2013ロイヤル・アスコット3日目

ロイヤル・アスコットの3日目はレディース・デイ。小雨交じりの生憎な天気でしたが、馬場は good to soft 。「女性の日」に相応しく二人の女性が輝く劇的な一日となりました。

幕開けはノーフォーク・ステークス Norfolk S (GⅡ、2歳、5ハロン)。14頭の若駒が出走してきましたが、9対4の1番人気に推されたコーチ・ハウス Coach House はエイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗の馬。前走カラーのリステッド戦勝ちの内容が良かったことに加え、初日と二日は共に第1レースを同コンビが制したことでもあり、成るべくして成った1番人気と言えましょう。

スタートでいきなり2番人気(4対1)のアメリカ馬ノー・ネイ・ネヴァー No Nay Never が出遅れ。しかしそれは最初の100ヤードまでのことで、直ぐにダッシュを付けて中央から先頭に立つと、外から追い縋る本命コーチ・ハウスに1馬身差を付けて優勝。3着には頭差で出走馬中唯一の牝馬ウインド・ファイア Wind Fire (16対1、7番人気)が食い込みました。勝時計58秒80は、アスコット競馬場の2歳馬レコード更新。
同馬を管理するアメリカのウェスリー・ウォード調教師は、ロイヤル・アスコットで3勝目。2009年に2歳戦を2勝して以来の勝星です。また騎乗したジョエル・ロザリオ騎手はアスコット初勝利。アメリカでは歴戦の名騎手も、さすがにロイヤル・アスコットは特別な体験だった様子。出遅れについては、前走キーンランド競馬場のデビュー戦(1着)でも同様だったようで、すんなりゲートを出ればどれだけ速いのか、という興味も沸いてきます。
この後ノー・ネイ・ネヴァーは一旦アメリカに戻り、夏のドーヴィルでモルニー賞(GⅠ)を目指すとのこと。フランスでもその快速が見られそうですね。

続いてオークスの距離で行われるリブルスデール・ステークス Ribblesdale S (GⅡ、3歳牝、1マイル4ハロン)。12頭が出走してきましたが混戦、1番人気は前走ニューバリーのリステッド戦に勝ったばかりのウインシリ Winsili 。差の無い2番人気(9対2)は3頭が並ぶ難解な一戦です。

先手を取ったのは、前日のG戦でも逃げ作戦でスタンドを沸かせたポール・ハナガン騎乗のファーサー Fersah 、2番手をインディゴ・レディー Indigo Lady が追走。しかし馬群が最終コーナーを回り、「ここから勝負」を意味する鐘が打ち鳴らされると、最後は後方に待機していた2番人気3頭が一気にスパート。中でもスタートは最後方だったリポスト Riposte が抜けた切れ味で先頭に立ち、2着ジャスト・プリテンディング Just Pretending (愛1000ギニー3着)に2馬身4分の1差を付けて快勝。3着にも1馬身半差でエリク Elik が続き、2番人気3頭が1着から3着までを独占する結果となりました。ウインシリも4着。
勝ったリポストは、本命ウインシリと同じハーリッド・アブダッラー殿下の持ち馬ですが、今は故サー・ヘンリー・セシル夫人のレディー・セシルが管理する馬。観客の誰もが願っていたセシル調教師の遺産がロイヤル・アスコットで輝く瞬間を、見事に実現させて見せました。セシル師も生前高く評価していた馬で、前走ニューマーケットの条件戦(12ハロン)を制した時点ではサー・ヘンリーの管理下。これで3戦2勝となり、セントレジャーに20対1のオッズが出されるほど話題の1頭に挙がっています。
騎乗したトム・クィーリーも感慨は一入。レース内容より、厳しい時を共有して乗り越えてきたスタッフ一同に感謝し、“セシル師はきって天から見守っていてくれた。今日勝てたのは、その力のお蔭だ”とも。夫人も故人を回顧し、“ヘンリーはロイヤル・アスコットが大好きでした。そのファッションではなく競馬そのものを。そしてここを取り巻く雰囲気の全てを・・・”と喜びを噛みしめている様子です。

その喜びを爆発させた女性がもう一人。何とも劇的な状況の中、レディース・デイを象徴するが如くゴールド・カップを制したのは、エリザベス女王その人でした。
そのゴールド・カップ Gold Cup (GⅠ、4歳上、2マイル4ハロン)。今では7レースもあるGⅠ戦の一つですが、かつては開催唯一のGⅠであり、英国競馬では最も伝統のある一戦。オーナーになった以上は誰でもが優勝を夢見るレースでもありましょう。

今年は、確たる中心馬不在もあって3頭が取り消したにも拘わらず15頭立ての混戦。去年の覇者カラー・ヴィジョン Colour Vision 、3着馬でカップ・レースの常連サドラーズ・ロック Sadler’s Rock 、加えてフランスとドイツからも我こそは、と思うステイヤーが続々参戦する中で7対2の1番人気を集めたのが、牝馬ながら女王が所有するエスティメイト Estimate でした。
エスティメイト、去年はロイヤル開催でクイーンズ・ヴェーズを制し、今年もここアスコットでトライアルのサガロ・ステークス(GⅢ)に勝ってはいましたが、歴戦の牡馬相手の1番人気は、やはり王室がゴールド・カップに勝つというドラマが期待されてのことでしょう。

レースを引っ張ったのは、ドイツから遠征してウイリアム・ビュイックが騎乗したアール・オブ・ティンスドル Earl Of Tinsdal 。これを2番人気(9対2)のサドラーズ・ロックが2番手、カラー・ヴィジョン(12対1、6番人気、今年はデ・スーザ騎乗)は3番手で追走。エスティメイトはライアン・ムーアがガッチリ手綱を抑えて5番手で待機する展開。
いよいよ直線。満を持して先頭に躍り出たエスティメイトに、カラー・ヴィジョン、4番人気(7対1)のトップ・トリップ Top Trip 、更に外から3番人気(5対1)シメノン Simenon が次々と襲い掛かるスリリングなゴール前。各ジョッキー必死の叩き合いを制したのは、女王の大声援を背にしたエスティメイト。首差でシメノンが2着、更に1馬身差でトップ・トリップが3着に入り、4着カラー・ヴィジョン、5着アルターノ Altano という決着。

エスティメイトを勝利に導いたサー・マイケル・スタウト調教師は、1978年のシャンガムゾ Shangamuzo に続く2度目のゴールド・カップ制覇。騎乗したムーア騎手にとってはゴールド・カップ初制覇となります。2010年のワークフォース Workforce 凱旋門制覇以来大きな勝鞍が無かったスタウト師としては、久々の表舞台となりました。スタウト師にとっては66勝目となるロイヤル・アスコット優勝でしたが、エスティメイトが勝つにはサガロ・ステークスより更なる成長が必要であることを示唆していました。それに答えたエスティメイト、ということでもありましょう。
いつになく興奮、思いっ切りの笑顔で勝馬を労った女王、実は国王にせよ女王にせよ、時の最高位がゴールド・カップを制したのは、レース206年の歴史上初めてのこと。更に女王にとってロイヤル・アスコットでのGⅠ制覇も初の快挙でもありました。サラブレッドの生産そのものに関心が深い女王は、牡馬よりも牝馬での勝利を何より喜んでおられたと由。観衆も大歓声でこの劇的なシーンにエールを贈っていました。
更に逸話を紹介すれば、エスティメイトは彼の大オーナーであるアガ・カーンが女王に贈ったプレゼントでもありました。彼女の半兄エンゼリ Enzeli は、1999年のゴールド・カップ覇者。この大レースを勝つに相応しい血統でもあり、流石にこのクラスともなると、全てにおいてスケールが違うことに驚かされるじゃありませんか。

一方悪いニュースとしては、ライアン・ムーア騎手はゴール前の接戦での不注意騎乗で2日間、2着ジョニー・ムルタ騎手はムチの過剰使用で4日間、3着ミケール・バルザロナ騎手にも不注意騎乗で3日間の騎乗停止処分が言い渡されました。それだけゴール前は全員が必死だった、ということでもあります。

さて3日目最後のG戦はターセンテナリー・ステークス Tercentenary S (GⅢ、3歳、1マイル2ハロン)。2011年にロイヤル・アスコットが300年を迎えたことで、それまでのハンプトン・コート・ステークス Hampton Court S から改名された一戦。その年にGⅢに格上げされたレースでもあります。それにしてもアスコットで初めて競馬が行われたのが1711年ということですから、日本なら6代将軍徳川家宣の頃。新井白石が辣腕を奮っていた時代ですから、改めてイギリス競馬の伝統の重みを感じてしまいます。
ということで14頭が出走した一戦。前走ドンカスターのハンデ戦に勝ったリモート Remote がG戦初挑戦ながら9対4の1番人気に支持されていました。

このレースもハナガン騎乗のエルカーイェド Elkaayed が逃げの一手。これを2番手で追走したヴァン・デア・ニール Van Der Neer との2頭が後続を引き離して直線に入った時には行った行ったで決まりかと思われましたが、5番手を進んだリモートと、これをマークしたフランスからの遠征馬シカプール Shikarpour が一気に末脚を爆発させ、ゴール前では着順がガラリと一変する結果。結局はリモートがシカプールを4分の3馬身抑えて人気に応え、首差でヴァン・デル・ニールが3着に粘り込みました。
勝馬を管理するジョン・ゴスデン師、騎乗したウイリアム・ビュイック共に、これが今年のロイヤル開催初勝利。オーナーはハーリッド・アブダッラー殿下で、リブルスデール・ステークスのリポストに続くダブル達成です。

以上、華やか、かつ劇的だったレディース・デイのフォト・アルバムは、以下のURLから。

http://www.sportinglife.com/racing/photos/gallery/13262/8784874/royal-ascot-day-3#!/photo/0

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