波乱続きのアメリカ競馬
昨日の土曜日は、ヨーロッパでも英愛仏3か国で合計6レースのG戦が行われて大忙しでしたが、アメリカは更に輪を掛けたG戦大盤振る舞い。6つの競馬場で合計11レースものグレード戦が開催されました。
そろそろ秋のBCシリーズへの招待レースも組まれ、目標は秋に絞られてきた感のあるアメリカ競馬。取り上げるレースも盛り沢山なので、要点だけを絞って簡単なレポートでご勘弁願いましょう。
何処から行こうか迷うところですが、先ずはニューヨーク、ベルモント・パーク競馬場の2鞍から。最初のニュー・ヨーク・ステークス New York S (芝GⅡ、3歳上牝、10ハロン)は firm 馬場に8頭立て。芝コースということもあり、フランスでGⅡに勝っているドリーム・ピース Dream Peace が9対5の1番人気。
レースは、ミスティカル・スター Mystical Star とアンジャズ Anjaz の先行争いを3番手で待機していた最低人気(15対1)のスターフォーマー Starformer が捉え、際どい2着争いに1馬身4分の3差を付ける番狂わせです。写真判定の結果、最後方から大外を回って追い込んだ2番人気(7対2)のレディー・オブ・シャムロック Lady of Shamrock が2着、頭差で本命ドリーム・ピースが3着でした。
ウイリアム・モット厩舎、エドガー・プラード騎乗のスターフォーマーは、これが3つ目のG戦タイトル。やや気ムラな馬で、前走シープスヘッド・ベイ・ステークス(芝GⅡ)は8着大敗で人気を落としていました。しかし前走は苦手の重馬場が敗因と明確で、馬場が回復した今回は能力をキチンと出せた結果でもあります。
続いてヴィクトリー・ライド・ステークス Victory Ride S (GⅢ、3歳牝、6ハロン)。メイン・コースは fast 。3頭の取り消しがあり5頭立て。有力馬が取り消したこともあり、7対5の1番人気に支持されたのはプエルトリコの2歳チャンピオンだったフサイチズワンダフル Fusaichiswonderful 。前走エイト・ベルズ・ステークス(GⅢ)は2着と、アメリカでは苦戦が続いていました。
好スタートから先頭に立ったのは、最低人気(10対1)のベイビー・ジェイ Baby J 、一旦は2番手を追走していたブービー人気(5対1)のブリッジハンプトン Bridgehampton に外から交わされましたが、最後の直線で外に進路を変えて差し返し、結局はブリッジハンプトンを4分の3馬身抑えて優勝。漸く2馬身4分の1差でフサイチズワンダフルが3着。人気薄2頭のワン・ツー・フィニッシュとなり、ニューヨーク・ステークスに続く大波乱でした。
パトリック・レイノルズ厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のベイビー・ジェイは、父ジェイ・ビー・ケイ J bee K にとって最初のステークス勝馬。ここまで3つの厩舎を転々としてきた馬です。最初はニヘイ厩舎で去年6月にベルモントで新馬勝ち。テスト・ステークス(GⅠ)にも出走しましたが、ダトロウ厩舎に移り、3人目の調教師が現在のレイノルズ師。5月にベルモントのアローワンス戦に勝ち、前走はクレーミング戦で3着。もちろんステークスは初勝利となります。
次はシカゴ、アーリントン競馬場のシカゴ・ハンデキャップ Chicago H (GⅢ、3歳上牝、7ハロン)に行きましょう。fast のオールウェザー・コース、1頭が取り消して9頭立て。フマーナ・ディスタッフ・ステークスに勝ってGⅠホースの仲間入りを果たしたオービー・ケー Aubby K が8対5の1番人気。
4番人気(9対2)フラワー・スペル Flower Spell の逃げ。オービー・ケーは5番手で追走しましたが、これをマークするように6番手で待機した2番人気(4対1)の一角コージ・アップ・レディー Coze Up Lady が本命馬の内から馬群を割って抜け出し、2着クイーンズ・アウォード Queen’s Award に4分の3馬身差を付けて優勝。オービー・ケーは更に1馬身届かず3着まで。ニューヨークに続いて1番人気は勝てません。
ブレット・カルホウン厩舎、ミゲル・メナ騎乗のコージ・アップ・レディーは、ここ4戦で3勝の上がり馬。ステークスそのものも初勝利で、タペタ・コースと7ハロンが適しているようです。
アメリカの3場目はモンマス・パーク競馬場。イートンタウン・ステークス Eatontown S (芝GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)は firm の馬場。当初10頭が登録していましたが、何と半数の5頭が出走を見合わせ、5頭立ての競馬。GⅠ馬のデイアットザスパ Dayatthespa が2対5の断然1番人気に支持されていましたが、ここでも1番人気が勝てない波乱となりました。
本命馬が先手を取って逃げ切るかに見えましたが、3番手に付けていた3番人気(6対1)のラーフィング Laughing が鋭く伸び、デイアットザスパに4分の3馬身差を付ける逆転劇でした。3着は更に4分の3馬身差で2番人気(4対1)のルーセニア Ruthenia の順。勝時計1分39秒26は、コース・レコード更新というオマケ付です。
アラン・ゴールドバーグ厩舎、エンジェル・セルパ騎乗のラーフィングは、これが今期初戦。出身地のアイルランドではニジンスキー・ステークスに勝っていた5歳馬で、去年は同じモンマスでマッチメーカー・ステークス(芝GⅢ)を制していた馬。去年10月27日にローレル競馬場の一般ステークスで2着して以来の休養明けでした。
ハリウッド・パーク競馬場からはGⅠが2鞍。何れも勝馬にはブリーダーズ・カップへの優先出走権が与えられるレースで、この日は芝とダートで1マイル戦を目指す馬の最初のBCトライアルでもあります。
先に行われたのは芝コース、BCマイルの前哨戦となるシューメーカー・マイル・ステークス Shoemaker Mile S (芝GⅠ、3歳上、8ハロン)。firm の馬場に出走馬は僅か5頭。去年の勝馬ジェラニモ Jeranimo が出走してきましたが、断然の1番人気(1対5)に支持されたのは、5月にアメリカン・ハンデ(芝GⅡ)を快勝したオビアスリー Obviously 。去年のBCマイルではワイズ・ダン Wise Dan の3着に食い込んだ馬で、今年はここから頂点を目指します。
各地で1番人気が敗退する中、オビアスリーは最初から2番手以下を大きく引き離す逃げ作戦。そのまま4番人気(7対1)2着ザー・アプルーヴァル Za Approval に3馬身4分の1の大差を付けて貫録の勝利です。3着は1馬身4分の1差で最低人気(16対1)のウィルキンソン Wilkinson 。2番人気(5対1)に支持された仏2000ギニー馬ルカイヤン Lucayan は最下位5着、前年の覇者ジェラニモも4着と奮いません。
勝馬を管理するマイク・ミッチェル師は、これがハリウッド競馬場で900勝目となる記念のGⅠ勝ち。ハリウッドの最多勝利記録を持つ調教師は、あの伝説の名伯楽ボビー・フランケル(952勝)ですから、65歳の師にとって目標は大記録、と言いたいところですが、残念ながらハリウッドは今年一杯で閉鎖が決定。偉大なる史上2位の記録ということになりそうですね。不思議にもシューメーカー・マイルは師にとって初勝利、鞍上はジョセフ・タラモ騎手。
この日第2のGⅠ戦が、ダートの1マイルで行われるトリプル・ベンド・ハンデキャップ Triple Bend H (GⅠ、3歳上、7ハロン)。もちろん勝馬にはBCダート・マイルへの優先出走権が付与されます。馬場は fast 、1頭取り消しがあり8頭立て。マリブー・ステークス(GⅠ)、ポトレロ・グランデ・ステークス(GⅡ)とG戦に連勝のジミー・クリード Jimmy Creed が3対2の1番人気。去年の勝馬キャンプ・ヴィクトリー Camp Victory が2番人気(4対1)で続きます。
同じく2番人気のコンマ・トゥ・ザ・トップ Comma to the Top が快調に飛ばしましたが、これを捉えたのは1番人気でも2番人気でもなく、3番手を進んだ5番人気(8対1)のセントラルインテリジェンス Centralinteligence 。粘ったコンマ・トゥ・ザ・トップに3馬身半の大差を付けての逆転勝利です。3着は1馬身4分の1差で伏兵(14対1、ブービー人気)モーニング・ライン Morning Line が食い込み、ジミー・クリードは8着、キャンプ・ヴィクトリーも7着と又しても人気馬受難の結果となってしまいました。
ロナルド・エリス厩舎、ヴィクター・エスピノザ騎乗のセンターインテリジェンスは、去年のこのレース6着で今期3戦目。初勝利のステークスがいきなりGⅠという波乱です。5月27日のロサンジェルス・ハンデ(GⅢ)はコンマ・トゥ・ザ・トップの1馬身4分の1差2着でしたが、その時は勝馬より6ポンド軽いハンデ。今回は7ポンド差に広がりましたが、単純な計算では説明が付かないほどの荒れ様と言わざるを得ません。果たしてBCではどんな結末が待ち受けているのでしょうか。
ケンタッキー州は大荒れの天気。チャーチル・ダウンズ競馬場のバシュフォード・マナー・ステークス Bashford Manor S (GⅢ、2歳、6ハロン)はアメリカ競馬今年最初の2歳G戦ですが、スタート時間は土砂降りの雨に見舞われ、スタート時間が14分遅れ。馬場は当然ながら sloppy と泥田状態になり、7頭立て。新馬戦の圧勝が注目されてドゥカジュン・キャット D’cajun Cat が6対5の1番人気に支持されていました。
しかし優勝したのは、好スタートから一旦3番手に控えた3番人気(5対1)のデット・シーリング Debt Ceiling 。直線では外に膨れる若さを見せながらも、2着ハリウッド・タレント Hollywood Talent に2馬身4分の3差を付けての快勝。3着は更に2馬身半差でマイ・コリンシアン My Corinthian が入り、人気のドゥカジュン・キャットは5着敗退。この馬場では致し方ないかも。
勝馬を管理するジョン・ロッブ調教師は、これがチャーチル・ダウンズでの初勝利、騎乗したのはエリック・カマチョ騎手。デット・シーリングは成績を3戦3勝とし、2歳戦最初の勝馬として名乗りを挙げました。
続いてはファイアークラッカー・ハンデキャップ Firecracker H (芝GⅡ、3歳上、8ハロン)。芝コースは何とか yielding に留まりましたが、それでも3頭が取り消して5頭立て。何と言っても去年の年度代表馬ワイズ・ダン Wise Dan 登場が話題です。1対5の一本被り本命。
1番人気が勝てない競馬が目立ったこの日のアメリカ競馬でしたが、流石はワイズ・ダン、最後のコーナーでは内に包まれる不利がありながら、内ラチ沿いをこじ開けるように抜け出すと、2着2番人気(9対2)リー Lea に2馬身差を付ける横綱相撲です。両馬のハンデ差は11ポンドもありましたから、内容は着差以上であることは勿論。3着は半馬身差で逃げたセルーニ Seruni 。
チャールズ・ロプレスティ厩舎、ジョン・ヴェラスケス騎乗のワイズ・ダン、今期はメイカーズ・マイル、ターフ・クラシックとGⅠに連勝して3つ目のG戦制覇。2年連続BC勝利と、年度代表馬のタイトルを目指します。
最後はアイオワ州プレーリー・メドウス競馬場から3鞍。馬場は何れも fast 。簡単に結果のみをレポートしておきます。最初のアイオワ・オークス Iowa Oaks (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。10頭が出走し、大外ながらカリフォルニアから遠征してきたフィフティーシェイズオブヘイ Fiftyshadesofhay が6対5の1番人気。
3番手を進んだ本命馬、徐々に順位を上げると、先頭で直線に入りそのまま圧勝で人気に応えました。3馬身半差でシーニーン・ガール Seaneen Girl が2着、更に1馬身でソー・メニー・ウェイズ So Many Ways 3着。
ボブ・バファート厩舎、マーチン・ガルシア騎乗のフィフティーシェイズオブヘイは、サンタ・イザベル・ステークス(GⅢ)、ブラック・アイド・スーザン・ステークス(GⅡ)に続き3つ目のG戦勝利。ここは力量の差がモノを言った一戦と見て良いでしょう。
続くアイオワ・ダービー Iowa Derby (GⅢ、3歳、8.5ハロン)は波乱。出走頭数は7頭とオークスより少ないメンバーでしたが、6対5の1番人気に支持された2連勝中のアワ・ダブル・プレイ Our Double Play は4着に敗退しています。
優勝は伏兵(17対1)ルッキング・クール Looking Cool 。後方2番手を進み、直線では人気上位組を纏めて差し切る逆転劇です。2着は首差で7対1のビトゥイーンヒアアンドクール Betweenhereandcool 、1馬身4分の1差3着に3番人気(5対2)のバシャー Bashaar と波乱。
カール・ナフツガー厩舎、レアンドル・ゴンサルヴェス騎乗のルッキング・クールは、もちろんG戦初勝利。ナフツガー厩舎の名前を聞くのは久しぶりですが、それもそのはず、オーナー共々BCジュヴェナイルとケンタッキー・ダービーを制したストリート・センス Street Sense と同じチーム。勝馬同様、同チームにとっても今年最初のステークス勝ちとなりました。
そして最後はプレーリー・メドウス・コーンハスカー・ハンデキャップ Prairie Meadows Cornhusker H (GⅢ、3歳上、9ハロン)。6頭立ての1番人気(4対5)は、去年から今年にかけて勝鞍に恵まれないものの、G戦で2・3着が続いているプレイヤー・フォー・リリーフ Prayer For Relief 。
2番人気(8対5)シルヴァー・マックス Silver Max の逃げを4番手から3番手と徐々に詰めたプレイヤー・フォー・リリーフ、直線では久し振りに先頭に立っての楽勝で人気に応えました。1馬身4分の3差で3番人気(7対2)のタップタウン Taptowne が2着に入り、5馬身4分の1の大差が付いてシルヴァー・マックスが3着。漸く順当な結果で収まっています。
プレイヤー・フォー・リリーフの勝利は3歳時のスーパー・ダービー(GⅡ)以来。一昨年のアイオワ・ダービーの勝馬で、当時のバファート厩舎から現在のスティーヴン・アスムッセン厩舎に移籍してからは初勝利だと思われます。鞍上はリカルド・サンタナ騎手。
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