クァルテット・エクセルシオ SQW公演

10周年を迎えている晴海の第一生命ホール、昨日はSQW(String Quartets on Weekends)のコンサートがありました。エク、エルデーディ、古典の順に行われる3回シリーズのトップ・バッターです。
今年エクを聴くのは早くも3回目、晴海は「クァルテット+(プラス)」と銘打ったシリーズで、今回は世界的なバンドネオン奏者である小松亮太との共演です。プログラムは、

ラヴェル/弦楽四重奏曲
フィリップ・グラス/弦楽四重奏曲第2番「カンパニー」
     ~休憩~
ピアソラ(小松亮太編)/ブエノスアイレスの四季~冬
ピアソラ/ファイヴ・タンゴ・センセーションズ
 クァルテット・エクセルシオ
 バンドネオン/小松亮太

前半はエクのみによる近・現代モノ、後半がバンドネオンとの共演で雰囲気はガラリと変わります。

私が小松亮太のライヴに接するのは、今回が2回目。最初は5年ほど前、サントリーホールでN響(広上淳一指揮)との共演でした。そのときは、今回と同様ピアソラの2作品(リベルタンゴとバンドネオン協奏曲)の他に自作も披露してくれましたっけ。
ですから拙ブログには2度目の登場となります。
楽器の特性上、小松はピアソラとの因縁が深く、2008年にはピアソラのオラトリオ「若き民衆」の日本初演を成功に導くという活動も行った由。本も著し、TBSの「The 世界遺産」のオープニング・テーマの作曲と演奏を受け持つ多彩なキャラクターでもあります。

この日取り上げたのは2曲。最初はピアソラ自身のアンサンブルのために書かれたタンゴのレパートリーだそうで、春夏秋冬の4曲からなるもの。今回の演奏は、その中から「冬」を小松亮太がブロドスキー・クァルテットと共演した際に編曲した版が取り上げられました。名刺代わりの1曲。

最後に演奏された作品は、ピアソラ自身が弦楽四重奏と演奏するために作曲されたオリジナル。とは言っても元々はオーケストラ・メンバーとの作品「7つのシークエンス」で、ここから5曲を抜粋して手を加えたもの。
全体は5楽章から成り、第1楽章「眠り」、第2楽章「愛」、第3楽章「不安」、第4楽章「目覚め」、第5楽章「恐怖」とタイトルが付されています。(出版譜の表記を見ると、弦楽合奏との演奏も可能なようです)

どの楽章もゆったりとした歌が中心となるもので、第4楽章の冒頭には短いバンドネオンのソロ(カデンツァでしょうか)も置かれています。また第5楽章はバンドネオンから始まり、ヴァイオリン(ファースト)→ヴィオラ→チェロと受け継がれるカノン風で、全曲の中では最も動きの大きい音楽で締め括られました。

後半はチェロを除いて全員が立って演奏、チェロは高さを調節するために雛壇の上に座るスタイル。バンドネオンは真ん中、セカンドとチェロの間に位置し、音量の補強のためか3台ものスピーカーが設置されていました。しかし機械的な音は無く、この辺りのバランスは興味あるところ。
音だけ聴いたのではどうやって出しているか判らないテクニックもあり、見て楽しむ演奏という要素も充分。

例えばバンドネオンでは右手のキーと左手のキーの音色の差、キーを叩く音自体も意味があるようですし、楽器の空気を抜く?音も作品の内。左手で楽器自体を叩く個所もありましたね。
また弦楽器にも特殊奏法が使われ、ファーストは駒の外をガリガリと演奏する場面がありましたし、ピチカートも普通のものでなく、木質の音を出すような奏法も聴かれました。
こうした風変わりな音も含め、録音技術者にとっても挑戦意欲を掻き立てる作品ではないか、と聴きました。
実際、このコンサートはNHKがテレビ収録しており、いずれ何らかの形でオン・エアされるでしょう。興味を抱かれた方はお楽しみに。

先に後半をレポートしましたが、前半も素晴らしい演奏でしたね。
特にラヴェルは圧巻。彼らのラヴェルを聴くのは3回目ですが、これまで以上に作品のニュアンスが陰影豊かに表現され、4つの楽器の掛け合い、受け渡しは息を呑むよう。ナマと録音を含め、私が聴いた最高のラヴェルと評価しても過言ではないと思いました。

前半2曲目のフィリップ・グラスは、私の苦手なミニマル・ミュージックの典型。4楽章から成り、それぞれが四分音符いくつ、という表記になっているだけ。どれも極めて短い楽章で、小さな単位が何度も繰り返され、あっという間に終わってしまいます。
何とも騙されたような気持ちにさせられる音楽ですが、解説によればグラスはパリに留学してナディア・ブーランジェに師事した作曲家。ラヴェルとの繋がりや影響もこの日のプログラム構成の要なのだそうです。
パリ留学とブーランジェ師事はピアソラにも共通する要素だそうで、そう思って聴けば、彼らのリズムの扱いなどにはラヴェルの影響も感じられるようにも思われました。

全曲を終え、小松亮太が“厚かましくもゲストの私が一人だけ喋りますが・・・”と短く挨拶し、エクを讃えます。アンコールはやはりピアソラの作品で、オブリヴィオン(忘却)。同じく小松自身がバンドネオンと弦楽四重奏にアレンジしたものが演奏されました。
小松が紹介したように、マルチェロ・マストロヤンニが主演した映画の主題歌で、マストロヤンニが主演したにも拘わらず映画は全く受けず、超マイナーなものの由。アンコールとしては、ジャンルを超えたコンサートを締め括るに相応しいものでしたね。
(オブリヴィオン Oblivion、帰宅してからネットでググると、マストロヤンニとクラウディア・カルディナーレ主演の「ヘンリー四世」というマルコ・ベロッキオ監督の映画主題曲で、ギドン・クレーメルが演奏したCDも出ているそうです)

ところでクァルテット・エクセルシオの「クァルテット+」、元はここ晴海の「ラボ・エクセルシオ」から変身したものですが、今年愈々ラボが復活します。
「ラボ・エクセルシオ新章」と題されたシリーズの第1回は4月13日、代々木上原のムジカーザにて。スカルソープ、西村、バルトークによるプログラムでは、西村朗と渡辺和両氏によるプレトークも予定されています。
代々木上原にも通うしかないでしょ。それにしてもエクの意欲は凄い!!

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