ボルジャー師、キャリアの頂点に立つ

昨日カラー競馬場で行われた愛ダービーのレポートです。結果から先に言うと、英ダービーを無敗で制した1番人気(4対5)ルーラー・オブ・ザ・ワールド Ruler Of The World はあっさり完敗。3番人気(6対1)のトレーディング・レザー Trading Leather が戴冠しました。
この日のカラーは、G戦が3鞍。メインの愛ダービーは最後に組まれていましたが、これから先に紹介しましょう。馬場は good to firm 。

ということでアイリッシュ・ダービー Irish Derby (GⅠ、3歳、1マイル4ハロン)、出走馬は枠順発表でも紹介したように9頭。このクラシックを7連覇中、11回目の制覇を目指すエイダン・オブライエン厩舎のルーラー・オブ・ザ・ワールドが、ジョセフ・オブライエンを鞍上に迎えて断然1番人気に支持されていました。順当なら負ける要素は考えられない一戦です。

しかし競馬はやって見なければ判らないもの。逃げを打ったのはラルストン・ロード Ralston Road 、これをゴドルフィンのキャップ・オラッシズ Cap O’rushes が追走し、ルーラー・オブ・ザ・ワールドは後方待機策。直線、3番手に付けていたトレーディング・レザーが早目に抜け出し、ルーラー・オブ・ザ・ワールドの追撃を待ちますが本命馬は一向に動けず。
結局はトレーディング・レザーがそのまま押し切り、2着ガリレオ・ロック Galileo Rock (9対1、4番人気)に1馬身4分の3差を付ける逆転劇でした。更に1馬身4分の3差でオブライエン厩舎のもう1頭フェスティヴ・チアー Festive Cheer (33対1)が3着に入り、キャップ・オラッシズが粘って4着。ルーラー・オブ・ザ・ワールドはいくらか順位を上げたものの、4着馬から6馬身も離された5着惨敗。2番人気(7対2)リバータリアン Libertarian も8着、ここまで3着以下が無かったシュガー・ボーイ Sugar Boy もどん尻9着と期待を裏切っています。
3着に来たフェスティヴ・チアーもエプサム・ダービーに参戦して着外に敗れていた馬で、如何にダービー1・2着が走らなかったか、と言うことでもありましょう。オブライエン師は未だ敗因を特定していませんが、エプサムより焦れ込んで熱くなっていたことは確か。加えてシーズン4戦目という強行軍が響いたのかも知れません。いずれにしてもルーラー・オブ・ザ・ワールドは夏競馬を全休、秋に向けて立て直す予定です。

勝利陣営は、自身が生産者でもあり調教師でもあるジム・ボルジャー、オーナーはボルジャー夫人のジャッキー、騎乗したのは師の義理の子息に当たるケヴィン・マニング。トレーデング・レザーの父(テオフィロ Teofilo)も母(ナイト・ヴィジット Night Visit)もボルジャー師が調教した馬で、テオフィロは師の生産馬でもあります。師にとって愛ダービーは1992年のセント・ジョヴァイト St Jovite に続き2勝目。ボルジャー師は生産者としてもソルジャー・オブ・フォーチュン Soldier of Fortune (オブライエン厩舎)に次ぐ2頭目となりました。マニング騎手は愛ダービー初勝利。
同馬は2歳時にニューマーケットでオータム・ステークス(GⅢ)に勝っており、G戦は2勝目。愛2000ギニーで3着した後、前走リステッド戦で古馬を破ってダービーに臨んでいました。1マイル半の距離は初体験、良馬場条件に能力を発揮するタイプで、母の父がシンダー Sinndar だけにスタミナは問題無い血統です。詳しいことは何れプロフィールを紹介しましょう。
ボルジャー師によれば、目標はダービーだったとのこと。厩舎最有力のドーン・アプローチ Dawn Approach がエプサムを回避すれば、この馬を出走させる予定だったそうです。ドーン・アプローチはゴドルフィンに売却しましたが、この馬は自身の生産の中核に据える予定だそうで、絶対に売らない、とも付け加えていました。これまで数々の名馬を育ててきたボルジャー陣営、間違いなく今年の愛ダービーがキャリアの頂点であることを宣言しています。

さてこの日行われたカラーのパターン・レース。レイルウェイ・ステークス Railway S (GⅡ、2歳、6ハロン)はアイルランドで今年最初に行われる2歳G戦で、2頭が取り消し5頭立て。エイダン・オブライエン厩舎で、前走ロイヤル・アスコットのノーフォーク・ステークス(GⅢ)でアメリカの快速ノー・ネイ・ネヴァー No Nay Never の2着したコーチ・ハウス Coach House が8対15の断然1番人気。

しかしチーム・オブライエンの大本命はここでも不発で、優勝は3番手から抜け出した3番人気(5対1)のスディルマン Sudirman でした。半馬身差2着に2番人気(9対2)のビッグ・タイム Big Time が入り、4馬身4分の1差が付いてコーチ・ハウスは3着敗退。
以前はこのレースを独占していたオブライエン厩舎ですが、これで4年連続勝利から見放されています。優勝したスディルマンを管理するデヴィッド・ウォッチマン厩舎は、去年のプロバブリー Probably に続く2連覇。鞍上はウェイン・ローダン騎手。勝馬は、前走レパーズタウンで3戦目にして初勝利。思わぬことでGⅡ馬となってしまい、今後のローテーションが思案の為所のようです。

カラーの最後はサファイア・ステークス Sapphire S (GⅢ、3歳上、5ハロン)。ここも1頭が取り消して10頭立て。この短距離戦は順当に1番人気の馬が勝ちました。
人気(11対4)を背負って勝ったのは、前走ロイヤル・アスコットでダイヤモンド・ジュビリー・ステークス(GⅠ)に挑戦したスレード・パワー Slade Power 。GⅠでは7着でしたが、ここはランクを下げてのGⅢ。G戦は初勝利となりますが、相手から見て貫録勝ちと言えましょう。半馬身差2着はラシアン・ソウル Russian Soul 、更に半馬身差で英国から挑戦した2番人気(7対2)のモラウィージ Morawij が3着。

勝馬を管理するのはエディー・ライナム師。騎乗したウェイン・ローダンは、レイルウェイ・ステークスに続くG戦ダブルで、同騎手は第1レースにも勝っていましたから、この日ハットトリック達成となります。
スレード・パワーのオーナーは、ロイヤル・アスコットのキングズ・スタンド・ステークスを制したソール・パワー Sole Power と同じ「パワー家」の持ち馬。馬名に「パワー」を付けるのが日本的でもあり、覚えやすいとも言えるでしょうか。勢いを駆ってジュライ・カップを目指す予定。

ところで土曜日は英国でも二つの競馬場で夫々G戦が行われました。
ニューカッスル競馬場からはチップチェーズ・ステークス Chipchase S (GⅢ、3歳上、6ハロン)。good to soft 、所により good の馬場に2頭が取り消して7頭立て。前走キングズ・スタンド・ステークス(GⅠ)4着のジャック・デクスター Jack Dexter が格下げということもあって4対5の1番人気。

やや離れた位置ながら、先行2頭を捉えたジャック・デクスターの貫録勝ち。頭差でマス・ラリー Mass Rally が2着に追い込みましたが、勝馬をマークする作戦で、あと2歩あれば逆転できたと陣営は無念。2馬身半差で2番手を粘ったミルザ Mirza が3着。
ジム・ゴールディー厩舎、グレアム・リー騎乗のジャック・デクスターは、これがG戦初勝利。この馬もジュライ・カップが目標で、25対1のオッズが出されました。

英国のもう一鞍は、ニューマーケット競馬場のクライテリオン・ステークス Criterion S (GⅢ、3歳上、7ハロン)。good の馬場に9頭立て。1番人気(11対4)は2頭が分け合い、前走ダイアモンド・ジュビリー6着のホークアイザヌー Hawkeyethenoo と、3頭出しハノン厩舎で主戦リチャード・ヒューズが選んだプロデューサー Producer

結果は順当。レッド・ジャズ Red Jazz の逃げを中団から差し切ったプロデューサーが見事期待に応えました。4分の3馬身差でレッド・ジャズが2着に逃げ残り、更に1馬身4分の1差でパストラル・プレイヤー Pastoral Player が3着。人気の一角ホークアイザヌーは5着敗退。
リチャード・ハノン厩舎からは、一昨年、去年とこのレースを2連勝中のリブランノ Libranno も出走していましたが、ペナルティーが8ポンド課せられていたこともあってヒューズ騎手はプロデューサーを選択、それが正しかったことの証明ともなりました。それもあってヒューズ騎手は2連覇(一昨年のリブランノはライアン・ムーア騎乗)、もちろんハノン師は3連覇となります。
勝ったプロデューサーは7ハロンのスペシャリストで、勝鞍7勝は全てこの距離。前走はほぼ1マイルのダイオメド・ステークス(GⅢ)でしたが、3着とやや距離が長かったようです。適距離を求めて海外遠征も視野に入ってくる4歳馬です。

昨日のヨーロッパ競馬、締めはフランスのドーヴィル競馬場からリゾランジス賞 Prix Ris-Orangis (GⅢ、3歳上、1200メートル)。本来は今は存在しないエヴリ―競馬場のレースとして創設されたレースですが、近年はドーヴィルとメゾン=ラフィットとの間で交互に開催されている短距離戦。今年はまたドーヴィルに戻ってきました。
good to soft の馬場、12頭が揃いましたが、1番人気(14対5)に支持されたのは2頭出走してきた3歳馬の1頭、ジェンジス Gengis 。フォンテンブロー賞(GⅢ)勝馬で仏2000ギニーは8着だった馬、前走ポール・ド・ムーサック賞(GⅢ)でも3着と堅実な内容が買われていました。

同じく3歳馬で仏2000ギニーは12着だったプランスダルジャン Princedargent が内ラチ沿いに逃げましたが、これを1馬身捉えて優勝したのは、5番人気(44対5)のアブ―・シドラ Abu Sidra 。逃げ粘ったプランスダルジャンと、3着モラシェ・ミュージック Morache Music との着差は半馬身でした。人気のジェンジスは10着と大敗。
優勝したアブ―・シドラは、ジャン=フランソワ・ベルナール厩舎、クリストフ・スミオン騎乗。前走メゾン=ラフィットの条件戦を勝ち上がったばかりで、もちろんG戦は初勝利となる4歳馬です。

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