2014ロイヤル・アスコット3日目

ロイヤル・アスコットの3日目はレディース・デイ、というのもすっかり定着しました。目玉はもちろんゴールド・カップ。この日も第1レースから第4レースまでがG戦で、レース順に取り上げていきましょう。馬場は前夜の雨にも拘わらず、昨日の第2レースからの good to firm 、ラウンド・コースは所により good という固目の馬場でした。

第1レースはノーフォーク・ステークス Norfolk S (GⅡ、2歳、5ハロン)。長年ニュー・ステークス New S として親しまれてきた2歳戦ですね。9頭立て。去年ノー・ネイ・ネヴァー No Nay Never で制したアメリカのウォード・厩舎が今年もトゥー・ビー・ディターミンド To Be Determined を遠征させてきましたが、未だ1戦未勝利ということで4番人気(10対1)。5対6の1番人気に支持されたのは、オブライエン厩舎が送りこんできた2戦2勝のザ・グレート・ウォー The Great War 。2戦とも馬なりで制しており、追い出せばどこまで伸びるかに期待が高まります。
レースは、これも2戦無敗で2番人気(4対1)のムクーマル Mukhumal が逃げ、2ハロン地点から4番手を進んでいた3番人気(8対1)のバイサ・アルガ Baitha Alga が早目勝負とばかりにスパート。これに本命ザ・グレート・ウォーが馬なりで並び掛けてきましたが、いざ追い出してみると反応はゼロ。結局バイサ・アルガが5番人気(14対1)のマインド・オブ・マッドネス Mind of Madness に1馬身半差を付ける逆転劇でした。更に2馬身4分の1差でアーラン・エマラーティ Ahlan Emarati が3着に入り、ザ・グレイト・ウォーは5着敗退。2番人気のムク―マルも6着に沈み、ブックメーカーとしては二日連続固かった競馬での損失を若干でも取り戻すことができたでしょう。

リチャード・ハノンJr厩舎、ランフランコ・デットーリ騎乗のバイサ・アルガは、初日にいきなりダブルを達成したアル・シャカブ・レーシングの所有馬。ヘイドックのデビュー戦こそ2着でしたが、その後チェスターで初勝利、ダービー当日のエプサムではリステッド戦のウッドコート・ステークスと連勝してきた馬。出走馬中では最も実績のあった馬で、現時点では2歳のトップに躍り出た感があります。次走はGⅠ獲りを目指してドーヴィルのモルニー賞に向かう計画だそうです。
騎乗したデットーリ、これで今年のロイヤル開催は2勝目ですが、テンの速い馬が揃っているため後から仕掛ける作戦だったとか。“僕だって偶には頭を使うんだよ”と、ジョーク。上機嫌でした。
また2着に来たマインド・オブ・マッドネス、実は初日のウインザー・キャッスル・ステークス(リステッド戦)に出走して24頭立て15着だった馬で、1日空けて3日間で2戦という日本ではあり得ない(禁止されているはず)ローテーション。初日は入れ込みがキツく競馬になりませんでしたが、輸送が良くないとのことでアスコットに留まっていたことが好結果に繋がった由。アスコットが自分の家だと思い込んだようで、食欲旺盛、疲れも無いことからここでの出走に踏み切ったそうです。

第2レースは300年記念という意味のターセンテナリー・ステークス Tercentenary S (GⅢ、3歳、1マイル2ハロン)。アスコットが競馬場として拓かれてから300年経つことを謳った3歳の長距離戦です。1頭が取り消して8頭立て。G戦は初挑戦ながら今期2戦2勝の新星キャノック・チェイズ Cannock Chase が7対4の1番人気。

3番人気(13対2)のバーレー・マウ Barley Mow が逃げましたが、全馬が一団となるコンパクトな流れ。本命キャノック・チェイズは後方を形成する2頭の内の1頭。団子状態で進んだため直線は前が塞がったり、馬同士がぶつかる大激戦。最後はキャノック・チェイズが抜け出したものの外から内に切れ込んだため逃げバーレー・マウは危うく馬を止めるアクシデントもありました。ゴールではキャノック・チェイズが4番人気(7対1)のムタカイェフ Mutakayyef に1馬身半差を付けて1着入線。首差で5番人気(8対1)のポストポーンド Postponed が3着に入りました。
勝馬の斜行と、この他にもクラウドスケープ Cloudscape が2番人気(9対2)オブリテレイター Obliterator の進路を妨害する場面が審議対象になりましたが、最終的には入線通りで確定しています。

サー・マイケル・スタウト厩舎、ライアン・ムーア騎乗のキャノック・チェイズは、2歳時には調整が遅れてケンプトンのデビュー戦2着のみ。今年に入ってからウインザーの未勝利とニューバリーのハンデ戦に勝って昇級してきた馬。スタウト師は、いずれGⅠを取る馬と、同馬の能力に自信を深めた様子です。
なお直線でのアクシデント、不注意騎乗の廉でクラウドスケープのウイリアム・ビュイック騎手には1日(7月3日)、ムーア騎手にも2日間(7月4日と6日)の騎乗停止が課せられました。

3つ目のG戦はリブルスデール・ステークス Ribblesdale S (GⅡ、3歳牝、1マイル4ハロン)。言わばアスコット・オークスと呼んでも良いレースで、12頭が出走。フランスから遠征してきたアガ・カーン、デュプレ厩舎のヴァジラ Vazira が9対4の1番人気。ヴァントー賞(GⅢ)勝馬で、前走サン・タラリ賞では2着していた馬です。

レースは2頭出しオブライエン厩舎の1頭で、ムーアが騎乗したテリフィック Terriffic の逃げ。スタートで出遅れたヴァジラは後方からの競馬を余儀なくされます。2番人気(7対2)のインチラ Inchila が途中で故障を発症して競争を中止するアクシデントがあり、ヴァジラはここでも不利を受けてしまいました。
一方、中団待機から結果3着に入るクライテリア Criteria に寄られて数馬身遅れを取る不利のあった5番人気(10対1)のブレスレット Bracelet 、不利から立て直して先頭に立ち、後方から追い込む6番人気(16対1)ラストラウス Lustrous を半馬身凌いで優勝。頭差で前述のクライテリアが3着。スタートと道中の不利にも拘わらずヴァジラも良く追い上げましたが、3着からは1馬身遅れの4着でした。
本命馬に騎乗したクリストフ・スミオンによれば、ゲートの中に長くいることを極端に嫌う馬で、今回も最後にゲートインするように頼んだものの受け入れられなかったためスタートに失敗したそうな。前走のロンシャンでも同様で、その時は落馬寸前のスタートだった由。何れにしてもゲート練習のやり直しが必要、とのコメントを残しています。

一方不利を克服して勝ったブレスレット、エイダン・オブライエン厩舎でジョセフ・オブライエンが選んだクールモアの1頭。今年のアスコットでの、オブライエン師初勝利です。3歳デビューでレパーズタウンの1000ギニー・トライアル(GⅢ)に勝ったものの、1000ギニーはムーアが騎乗して17頭立ての14着敗退。そのムーアのアドバイスで、今回は頭巾の使用と1マイル半の距離を選択したことが結果に繋がりました。
勝馬はもちろん、2着したラストラウスも来月の愛オークス参戦を表明しています。

3日目最後は、ロイヤル・アスコットの象徴でもあるゴールド・カップ Gold Cup (GⅠ、4歳上、2マイル4ハロン)。去年はエリザベス女王の勝負服でエスティメイト Estimate が優勝してドラマを創りましたが、エスティメイトは今期の調整が遅れ、何とかシーズン・デビューを迎えたこともあって8対1の4番人気。替って10対11の1番人気に支持されたのは、去年のセント・レジャー勝馬リーディング・ライト Leading Light でした。2頭が取り消して13頭立て。長距離戦にしては多頭数でしょう。

レースは、本命馬と同じアイルランドからの遠征馬で9番人気(40対1)のミスユナイテッド Missunited の逃げ。この内ラチ沿いの逃げが中々渋太く、直線では中団の外から追い込んだリーディング・ライト、2頭の間を割ろうとするエスティメイトのスリリングな三つ巴。リーディング・ライトが内に寄れるところを鞍上ジョセフ・オブライエンが懸命に立て直し、ムーア騎乗のエスティメイトに首差先着しての戴冠。短頭差でミスユナイテッドが3着に力を出し切る激戦でした。
4着は4馬身半差が付いて2番人気(5対1)のブラウン・パンサー Brown Panther 、去年は5着ながら最も切れ味に富んでいた3番人気(7対1)のドイツ遠征馬アルターノ Altano は7着と奮いませんでした。

レジャーに続いて2つ目のGⅠ制覇となったリーディング・ライトは、エイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗。チームとしてはリブルスデールに続くダブル達成です。ジョセフにとってはゴールド・カップ初制覇ですが、父エイダンは単独首位となる6度目の勝利。2006年から9年までのゆうめぅなイェーツ Yeats 4連覇に加え、2011年にはフェイム・アンド・グローリー Fame and Glory でも制覇していました。
リーディング・ライトはドンカスターを制覇したあと挑戦した凱旋門賞では17頭立ての12着でシーズンを終え、今期はヴィンテージ・クロップ・ステークス(GⅢ)に勝って足慣らししての挑戦。それだけに休養明けでいきなり2着したエスティメイトの健闘が光ります。女王も惜敗より愛馬の好走に満足気、ウイナーズサークルの拍手も去年を上回るほどでしたね。

この激戦、ジョセフにはムチの過剰使用で7日間の騎乗停止(7月3日~9日)が課せられ、逃げ粘ったジム・クロウリー騎手にも同様にムチ使用で7日間の停止が命じられました。止むを得ない所でしょうが、ジョセフには更に最終レースでも同様に2日間の制裁(7月10,11日)が加算され、これはエクリプス・ステークス(ダービー馬オーストラリア Australia が出走予定)と愛ダービーに乗れないことを意味します。余りにも代償の大きい、しかし栄誉も大きい勝利でした。
ところでリーディング・ライト、当然ながらキングジョージという声も掛かるところですが、4000メートルの激戦を闘った後の2400メートルに如何なる影響があるか。去年の凱旋門の結果を見ずとも、オブライエン師には周知のこと。むしろ来年のゴールド・カップ連覇に3対1のオッズが出されたことの方が現実的と言えそうです。

さて昨日はアスコットの最中ながらアイルランドでもG戦が一鞍行われました。ほとんど注目されない一戦とは、レパーズタウン競馬場のバリーコーラス・ステークス Ballycorus S (GⅢ、3歳上、7ハロン)。good to firm の馬場に1頭が取り消して7頭立て。今期はドバイで3戦したあと本国アイルランドに戻り、前走アメジスト・ステークス(GⅢ)で2着したブレンダン・ブラッカン Brendan Brackan が6対4の1番人気。去年ソロナウェー・ステークスに勝って既にGⅢ勝馬でもあり、ペナルティーは6ポンド。

そのブレンダン・ブラッカンが逃げ切りを図りましたが、6番手を進んでいた4番人気(10対1)のワンナビ―・ベター Wannabe Better が差し切って優勝。半馬身差で3番人気(7対1)のイースタン・ルールズ Eastern Rules が2着に入り、頭差でブレンダン・ブラッカンは3着。去年の勝馬レイティール・モール Leitir Mor は5着で連覇成らず。
トミー・スタック厩舎、ウェイン・ローダン騎乗のワンナビ―・ベターは、前走ランウェイズ・スタッド・ステークス(GⅢ)では不得手の重馬場で12着と惨敗でしたが、馬場が回復したここでは本来の力量を発揮。ここまで何度かG戦で好走してきた実績が、漸くG戦初勝利という形で開花したと言えるでしょう。

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