ラボ・エクセルシオ新章Ⅳ

5月最初のコンサート行は、クァルテット・エクセルシオの現代音楽シリーズ、新章Ⅳでした。このレポートの前にエクに関する事件を一つ。

4月1日に大友氏の受賞記念コンサートに参加したエクでしたが、彼らの公式フェイスブックにも表明されているように、その直後にファースト・西野ゆか氏が腕を痛め、今年一杯は治療に専念するとのこと。
これ以上の情報は得ていませんが、今は治療を最優先させ、その完全復帰とエクの更なるチャレンジを祈念したいと思います。

ということで昨日のラボは、小林朋子(こばやし・ともこ)がファーストを代演しました。桐朋出身の精鋭、エクが務めるサントリーホール室内楽アカデミーの第一期生で、エクとは互いに刺激し合ってきた仲とか。クァルテット・ヒムヌスのファーストとして弦楽四重奏の経験も豊かな若手です。
今回は急な事でもあり、プログラムも当初予定されていたアデス(アルカディアナ)とバルトーク5番から以下に変更されました。真ん中で演奏される猿谷作品は変更なし。

スカルソープ/弦楽四重奏曲第15番
猿谷紀郎/アイテールの貪欲
     ~休憩~
バルトーク/弦楽四重奏曲第1番
 クァルテット・エクセルシオ

ところで今回のラボの会場は、アサヒ・スーパードライホール4階にあるアサヒ・アートスクエア。隅田川に面したあの特徴あるオブジェで有名な建造物で知られているスペースです。
実はこの会場のラボは去年に続いて2回目ですが、残念ながら去年は私用のため聴くことが出来ず、私にとっては今回が初体験でした。

聴き損なった去年のラボⅢ、記録のためにプログラムを記しておくと、
フィリップ・グラス/弦楽四重奏曲第5番(1991)
野平一郎/弦楽四重奏曲第2番(1995)
バルトーク/弦楽四重奏曲第3番
イョルク・ヴィトマン/弦楽四重奏曲第3番「刈の四重奏曲」
というもので、個人的にはヴィトマンが聴きたかったプロ。この回は恒例だった試演会も無かったので、エクにはヴィドマンをいずれ再演して欲しいと思います。
(試演会は閑静な住宅街で行われるので、ヴィドマンの奇声が近所迷惑になるのでは、という配慮だったとか)

今回も試演会が無かったのは止むを得ないところですが、演奏会前のプレトークはいつも通り開催されました。猿谷氏を挟んで司会進行の渡辺和氏と、演奏者の立場からセカンドの山田百子氏。
そのプレトーク、話し出せば何処までも続くような猿谷氏でしたが、1996年に書かれた「アイテールの貪欲」の聴き所を判ったような、より難しくなったような解説で解きほぐしてくれました。あ、エーテルね、それと伊勢神宮の式年遷宮か。

選ばれた作品は、偶然ながらアジアの作曲家特集の趣。スカルソープとバルトークの間に法人作品という構成も、新章Ⅰ・Ⅱと全く同じになりました。
冒頭のスカルソープは、第3回メルボルン国際室内楽コンクール委嘱作で、エクもパシフィカQらと並んで初演した懐かしい作品。全5楽章(①舞踏の歌 ②悪魔払い ③哀悼歌 ④愛の歌 ⑤歓喜の叫び)がほぼ全曲アタッカで演奏されます。
全編に鳥が啼き、如何にもアジアの熱帯を連想させるのも、Ⅱで演奏した11番と共通する世界。スカルソープの代名詞とでも呼べるイディオムでしょうか。これで私が聴いたエクのスカルソープは、Ⅰの8番を含めて3曲目。幸松先生が希望していたように、何れエクによるスカルソープ全集が出来るかも、ね。

前半の2曲目は、毎回ラボで取り上げられる邦人作曲家によるクァルテット。同じアジアの作曲家でも、やはり日本という地理上の特質が面白いほど作品にも滲み出てくるのでした。
譜面を見ていないので細部は判りませんが、如何にも大小2本の黒潮に挟まれた国で産まれた作品、という印象。アジアの作品を纏めて聴く機会にはいつも感じることですが、湿潤で物成りの良い気候が「邦人作品」のほとんど全てに聴き取れるのは不思議としか言いようがありません。
真の暗闇に響く音の距離感、その神秘性、これは伊勢神宮とは直接関係の無い作品ですが、日本人の心的感性に共通の音楽と言えそうです。

こうして聴いてくると、最後のバルトークも如何にもアジアの、もっと限定的には日本の団体が演奏するアジアの音楽として聴こえてきます。
第1番は通常、ロマン派の響きやドビュッシーの影響を指摘する解説が多いものですが、この日のエクを聴いていると、バルトークは最初からアジアのバルトークだったことに想いを致します。
確かに和声的な動き、構成に関する配慮は西洋音楽の伝統に基づくのでしょうが、語っている言葉はマジャールのそれ。バルトーク自身の歌劇「青ひげ公の城」そっくりなイディオムが聴こえて来るではありませんか。

ということで、エクのバルトークは日本の団体ならではの特徴を如実に示したもの。スカルソープや猿谷作品に組み合わされるには最適な譜面と感じました。

演奏会が終わった後、この独特なスペースでは軽食も提供される懇親会。サントリーじゃなく、アサヒ提供のドリンクを、もちろん自腹で楽しむ一刻です。

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