サルビアホール クァルテット・シリーズ第14回

室内楽の殿堂、鶴見・サルビアホールのクァルテット・シリーズの第5シーズンが始まりました。毎シーズン3回のセット、各回全て異なる四重奏団が、夫々の勝負プログラムで登場します。
今回はアジアの誇る世界的クァルテット、上海Qの登場とあって、いつも以上に客席が埋まっているように感じました。

小生は消化器検診を目前に控えて絶食中。かなりミゼラブルな状態で鶴見に降り立ちました。以前から工事中だった駅ビルが完成したようで、東口は華やかな照明に眩しいほど。
ふらふらと施設に吸い込まれると、食欲をそそる香りが充満しています。これは苦痛でしたね。目を閉じ、鼻を抓んでホールに駆け込みます。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番ト長調作品18-2「挨拶」
ペンデレツキ/弦楽四重奏曲第3番
     ~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第14番変イ長調作品105
 上海クァルテット

来年で結成30周年を迎える上海Q、恥ずかしながら私はナマでの初体験です。当初はハイドンの「ひばり」で始まると予告されていたコンサート、ベートーヴェンに替っていました。
全く何の予習もせず、団に関する情報も見ずに聴いた演奏会ですから、的外れな感想になるかも知れません。

先ず、プログラムが全く傾向の違う3曲で組まれていることに注目。曲目だけで団の国籍を当てようとすれば、まず当たらないでしょうね。
上海Qのメンバーを改めて紹介すると、まぁ、アジア系に入れて間違いはないと思われます。
第1ヴァイオリン/ウェイガン・リ、第2ヴァイオリン/イーウェン・ジャン、ヴィオラ/ホンガン・リ、チェロ/ニコラス・ツァヴァラス。リ兄弟を中心に上海音楽院で結成した、とありますが、セカンドは現在のジャンに代わり、チェロは当初から西洋系のメンバーが何代か務めているようですね。

全曲聴いた感想は、西洋とか東洋とかの区別ではなく、国際的なクァルテットということでしょうか。ベートーヴェンとドヴォルザークはこれまでも何度も聴いてきた四重奏の中核レパートリーですが、他の団体と比べて何の違和感もない堂々たる演奏でした。
どちらかと言うと開放的なスタイル、どちらかと言うと粘着質な音色、どちらかと言うとアンサンブルの緻密さより音楽性に重きを置いた演奏、どちらかと言うと楽曲の構成感より作品の情感を全面に出した解釈、ということでしょうか、ね。
それでもベートーヴェンは独墺系のベートーヴェンとは微妙に異なるし、ドヴォルザークもチェコの団体とは若干違う。この辺りが敢えて言えばアジアなのでしょうか。

その意味で当夜の圧巻はペンデレツキ、というのが私の最も強い印象でした。そもそも第3弦楽四重奏曲は上海Qの結成25年を記念し、ペンデレツキ自身の75歳を祝して書かれたものの由。作曲者も演奏者を意識して書かれたものと思慮します。言わばお墨付きの演奏、悪かろうはずがありません。
私は何分にも初めて接した曲、楽譜も見たことが無いので詳しく触れる能力はありませんが、初期のヒロシマに比べれば遥かに調整的、旋律的でもあり、直ぐに作品に馴染むことが出来ました。
時にヤナーチェク風でもあり、ストラヴィンスキーを連想する個所もあり、ショスタコーヴィチを思わせるパッセージも。単一楽章で15分ほど。出版はショット、初演はもちろん上海Qで、2008年11月21日にワルシャワのペンデレツキ・フェスティヴァルで行われたそうな。

なお今朝ユーチューブで検索したら、別の演奏会の映像(もちろん演奏付)が何種類か見られます。ペンデレツキ/弦楽四重奏曲第3番でググれば直ぐに見つかりますよ。
それでもサルビアの理想的な空間で聴くのは格別。ベートーヴェンがストレートだったとすれば、ペンデレツキはボディーの様に効きました。空腹の身には刺激が強過ぎますな。

アンコールもありました。詳しい曲名は判りませんが、中国の民謡?をセカンドのジャン氏が弦楽四重奏用にアレンジしたもの。如何にも中国風のゆったりと構えたメロディーは、未だ見ぬ大陸の風景を連想させるに十分なものでした。
もちろん現代の大都市の情景ではなく、白楽天が詠った中国の自然の風景。不思議にも、音楽には「古き良き支那」の息吹が残っているのです。

ところで各シリーズの初日には、次回のチケット申込書(継続)が初まれています。今回は来年春の第6シーズン用のものでしたが、新しく刷り上がったチラシには明年秋の第7シリーズの予定も印刷されていました。
周りを見回すと、ほとんどのファンはその場で継続申し込みをされています。もちろん私も同じ。ということは、演奏会予定日の他のスケジュールには関係なく予約するということで、サルビアが最優先という聴き手が圧倒的に多いのでしょう。
来シーズンもオライオン(アメリカ)、ガラテア(スイス)、ウィハン(チェコ)が登場し、次もパノハ(チェコ)、シマノフスキ(ポーランド)、アトリウム(?)と世界的な団体が続きます。鶴見に通えば態々海外に出掛けることも無い訳だし、アチラに行ってもこれ以上の環境で室内楽を楽しめる空間は滅多にないのじゃないでしょうか。

最早日常生活には欠かせないシリーズになってしまいました。

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