凱旋門賞に新たな脅威

昨日のヨーロッパ、レース順ではなくアイルランド・オークス Irish Oaks (GⅠ、3歳牝、1マイル4ハロン)から始めましょう。
カラー競馬場は相変わらずの good to firm 、アライヴ・アライヴ・オンが出走を取り消したため7頭立てで行われました。英オークス馬タレント Talent が参戦してオークス・ダブルを目指しましたが、オッズは11対4の2番人気。クラシック馬を抑えて9対4の1番人気に支持されたのは、ロイヤル・アスコットでリブルスデール・ステークスを制したリポスト Riposte 、レディー・セシル/トム・クィーリーのコンビが英国から挑戦して来ました。

レースは、3頭出しオブライエン厩舎の筆頭格で、アスコットでは本命馬の2着に来たジャスト・プリテンディング Just Prtending (ジョセフ・オブライエン騎乗)の逃げ作戦。これをリポストが2番手で追走し、タレントは最後方から末脚に掛ける展開。
しかしエプサムではハイペースに恵まれた感のあったタレント、順位を上げようと追い出したものの切れ味は今一つ、結局は勝負にならずと見て目一杯追われることなく最下位敗退です。逃げるジャスト・プリテンディングを捉えんと並び掛けたリポストもアスコットとは一転して動きに鋭さが見られず、こちらも5着敗退。
替って進出してきたのが、内ラチ沿いの3番手に付けていた3番人気(9対2)のチキータ Chicquita 。外に持ち出して追われると急速に左に寄れ、馬群から離れるようにスタンド側に振れましたが、2着に食い込んだオブライエン厩舎の副将格ヴィーナス・ド・ミロ Venus de Milo に半馬身先着しての戴冠。内で粘りに粘ったジャスト・プリテンディングが首差で3着に残りました。勝馬の大斜行が審議となりましたが、鞍上ジョニー・ムルタは軌道修正を図っていましたし、2着したヘファーナン騎手も馬を止めるような場面も無く終始追っていましたから、この斜行は着順には影響しなかったと見做されて入線順位のままで確定しています。

チキータは出走馬の中では唯1頭の未勝利馬、それでも3番人気と支持が高かったのは、前走仏オークスでトレーヴ Treve の2着と言う実績があったから。フランスのアラン・ド・ロワイアー=デュプレ師の管理馬で、今回はムルタ騎手が初めて手綱を取っていました。
調教では大人しい存在ながらレースで斜行するのはこの馬の癖のようで、2戦目となる前々走サン=クルーでもゴール前で急激に左に寄れ、揚句は落馬してしまいました。それでも仏オークスにチャレンジしたのは、デュプレ師が彼女の素質に惚れ込んでいたからとのこと。デュプレ師が愛オークスに勝ったのは2005年のシャワンダ Shawanda に続く2度目ですが、前回は無敗馬での勝利、今回は未勝利馬での優勝と、対照的な結果になっています。
ムルタ騎手は愛オークス6勝目。オックス厩舎時代にエバディーラ Ebadiyla (1997年)とウィノナ Winona (1998年)、オブライエン時代にはピーピング・フォウン Peeping Fawn (2007年)とムーンストーン Moonstone (2008年)で勝ち、その間スタウト厩舎のペトルーシュカ Petrushka (2000年)でも勝っています。今回も騎乗の難しい馬を御しての勝利、最早名人芸とも言える手綱捌きでした。この日のハンデ戦では自身の調教馬に騎乗しても勝っており、新たな領域に歩みを踏み出しているムルタではあります。

デュプレ師はチキータについて、ヴェルメイユ賞から凱旋門賞という本道を考えている由。この勝利で仏オークスの評価は更に高まりました。チキータの凱旋門賞オッズは20対1が提示され、トレーヴのそれも8対1に急上昇しています。
某ブックメーカーの見立てでは、チキータのようなタイプこそが凱旋門賞に勝つとのことで、3歳牝馬という軽ハンデを利して人気馬をなで斬りする姿が見えなくもありません。

カラー競馬場では、この日もう2鞍のG戦が行われています。
アングルジー・ステークス Anglesey S (GⅢ、2歳、6ハロン63ヤード)は7頭立て。前走ナース競馬場で13馬身差の圧勝を演じたオブライエン厩舎のオクラホマ・シティー Oklahoma City がイーヴンの断然1番人気。

スピードに富む本命馬がスタートから先頭に立って逃げ切りを図りましたが、4番手で待機した同じオブライエン厩舎の3番人気(7対1)ウィルシャー・ブールヴァール Wilshire Boulevard が鋭く伸びて本命馬を4分の3馬身捉えて優勝。半馬身差3着にはマンション・ハウス Mansion House の順。いずれにしてもオブライエン厩舎のワン・ツー・フィニッシュです。
今回はジョセフが本命馬を選択したためシーマス・ヘファーナンが騎乗したウィルシャー・ブールヴァールは、3戦目でネイヴァンの未勝利戦になったあと、ロイヤル・アスコット(ウインザー・キャッスル・ステークス、リステッド戦)に挑戦して24頭立ての10着だった馬。今回は頭巾を外して臨んだことで結果に繋がったようです。

カラーの最後はミンストレル・ステークス Minstrel S (GⅢ、3歳上、7ハロン)。1頭取り消して5頭立てでしたが、ここもオブライエン厩舎で評判になっている3歳馬ダーウィン Darwin が8対11の圧倒的1番人気になっていました。
3番人気(9対1)レイティール・モール Leitir Mor の逃げを2番手で追走したダーウィン、直線で危な気無く抜け出すと、後方から追い込む2番人気(6対4)で古豪のGⅠ馬ゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron を難なく1馬身4分の3差抑え切っての快勝。更に1馬身4分の1差でレイティール・モールが3着に粘りました。

ダーウィンは3歳になってアメリカからトレードされた馬。2歳のアメリカ時代はトッド・プレッチャー師が管理しており、ベルモントのデビュー戦(6ハロン)に勝ち、アケダクトのナシュア・ステークス(GⅡ)で4着。オブライエン厩舎でのデビューとなった前走ナースの一般戦(3頭立てでしたが)にも勝って評判を高めていた存在です。
陣営では距離が1マイルに伸びても充分行けると判断、シーズン後半の重要なマイル戦には全て登録を済ませました。次走はドーヴィルを予定しているようで、マイル路線に新たなスターが誕生する気配。父はケンタッキー・ダービー馬ビッグ・ブラウン Big Brown ということで、血統的にもヨーロッパに新風を吹き込むことが期待されます。

ところで土曜日はイギリスのニューバリー競馬場でもG戦が一鞍、簡単に紹介しておきましょう。
ハックウッド・ステークス Hackwood S (GⅢ、3歳上、6ハロン8ヤード)は1頭取り消して5頭立て。こちらも good to firm 、所により firm の固い馬場で、ドバイとダイアモンド・ジュビリーのGⅠで連続3着しているクリプトン・ファクター Krypton Factor が13対8の1番人気に支持されていました。

しかし優勝は3番人気(3対1)のヒーラート Heeraat 、逃げた2番人気(2対1)ハムザ Hamza を1馬身4分の3差し切っての逆転劇です。首差でクリプトン・ファクターは又しても3着。
ウイリアム・ハッガス厩舎、ポール・ハナガン騎乗のヒーラートは、これがG戦初勝利となる4歳馬。今期初戦に同じニューバリーで勝ってハンデ・クラスを脱出、G戦クラスで戦ってきましたが、キングズ・スタンド・ステークス(GⅠ)は6着、前走本命で臨んだヨークのリステッド戦でも微差2着とニア・ミスが続いていました。晴れてG戦勝馬の列に名を連ねたことになります。

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