日本フィル・第294回横浜定期演奏会

今年最初の演奏会カテゴリーは、去年に続いて日フィルの横浜定期です。以前は1月と言えば「新世界交響曲」が定番だった同オケですが、最近はこれに捉われず、様々なタイプのプログラムが選ばれているようです。
2014年の幕開けは、新春を意識した以下のプログラム。単なるニューイヤーとは一味違う、緻密な演奏を楽しんできました。

モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
ヨハン・シュトラウス/喜歌劇「こうもり」序曲
ヨゼフ・シュトラウス/鍛冶屋のポルカ
ヨハン・シュトラウス/ワルツ「芸術家の生涯」
ヨハン・シュトラウス/トリッチ・トラッチ・ポルカ
ヨハン・シュトラウス/ワルツ「美しく青きドナウ」
 指揮/阪哲朗
 ヴァイオリン/木野雅之
 コンサートマスター/江口有香

今月の注目は、何と言っても今年デビュー30周年を迎える木野雅之のソロでしょう。桐朋学園卒、様々なヴィルトゥオーゾたちに師事してきましたが、我々一般人には何と言ってもギトリスのお弟子さん、という印象が強いヴァイオリニストですね。
1993年からは日本フィルのコンマスも務め、ソリストとコンサートマスターの二役を兼ねる名手でもあります。もちろん室内楽も熱心で、スイスの音楽たちとクァルテットを組織していたはず。
日フィルのコンマスと言う馴染があるためか、去年の九州ツアーの際にJR佐賀駅で偶然すれ違い、“あっ木野さん、公演素晴らしかったですね!”と思わず声を掛けてしまった思い出があります。その体格からか、親しみがわくキャラでもあります。

30周年最初のチョイスが何故シベリウスなのかは聞き損いましたが、体格とはやや異なる繊細な表現と、美しい音色で北欧の名曲を楽しみました。やっぱりナマは良い!!

一方、指揮台の阪くん。現在はドイツのレーゲンスブルク歌劇場の音楽総監督を務める身ですが、ドイツに転身する前は何度かナマに接してきた指揮者です。今回は久し振りに聴く、目にするタクト。
私は結構好きなタイプで、その音楽には活き活きした動きがあるのが好ましい印象です。

やはりドイツの歌劇場で揉まれているのでしょう、その成長ぶりは明らかです。
冒頭のモーツァルト、弦を10型に落とし、管楽器を明瞭に聴かせる配慮。何でもないようでいて、細部まで良く磨かれた表現が作品に躍動感を与えていました。かなりリハーサルを積んだ印象です。
続くシベリウスのバックも、オケの細かい動きに配慮が行き渡っていて好演。協奏曲が振れる指揮者、ということを実感。

それは後半のシュトラウス一家の音楽にも共通していて、極めて速いテンポながらリズムはしなやか。もっと恰幅の良いシュトラウスが好みと言うファンもあるでしょうが、私は阪の小股が切れ上がったようなシュトラウスも大好きです。
個々の作品について触れることもないでしょうが、日フィルの名物打楽器奏者・福島喜裕のコントも楽しい鍛冶屋のポルカに喝采。続く芸術家の生涯も絶品でした。

青きドナウがあって、アンコールなしということはありません。99%予想が当たるアンコールは、父ヨハンのあれ。会場の手拍子も、本場の賑わいによる啓蒙がすっかり浸透しているようで、ウィーンと同じ。
休憩とアンコールがあっても、公演が終了したのは午後8時10分前(横浜定期は、毎回夕方6時開演です)。終演後のパーティーを考慮しての内容かもしれませんが、腹6分程度のコンサートは実にリーズナブル。
かつてクセジュ文庫にミュンシュが書いた「私は指揮者」の中で、一晩のプログラムは70分から80分がベストとアドバイスしていたのを思い出しました。もう少し聴きたいな、と思う所で止めておくのが聴き手に次の食欲(聴欲)を起こさせる極意でしょう。今回など、お正月に食べ過ぎた身には実にやさしい配慮でした。

その意味でも、新年最初のコンサートに相応しい定期でした。このスタイル、来年以降も継続しても良いんじゃないか知ら、ね。

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