読売日響・第520回定期演奏会

11月最後のコンサート通いは、読響定期。すっかりクリスマス・イリュミネーションに飾られたカラヤン広場に見とれつつ、サントリーホールで楽しんできました。
50周年シーズンの読響は歴代の常任指揮者が代わる代わる登場する趣向で、11月は第4代常任指揮者フリューベックの出番です。

フリューベック・デ・ブルゴス/ブラームス・ファンファーレ(日本初演)
ブラームス/悲歌 作品82
ブラームス/運命の女神の歌 作品89
ブラームス/運命の歌 作品54
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第5番
 指揮/ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス
 合唱/新国立劇場合唱団(合唱指揮/三澤洋史)
 コンサートマスター/小森谷巧

今回は「運命」繋がりとでも言いましょうか、フリューベック得意のドイツ音楽がメイン。会場に入ると、指揮台上の椅子が目に飛び込んできます。2年前の前回はどうだったかしら?
登場したマエストロ、流石に脚が弱ってきた印象でしたね。音楽には老けた感じは全くありませんでしたが。

冒頭は指揮者自身が作曲、去年タングルウッドで初演されたファンファーレで、金管と打楽器のみによる6分ほどのオープニング。
オーケストラは最初から全楽員、この後に続く合唱曲を歌うコーラス団員も登場しており、フルメンバーが見守る中でファンファーレが鳴り響きました。
作品はブラームスの第4交響曲、特に第2楽章の二つのテーマをモチーフに用いたもので、全体の動機にもなっている3度下降音型も登場します。

ファンファーレに続くブラームスも、前半は全てマエストロが客席に半身を向けて答礼するスタイルで、各曲とも短い拍手を挟んで4曲が通して演奏されました。
ブラームスの合唱作品と言えば専らドイツ・レクイエムだけが演奏されますが、実はかなりの声楽付管弦楽曲が残されています。アルト・ラプソディーが希に取り上げられる程度で、この日演奏された3曲はかなり珍しい体験ではないでしょうか。
演奏順にシラー、ゲーテ、ヘルダーリンの詩に付けたもの。どれもドイツ・レクイエムのミニチュア版という印象です。

ドイツ・ロマン派の作曲家にはこうした合唱付き管弦楽作品がかなりあって、シューベルト、メンデルスゾーン、シューマン、リスト、ブルックナー等々にも美しい作品が演奏されずに眠っています。現代は大掛かりな交響曲ばかりに人気が集中していますが、今回のような知られざる名曲を取り上げるのはとても良い企画だと思慮します。
フリューベックはこれらを得意にしているらしく、全て暗譜で的確なサインを送っていました。拙宅のレコード棚にもマエストロが振ったメンデルスゾーンの「聖パウロ」があり、私の認識では、フリューベックはドイツ合唱作品の名指揮者として何の違和感もありません。

レコードと言えば、作品54はLP時代からワルターとモントゥーの盤が出ており、私はこの二つで楽しんできた一品。但しどちらもアメリカのオケとの録音で、いずれも英語訳の歌詞で歌われていたのが難点でしたっけ。
今回はもちろんオリジナルのドイツ語による歌唱。ひょっとしたら原語でこの曲を聴いたのは初めてかも知れません。プログラムを企画してくれたマエストロとオーケストラに感謝!

もう一つブラームスに拘れば、今月のプログラム誌には奥田佳道氏の「数字にこだわったブラームス」という一文が掲載されていました。これが中々の読み物。
実は先週、クァルテット・エクセルシオの定期でブラームスの第3弦楽四重奏曲を聴きましたが、その時の感想文にブラームスの作品番号に触れておきました。作品67と68の関係についてですが、何と奥田氏の「極私的作品番号論」にも同じことが書かれているではありませんか。
人は同じときに同じようなことを考えるものだと、読んでいて思わずニンマリしてしまいましたワ。

さてブラームスのレア作品を堪能した後は、誰でも知っているベートーヴェン。それも作品67。
メンバーが登場して「おオッ!」と思ったのは、いまどき珍しい倍管による演奏だったこと。それでも第1楽章再現部のファゴット信号は原譜通りファゴットで吹きましたし、第4楽章提示部の繰り返しも実行。全てが全て往年の巨匠スタイルの演奏だったわけではありません。
珍しく感じたのは、全4楽章を通して演奏したこと。第1楽章と第2楽章の間も、第2楽章と第3楽章の間もパウゼを置かず、全曲を一筆で通してしまったのです。プログラムの前半もそうでしたが、マエストロは音楽の流れを止めずに一気に通すのが主眼だったのかも。

演奏は細部に拘らない、大らかなスタイル。第1楽章「ダダダダーン」の後のアンサンブルもかなり怪しいものでしたが、そんなことは気にしない気にしない。
先週のクァルテット2連発、引き続き緻密なアンサンブルが見事だった日生/フィガロを聴いたばかりの耳にはやや粗雑な感も無くはなかったコンサートでしたが、凝ったプログラムのお蔭で大いに楽しめた定期でした。

最後に楽員の移動について。

今回はフォア・シュピーラーもヴィオラのトップもゲストと思われる奏者が受け持っていました。先に藤原浜雄氏が退団されましたが、プログラム誌によると、新たにコンサートマスターが2名決定した由。
ドイツ生まれのダニエル・ゲーデと日本人奏者の日下紗矢子の両氏ですが、現在の3名に加えて5人体制になるのでしょうか。それにしてもコンサートマスターが5人というオケは世界的にも多い方じゃないでしょうかね。
個人的には、11月定期の小森谷氏の回のアンサンブルが、音質的に柔らかく自身の好み。回替わりでコンマスの音色を楽しむのも、読響の聴き所でしょう。

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