2013クラシック馬のプロフィール(10)

仏オークス馬トレーヴ Treve については、もう少しゆっくりと書こうと考えていましたが、今週は火曜日からロイヤル・アスコットが始まります。明日からはまた英国競馬レポートで忙しくなりそうですから、一気に書いてしまうことにしました。
ということで多少駆け足になるかも知れませんが、その血統プロフィールを纏めておきましょう。

仏オークスのレポートでも紹介したように、トレーヴはフランス競馬界の伝統を受け継いできたヘッド・ファミリーが育ててきた牝系です。父はモティヴェイター Motivator 、母がトレヴィーズ Trevise 、母の父アナバー Anabaa という血統。

話が出た序にヘッド・ファミリーについて若干復習しておくと、ヘッド家は英仏両競馬界に長年貢献してきた競馬一家で、その祖ウイリアム・ヘッドは第一次世界大戦中は英国軍に奉仕してきた人物。その元で平場でも障害でも騎手として修行してきた息子アレック・ヘッドが、1947年にシャンティーで開業します。
その4年後、現在のアガ・カーンが所有馬を英国から引き揚げてフランスで調教することを決断、白羽の矢が立てられたのが若干27歳のアレック・ヘッドでした。その4年後、ヘッド調教師はピエール・ウェルザイマー氏が所有するラヴァンダン Lavandin でエプサム・ダービーを制し、言わば英国競馬に恩返しをしたことになります。

以後のヘッドの活躍は、ウェルザイマー家の名馬たちと共に一世を風靡。私も1976年の凱旋門賞をイヴァンジカ Ivanjika で制する現場に立ち会い、同馬がレース後に騎手を振り落して逸走したのを見たヘッド師が観客のお祝いに“Merci”と答えて手を振り、コースに飛び出していったのを昨日のことのように思い出します。
その時のジョッキーが、アレックの息子フレディー・ヘッド。彼の仏ダービー制覇の瞬間もシャンティーで立ち合いましたし、私にとってもヘッド・ファミリーは真に懐かしい存在です。
フレディーも今や調教師に転身しましたが、姉のクリティック・ヘッドもまた調教師。彼女はマーレク氏と結婚しヘッド=マーレクの名で今年の仏オークスを制しましたし、その初期には弟のフレディーも良く姉の調教馬に騎乗していたものです。

前置きはここまでにして、早速トレーヴの血統を見ていきましょう。

父モティヴェイターについては詳しい解説は不要でしょうが、その父モンジュー Montjeu を経てサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells に至る今や世界を席巻しているサイアー・ライン。
2歳時にレーシング・ポスト・トロフィーを制し、3歳になるとダービーを目標にダンテ・ステークスでトライアル勝ち。予定通り英ダービーを制しました。
2006年に英王室の所有するロイヤル・スタッドで種牡馬入りしましたが、ダービー馬にしては期待を下回る成績。ヨーロッパでクラシックを制したのは、4年目の産駒となるトレーヴが最初となります。

そのモティヴェイター、今年からはフランスに移籍してケスネー牧場で新たなスタートを切りましたが、この牧場はアレック・ヘッド氏が購入して今やヘッド家の財産。トレーヴの優勝はファミリーにとっても新たな祝福だったことになりましょう、

さて牝系です。母トレヴィーズ(2000年 鹿毛)は4戦1勝。当然ながらアレック・ヘッドの夫人がオーナーとなり、息子フレディーが調教した馬。勝鞍は2歳のデビュー戦でのもので、シャンティー競馬場の1100メートル新馬戦でした。このあとボア賞(GⅢ)に挑戦して5着でシーズンを終え、3歳時は一般戦に2戦未勝利のまま現役を退きます。
繁殖成績を一覧表にすると、
2005年 トロワ・ロワ Trois Rois 鹿毛 牡 父ヘルナンド Hernando 3歳デビューで33戦4勝 3・4最時はヘッド厩舎で3勝(2000~2200メートル)、4歳以降はドバイに売却。グレフュール賞(GⅡ)3着、仏ダービー着外
2006年 トレヴィミックス Trevimix 牡 父リナミックス Linamix 2戦未勝利
2008年 トクヴィユ Tocqueville 牝 父ニューメラス Numerous 未出走

空胎が2年あるのでトレーヴは4番仔、2頭目の勝馬となります。今後はモティヴェイターとの再配合が期待できそうですね。

2代母はトレヴィラーリ Trevillari (1987年 鹿毛 父リヴァーマン Riverman)は1400メートルから2100メートルまでの距離で13戦しましたが未勝利。
1992年の初仔を皮切りにほぼ毎年のように産駒を出しましたが、G戦に勝つ様な馬は出ていません。主な産駒に絞って紹介すると、
1993年 トレヴィリノ Trevillino 牡 父ソーマレズ Saumarez 2歳から9歳まで87戦11勝のタフな馬で、重賞ではサン・ロマン賞(GⅢ)4着
1994年 トリセリ Toricelli 牡 父ベーリング Bering これも2歳から9歳まで走った猛者で、98戦6勝 勝鞍はハンデ戦が主で、パターン・レースの実績はありません
1999年 ツィガーヌ Tsigane 鹿毛 牡 父アナバー Anabaa フランスで23戦4勝、海外に売却されてからは11戦2勝 重賞ではパレ・ロワイアル賞(GⅢ)5着
2003年 アーマダ Armada せん 父アナバー フランス→イギリス→ドイツと転売され、29戦3勝

3代母トレヴィーラ Trvilla (1981年 鹿毛 父リファール Lyphard)は未出走でしたが、繁殖に上がって潜在能力が開花。その娘トレブル Treble が仏オークスのトライアルでもあるサン=タラリ賞を制してGⅠ馬に。この馬もヘッド・ファミリーの伝統を受け継ぎ、クリティック・ヘッドが調教していました。
また別の娘サイン・レープ Sine Labe は名スプリンターのタマリスク Tamarisk を輩出。この馬はアメリカでウェイン・ルーカス師が調教していましたが、珍しくも英国に遠征してヘイドック競馬場のスプリント・カップ(GⅠ)を制するという快挙を成し遂げています。

トレヴィーラの母、即ちトレーヴの4代母は、あの有名な牝馬トリリオン Trillion (1974年 黒鹿毛 父へイル・トゥー・リーズン Hail to Reason)。フランスでモーリス・ジルバー師が管理した馬で、牡馬を相手にガネー賞(GⅠ)を制したのが記憶に新しい所。
トリリオンの偉大さは産駒たちにも受け継がれ、何と言っても女傑トリプティク Triptych がわが国でもお馴染み。2年に亘ってジャパン・カップに挑戦、2回目で4着でしたが、その前哨戦として富士ステークスに勝った豪脚は日本の競馬関係者の心胆を寒からしめたものでしたね。
トリプティクのGⅠタイトルは、クリテリウム・ド・プーリッシュ、愛2000ギニー(牡馬を蹴散らして)、愛チャンピオン・ステークス、ガネー賞、ヨーク・インターナショナル、コロネーション・カップ2回、チャンピオン・ステークス2回と実に9勝。文字通り世界を股に掛けて(駆けて)活躍した女傑でした。

トリリオンから出たGⅠクラスの馬はこれに留まりません。豪州ではコーフィールド・カップに勝ったタウキート Tawquut 、アメリカではデル・マー・オークス勝馬のアモラーマ Amorama がトリリオンを先祖に持ちます。

これを更に5代母マルガレーテン Margarethen にまで広げれば、活躍馬は一層増え、
マルセル・ブーサック賞のジュヴェニア Juvenia 、トリプル・ベンド・ハンデのサボナ Sabona 、シャドウェル・ターフ・マイルのランドシーア Landseer 、ムーラン・ド・ロンシャン賞とモーリス・ド・ギースト賞2連覇のムーンライト・クラウド Moonlight Cloud 、
ダービー、愛ダービー、キングジョージと総なめしたジェネラス Generous 、愛1000ギニーに勝って英オークスも制したイマジン Imagine 、その娘でグラン・クリテリウム勝馬ホレーショ・ネルソン Horatio Nelson と言った具合。

ファミリー・ナンバーは、4-n。自身が1000ギニーに勝ったクラシック馬であるセント・マルガリータ St. Marguerite を祖とする牝系です。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください