヴェラザーノは離れた4番手に待機。しかしこの日はゴールデンセンツが絶好調、そのまま後続を寄せ付けず、後方2番手から追い込むゴールデン・チケット Golden Ticket に2馬身4分の3差を付ける鮮やかな逃げ切り勝ちです。3馬身半差でブルホ・デ・オレロス Brujo de Olleros が3着に入り、ヴェラザーノは4着まで。
勝馬を管理するダグ・オネイル師、騎乗したラファエル・ベハラノ騎手も共に、これがBC4勝目。ゴールデンセンツは今年のサンタ・アニタ・ダービー(GⅠ)勝馬で、二つ目のGⅠタイトル。ダービー以後勝鞍はありませんでしたが、G戦での2着は3度経験しており、久し振りの戴冠です。

去年はフランス馬(フロティーラ Flotilla)が制したブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ Breeders’ Cup Juvenile Fillies Turf (芝GⅠ、2歳牝、8ハロン)。14頭立ての今年も、ロベール・パパン賞とチーヴリー・パーク・ステークスとGⅠ2勝のフランス娘ヴォルダ Vorda が5対2の1番人気。
ブービー人気のネッソ Nesso が逃げ、明らかに先行馬が潰れる流れ。ヴォルダも後方4番手から伸び脚が期待されましたが不発、替って鋭く追い込んだのは3番人気(6対1)のクリセリアム Chriselliam でした。先行3頭を外から捉えると、これも後方から追い込むテスタ・ロッシ Testa Rossi に2馬身半差。更に半馬身差でカーネル・ジョーン Colonel Joan が3着に続き、ヴォルダは7着敗退でした。
クリセリアムももちろんヨーロッパを代表する1頭で、チャーリー・ヒルズ厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗。この日のヨーロッパ勢は3勝目ですが、ヨーロッパの騎手が勝ったのは彼女が最初で、前走フィリーズ・マイル(GⅠ)の勝利がフロックではなかったことを証明した形です。敗れたヴォルダ陣営は堅い馬場を敗因に挙げました。これで終わる馬ではないのはもちろんでしょう。

初日最後は、金曜日最大の呼び物であるブリーダーズ・カップ・ディスタッフ Breeders’ Cup Distaff (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)。去年までブリーダーズ・カップ・レディーズ・クラシック Breeders’ Cup Ladies Classic として施行されてきましたが、今年は同レースの最初のレース名に戻しての開催です。理由は判りません。6頭と小頭数になりましたが、精鋭揃い。何と言ってもこのレース3連覇が掛かる5歳馬ロイヤル・デルタ Royal Delta が7対5の1番人気。相手は強力3歳馬2頭で、ケンタッキー・オークスなどGⅠ4連勝のプリンセス・オブ・シルマー Princess of Sylmar と、そのライヴァルであるビホールダー Beholder 。前者が5対2で2番人気、同じオッズ、僅かの差で後者が3番人気で続きます。いずれにしても3強対決となるのは間違いなさそう。
しかし結果は小波乱と言うべきか。5番人気(8対1)オーセンティシティー Authenticity の逃げを2番手でマークしたロイヤル・デルタに“いつもの気合が感じられ”ず(マイク・スミス)、精彩なく4着に後退。またプリンセス・オブ・シルマーもスタートで外にフラつくアクシデントもあり、後方を追走するだけの最下位敗退。一人気を吐いたのが、3番手で本命馬をマークしていたビホールダー。ロイヤル・デルタにいつもの行き脚が無いと見るや、一気にオーセンティシティーを捉えると、後方から伸びるクローズ・ハッチェス Close Hatches に4馬身4分の1差を付ける圧勝で3強対決に決着を付けました。逃げ粘ったオーセンティシティーが1馬身4分の3差で3着。
リチャード・マンデラ厩舎、ゲーリー・スティーヴンス騎乗のビホールダーは、これがGⅠ5勝目と紛れもないチャンピオン。特にサンタ・アニタは圧倒的に強く、7戦6勝。GⅠも2歳時のBCジュヴェナイル・フィリーズ、ラス・ヴァージェネス・ステークス、サンタ・アニタ・オークス、そして前走ゼニヤッタ・ステークスと文句のつけようのない成績でしょう。最強3歳牝馬どころか、最強牝馬のタイトル獲得があるかも。
一方敗れたロイヤル・デルタ陣営、モット師は同馬の引退も仄めかしていました。如何に3連覇が難しいかを如実に示す結果でもあります。ゴールディコヴァ Goldikova の偉大さが改めて判ろうというもの。

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