2013クラシック馬のプロフィール(12)
遂に、今年のクラシック馬の血統紹介も12回目になってしまいました。ということは今年はクラシックを複数勝った馬がいないということで、このコーナーを始めてから取扱う馬が最多の年ということになりそうですね。
残るはドンカスターのセントレジャーのみ。ダービー馬か愛ダービー馬が勝つという可能性も無いではないでしょうが、そもそも2頭が参戦するかどうか。13頭目のクラシック馬誕生の確率はかなり高いものと予想できます。
さて愚痴はこの位にして、今年のアイリッシュ・オークスを制したチキータ Chicquita のプロフィールです。未勝利馬としてクラシックを制したチキータは、父モンジュー Montjeu 、母プルーデンツィア Prudenzia 、母の父ダンジリ Dansili という血統。モンジューとダンジリということは、血統を少し齧った方なら直ぐにノーザン・ダンサー Northern Dancer のインブリードということに気付かれるでしょう。
母プルーデンツィア(2005年 鹿毛)は5戦2勝の競走成績を残した馬で、チキータ同様フランスで調教された馬。チキータがアラン・ド・ロワイアー=デュプレ厩舎なのに対し、こちらはパスカル・ベイリー師が管理しました。
2歳時にロンシャンの1800メートル戦でデビュー勝ち。最初から長距離向きのタイプとして調教されてきたことが判ります。
2歳戦はこの一戦のみで、3歳初戦はクラシック・トライアルの一つとして知られるリステッド戦のフィンランド賞に出走して4着、続いて同じロンシャンの2200メートル戦ド・ラ・セーヌ賞に勝って2勝目を記録します。
しかし勝ち星はここまで、初めてG戦に挑んだロヨーモン賞(GⅢ、2400メートル)では6着、ドーヴィルのプシケ賞(GⅢ、2000メートル)も8着と奮わず、そのまま繁殖牝馬として引退します。
2009年に初めて交配した母の初産駒が、首題のチキータ。初産駒にして初クラシック馬という快挙となりました。因みに彼女の2番仔も牝馬で、父はガリレオ Galileo 。シナマリー Sinnamary と命名されましたが、現時点では未出走でしょう。母、姉同様距離が伸びてから使われていくものと思われます。
2代母はプラトニック Platonic (1999年 鹿毛 父ザフォニック Zafonic)。この馬から4代母までの三世代は全て英国のルカ・クマニ調教師が管理した馬たちで、チキータの長距離血統を育んできた血脈と言えます。その辺りをザッと見ていきましょう。
プラトニックはクマニ師の元では9戦未勝利、7ハロンから12ハロンまでの距離を試されましたが、勝鞍は無くフランスに転じ、通算では17戦1勝という成績を残しました。
繁殖牝馬としては、プルーデンツィアは2番仔。そのほか現在までの成績を列記すると、
2004年 ハットン・フライト Hatton Flight 鹿毛 せん 父カヤーシ Kahyasi 34戦9勝
2005年 プルーデンツィア
2008年 パシフィック Pacifique 鹿毛 牝 父モンジュー 5戦3勝
2009年 アストロノミー・ドミネ Astronomy Domine 牝 父ガリレオ 1戦未勝利
2010年 サイクロニック Sychronic 牝 父ダンジリ
初仔のハットン・フライトは主にハンデ戦で活躍した馬で、勝鞍は全てが12ハロンから13ハロンでのもの。3連勝を一度、4連勝も一度記録しており、3連勝の中にはエプサムの伝統戦であるメトロポリタン・ハンデ(12ハロン)も含まれます。
またチキータとは極めて近い血統を持つパシフィックは、同じくアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ師が管理した1頭で、リュテース賞(GⅢ、3000メートル)に勝ったステイヤー牝馬。他にミネルヴァ賞(GⅢ、2600メートル)2着、ショードネー賞(GⅡ、3000メートル)3着の実績もあり、デュプレ師が未勝利馬でありながらチキータを仏オークス(2着)、愛オークスに出走させた根拠となったことが理解できるでしょう。
日本ではクラシックに未勝利馬が出ることはほとんど無いし、賞金の関係から無理。これかヨーロッパの競馬との決定的な相違点で、フランスでもイギリスでもクラシックに挑戦する馬にはそれなりの裏付けがあるもの。いくらそれまでに勝鞍が多くとも、分を考えて出走するレースを選択してくるのは、やはりヨーロッパが伝統的な階級社会であることと無関係ではないと思われます。もちろん善悪を論じているのではありません。
話は飛びましたが、やはりクマニ師が調教した3代母プース Puce (1993年 鹿毛 父ダーシャーン Darshaan)は12戦3勝。この馬の勝鞍も10ハロン戦と12ハロン戦が2鞍と全て長距離でのもの。勝鞍の中にはリステッド戦が一鞍あり、有名なイボア・ハンデ(14ハロン)での3着とパーク・ヒル・ステークス(牝馬のセントレジャー)3着も含まれます。
繁殖牝馬としての代表産駒には、ランカシャー・オークス(GⅡ、12ハロン)に勝ったポンジー Pongee がおり、やはり長距離、と言うかクラシック距離での活躍馬を出していることに注目しましょう。
4代母スーク Souk (1988年 鹿毛 父アホヌーラ Ahonoora)は6戦2勝。勝鞍は何れも7ハロンでしたが、これは父が短距離系だったことの影響でしょう。
スークにはプースの一つ年下の妹があり、名をシューク Shouk (1994年 鹿毛 父シャーリー・ハイツ Shirley Heights)と言います。この馬も繁殖牝馬として歴史に名を残す1頭で、最高傑作はオークス、愛オークス、ヨークシャー・オークスと三大オークスを制したアレクサンドロヴァ Alexandrova 。正にクラシック距離に強いファミリーの伝統を強調して見せた名牝です。
シュークには他にもチーヴリー・パーク・ステークスに勝ったマジカル・ロマンス Magical Romance (父バラセア Barathea)、シー・ザ・スターズ Sea the Stars のダービーで3着に来たマスターオブザハウス Masterofthehouse (父はサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells)という活躍馬がいます。
この牝系を更に遡ると、5代母スーマナ Soumana の母はフェイズバド Faizebad と言い、仏1000ギニー馬ドゥムカ Dumka の母でもあります。
ドゥムカ自身も2000ギニー馬ドユーン Doyoun 、コーク・アンド・オルリー・ステークス勝馬ダファイナ Dafayna を出し、その娘ドゥカイナ Dukayana が桜花賞馬チアズグレイスの2代母になっていることは日本のファンもご存知でしょう。
もちろん配合にもよりますが、チキータは近年でも長距離で本領を発揮するスタミナ牝系を代表する一頭。ヴェルメイユ賞でそのクラスを立証すれば、凱旋門賞での大駆けも期待できる存在であることが理解できると思います。
ファミリー・ナンバーは、21-a。有名なウォグティル Wagtail を基礎とする牝系です。
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