読売日響・第530回定期演奏会

読響の2013/14シーズン、後期がスタートしました。10月は桂冠名誉指揮者スクロヴァチェフスキ登場、今回は2種類のプログラムを合計5公演振る予定で、10月3日の東京オペラシティ公演ではマエストロ90歳の誕生日が祝われた由。この人には年齢はほとんど意味をなさないようですね。
東京サントリーホールの定期演奏会はこちらのプログラム。

スクロヴァチェフスキ/パッサカリア・イマジナリア
     ~休憩~
ブルックナー/交響曲第4番
 指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
 コンサートマスター/小森谷巧
 フォアシュピーラー/長原幸太(ゲスト)

ところでこの日は土曜日、定期が土曜日に行われるのは珍しいことで、開演はいつもより1時間早い午後6時ということになっていました。これ、チョッと判り難いですよね。
一回券でチケットを買う人ならともかく、自動的に定期会員を継続する人にとって、今回だけ開演時間が違うということに関する注意喚起はなされていないようです。私は以前からの会員で何となく土曜日だから気を付けなきゃ、という気持ちが働きましたが、会員全員にそれを期待してはいけません。
実際、私の隣席に座られる30年来の会員氏は、前半が終わってから入場してこられました。聞けば開始時間が例月とは異なることに気が付かなかったとのこと。下手をすれば後半も入れなかった可能性があります。

確かに券面には開演時間が明瞭に書かれていますが、事務局としては土曜日だけは6時開演ということを丁寧に伝えるべきじゃないでしょうか。長年会員なら知っているはず、というのは楽団としての思い上がり。ここは葉書ででも連絡すべきと思慮しますが如何でしょうか。
今流行の言い回しを使えば、団としてオ・モ・テ・ナ・シが不足していると言わざるを得ません。求猛省。

前置きはそれだけにして、前半は巨匠が古巣ミネソタ管のために作曲したもの。当時の首席指揮者・大植英次の手で初演された作品です。以前日本で演奏されたのでしょうか、日本初演とは表記されていませんでした。

作品は30分弱の比較的長いもので、如何にもスクロヴァ翁らしい「管弦楽のための協奏曲」風の作風。2つの極度に対照的な楽器配置や楽想を駆使し、冒頭低弦に出るパッサカリア主題が様々に変奏されていきます。
何度か氏の作品に触れてきたこともあって、ポーランド楽派とも呼ぶべき作曲スタイルはお馴染みになってきました。聴いていて何の違和感も覚えません。最後の方にチャンス・オペレーション的シーンが登場するのも、10歳先輩のルトスワフスキを連想させるもの。譜面台に置かれたストップウォッチ(?)はそのための小道具でしょうか。
最近入会したNMLは真に便利なもので、この曲も事前に自作自演盤(エームズ盤)で予習することが出来ました。ナクソス・ライブラリーでは「架空のパッサカリア」と和訳されていますが、そのブックレットも読むことが出来ます。それによれはショット社から出版されているということですが、これは未だ未刊のよう。いずれにしてもスクロヴァチェフスキの作品が売り譜として出版されるのは当分先のことになりそうです。

後半はマエストロの首席指揮者就任コンサートで演奏されて以来の聴きもの。おなじくエームズ盤で予習が可能ですが、今回驚かされたのは、前回の演奏ともCDに収められたザールブリュッケンとの演奏とも異なるヴァージョンが使われていたこと。
この点に少し立ち入ると、次の通りです。

即ち第4交響曲の決定稿とされる第2稿は、ハース版とノヴァーク版が存在します。この両者の違いはほとんど無く、敢えてハースだのノヴァークだの区別するまでもありません。
ところがブルックナーは自身で何度も手を加えるなど、実態はかなり錯綜。更にハース以前はレーヴェなどによる改竄もあり、クナッパーツブッシュやワルターなどは所謂レーヴェ版で演奏してきました。(具合が悪いことに、そうした改竄版の録音も聴くことができます)

で、スクロヴァ翁はというと、CDで聴けるようにハース(ノヴァーク)版を基に、レーヴェ由来の改訂を少なくとも3か所は取り入れてきました。
具体的に言えば、第1楽章第325小節のティンパニ追加。第4楽章第76小節の fff にシンバル追加。同じフィナーレの第329小節のティンパニ加筆です。
極め付けは、前回の読響でも、N響客演時にも披露した第4楽章最後のタムタム追加。これについては当時の日記(2007年4月18日)にも紹介しましたが、正にスクロヴァチェフスキの隠し技とも呼べるものでした。

今回の定期、実は以上のスクロヴァチェフスキ「版」の再確認も目的の一つでしたが、私は見事に裏切られました。翁は90歳にして更に「進化」していたのです。
どういうことか。
一つは上記ティンパニとシンバル加筆に加え、第1楽章にもう1か所レーヴェ由来の加筆があったこと。しかしこれは大した問題じゃありませんね。
注目すべきは、例のタムタム追加は廃され、同じ個所にシンバルの弱音2発が加えられたこと。これもスクロヴァチェフスキ独自の思い付きではない点をシッカリ見つめるべきで、実は何種類も出版されているスコアの最新版(2004年)で、ベンジャミン・コルストヴェットが編纂した1888年版に登場する加筆なのです。

即ちマエストロは以前の譜読みに留まらず、最新のブルックナー研究にも目を通し、過去の解釈も考量した上で毎回の演奏に臨んでいるということ。驚くべき研究熱心と評すべきではないでしょうか。
改めてこのポーランド生まれの老人に敬意を表したいと思います。

最後はいつもの儀式。私はこの種の喝采は苦手なので背中で感じながら退散しましたが、聴衆のオ・モ・テ・ナ・シは、事務局のそれを遥かに上回っていました。

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