2013クラシック馬のプロフィール(11)

英愛仏クラシックレースに勝った馬の血統を紹介する当コーナー、今年は遂に11回目を迎えてしまいました。毎年何れかの馬がクラシック・ダブル(乃至トレブル)を達成するものですが、今年はこれまでの11戦で全て勝馬が異なることになります。このまま最多回数の13回まで行ってしまうのでしょうか。

ということで今回は愛ダービーの覇者トレーディング・レザー Trading Leather を取り上げます。父テオフィロ Teofilo 、母ナイト・ヴィジット Night Visit 、母の父シンダー Sinndar という血統。

今回は、最初にトレーディング・レザーが25号族に属する馬であることを紹介しておきましょう。「○号族」という分類は競馬ファンならご存知でしょうが、かつてブルース・ロウという競馬研究家が打ち立てた牝系の分類方法。
要するにサラブレッドの牝系を辿り、活躍馬の多い順に1から順番に整理して行った結果なのですね。詳しいことは下記ウィキペディアをご覧あれ。↓

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC

ここでも解説されているように、現在では必ずしも号数の若い馬が優れているということではありません。とは言いながらも、クラシックやGⅠに勝つ馬は比較的号数の若いファミリーに集中しているのもまた事実でもあります。
その意味で、トレーディング・レザーが25号族であることに注目したいと思います。
各号とも更に分岐を細かくしてアルファベットを付していますが、25号には分岐はありません。全て基礎牝馬ブリマー・メア Brimmer Mare に遡ることが出来ます。

余談ですが、ウィキにも解説されているボビンスキーによるアルファベット分岐は、以後追加されたのは「1-x」というファミリーのみ。1号族が質量ともに勝っているのは、ロウの時代と余り変化が無いということの証拠でもありましょう。

前置きが長くなりますが、父テオフィロ(2004年 鹿毛)についても一言。彼もまたガリレオ Galileo 産駒の1頭であること、トレーディング・レザーに続いてハヴァナ・ゴールド Havana Gold もGⅠのジャン・プラ賞に勝ったことはレース・レポートでも紹介した通りです。
その時にも触れましたが、テオフィロはトレーディング・レザーと同じジム・ボルジャーが調教し、ボルジャー夫人の勝負服で走った馬。騎乗したのも娘婿ケヴィン・マニングでしたから、チーム・ボルジャーの1頭と呼んで良いでしょう。
2歳時に7ハロンばかり5戦5勝。アイルランドのナショナル・ステークスと、イギリスのデューハースト・ステークスを制して2歳チャンピオン。この時点でチーム・ボルジャーは翌年の三冠挑戦を表明したほどでした。

実際には脚部不安に悩まされたテオフィロ、3歳時は一戦もすることなく種牡馬として引退してしまいました。今年のクラシック世代が2年目の産駒ということなります。
三冠挑戦を宣言したくらいですから、1マイルのスピード、長距離のスタミナにも自信があった血統。種牡馬としても配合次第で様々なタイプを出して行くことと思慮します。

ところで馬名の「テオフィロ」は、アマチュア・ボクサーとして一世を風靡したテオフィロ・ステベンソンに因むもの。オリンピックのヘビー級3連覇、世界ボクシング選手権でもヘビー級3連覇を果たしたボクサーで、アマチュアでは現在でも世界最強の伝説が残されていますね。
従ってテオフィロ産駒にもボクシング関連の馬名が多く、初産駒でやはりボルジャー厩舎のクラシック候補だったライト・へヴィー Light Heavy もそうした1頭。
先のジャン・プラ賞勝馬ハヴァナ・ゴールドとは、テオフィロ・ステベンソンが世界選手権のハバナ大会で金メダルを初めて獲得したことに因むものでしょう。仮にテオフィロ産駒が日本で走るようなことがあったなら、それに相応しい馬名を考えてもらいたいものだと思います。

さて本題の牝系。
母ナイト・ヴィジット(2004年 鹿毛)は未出走ですが、ボルジャー師のコメントのように、師が管理したものの出走にまでは漕ぎ着けられなかった馬。3歳の終わりに引退し、2008年生まれのグリードラード Gleadhradh (鹿毛 牡 父シュヴァリエ Chevalier)が初産駒となります。
チーム・ボルジャーは馬名にケルト語を使うことが多く、この馬も何と発音するのかは判りません。ま、無理にグリードラードとしておきますが、彼もチーム・ボルジャーの1頭で9戦1勝。7ハロンと8ハロンに走り、勝鞍は3歳時、ダンダルク競馬場の7ハロン戦でした。

2番仔はナイト・インヴェイダー Night Invader (鹿毛 牡 父テオフィロ)。トレーディング・レザーの全兄で、やはりチーム・ボルジャー。3戦して未勝利、ネイヴァン競馬場の13ハロン戦で5着したのが最高成績という成績です(現在でも現役かも知れません)。
そしてトレーディング・レザーが3番仔。母にとって2頭目の勝馬となります。因みに今年の2歳馬も同じテオフィロ産駒。名前はウェクスフォード・タウン Wexford Town と言い、現時点で未出走。ということは、現在までナイト・ヴィジットには牝馬が産まれていません。生産も手掛けるチーム・ボルジャーとしては、そろそろ後継馬が欲しい所でしょうか。

2代母ムーンライト・セイル Moonlight Sail (1998年 栗毛 父アイリッシュ・リヴァー Irish River)はゴドルフィンの所有馬で、2歳時にフランスでの2戦1勝のみで繁殖に上がりました。勝鞍はシャンティー競馬場の1400メートルでのもの。
ナイト・ヴィジットはその初産駒に当たり、その後は英国で3戦1勝(ケンプトン競馬場の8ハロン)したトリマラン Trimaran (2005年 牝 父レッド・ランソム Red Ransom)、ドバイで走って9戦未勝利のチーフ・オフィサー Chief Officer (2008年 せん 父キングズ・ベスト King’s Best)、戦績不詳のムーン・イリュージョン Moon Ilusion (鹿毛 牝 父ドワイアン Doyen)などがいるのみ。現在までに活躍馬は出ていません。

続いて3代母はカドー・ダミー Cadeaux d’Amie (1984年 栗毛 父リファール Lyphard)。2代母と同様フランスで走った馬で、9戦2勝。クリティック・ヘッド=マーレク女史の管理馬で、勝鞍はドーヴィルの1600メートルとエヴリの2000メートルでのもの。勝ったデビュー戦では彼の名手イヴ・サンマルタンが騎乗していました。
2歳時にはクリテリウム・デ・プーリッシュ(GⅠ、現在のマルセル・ブーサック賞)にも挑戦しましたが10着。それでもレースホース誌はフランス馬にも拘わらず「115」に評価して掲載したほど。GⅢではオマール賞3着、ヴァントー賞3着の実績も残しています。

流石にタイムフォームが評価しただけのことはあり、カドー・ダミーは繁殖に上がってから本来の力量を子孫に伝えていきます。
トレーディング・レザーの2代母の他、娘のハトゥーフ Hatoof が英1000ギニー、チャンピオン・ステークス、アスタルテ賞(現在のロッシルド賞)、オペラ賞と英仏でGⅠを制覇。アメリカに遠征してもビヴァリー・D・ステークスに勝つなど海外にもその名前を轟かせました。
またアイリッシュ・プライズ Irish Prize もアメリカのGⅠ戦(シューメーカー・マイル)に勝つなど、GⅠ勝馬を複数産むという活躍を見せています。

4代母タナナリーヴ Tananarive (1970年 鹿毛 父ル・ファビュリュー Le Fabuleux)も繁殖牝馬として名を残している名牝。彼女もフランスで走り10戦3勝。勝鞍はドーヴィルの1200メートル、エヴリの2400メートル、サン=クルーの2800メートルと、所謂重賞競走での実績は無いものの、多彩な競走馬でした。
その産駒はカドー・ダミーの他、2歳時にチーヴリー・パーク・ステークスに勝ち、3歳時にはフランス・オークスとヴェルメイユ賞を制してヨーロッパ最強牝馬に上り詰めたミセス・ペニー Mrs Penny がいます。

ミセス・ペニー自身も繁殖牝馬としてその血を後世に伝え、ホイットニー・インヴィテーショナルのアンアカウンテッド・フォー Unaccounted For 、ヴェルメイユ賞のミセス・リンゼー Mrs Lindsay 、ジェニー・ワイリー・ステークスのペニーズ・ゴールド Penny’s Gold などのGⅠ級競走馬の祖となりました。まだまだこの牝系からの活躍馬は出続けるでしょう。

5代母テン・ダブル Ten Double はアメリカ産。4戦未勝利ながらフランスに渡り、後の繁栄の礎となりました。
代表産駒に挙げられるのは、タヒチアン・キング Tahitian King 。3歳まではヘンリー・セシル師が管理して3勝を記録しましたが、アメリカに逆輸出されてから開花。G戦ではないもののサイテーション・ハンデに勝つなど、英米を通算して24戦10戦の成績を残しています。

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