オブライエン父子の魔術

今週末はアイルランドのクラシック・レース第1・2弾が行われます。もちろんカラー競馬場。
先ずは土曜日のメイン、アイルランド・2000ギニー Irish 2000 Guineas (GⅠ、3歳、1マイル)から。good to firm の走り易い馬場に最終登録を済ませた10頭が出走してきました。
枠順発表の段階で紹介したように、英2000ギニーでドーン・アプローチ Dawn Approach の3着した英国ハノン厩舎のヴァン・デア・ニール Van Der Neer が5対2の1番人気。4頭を登録したエイダン・オブライエン厩舎でしたが、主戦騎手で師の息子ジョセフ・オブライエンが最終的に選択したマジシャン Magician が急速に支持を伸ばして10対3の2番人気に上がります。

レースは3番人気(6対1)、ボルジャー厩舎のトレーディング・レザー Trading Leather が、勝つ気の強いペースで逃げます。これを追ってアスク・ダッド Ask Dad が2番手、マジシャンは持ったまま3番手を楽走し、ヴァン・デア・ニールはそのあと5番手の内ラチ沿いに待機。
残り3ハロンで馬なりのままマジシャンが進出すると、先行2頭は一杯。ヴァン・デア・ニールも外に出して追い上げ態勢に入りますが、動きが悪く中団のまま。最後は圧巻の伸び脚を披露したマジシャンが、中団から伸びる同厩のゲール・フォース・テン Gale Force Ten に3馬身半差を付ける完勝でクラシック第1弾を制しました。オブライエン厩舎のワン・ツー・フィニッシュ。更に1馬身半差でトレーディング・レザーが3着に逃げ粘り、ヴァン・デア・ニールは8着惨敗です。
この他英2000ギニー10着のジョージ・ヴァンクーヴァー George Vancouver は7着。一方仏2000ギニー組では4着ゲール・フォース・テンが2着に健闘したのに続き、5着ハヴァナ・ゴールド Havana Gold が4着、9着だったフライング・ザ・フラッグ Flying The Flag も6着と、完全にフランス組がイギリス組を圧倒しました。これによってフランスの方がレヴェルが上、と単純な結論にはならないでしょうが、今後の参考にしたいと思います。

愛2000ギニーは9勝目のエイダン・オブライエン厩舎、3勝目のジョセフ・オブライエン騎乗のマジシャンは、前走チェスターでディー・ステークスを制した馬。その時は負担重量の関係でライアン・ムーアが跨りましたが、ムーア騎手も手応えに満足した器。今回は距離短縮で臨みましたが、父はガリレオ Galileo だけにより長い距離も問題はないでしょう。ジョセフも“この馬は毎日のように成長している。距離が伸びても問題ない。”と確信。
陣営はダービー出走も考慮中ですが、ローテーション的にはやや厳しく、ロイヤル・アスコットのセント・ジェームス・パレス(1マイル)かサンダウンのエクリプス(1マイル4分の1)が次走になりそう。いずれにしてもオブライエン父子のマジックから目が離せません。

さてこの日はG戦が他に2鞍。クラシックの前に行われたグリーンランズ・ステークス Greenlands S (GⅢ、3歳上、6ハロン)は、1頭取り消しがあっても16頭立ての混戦。今期初戦ながら、昨秋リステッド戦に連勝しブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリント8着のスレイド・パワー Slade Power が10対3の1番人気に支持されていました。

レティール・モール Letir Mor の逃げを中団で待機したスレイド・パワー、残り1ハロンで5番手まで進出してスパートしましたが、先に3番手から抜けた3番人気(13対2)ヒッチェンス Hitchens には届かず3着まで。これも中団から追い込んだチーム・オブライエンのリプライ Replay が首差2着に入り、スライド・パワーとの着差は半馬身でした。
デヴィッド・バロン厩舎、ジョニー・ムルタ騎乗のヒッチェンスは、これが今期既に8戦目(内4戦はドバイ)となる8歳馬。前走ニューマーケットのハンデ戦では7着に終わっていました。見事な騎乗テクニックで同馬を勝利に導いたムルタ騎手は、実はこの日が自身の調教師としてのデビュー当日でもありました。愛2000ギニーに調教師/騎手として臨んだフォート・ノックス Fort Nox は9着に終わりましたが、まだまだジョッキーとして立派に現役であることを見せ付けた一戦でもあります。

カラー競馬場の最後は、アブ・ダビ・ステークス Abu Dhabi S (GⅢ、4歳上牝、1マイル)。聞き慣れないレース名ですが、去年まではエキストリアン・ステークスの名で親しまれてきたG戦。レースの条件に変化はなく、改名の経緯などは判りません。
ウェルド厩舎の有力馬カポナータ Caponata がフケ(発情)のため取り消してしまい8頭立て。押し出されるように1番人気(11対8)に支持されたのは、アイルランドに遠征すること自体が珍しいサー・ヘンリー・セシル厩舎のチグン Chigun

プレシャス・ストーン Precious Stone の逃げを最後方で待機したチグン、期待に応えて末脚を爆発させると、5番手から伸びたラ・コリーナ La Collina に2馬身4分の3差を付けて快勝。セシル師の遠征を納得させる結果となりました。更に3馬身差で2番人気(7対2)のリリーズ・エンジェル Lily’s Angel が3着。去年のオークス馬ウォズ Was (11対2、3番人気)も出走していましたが4着。オークス以来精彩を欠く同馬の復活は未だ先のようです。
主戦のトム・クィーリーが騎乗したチグンは、去年9月にハンデ戦とリステッド戦に連勝し、今期初戦の前走ニューマーケットでダーリア・ステークス(GⅢ)で2着した上がり馬の4歳。セシル師のアイルランド遠征は、去年9月メイトロン・ステークス(GⅠ、ダントル Duntle の降着によって勝利したチャチャマイデー Chachamaidee)以来のこと。師の期待も頷ける結果でしょう。

ところで土曜日は英国ヘイドック・パーク競馬場でもG戦が行われました。短距離チャンピオン・シリーズの一環でもあるテンプル・ステークス Temple S (GⅡ、3歳上、5ハロン)。馬場は firm と固く、2頭が取り消しましたが、それでも10頭の快速猛者が顔を揃えました。前走パレス・ハウス・ステークス(GⅢ)を制したソール・パワー Sole Power が11対10の1番人気。3歳ながらクラシックには目もくれず古馬に挑戦する無敗のレックレス・アバンダン Reckless Abandon にも注目。GⅠ馬(モルニー賞とミドル・パーク・ステークス)のペナルティーを背負いながら、3対1の2番人気に支持されています。

レースは、スタートからスタンド側と、スタンドから遠い側の二つのグループに分かれる展開。スタンド側をタンジェリン・トゥリーズ Tangerine Trees が、遠い側はバリスタ Ballista が先頭で引っ張ります。
ゴール前の激戦を制したのは、スタンド側を追走していた5番人気(14対1)の古豪キングスゲート・ネイティヴ Kingsgate Native 。首差でスタンド側の後方で待機していたスイス・スピリット Swiss Spirit が2着に食い込み、更に頭差で遠い側を追走したレックレス・アバンダンが3着。ソール・パワーは惜しくも4着に敗れました。

キングスゲート・ネイティヴは当ブログの常連ですが、勝ったのは実に2010年のこのレース以来3年振りのこと。現在の調教師はロバート・カウエルで、師にとっては同馬での初勝利でもあります。今回の騎乗はシェーン・ケリー。
3年前のテンプルはサー・マイケル・スタウト師の管理下でのもので、その前はジョン・ベスト厩舎でGⅠに2勝(ナンソープとゴールデン・ジュビリー)したスピード馬。カウエル師が3人目の調教師となります。8歳の現在も快速は衰えず、ロイヤル・アスコットのキングズ・スタンド・ステークスに12対1のオッズが出されました。

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