読売日響・第474回定期演奏会

昨日は予定が重なっていました。東京国際フォーラムの日本フィル・マエストロ・サロンとサントリーホールの読響定期。有楽町は家内に任せて、溜池山王へ。9月の読売日響は首席指揮者・スクロヴァチェフスキ3連発ですし、私にとってはどのプログラムも聴き逃せないマエストロ、躊躇いはありません。
その第1弾は定期演奏会。以下のものです。
ブラームス/交響曲第3番
     ~休憩~
シマノフスキ/ヴァイオリン協奏曲第1番
ショスタコーヴィチ/交響曲第1番
 指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
 ヴァイオリン/アリョーナ・バーエワ
 コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
 フォアシュピーラー/鈴木理恵子
やや焦点の定め難いプログラムですが、聴いて納得しました。特に作品間の関連を探すものではなく、どの曲も適当な長さを持ち、夫々の作曲家の個性がギュッと凝縮されていると言う意味で、極めてバランスの良い見事なプログラミングと言って良いでしょう。
いきなり強烈なパンチを浴びせられたのが、冒頭のブラームス。これはもう大変な名演奏と評価したい出来で、最初のF-AS-Fからしてブラームスそのもの。オーケストラの響きそのものが、北ドイツ・プロテスタント音楽家の強いメッセージをズシリと感じさせる充実したものでした。
第3交響曲は地味な作品ですし、スクロヴァ御大の棒も決して見易いものじゃありません。それでも第1楽章の4分の6というアンサンブルが難しい音楽を、ほぼ完璧に鳴らした指揮者とオーケストラの関係は、正に蜜月状態を感じさせてくれます。
若い指揮者が陥りやすい大言壮語はなく、かと言って老巨匠の枯れきった枯淡でもなく、作曲家50歳の微妙なバランスが見事に出ていましたね。私にとってこの夜のブラームス第3は、理想としていた表現。これまで聴いた最上の、もしかしたら最後になるかも知れない体験でしょう。
例を二つ。第1楽章の第2主題に入る手前、6拍子から9拍子に移る直前のファゴット+クラリネットの上昇パッセージに注目。
ここはスタジオ録音の補佐をもってしても木管の動きが明瞭に聴き取れないケースが多いのですが、スクロヴァチェフスキの指揮では、ここを聴き逃すことはありません。提示部を繰り返しましたから、再現部と合わせて全部で3回、どれも楽譜が見えるようなバランス。オケ全体の響きが透明であること、弦と管のバランスが絶妙なこと。そうした目配り、耳配りが行き届いているからこその妙技でしょう。
第4楽章コーダ、第252小節からの弱音器付きヴィオラが3連音符に乗せて歌う主要主題の回想。この響きの凛とした哀しさを何に喩えれば良いのか。この個所にこれほど「ブラームス」を刻印した演奏を、私は他に知りません。
(DENONはスクロヴァチェフスキ/読響の演奏を極力CD化する決意を固めたようで、特にブラームスは全集になる予定。既に1番・2番が発売されていますが、この日の第3も近々に録音として聴けるでしょう)
ということで、今日はブラームス1曲でも充分でしたが、後半もまた極めて優れた演奏が続きます。
シマノフスキでソロを弾いたバーエワは、2007年の仙台国際音楽コンクールの覇者だそうで、カザフスタン生まれ、西洋の人から見れば黒髪のエキゾチックな雰囲気を持つ女流です。決して大きな音のするヴァイオリンではありませんが、シマノフスキを得意にしているらしく、自信に満ちた演奏で難曲を弾き切りました。使用した楽器は、恐らく1723年制のストラディヴァリウス「Ex-Wieniawski」でしょうか。
スクロヴァチェフスキにとってシマノフスキは同郷の大先輩、現代では最も権威あるシマノフスキを紹介してくれました。
作品にはシュトラウスのツァラトゥストラやドビュッシーの海を連想させるような個所があるのですが、通して聴けばシマノフスキの極めて個性的な世界。作品の根底に流れているミチンスキの「五月の夜」の世界なのでしょう、19世紀ロマン派音楽が退廃に向かう爛熟の時を予感させる響きに酔いました。トータルの響きは、むしろベルクに近い世界でしょうね。
ショスタコーヴィチについては簡単に。
スクロヴァチェフスキは極めて速いテンポで、息も吐かせず、20歳の作曲家の青春と体臭を音にして行きます。
一気呵成、一筆書き、という印象を与えたのは、第1・第2楽章をほとんどアタッカで続けて演奏し、第2楽章と第3楽章の間だけ「休み」を置いた処理も大いに影響したのかもしれません。
(スクロヴァ先生、ブラームスでも休止は第1楽章と第2楽章の間だけ。全体として一筆書きの印象を与えたのも共通しています)
ショスタコーヴィチ独特のソロ書法がくっきりと浮き彫りされ、オーケストラのメンバーもここぞとばかり腕を振るっていました。
私が特に新鮮に感じたのは、第4楽章の序奏部。今までここだけは何となく掴み所が無く、ピンと来なかったのですが、スクロヴァチェフスキの透徹したスコアリーディングのお陰で、極めて意味深く聴けたのが大収穫。
9月のスクロヴァチェフスキ/読売日響、この後は16日の芸劇名曲、22日の名曲に参戦する予定。シューマン、ブラームス、ブルックナー、R.シュトラウスの世界を堪能できそうです。

 

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