ラボ・エクセルシオ新章Ⅱ

去年から装いを新たにしたクァルテット・エクセルシオの「実験音楽会」、その第2回目が昨日(4月19日)、無事に神楽坂の音楽の友ホールで開催されました。
これに備えて4月14日に九品仏(自由が丘)の大瀧サロンで行われた試演会と併せてのレポートです。どちらも日本全国からファンが集結したのは感動的ですらあります。
取り上げられたのは次の3曲。

スカルソープ/弦楽四重奏曲第11番「夢見るジャビル」
三善晃/弦楽四重奏曲第2番
     ~休憩~
バルトーク/弦楽四重奏曲第2番
 クァルテット・エクセルシオ

第1回もスカルソープとバルトークの間に邦人作品が挟まれるプロでしたが、構成は今回も同じ。前回の西村作品に替って三善作品が選ばれています。
「現代から未来へ」と題されたこのシリーズは、所謂「現代モノ」プログラム。決して大衆向け、初心者指向の内容ではなく、演奏する側はもちろん聴く側にも一定の覚悟が必要でしょう。

何人が聴きに来るのか、という心配を余所に、試演会も本番も少数ながら熱心な室内楽ファン、現代音楽ファンが集い、共に会場は熱気で大いに盛り上がっていました。
試演会冒頭の挨拶で大友氏が述べたように、現代モノと言っても出来たてほやほやの作品ではなく、言わばレトロな現代音楽。選曲のバランスも良く、3人の作曲家による様々な世界が充分に表現され、充実した一時を味わいます。

昨日の神楽坂では西村朗、大友肇のお二人に渡辺和氏が聞き手として参加するプレトーク付き。そもそも何で西村氏がこの回に来られたのか、という所からトークが始まります。
もちろん三善晃に憧れを抱いていた西村氏、その影響は作曲というよりもベレー帽に黒尽くめと言う三善スタイルから始まったという話題で会場も一気に和みました。

2つの回を通して感じた私の印象は、難しい(演奏も聴衆も)順に並べれば、三善→バルトーク→スカルソープ、というもの。
そもそも小欄がクラシック音楽に惹き込まれた切っ掛けは、以前にNHKで放送されていた(今でも続いているそうです)「現代の音楽」。当時は60年代後半と言う時代そのものが政治的にも社会的にも緊張に満ちていた時代で、今思い返せば神経が張りつめたような新作が次々と発表されていました。
その意味で、私にとって最もレトロに感じたのが三善作品ということになります。西村氏によれば、“切れば真っ赤な血が溢れ出るような”三善作品に、一種の懐かしささえ感じます。

エクは以前から三善晃の四重奏曲を手掛けており、今回の2番で3曲完全制覇した上、ギター五重奏版の第3番も征服したことになります。
渡辺氏が“もし何かあれば、皆様の協力を”と語りかけられていたのは、恐らく○○の可能性があるのかも。この日の目の覚めるような名演を眼前にすれば、是非実現して欲しいと思うのは私だけじゃないでしょう。

これに対して冒頭のスカルソープは、全くの別世界。
渡辺氏によれば、エクとスカルソープとの関係は、かつてコンクールの課題曲として弾かざるを得なかった時からの因縁とか。何でも番号付き作品だけで18曲も(現時点で)ある弦楽四重奏曲の内、何と3曲も演奏している彼等、メンバーのたっての希望でこれを取り上げたとのこと。緊張の続く2曲の前に、少しでも楽しいものを聴いてもらいたい(本音は弾きたい、と見た)という配慮もあったに違いありません。

第11番は、事前のチラシには表記がありませんでしたが、「夢見るジャビル」Jabiru Dreaming というタイトルが付されています。このタイトルはカカドゥ国立公園にある岩の形に由来するそうですが、そもそも Jabiru とはオーストラリアに棲むコウノトリの一種のこと。
日本ではズグロハゲコウとか、セイタカコウと訳されるようですが、オーストラリアを象徴する存在なのでしょう。コアラやカンガルー的存在で、彼の地にはジャビルの名を冠した航空会社もあるほど。以下のウィキペディアで確認しましょうか。

http://en.wikipedia.org/wiki/Jabiru

作品は2楽章で、日本の祭囃子を連想するようなリズムに乗り、鳥や虫の声がちりばめられます。(生物分布区ではオーストラリア区。鳥や虫といっても旧北区の我々には新鮮でしたね)
また第2楽章冒頭は、チェロのソロでアボリジニの歌が引用され、全体にリラックスした、自然との対話を楽しむような構成。地域も、何よりも時代の異なる「現代音楽」の多様性を楽しみました。

試演会ではこのスカルソープ世界の親しみやすさが参加者の話題になり、弦楽四重奏博士からは「スカルソープ全集」を本気で考えたい、という提案も。TPPの先行きは不透明ながら、俄かに親しみを増すスカルソープでした。

最後は最早現代の古典となったバルトーク。試演会でも若干触れましたが、私がクラシック入門生だった当時、レコード芸術誌では柴田南雄氏によるバルトークの四重奏アナリーゼが掲載されていました。
そもそも「バルトークは未来に残るか」という大命題を掲げたもので、半世紀を経た今日では昔日の感があります。当時から、そして現在でもバルトークは難しい音楽の代表とされる傾向があって、多くの聴き手にとって解説や予習が欠かせないのでしょう。

恐らくラボ・エクセルシオ新章では、バルトークの全曲制覇を視野に入れていると思われます。何とかバルトークに近づきたいと考えている聴き手には、絶対に聴き逃せない機会だと断言しておきましょう。決して今からでも遅くはない。

エクの2番。本番では試演会に勝るスピードと緊張感で聴き手を圧倒。改めてバルトークの凄さ、新しさに気付かされます。
と同時に、その構造や作品の目指す方向に三善晃作品との共通点も発見し、バルトークが後世に与えた影響の大きさにも思いを致すのでした。バルトークは立派に未来に残ったのだ、と。

なお、この演奏会はNHKが録音しており、後日懐かしの「現代の音楽」で放送される由。このクァルテット・ワールドから、また新たなクラシック音楽の聴き手が育つことを祈念して止みません。

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