シベリウス生誕150年記念演奏会

昨日は寒の戻り、洗濯に出す予定だったダウンコートを引っ張り出してきて錦糸町に出掛けました。日本シベリウス協会主催の室内楽コンサートを聴くためです。
会場はすみだトリフォニーホールの小ホール。当ホールが共催し、フィンランド大使館等も後援、シベリウス作品を多く出版している楽譜出版社も何社か協賛している公演。ホワイエでも様々なシベリウスの譜面が展示販売されていました。

最初にこのコンサートのチラシを見た時には、“エッ、今年はシベリウスの生誕150年だっけ”と疑ったのですが、実は2015年が記念の年。日本シベリウス協会はその年を視野に入れ、2011年からシベリウス作品の連続演奏会を企画してきたのだそうです。
2011年にはシベリウスの全ピアノ作品の演奏を敢行、今年はその室内楽作品を二期に亘って開催する予定。本命の2015年にも記念企画を準備しているようですが、内容は未だ発表されていません。

ということで今年の企画は、3月31日に四重奏曲と五重奏曲を、12月にはピアノ・トリオ全曲演奏の二本立て。昨日の回は以下の構成になっていました。

第一部 ≪初期の弦楽四重奏≫
 弦楽四重奏曲 変ホ長調 JS184(1885年)
 弦楽四重奏曲 イ短調 JS183(1889年)
 弦楽四重奏曲 変ロ長調 作品4(1890年)
 アダージョ ニ短調 JS12(1890年)

第二部 ≪ピアノとの四重奏曲、五重奏曲≫
 ピアノ四重奏曲 ハ短調 JS156(1891年)
 ピアノ四重奏曲 ニ短調 JS157(1884年)(日本初演)
 ピアノ五重奏曲 ト短調 JS159(1890年)

第三部 ≪円熟期の弦楽四重奏曲≫
 マルティン・ヴェゲリウスのためのフーガ JS85(1889年)
 弦楽四重奏曲 ニ短調 作品56「親愛なる声」(1909年)
 アンダンテ・フェスティーヴォ JS34a(1922年)

通常のコンサートとは異なり、1枚のチケット(自由席、3000円也)で3回のコンサートが聴け、各回は入れ替え制というもの。夫々12時、16時、19時開演で、全て聴く人はほぼ一日仕事になります。
私は日曜日の午前中が週の中で最も慌ただしい時間なので、16時開演の第二部以降を聴いてきました。各回とも演奏者が代わり、凡そを列記すると、

第一部の四重奏は順に、上野学園大学、桐朋学園大学、東京藝術大学の学生たちによる演奏。最後のアダージョも藝大メンバーが続けて演奏し、このグループは「セノーテクァルテット」として研鑽中の由。
彼らの演奏は残念ながら聴けませんでしたが、聴かれた方の感想では、皆達者で大したもの、だったそうな。

第二部も夫々3つのグループによる演奏。ピアノの3人はいずれもシベリウス協会の役職も兼務されている面々。最後の五重奏で共演したクァルテットは、都響と読響のメンバーで構成されているクァルテット・ヒムヌスです。
そして第三部は、私が出掛けた本来の目的でもあるクァルテット・エクセルシオの演奏。

今回取り上げられた作品群は、シベリウス好きの私でもほとんどがナマでは初体験のもので、協会ならではの機会と言えましょう。エクだけが聴き所じゃありません。

第二部のピアノを含む作品は全て初体験。特に2曲目に演奏されたニ短調の四重奏は日本初演で、全てシベリウス・ファン必聴の機会でしょう。演奏は、ピアノが久保春代、ヴァイオリンは佐藤まどか、本郷幸子、チェロが松本卓以の面々。ファーストの佐藤氏はシベリウス協会の理事でもあります。
今回の曲目はほぼ全てフェイザー社から出版されていますが、この四重奏だけは未出版。今回は恐らく自筆譜による演奏で、日本初演と明記されていました。
聴いた印象は、シベリウスというよりはドイツ・ロマン派の作品の様でもあり、1884年と言う作曲年代を裏付けていると感じました。ベートーヴェン風の第一楽章が最も耳に残った、か。

それに対して最初に取り上げられたアダージョ-アンダンティーノ楽章のみの四重奏曲は、斬新な和音なども鏤められ、後年のシベリウスを予感させるもの。原曲がピアノ・ソロ曲だったこともあってか、特にピアノが活躍する一品です。
こちらはピアノが飯田佐恵、ヴァイオリンは澤田幸江と大西智子、チェロが高木俊彰という方々。

第二部最後の五重奏、これはこの回のプログラムでは最も完成度の高い作品と聴きました。通常の4楽章構成ですが、特に緩徐楽章の第3楽章では行進曲風の馴染み易い主題が印象的で、最後にコラールが出現する場面は大いに感動的。単なるレアもので片付けるには勿体無い音楽と言えるでしょう。
プログラムには「緊張に満ちながら温かみもある、まさに非の打ち所のない音楽」と解説されていますが、私も同感です。
飯野糸穂子(いいの・しほこ)のピアノと、クァルテット ヒムヌス(山本翔平、小林朋子、松井直之、高木慶太)の演奏も立派、かつ熱演。単なる珍曲紹介の域を遥かに超えていました。

ところで第二部は座席がほとんど一杯になるほどの盛況で、荷物を椅子に置いている人は纏めて席を一つでも増やしてください、というアナウンスがあったほど。日本全国からシベリウス・ファンが駆け付けたのか、と感じられる回でした。

この大入りに予定を変え、第3部は好席を確保すべく早々と会場待ちの列に並んでしまいました。
ところが蓋を開けてみると第2部ほどの入りではなく、来場したのも16時組とは打って変わってコアな室内楽ファンと思しき面々が揃いました。シベリウスのレア作品を聴くというより、エクの演奏を楽しみにしているという雰囲気の会場。
私にとってシベリウスの弦楽四重奏曲は、エクを初めて聴いて(晴海のSQW)大変に感動した作品。あの体験が無ければ、今日のエクとの繋がりは無かったかも知れません。

期待通り、シベリウス最高の室内楽作品である「親愛なる声」の、日本を代表する常設クァルテットによる演奏は、一段と高いレヴェルの音楽を堪能できる機会でもありました。
また最後に演奏されたアンダンテ・フェスティーヴォは、有名な弦楽合奏とティンパニによる版のオリジナル形。貴重なナマ体験です。

今企画は、最近には珍しくプログラムを販売する(500円)スタイル。演奏会の性格上止むを得ないと思慮しますが、内容は英国シベリウス協会の創設者で事務局長のアンドリュー・バーネット氏による曲目解説が掲載された優れもの。永久保存版ですね。

最後に、シベリウス協会と言えば、戦前はシベリウス作品のレコードはシベリウス協会盤が定番だったもの。WERMで確認すると、第6集(全てSP盤)まで発売され、それとは別に75年記念アルバムも発売されていました。
室内楽作品は第3集に収められた「親愛なる声」(SP8面)だけで、ここに収録されたブダペストQの録音が同曲の世界初録音だったのではないでしょうか。因みに第3集は弦楽四重奏曲と第6交響曲が収められています。

疑問も生じます。協会創始者のバーネット氏は1961年生まれだそうですが、年代を考えると戦前にレコードを発売していたシベリウス協会とは別組織なのでしょうか。
英HMVが制作していたとは言え、協会制の販売をしていたシベリウス作品は特殊な存在であり、熱烈なファンに支えられていた作曲家でもあったことが判ります。

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